誤字報告してくださり、ありがとうございます!!
これからもどうか、『呪いを焚べる』をよろしくお願いします!!
では第十八話をどぞ~。
「今度の任務は君の故郷らしいね」
「……そう……なんですか?」
「あぁ、何かお土産に買ってき欲しいものとかあるかい?」
凜くんは今、ベッドに横になっている。
最近の忙しさがたたって熱を出していたのだ。
私の任務のペースに合わせていたのだから無理もない。
「ごめんなさい……あんまり……故郷のことは知らなくて……」
「そうか、なら日持ちする美味しいものを買ってくるよ。
治ったら一緒に食べよう」
「ありがとう……ございます」
――あまり長居するものじゃないだろう。
そう思って、部屋を去ろうとする。
すると私の服を凜くんの小さな手が掴んだ。
「……待って、……行かな――」
「凜くん?」
「――いや……いって、らっしゃい。
飴玉……でも、持って……い、って……」
そう言うと、凜くんは静かに眠りに落ちた。
“……待って、……行かな――” と彼は言った。
きっと心細いのだろう。
「約束する。できるだけ、早めに帰ってくるよ。
飴玉、貰っていくね」
私は飴玉を一つ、籠から取ってポケットに入れた。
そうして静かに部屋を出た。
約束を一つ――
飴玉を一つ――
けれど、 “
現在の時刻、十五時。
教室の中にはボクと家入さん、夜蛾さんがいる。
「――このように、生まれながらにして、強大な力を得る代わりに何かを強制的に犠牲にするという“縛り”を……聞いてるのか、凜?」
「あッ! すみません」
ボーッとしていて授業を聞き流してしまった。
えっと、確か天与呪縛の話だったかな……? と黒板を見て思い出す。
「朝からずっとソワソワしてるよね」
「あはは……」
「そうか、アイツらもそろそろ帰ってくる頃だろう」
今日は任務中の五条さんと夏油さんが沖縄から帰ってくる日だ。
なんだか長い間会っていないような気がして、朝からソワソワしてしまう。
「星漿体の賞金も取り下げられた。
高専内に入ってしまえば、後は日没まで同化を待つだけ――」
「「「!!!」」」
――高専結界のアラート!?
突如、鳴り響くアラート。
ボクたちは身体を震わせた。
アラートが鳴ったと言うことは、未登録の呪力を感知したということだ。
つまりは、侵入者が入ってきたのか――
それかまたは――
「侵入者、それか傑の術式だな……」
――そう、呪霊操術の呪霊でもアラートは鳴る。
「侵入者はほぼ確定じゃないですか。
夜蛾センは早く加勢に行った方が良いんじゃないですか?」
「確かにそうだが、アイツらが簡単にやられるとは思えん。
先ずは状況確認だ。二人はここにいなさい――」
夜蛾さんはそう言うと、ガラガラッ!と教室のドアから出て行った。
教室にはボクと家入さんがポツン、と残された。
「――大丈夫だと思うよ、鈴月」
「……え?」
「夜蛾センが言ってたけど、アイツらなら大丈夫。
あと、高専に入ってくる奴なんて頭が弱いのばっかだしさ」
――そう、だよね……。
「すみません……落ち着きました……」
「ほんと? 身体――震えてるよ」
「……」
気づいたら、身体が震えていた。
正直、動揺している。
『死』が近くにある――
身近な人が脅威にさらされている恐怖に身体が震える。
「情けないですね……ボク」
「別に怖がることは悪いことじゃないよ。
呪術師って基本的に死に近いからさ、向き不向きがある」
「家入さんは、怖くなるときってありますか……?」
「うん、あるよ。
――いや、“あった” が正しいかな」
それはきっと、家入さんは多くの死を見てきたということだろう。
死の間近にいた人を――
助けられた人を――
助けられなかった人を――
「まぁ、元々あんまり気にしない質だったけどさ」
「ボクは……」
「悪いことじゃないんだよ。
君がそれを怖がるのは、それだけ大切なものを知ってるから――」
――大切なもの……。
「でも、私たちは呪術師だからさ。
それでも戦わなきゃいけないこともあるよね」
そうだ。ボクはもう呪術師なのだから。
怖くても戦わなきゃ……。
「私は前線に出ないけど……。
頑張ってよ――死んでなければ治してあげるから――」
――あぁ、それは……。
「それは――安心ですね――」
少しだけ恐怖が和らいだ気がする。
その時、教室のドアがバタン!! と開いた。
ドアを開いたのは補助監督の人だった。
「鈴月くんはいますか!?」
「は、はい!?」
「高専結界内、筵山麓付近に大量の蠅頭を確認しました!
現在、繁忙期にて出られる呪術師が小数! 君の力が求められています!」
「呪霊誘因体質と……帳……」
「既に夜蛾一級呪術師が向かいました!
現地で合流し、協力して呪霊の祓除をお願いします!」
早速、頑張らなければならなくなってしまった。
家入さんは此方を見ている。
「鈴月、頑張りなよ」
「――はいッ」
ボクは飛ぶために教室の窓を開ける。
――炉心起動。
「……いってきますね」
「ん、いってら」
――炉心……接続……!
ボクは現最高出力で飛び出した――
筵山麓付近が近づいてきた頃。
空を飛んでいると、地上を走っている夜蛾さんを見つけた。
地上付近に下がり、夜蛾さんと並んで飛ぶ。
「凜か! 話は聞いているな!」
「はい!」
呪霊誘因体質で蠅頭を誘き寄せ、帳で閉じ込める。
夜蛾さんはぬいぐるみ軍隊と走りながら一瞬此方を見た。
「では、空から蠅頭が目視できたのなら呪力で誘き寄せなさい!
