恋するギフテッド   作:萌花千

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八話

 花火が終わった。

 永遠に続いてほしいと思う時に限って一瞬ですぎる。

 時間が進む速さは不変のはずなのに。

 

 幸せ半分、寂しさ半分。そんな複合した感情を胸に抱きながら私はは帰路につく。

 途中、ゴミを捨てるために会場による。

 

 花火が終わってからまだ三十分も経っていないため、沢山の人が駅を目指し歩いている。

 その光景は蟻の行軍みたいで、侵入すのは非常に危なそうに見える。

 

「俺、捨てて来るから結衣はちょっと待ってて」

 

 私の返事を待たずヒロくんは行ってしまった。

 繋いで手は行き場を失ったみたいに空中で静止する。

 

 ただの一瞬でも離れると、それが永遠の別れのように感じるのは恋の悪いところだ。

 私は、私が思うよりずっと彼のことが大好きで、酔っているんだろう。

 

「あれ、お姉さん一人? 友達とはぐれちゃった?」

 

 人混みに消えた彼の残像を見て、数秒。携帯に視線を移した直後軽い声が聞こえた。

 

「あれ? おーい、お姉さ〜ん」

 

 携帯こしに手を振られて私はようやく自分に話しかけているのだと気づいた。

 中学生の私を今までお姉さんなんて呼ぶ人はいなかった。

 

「えっ? なに? 迷子?」

「お姉さん迷子なの? よかったら俺が友達探そうか? それとも駅までの道?」

 

 顔を上げると日焼けをした色黒の男が立っていた。

 身長はヒロくんより少し低いくらいだろうか?

 

「いや、迷子は君のほうじゃないの??」

 

 頭がヒロくんでいっぱいになっている私は、自分にナンパしてくる軽薄な男という可能性が湧いてこなく、素で聞いてしまった。

 

 男は何が面白いのか、笑う。

 

「そうそう、俺迷子なの。だから駅までの道教えてくれない?」

「そこの人だかりについていけば着くよ?」

「いや、反対側の駅なんだよ」

「なら、私も知らない」

 

 私は携帯に視線を戻す。

 インスタを流し見しながら、花火の写真を撮ることを忘れたことを悔やむ。

 

 脳内で殆どのことを覚えられる私は写真を必要以上に重要しない。

 きっと今日のことを忘れることはないだろう。

 だけど、それでも、写真を撮り忘れたことを後悔する。 

 

 これからは忘れないようにしよう。

 それにしても夏休みももう終わりか。

 このあとは受験のせいで今まで以上に遊べなくなるな。

 私も仕事増えてきたし。

 仕事辞めようなかな。

 

 一時の感情に流されるのがどれだけ愚かなことか知っている。

 知ってるけど……。

 彼は麻薬だ。

 一度その快楽を知ってしまったら欲望を抑えられなくなる。

 きっと知らず知らずのうちに依存していく。

 

「おい、ちょっとカワイイからって調子のんなの!」

 

 突如、耳元で怒号が鳴り響いた。

 思考の海から現実へと引っ張り戻され、私はパッと顔を上げる。

 

 するとそこには怒った顔をする色黒男がいた。

 

 周囲の人も男の怒号に驚いたのか、そこだれ行列が凹んでいる。

 

「えっ? 誰ですか?? 急に」

「……っ!! な、なめやがって……っ!!」

 

 男が私を睨みつける。

 いわれのない怒りに私は睨み返す。

 

 直後、腕を引っ張られた。

 

 直後、教頭が頭の中でフラッシュバックした。

 脳がパニックになるより先に体が動いた。

 

 顔面を蹴ろうと足が動くが浴衣に阻まれる。

 次に腕が動いた。

 

 溝に一発、怯んだところを掴まれている腕を引き寄せ、鼻に一発、拳を叩きつけた。

 

「うぐっ!」

 

 掴まれていた腕が開放される。

 その空きに逃走を試みる。

 

 スニーカーを履いたのは正解だったが、浴衣は走りにくい。

 膝があがらずすぐに転ぶ。

 

 地面に土埃が立つ。

 

 立ち上がろうと腰を膝を曲げた直後、腰上に重りが振ってきた。

 

「この糞女が!」

 

 立ち上がれないことを悟った私はすぐさま後頭部を両手で守りに行くが、間に合わなず一発殴られる。

 二発目以降は手が衝撃を和らげてくれるが、それでも痛い。

 

 数発殴ったあと、男はあまり意味がないことに気づいたのか今度は私の腕をどかそうと試みる。

 しかし私が予想外の抵抗をみせたせいか、すぐに諦めた。

 

 暴行が止んだ直後、一瞬気が緩み力を抜いた。

 

 直後、おもっきり背中を踏みつけられる。

 

 肺が口から追い出され、息ができなくなる。

 

 背中を攻撃された体は私の意思とは別に背中を守るために仰向けになる。

 無防備になった腹を踏みつけられ、激痛が私を襲った。

 

 

 熱い

 

 これ、ヤバい……かも。

 

 声が……

 

 

 マグマのように腹が熱くなり、体が動かない。

 

 踏みつけられた衝撃で体はダンゴムシみたいに丸くなる。

 

 次には顔面を凄まじい衝撃が襲った。

 鼻から何かが流れ出る感覚。

 

 蹴られた事実に気づくのとに数秒掛かった。

 

