呪いを焚べる   作:N島 ジュン太郎

19 / 33
懐玉、これが最後の話です。
誤字報告してくださり、ありがとうございます!!
これからもどうか、『呪いを焚べる』をよろしくお願いします!!

では第十八話をどぞ~。


第十八話 懐玉〈焚〉-参-

 

「今度の任務は君の故郷らしいね」

「……そう……なんですか?」

「あぁ、何かお土産に買ってき欲しいものとかあるかい?」

 

 凜くんは今、ベッドに横になっている。

 最近の忙しさがたたって熱を出していたのだ。

 私の任務のペースに合わせていたのだから無理もない。

 

「ごめんなさい……あんまり……故郷のことは知らなくて……」

「そうか、なら日持ちする美味しいものを買ってくるよ。

 治ったら一緒に食べよう」

「ありがとう……ございます」

 

――あまり長居するものじゃないだろう。

 

 そう思って、部屋を去ろうとする。

 すると私の服を凜くんの小さな手が掴んだ。

 

「……待って、……行かな――」

「凜くん?」

「――いや……いって、らっしゃい。

 飴玉……でも、持って……い、って……」

 

 そう言うと、凜くんは静かに眠りに落ちた。

 “……待って、……行かな――” と彼は言った。

 きっと心細いのだろう。

 

「約束する。できるだけ、早めに帰ってくるよ。

 飴玉、貰っていくね」

 

 私は飴玉を一つ、籠から取ってポケットに入れた。

 そうして静かに部屋を出た。

 

 約束を一つ――

 飴玉を一つ――

 けれど、 “いってきます(何か)” を忘れてしまった気がした――

 

 

 

 

 

 

 現在の時刻、十五時。

 教室の中にはボクと家入さん、夜蛾さんがいる。

 

「――このように、生まれながらにして、強大な力を得る代わりに何かを強制的に犠牲にするという“縛り”を……聞いてるのか、凜?」

「あッ! すみません」

 

 ボーッとしていて授業を聞き流してしまった。

 えっと、確か天与呪縛の話だったかな……? と黒板を見て思い出す。

 

「朝からずっとソワソワしてるよね」

「あはは……」

「そうか、アイツらもそろそろ帰ってくる頃だろう」

 

 今日は任務中の五条さんと夏油さんが沖縄から帰ってくる日だ。

 なんだか長い間会っていないような気がして、朝からソワソワしてしまう。

 

「星漿体の賞金も取り下げられた。

 高専内に入ってしまえば、後は日没まで同化を待つだけ――」

 

 

「「「!!!」」」

 

 

――高専結界のアラート!?

 

 突如、鳴り響くアラート。

 ボクたちは身体を震わせた。

 

 アラートが鳴ったと言うことは、未登録の呪力を感知したということだ。

 つまりは、侵入者が入ってきたのか――

 それかまたは――

 

「侵入者、それか傑の術式だな……」

 

――そう、呪霊操術の呪霊でもアラートは鳴る。

 

「侵入者はほぼ確定じゃないですか。

 夜蛾センは早く加勢に行った方が良いんじゃないですか?」

「確かにそうだが、アイツらが簡単にやられるとは思えん。

 先ずは状況確認だ。二人はここにいなさい――」

 

 夜蛾さんはそう言うと、ガラガラッ!と教室のドアから出て行った。

 教室にはボクと家入さんがポツン、と残された。

 

「――大丈夫だと思うよ、鈴月」

「……え?」

「夜蛾センが言ってたけど、アイツらなら大丈夫。

 あと、高専に入ってくる奴なんて頭が弱いのばっかだしさ」

 

――そう、だよね……。

 

「すみません……落ち着きました……」

「ほんと? 身体――震えてるよ」

「……」

 

 気づいたら、身体が震えていた。

 正直、動揺している。

 『死』が近くにある――

 身近な人が脅威にさらされている恐怖に身体が震える。

 

「情けないですね……ボク」

「別に怖がることは悪いことじゃないよ。

 呪術師って基本的に死に近いからさ、向き不向きがある」

「家入さんは、怖くなるときってありますか……?」

「うん、あるよ。

 ――いや、“あった” が正しいかな」

 

