呪いを焚べる   作:N島 ジュン太郎

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今回から懐玉です。
アニメ良かったですね~!
ぴゅー、って逃げる家入さんがめちゃかわでした!

では、第十六話をどぞ~。


第十六話 懐玉〈焚〉-壱-

 

 その夏は、凜くんと出かけることが多かった。

 昨年頻発した災害の影響で、呪霊が蛆のように湧いて出た。

 呪霊誘因体質。

 彼に誘き寄せられる呪霊を只管に祓った。

 

 祓う――

 取り込む――

 

 凜くんに心配をかける訳にはいかない。

 吐瀉物を処理した雑巾のような呪霊の味を、悟られるわけにはいかない。

 

 祓う――

 取り込む――

 

 私と凜くんの相性はよかった。

 おびただしい数の呪霊を取り込んだ。

 ……何のため?

 

『パチパチパチパチ――』

 

「猿め……」

 

 

 

 

 

 

 ((続いて昨日、静岡県浜松市で起きた爆発事故――))

 

――あぁ、ガス管の経年劣化っていう感じで事後処理されたんだ。

 

 今、ボクはツカモトJr.を抱きながら五条さん、夏油さん、家入さんが怒られているのを眺めていた。

 そう、夜蛾さんの説教中である――

 

――最近、呪力操作もいい感じだし、また出力上げて貰おうかな?

 

「この中に『帳は自分で下ろすから』と補助監督を置き去りにし、帳を忘れた者がいるな?

 ……名乗り出ろ」

「先生!! 犯人捜しはやめませんか!!」

「悟だな」

 

 ゴチーン!!

 指導――五条さんの頭にゲンコツが落ちた。

 

「傑と硝子もしっかり悟を見てないとダメだ」

 

――保護者かな……?

 

 夏油さんと家入さんはそれで説教から解放された。

 五条さんは正座してまだ怒られている。

 

「ふぅ、やっと終わったよ」

「正座しんどかった~」

「お疲れ様です。

 そうだ、ツカモトJr.の出力をもう少しあげて欲しいんですけど……」

「凜くんも呪力操作が上手になってきたね。

 わかった、後で夜蛾先生に言っておくよ」

 

 “ありがとうございます”と言ってツカモトJr.を渡し、説教されている五条さんを置いて、ボクたちは高専の体育館に向かった。

 本来のこの時間は体育館でバスケをする時間だったのだ。

 呪術高専の午前中の座学はこういった、いわゆる“体育”のような科目もやるらしい。

 

「安西先生……バスケットボールが、重いです……」

「ははは、凜くんはまだ七号ボールは大きいよ」

「呪力強化すれば持てるんじゃない?」

「確かに……!」

 

 そういえば、最近は午前中でもみんなと一緒なのだ。

 座学中でも静かにしていられるだろうということで、居させて貰ってる。

 まぁ、事の発端は五条さんに連れて行かれたことなのだけれど。

 ボク自身、午前中は暇だったりしたので助かる。

 

 暫く、みんなでボールをダムダムしていると、説教から五条さんが帰還した。

 頭にたんこぶを拵えている。

 叱られているときに無限バリアを張っていないのは律儀だよね、五条さん。

 

「お帰り悟。大変だったね」

「ホントだよ……そもそもさぁ、帳ってそこまで必要?」

「サングラス貸して~」

 

 別にパンピーには呪霊も呪術も見えないんだからと、たんこぶをさすりながら愚痴る五条さん。

 帳というのは、非術師に視認不能な呪いをあぶり出す結界のことだ。

 家入さんはサングラスで遊んでる……。すっごい暗いよね、それ。

 

「ダメに決まっているだろう。

 呪霊の発生を抑制するのは、何よりも人々の心の平穏だ。

 そのためにも目に見えない脅威は極力秘匿しなければならないのさ――」

 

 夏油さんは至極まっとうなことを言う。

 ダムダムとドリブルをしながら、よくそんなに話せるな。

 家入さんはサングラスを返した……もういいんだ、それ。

 

「それだけじゃ――「分かった分かった」」

 

――あ、ボール盗った

 

 夏油さんからボールをスティールした五条さんはそのままレイアップを決めた。

 ボールをリングに置いてくるシュート。

 五条さんって割と何でも出来るよね……。

 

「弱い奴等に気を遣うのは疲れるよホント」

「“弱者生存”――それがあるべき社会の姿さ。

 弱さを助け、強気を挫く……」

 

――うーん、なんだか難しい話になってきた……。

 

「いいかい悟――呪術は非術師を守るためにある――」

「それ正論? 俺、正論嫌いなんだよね」

「……何?」

 

――あ、あれ? 今度は空気が悪くなってきた……。

 

 五条さんがニヤニヤと悪い顔している。

 嫌な予感ががが。

 

「呪術に理由とか責任を乗っけんのはさ。

 それこそ弱者がやることだろ。

 ポジショントークで気持ち良くなってんじゃねーよ」

 

 オッエー、と舌を出して小馬鹿にしたような顔をしている五条さん。

 巻き込まれないように、家入さんと今のうちに逃げておこう……って――

 

――あれ、もう逃げてる!? また!?