現場には侵入者がいる可能性がある!
出来るだけ離れたところで帳を張るんだ!」
「分かりました!」
夜蛾さんの作戦を聞き、ボクは空に戻った。
すると既に蠅頭の大群が目視できる範囲に入っていた。
「蠅頭を目視で確認! これから計画を開始します!」
「昨日の練習通りだ! 落ち着いて頑張りなさい!」
『頑張ってよ――死んでなければ治してあげるから――』
「――はいッ!」
ボクは空中で静止した。
呪霊を誘き寄せる場合、一定の呪力を練る必要はない。
ただ、呪力を身体から立ち上らせるだけで良い――
『死』を閉じたパンドラの箱――
死んだのに生きているという矛盾、それを直視しないように――
ボクは開門した――
――ズズズッ……!!!
異様な呪力が満ちる。
『死』を孕んだ――濃くて暗い
それはまるで、月が満ちるみたいで――
それはまるで、蟲が満月に誘われるみたいで――
――この“
「
死を誘う灯りに蠅頭の群れが気づいた。
恐ろしい呪霊の大群がボクに一直線に向かってくる。
「凜! 帳の効力は呪霊だけを閉じ込めるように、だ!
後から術師の応援が来る! 君は帳の外、空で安全に待機していなさい!」
「了解!」
既に蟲の行軍が間近に迫ってきていた。
ボクは捻出する呪力を一定に戻し、印を結び、呪詞を
「闇より出でて闇より黒く……その穢れを禊ぎ祓えッ……!」
己の内に術式を0から構築、言霊を乗せて、呪力を流して発動する。
結界範囲は蠅頭が入りきるように設定。
そして、結界の構築スピードを速くして漏れが出ないようにする。
ドドドドドドドドッ……!!
――よし! 帳を張れたッ!
「合格だ! 凜はそのまま空中で待機してなさい!」
そう言って夜蛾さんはボクが張った帳の中へ入っていった。
ぬいぐるみも次々と入っていく。
「……ふぅ~。なんとか出来た~」
そう言いながら自分の手を見る。
――手が震えてる……。
怖かったが、なんとか頑張れた。
家入さんと夜蛾さんがいてくれたから頑張れた。
空にフワフワ浮かびながら、震えを抑える。
「……五条さんと夏油さん、大丈夫かな?」
やはり気になった。
より高く上空に昇り、ここから見えないかと目をこらしてみる。
筵山麓――森に囲まれた高専結界の端。
寺社仏閣が破壊されているのが遠目から確認できる。
「戦闘した後かな? 護衛を続けてる――待って……」
――血だまりに……。
円形に抉れ、破壊されているその真ん中で。
見覚えのある白髪の人が倒れていた。
――あり、え……な い、でしょ……。
それは“最強たち”の片割れで――
うざったいけど頼りになる人で――
一緒に空を飛んだボクの先生みたいな人で――
「だっ、て……あの五条、さんが……」
――負ける、わけ、……。
――……それよりもッ!!
「五条さんが死んでしまう前にッ!」
ドッ……!!!
五条さんに向かって飛んだ。
急いで家入さんのところに連れて行かなきゃいけない。
「生きてますか!? 五条さん!!」
返事はない。
五条さんの側に着地する。
血で汚れることなぞ気にするか。
「これッ……酷い傷ッ……!!」
首から腹までの深い切り傷――
右太ももに三つの刺し傷――
そして――頭に穴が空いていて――
――助からない……。
「……五月蠅いッ」
――間に合うはずがない……。
「……五月蠅いッ!」
脳までやられている。
どうあがいても家入さんのところまで、間に合う気がしない。
だって――
「――だって、こんなに近くッ……『死』を、感じるッ!」
世界で唯一、ボクだけが理解していることだ。
この世で一番、平等な存在――『死』はそんなに甘くない。
例え“最強”であろうと必ずいつか必ず訪れる――
「や、だッ……。やだッ! 死なないでッ……!」
〔無駄だ。オマエには何も出来ない。〕
『死』が語りかけてくる。
腹の底から黒い力が溢れてくる――
覗いてはいけない深淵から呪力が氾濫する――
〔オマエのように見逃したりなぞしない〕
パンドラの箱の――『死』を直視し 「凜……飴、ある?」 て――
「〔え……?〕」
ボクの頭に何かが置かれる。
――手だ……。
――誰の……?
五条さんの手がボクの頭の上に置かれていた。
気づいたら、五条さんの身体にあったおびただしい傷は亡くなっている。
「五条さん……?」
ゆっくり上半身を起こし、五条さんの瞳がボクを見通す。
深いアオ――六眼がボクの中の『死』をパンドラの箱に閉じ込める。
暴走していた呪力は静まりかえった。
「落ち着いたか?」
「……は、い」
「じゃあ、飴ちょうだい。脳みそ疲れたンだよ」
飴玉はポケットの中にいつも入っている
その飴玉を五条さんに渡した。
「あークソ美味えなぁ……!」
「よ、かった……です」
「じゃあ、行ってくるわ」
――……え?
「ど、こに」
「決まってンだろ――天内のところだよ」
そう言うと、五条さんは凄まじい速さでこの場から消えた。
血だまりに残されたボクは、先ほどの六眼を思い出す。
あまりに澄んだアオ――
五条さんはこの日、“最強無敵”に成った――
どもっす!<(_ _)>
N島ジュン太郎です。
読了!感謝!
そういえば、凜くんの実家って周りが田んぼだらけでしたね?
懐玉は終わり、次回から玉折ですね。
どうぞお楽しみに。