 それはきっと、家入さんは多くの死を見てきたということだろう。

 死の間近にいた人を――

 助けられた人を――

 助けられなかった人を――

 

「まぁ、元々あんまり気にしない質だったけどさ」

「ボクは……」

「悪いことじゃないんだよ。

 君がそれを怖がるのは、それだけ大切なものを知ってるから――」

 

――大切なもの……。

 

「でも、私たちは呪術師だからさ。

 それでも戦わなきゃいけないこともあるよね」

 

 そうだ。ボクはもう呪術師なのだから。

 怖くても戦わなきゃ……。

 

「私は前線に出ないけど……。

 頑張ってよ――死んでなければ治してあげるから――」

 

――あぁ、それは……。

 

「それは――安心ですね――」

 

 少しだけ恐怖が和らいだ気がする。

 その時、教室のドアがバタン!! と開いた。

 ドアを開いたのは補助監督の人だった。

 

「鈴月くんはいますか!?」

「は、はい!?」

「高専結界内、筵山麓付近に大量の蠅頭を確認しました!

 現在、繁忙期にて出られる呪術師が小数! 君の力が求められています!」

「呪霊誘因体質と……帳……」

「既に夜蛾一級呪術師が向かいました!

 現地で合流し、協力して呪霊の祓除をお願いします!」

 

 早速、頑張らなければならなくなってしまった。

 家入さんは此方を見ている。

 

「鈴月、頑張りなよ」

「――はいッ」

 

 ボクは飛ぶために教室の窓を開ける。

 

――炉心起動。

 

「……いってきますね」

「ん、いってら」

 

――炉心……接続……!

 

 ボクは現最高出力で飛び出した――

 

 

 

 

 

 

 筵山麓付近が近づいてきた頃。

 空を飛んでいると、地上を走っている夜蛾さんを見つけた。

 地上付近に下がり、夜蛾さんと並んで飛ぶ。

 

「凜か! 話は聞いているな!」

「はい!」

 

 呪霊誘因体質で蠅頭を誘き寄せ、帳で閉じ込める。

 夜蛾さんはぬいぐるみ軍隊と走りながら一瞬此方を見た。

 

「では、空から蠅頭が目視できたのなら呪力で誘き寄せなさい!

 現場には侵入者がいる可能性がある! 

 出来るだけ離れたところで帳を張るんだ!」

「分かりました!」

 

 夜蛾さんの作戦を聞き、ボクは空に戻った。

 すると既に蠅頭の大群が目視できる範囲に入っていた。

 

「蠅頭を目視で確認! これから計画を開始します!」

 

「昨日の練習通りだ! 落ち着いて頑張りなさい!」

『頑張ってよ――死んでなければ治してあげるから――』

 

「――はいッ!」

 

 ボクは空中で静止した。

 呪霊を誘き寄せる場合、一定の呪力を練る必要はない。

 ただ、呪力を身体から立ち上らせるだけで良い――

 

 『死』を閉じたパンドラの箱――

 死んだのに生きているという矛盾、それを直視しないように――

 ボクは開門した――

 

――ズズズッ……!!!

 

 異様な呪力が満ちる。

 『死』を孕んだ――濃くて暗い呪力(あかり)

 それはまるで、月が満ちるみたいで――

 それはまるで、蟲が満月に誘われるみたいで――

 

――この“呪い(ちから)”に名を付けるなら、

 

 

「 誘 死 灯(ゆうしとう) 」

 

 

 死を誘う灯りに蠅頭の群れが気づいた。

 恐ろしい呪霊の大群がボクに一直線に向かってくる。

 

「凜! 帳の効力は呪霊だけを閉じ込めるように、だ!

 後から術師の応援が来る! 君は帳の外、空で安全に待機していなさい!」

「了解!」

 

 既に蟲の行軍が間近に迫ってきていた。

 ボクは捻出する呪力を一定に戻し、印を結び、呪詞を(うた)う。

 

「闇より出でて闇より黒く……その穢れを禊ぎ祓えッ……!」

 

 己の内に術式を0から構築、言霊を乗せて、呪力を流して発動する。

 結界範囲は蠅頭が入りきるように設定。

 そして、結界の構築スピードを速くして漏れが出ないようにする。

 

ドドドドドドドドッ……!!

 

――よし! 帳を張れたッ!