 

「「凜くんはどう思う?/凜もそう思うよな?」」

 

――ア~、オワッタ~

 

 巻き込まれた~、とボクは光の速さで諦めた。

 さっさと答えて、逃げてしまおう。

 

「えーと、ボクは自分のために呪術を学んでるので……。

 先ず自分を助けて、その後に他人を救うのかな? っていう感じですね」

「うえ~い、凜も俺側~」

「凜くんは少し事情が違うだろう、悟。

 ポジショントークで気持ち良くなってはいけないよ」

「……あ? 表出ろよ――傑」

「一人で行きなよ――寂しいのかい?」

 

――ひえ~、逃げろ逃げろ~

 

 ボクが体育館のやけに重いドアを開けて逃げようとすると、包容力のある筋肉にぶつかった。

 む、この父性を感じる筋肉は……夜蛾さん!

 

「大丈夫か、凜」

「あ、はい。大丈夫です」

「む? オマエ達、硝子はどうした?」

「「さぁ?/便所でしょ」」

 

 こういうときの男子高校生の結束力って強いよね。

 先生に怒られないためなら呉越同舟。

 やっぱり仲良いよね、この二人。と改めて思う。

 

「まぁいい、この任務はオマエ達二人に行ってもらう」

「「はぁ~」」

「なんだその面は」

「「いや別に」」

 

――ホント仲良いな……。

 

 明らかに嫌そうな二人の顔。

 体育館から渡り廊下を渡って木造の校舎に戻る。

 今回は珍しく理科室で説明するようだ。

 

「正直、荷が重いと思うが――天元様のご指名だ」

「「!!」」

「えっと……ボクが聞いても大丈夫ですか?」

「あぁ、後学のためにも聞いておくといい」

 

 ボクが聞いていてもいいらしい。

 教卓に立った夜蛾さんはパソコンを準備しながら、依頼を話し始めた。

 

「依頼は二つ――

 “星漿体”、天元様との適合者……その少女の護衛と抹消だ――」

少女(ガキんちょ)の護衛と抹消ォ??」

「なんだか既視感があるね、凜くん」

「自分で言うのも何ですが、そうですね……」

 

 自分が高専にやって来たときと似たような言い回しなので、少しデジャブる。

 五条さんに拒否されてしまった時は驚いたものだ。

 

 任務内容は、命を狙われている星漿体の少女の護衛。

 抹消というのは、天元様という偉い人の術式が本人の肉体を作り替えてしまう前に適合者と同化させて、そうならないようにするらしい。

 もしも天元様が進化してしまうと、人類の敵になってしまう可能性があるのだとか。

 

「星漿体の少女の命を狙っている輩は大きく分けて二つ!!

 呪詛師集団“Q”!! そして盤星教“時の器の会”!!」

 

――呪詛師と宗教……たちが悪そう……。

 

「同化は二日後の満月! それまで少女を護衛し、天元様の下まで送り届けるのだ!

 心してかかれ!!」

 

 

 

 

 

 

 五条さんと夏油さんは早速任務に向かった。

 ボクは今――夜蛾さんの任務に一緒に付いてきている。

 車の中で呪骸をモフモフしながら、到着を待つ。

 

「ボクが任務に?」

「ああ、上の方で少し打診があった。

 君の呪霊誘因体質は呪霊を捜索するのに長けているのではないかと……」

「なるほどです……」

 

 つまり、今回の夜蛾さんの任務でそれを確かめるということだろう。

 一応外出なので、呪力封印のチョーカーも付けてきている。

 意外と気に入っているのだコレ。ちょっとオシャレじゃない?

 

「呪霊は君の呪力に誘われている。

 現場に着いたら呪力を練ってもらい、呪霊を俺が祓う。

 それが今回の任務内容だ」

「むむ……体質は使い方次第で呪霊を効率よく祓える、ということですね」

「……そういうことだな」

 

――わ……。

 

 頭を撫でられる。

 “あの悪ガキどもみたいにはなるなよ”と頭をぐりぐり。

 割と夜蛾さんの大きな手は好きだ。

 五条さんはもっと荒々しくグリグリしてくるからそこまで好きじゃない。

 

「さっさと終わらせて、美味い昼飯を食いに行こう。

 もう昼時も過ぎてるしな」

「――はい!」

 

 そんなこんなで話をしていると目的地についた。

 住宅街の中に不自然に存在する竹藪だ。

 “窓”――呪霊を視認できる協力者――から呪霊確認の報告があった場所。

 補助監督さんが帳を張った後、夜蛾さんと一緒に立ち入る。

 

――やっぱり、実践は少し怖いな……。

 

 『死ぬ』可能性が少しでもあることに震える。

 試験のときみたいに夏油さんの呪霊ではないことや、外出時にみんなが直ぐ祓ってくれるような呪霊でもない。

 今回は二級相当の呪霊だ。

 

「さて、では少しずつやろう。

 先ずはチョーカーを付けたまま呪力を練ってみてくれ」

「ちょっと難しいですけど、分かりました」

 

 チョーカーを付けていると、呪力が抑えられてしまうので呪力の捻出が難しいのだ。

 それでも体質のせいで訓練しなきゃいけないのだけれど……。

 “それじゃあ”、とボクは呪力を練り始めた。

 

 矛盾を閉じ込めたパンドラの箱を開ける――

 その内にある『死』を直視しないように――

 深淵が此方を覗く――

 

 ズズズッ……!!