 視界がボヤケて体に力が入らなくなり、私はマウントを取られ無抵抗で顔を何度も殴られた。

 

 私が動かなくなると通行者も流石にまずいと思ったのか関わりたくない、から助けないと、と変化があり続々と止めに入る。

 

 遅すぎる助けに内申で悪態をつく。

 

 

 なんで、私ばっかり……最悪。

 

 気づけば私の視界には救急隊員がいて、何かを聞いていた。

 名前や住所などを聞かれて答えたが、記憶がフワフワしていて曖昧だ。

 

 救急車の中ではヒロくんが頭を両手で抱えていた。

 

 せっかくの花火大会が台無しだ。

 

 私は彼に謝るように手を伸ばしたが、手は空を掴んだ。

 

 

 

 意識がはっきりした時、私はベッドの上でお腹に超音波を当てられていた。

 モニターにお腹の中の状態が写し出される。

 

「私、妊娠したんですか? 処女なのに」

 

 私の言葉に看護師さんは大笑いしてから笑顔で言う。

 

「ごめんなさい。大丈夫よ。何も異常ないわ」

「それは良かったです」

「顔も大丈夫よ。来た時は血だらけでびっくりしたけど……。傷跡も、変形しているとこはないわ。流石、神に愛された子ね」

「まあね」

 

 しかし、やけに寒いし、眠い。

 

「寒いので寝ていいですか?」

「ええ、どうぞ。ちょっと血が足りてないだから大丈夫」

 

===

 

 翌日、目を覚ました私の横にはヒロくんがいた。

 座りずらそうな椅子に腰掛け、壁に体を預けた状態で寝ている。

 

 椅子を引っ張り、ヒロくんをベッドに放り込む。

 そのまま私はその横で寝る。

 

「あぁ、幸せ」

 

 しばらくヒロくんを堪能したあと、二度寝はできなそうなので起き上がる。

 部屋の隅には私の荷物が追いてあった。

 

 ハッとし、服装を見ると浴衣のままだった。

 血がつき、大変なことになっている。

 

 着替えたいが着替えがない。

 

 荷物から携帯を取り出し、私はSNSを見る。

 

 すると案の定、昨日の動画があがっていた。

 驚いたことに被害者がシップドアだということも判明していた。

 

 一番イイネされている動画のリプ欄に「動画撮ってるくらいなら助けてよ」と送っておいた。

 

「お腹空いたな〜。売店行こう」

 

 時刻は午前九時過ぎ。

 既にお店は開いてる時間だろう。

 

 私は財布を取り出し、売店にいった。

 売店には食べ物だけじゃなく、服も売っていた。

 

 流石にこのまま過ごすのも嫌なので買った。

 

 血だらけの浴衣を見た店員がとても困惑した表情をしているのが面白かった。

 

 病室に戻ってからヒロくんが寝ているを確認し、パパっと着替える。

 

 血だらけの浴衣はどうしようか。

 どうせ汚れも落ちないから捨てかな? 

 

 浴衣を丸めて適当な所にポイッと置き、売店で買ったおにぎり片手にSNSで無事報告をし、お仕事の関係者に謝罪メールを送る。

 今日も本当だったら仕事があったが、病院を抜け出して行くわけにもいかない。

 

 はぁ……。

 

 キチガイ野郎に殴られて病院行き。

 カワイイの弊害。

 

 有名税ならぬカワイイ税とでも言おうか。

 

 だからってブサイクがよかったとは思わない。

 カワイイ税があるということはそれだけ、カワイイに価値があるという証明だ。

 

 男の子にはイケメン税とかあるのだろうか。

 

 ふと、そんなことを考えヒロくんの顔を見に行く。

 

 私が寝ているはずの布団で気持ちよさそうに寝ている。

 いや、投げ込んだのは私なんだけどさ。

 

「カワイイ、寝顔」

 

 スヤスヤと無防備に。

 

「これがイケメン税」

 

 ヒロくんにまたがる。

 そのまま胸板に顔を預ける。

 寝息が聞こえ、胸がそれに合わせて小さく上下する。

 

「彼女を放置するなんて、大罪だよ?」

 

 眉毛がくっつきそうなくらい近づく。

 

「大好き。ホントに好き」

「そのまま襲っちゃえ!」

 

 背後からの声に肩が跳ねる。

 

「えっ!?」

「後片付けは任せて!」

 

 満面の笑みの看護師の言葉に顔がみるみるうちに赤くなる。

 

「あ……あ……ひ、ヒロくんには内緒で!!」

「天才っていってもやっぱり乙女なのね。彼氏くん奥手なの??」  

「えっ……あ……」

 

 立て続けの質問に私の脳内はパニックを起こす。

 

 見られた!?

 あんなはしたない場面を!?

  

「いいな〜。彼氏くん羨ましいなぁ〜。彼女が天才で可愛くて、おまけに誰もが羨む有名人。しかも溺愛されてる。いいな〜いいな〜」 

「い、いえ!」

 

 訳わからず条件反射で否定する。

 そのまま慌ててベッドから降りようとし、床に転げ落ちる。

 

「ギャフンッ!」

「大丈夫??」

「大丈夫です!」

 

 起き上がり私は看護師の方へ向かう。

 

「とりあえず検査しよっか?」

 

 その言葉の意味が全く理解できなかったが頭を縦に振った。

 

 

 

 

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