 

「合格だ! 凜はそのまま空中で待機してなさい!」

 

 そう言って夜蛾さんはボクが張った帳の中へ入っていった。

 ぬいぐるみも次々と入っていく。

 

「……ふぅ~。なんとか出来た~」

 

 そう言いながら自分の手を見る。

 

――手が震えてる……。

 

 怖かったが、なんとか頑張れた。

 家入さんと夜蛾さんがいてくれたから頑張れた。

 空にフワフワ浮かびながら、震えを抑える。

 

「……五条さんと夏油さん、大丈夫かな?」

 

 やはり気になった。

 より高く上空に昇り、ここから見えないかと目をこらしてみる。

 筵山麓――森に囲まれた高専結界の端。

 寺社仏閣が破壊されているのが遠目から確認できる。

 

「戦闘した後かな? 護衛を続けてる――待って……」

 

――血だまりに……。

 

 円形に抉れ、破壊されているその真ん中で。

 見覚えのある白髪の人が倒れていた。

 

――あり、え……な い、でしょ……。

 

 それは“最強たち”の片割れで――

 うざったいけど頼りになる人で――

 一緒に空を飛んだボクの先生みたいな人で――

 

「だっ、て……あの五条、さんが……」

 

――負ける、わけ、……。

――……それよりもッ!!

 

「五条さんが死んでしまう前にッ!」

 

 ドッ……!!!

 五条さんに向かって飛んだ。

 急いで家入さんのところに連れて行かなきゃいけない。

 

「生きてますか!? 五条さん!!」

 

 返事はない。

 五条さんの側に着地する。

 血で汚れることなぞ気にするか。

 

「これッ……酷い傷ッ……!!」

 

 首から腹までの深い切り傷――

 右太ももに三つの刺し傷――

 そして――頭に穴が空いていて――

 

――助からない……。

 

「……五月蠅いッ」

 

――間に合うはずがない……。

 

「……五月蠅いッ!」

 

 脳までやられている。

 どうあがいても家入さんのところまで、間に合う気がしない。

 だって――

 

「――だって、こんなに近くッ……『死』を、感じるッ!」

 

 世界で唯一、ボクだけが理解していることだ。

 この世で一番、平等な存在――『死』はそんなに甘くない。

 例え“最強”であろうと必ずいつか必ず訪れる――

 

「や、だッ……。やだッ! 死なないでッ……!」

 

〔無駄だ。オマエには何も出来ない。〕

 

 『死』が語りかけてくる。

 腹の底から黒い力が溢れてくる――

 覗いてはいけない深淵から呪力が氾濫する――

 

〔オマエのように見逃したりなぞしない〕

 

 パンドラの箱の――『死』を直視し 「凜……飴、ある?」 て――

 

「〔え……?〕」

 

 ボクの頭に何かが置かれる。

 

――手だ……。

 

――誰の……?

 

 五条さんの手がボクの頭の上に置かれていた。

 気づいたら、五条さんの身体にあったおびただしい傷は亡くなっている。

 

「五条さん……?」

 

 

 

 

「  大丈夫……俺 最強だから  」

 

 

 

 

 ゆっくり上半身を起こし、五条さんの瞳がボクを見通す。

 深いアオ――六眼がボクの中の『死』をパンドラの箱に閉じ込める。

 暴走していた呪力は静まりかえった。

 

「落ち着いたか?」

「……は、い」

「じゃあ、飴ちょうだい。脳みそ疲れたンだよ」

 

 飴玉はポケットの中にいつも入っている

 その飴玉を五条さんに渡した。

 

「あークソ美味えなぁ……!」

「よ、かった……です」

「じゃあ、行ってくるわ」

 

――……え?

 

「ど、こに」

「決まってンだろ――天内のところだよ」

 

 そう言うと、五条さんは凄まじい速さでこの場から消えた。

 血だまりに残されたボクは、先ほどの六眼を思い出す。

 あまりに澄んだアオ――

 

 五条さんはこの日、“最強無敵”に成った――

 

 

 

 

 

 

 




どもっす!<(_ _)>
N島ジュン太郎です。
読了!感謝!

そういえば、凜くんの実家って周りが田んぼだらけでしたね?
懐玉は終わり、次回から玉折ですね。
どうぞお楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。