 

「よし……いい感じです」

「……これで、どうなるか」

 

――……。

――……。

 

――……ん~と、呪霊来ない感じかな?

 

 暫くしても、呪霊は現れなかった。

 やっぱり、このチョーカーをしているとなかなか呪力が漏れ出ないらしい。

 優秀な呪具だ。因みに五条さんが五条家に用意させたらしい。

 

「今回の呪霊は二級相当。

 等級が上がると効き目が悪いのか……? 要検討だな。

 次だ。チョーカーを外してくれ」

「オッケーです」

 

 カチャ……、とチョーカーを外す。

 外した途端、今まで抑えられてた呪力が立ち上る。

 うん、こっちの方が楽だ。

 

「……来たな」

「え、来たんですか?」

「……呪力感知も教えないとな。

 近づいてきている――此方の方向だ」

 

 夜蛾さんがその方向に指を指した――瞬間。

 竹の間からでっかい蛙のような呪霊が飛び出してくる。

 そして――

 

「ふッ……!」

 

 次の瞬間には夜蛾さんのゲンコツが振り下ろされていた。

 地面に叩きつけられた頭の潰れた蛙呪霊はゆっくりと空気に溶け始めていた。

 

「はっや……」

「凜もこれくらい出来る様になるさ」

 

 見るのは二回目となる夜蛾さんの戦闘に息を巻く。

 問題児二人の説教で仕上がった愛あるゲンコツには届かないかなぁ、などと思っていると夜蛾さんの携帯電話が鳴った。

 呪霊を祓っている最中じゃなくて良かった。

 

「む、悟からだ」

「……五条さんから?」

 

 星漿体護衛中の五条さんからの電話だった。

 何か問題があったのだろうか――

 

 

 

 

 

 

「――そうしたいのは山々だが、天元様のご命令だ。

 天内理子の要望には全て応えよ、と」

 

 プッ、っと夜蛾さんは一方的に電話を切った。

 五条さんからの電話は、星漿体の少女、天内理子を連れて高専に戻った方がいい、という内容だったようだ。

 

「その天内さんは高専に来ないんですか?」

 

 星漿体の少女が同化できないと、天元様が人類の敵になってしまう可能性がある。

 天元様は高専各校、呪術界の拠点となる結界、多くの補助監督の結界術を支えているのだから、それは困るのだ。

 ならば、高専に匿っていたほうが安全なのではと思う。

 

「本人が女学院に行くことを希望した。

 星漿体が同化すれば、その後友人や家族に会えなくなるのだ。

 最後は好きにさせてあげよう、ということらしい」

「最後……」

 

『凜……“生きて”……』

 

――……。

 

 ほぼ死ぬことが確定しているみたいなことか。

 そう考えるとなんだか辛い任務だと思った。

 誰かの犠牲の上に生きるのなら、ボクたちは頑張って生きなきゃ――

 

 ボクは首にチョーカーをキュッ、と付け直した。

 たちまち呪力が抑えられる。

 

「……任務も終わった。

 帰る前に昼飯を食っていこう。この近くに美味い定食屋があるんだ。」

「お腹空きましたね。楽しみです」

 

――先ずは、美味しいものを食べよう。

 

 ボクたちは車に乗って、夜蛾さんオススメの定食屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

~夜蛾先生のグルメ~

 

 仕事や生徒にとらわれず、幸福に空腹を満たすとき――

 つかの間、夜蛾は自分勝手になり自由になる――

 

「腹が……減ったな……」

 

 問題児たちに邪魔されず、気を遣わず物を食べるという孤高の行為――

 この行為こそ、呪術師にも与えられる癒やしといえる――

 

「今日の夕飯はここにするか……」

 

 “寿司英集”

 たまには贅沢をするのも良い、と暖簾をくぐる。

 

「大将、一人いいかい?」

「へいらっしゃい」

「……日本酒とあかひもを」

「あいよ」

 

 目の前で大将が握ってくれる。

 見て楽しむ――それもまた食事を楽しむのに重要なファクターだ。

 

「はい、あかひもね。

 あと日本酒も」

「いただきます――」

 

 甘いうまみが口の中に広がり、程よい渋みが心地よい。

 それを日本酒で流した。

 

「フッ……」

 

――大人になったアイツらと一緒に飲む酒は、どんな味なのだろうな……。

 

 仕事病か――結局生徒の事を考える。

 何かに縛られて生きるのも、良いものだ――

 

 

 




どもっす!<(_ _)>
N島ジュン太郎です。
読了!感謝!

作者はあかひも食べたことないっす。
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