呪いを焚べる   作:N島 ジュン太郎

28 / 33
英語のサブタイってなんか格好いいですよね。

それでは第二十六話をどうぞー。


第二十六話 for what

 

 

 ここは病院のとある一室。

 病院は、特に好きでも嫌いでもない。

 何故なら――楽しい想い出も、悲しい想い出も、等しく二等分だから。

 

「んだよ、そんな辛気くさい(ツラ)して」

「え? ボクそんな顔してた?」

「怪我人よりもな」

 

 病室のベッドに横たわる真希に怒られてしまった。

 今は怪我をした彼女の見舞い中だった。

 

――いけないいけない。

 

 どうやら見舞いに適した顔じゃ無かったみたいだ。

 夕方だからだろうか――過去に帰りたくなる。

 領域展開を使ったからだろうか――想い出に浸かりたくなる。

 

「いやぁ、小さい頃のお注射思い出してさ! 実は今でも苦手なんだ」

「……まぁいいけどよ」

「それよりも! 具合は大丈夫?」

「……問題ない」

 

 真希はぶっきらぼうに返事をした。

 フン、と言っているのが聞こえるような不機嫌さだ。

 

「何か、怒ってる……?」

「別に……助けて貰ったことが不甲斐ないと思っただけだ」

「あぁ、自分に怒っていると」

「……チッ!」

 

――あらら……。

 

 どうやら助けられたことで、自分の弱さに苛立っているらしい。

 難儀な人、自分に厳しい人、だと思う。

 自分は沢山助けられてきた人間、沢山助けを求めてきた人間だから、あまり共感できそうに無いのだが。

 

「ウーン、自戒自戒」

「は?」

「いやこっちの話。気にしないで」

 

 ボクもいつもの調子が戻ってきた。

 さっきの辛気くさい顔もバッドでホームラン。よし、どっかいった。

 

「そういえば、話があるんじゃなかったっけ?」

「……あぁ……」

 

 丁度いいタイミングなので、実習前、真希にツラを貸せと言われていたことを聞いてみることにした。

 そのときの彼女はボクのことを知っているようだった。

 思い当たることはいくつかあるが、良い方と悪い方どっちだろう。

 

「オマエ、最年少で一級になったって奴だろ」

「あ、そっちか!」

「あと禪院家への挨拶を拒否った奴」

「あ、そっちも!?」

 

――良い方と悪い方、ダブルヒット!!

 

 ボクが一級に昇格したのは十三歳の時だ。

 最速記録ホルダーとなったことがきっかけで、ボクはある程度有名人になった。

 そこで各御三家への挨拶が命じられたのだ。

 命じられたのだが――

 

「だって御三家が怖かったんだもん!」

「だもん、ってオマエ……」

 

 簡潔に言うと――ばっくれた。

 理由は以上の通りである。どうか許して欲しい。

 事の発端は、五条さんが御三家の説明を死ぬほど誇張してたことが原因。

 五条家当主の言うことだからと、当時のボクはガチで信じていたのだ。

 

「良い術式を持つ呪術師は脳みそだけ取り出されて、意識を保ったまま永遠に保管されると思ってたんだよ……」

「んな分けねぇだろ!?」

「流石に今は理解してるよ……。でも、挨拶のタイミングを逃してそのままなのは申し訳ないと思ってるって……」

 

 実は放浪が趣味になったのも、ビビりまくって家出したのがキッカケだったりする。

 “探さないでください”なんて書き置きを自分がするとは思わなかった。

 一級になってから、一人での外出を許されていたのも大きいだろう。

 

「はぁ……怖いってよくそんなンで呪術師やれてるな」

「あーそれは仕方なくってやつ? 呪術師になるしか無かったというか、そう生きるしか無かったというか?」

「ふーん……。ま、呪術師やる理由なんて人それぞれだしな」

 

 呪霊誘因体質のことを説明するのは大変だから助かる。

 だいたいの人が同情してくれるが、いい加減お腹いっぱい。

 ……嬉しいんだけどね。

 

「逆に聞くけど、何で呪術師やってるの?」

「私が呪術師やる理由は禪院家への嫌がらせだよ」

「ワッツ?」

「フィジカルギフテッド。オマエも聞いただろ?」

「あ、うん。呪力が一般人並になる代わりに、常人離れの身体能力を得る天与呪縛」

 

 真希から聞いた話によると、この天与呪縛は術式至上主義の禪院家では疎まれるらしい。

 呪具を使わないと、呪いが見えない/祓えないから。

 

「見下されてた私が一級術師として出戻ってやるんだ。家の連中どんな(ツラ)すっかな」

「へぇ……いいね」

「だろ? そんで当主になって禪院家を内からぶっ潰してやるんだ」

 

 あまりにも大胆な発言に、ボクも笑顔がこぼれる。

 だからこそ、御三家をも恐れない彼女に協力したくなった。

 こういうところ、ボクも呪術師っぽくなったと思う。

 

「それで、話っていうのはボクに一級への推薦をしろってこと?」

「は? んなことじゃねえ、そういうのは一人でやるから意味があるんだよ」

「え、話ってそういうことじゃないの?」

 

 梯子を外されてしまった。

 挨拶ばっくれ事件を気にしないでやるから協力しろ、だと思った。

 ということは、本当に気にしていないのか。

 首を傾げるボクに対し、真希は――

 

「話ってのはそういうのじゃなくてだな……」

「そういうのじゃなくて……?」

「……訓練に付き合えって話だ……」

 

――???

 

 真希はそっぽ向いて答える。

 別にそのくらいなら全然かまわない。

 というか、同級生なのだからそのうち当然のようにやると思っていた。

 なんというか――

 

「なんていうか……真面目だね」

「……うるせ」

「いいよ、やろっか訓練。なんなら皆を誘ってさ」

 

 恐らく、人に頼ることを恥ずかしく感じているのだろう。

 これはきっと、思春期特有のアレだ。先生に質問するのが恥ずかしい的なアレだ。

 それでもこうやって言えるのは、凄い真面目で偉いと思う。

 

――あー、ボクも五条さんに青春おじさんとか言えない。

――彼女はまだ、十五歳なんだね……応援したくなっちゃったなぁ。

 

「あはは、楽しみ」

「……そうかよ」

「改めてよろしく、真希」

「…………あぁ……」

 

 夕焼けに染まる病室で――

 今、楽しい想い出が一つ増えた。

 病院がちょっとだけ……本当にちょっとだけ好き、に傾いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 高専寮――その、とある一室の前。

 僕はその部屋の前で立ち止まっていた。

 ……否。彷徨っている、といった方が正しい。

 

「えっと、凜くん今大丈夫かな……」

 

 右往左往……右往左往……。

 凜くんの部屋の前で彷徨っている僕。

 かれこれ数分この状態である。

 

「今日は疲れてるだろうし、明日にした方が……でも早めに……」

「憂太? どしたの?」

「あ――」

 

――見つかっちゃった。

 

「えっと……ご飯、どうかなって……」

 

 少し凜くんと話がしたくて、夕食のお誘いに来たのだ。

 病院で宣言した“あの誓い”を彼にも伝えておきたくて――

 

「えっ、と……どうしようかな……。憂太のお誘いは嬉しいんだけども――」

 

 どうやら雲行きがよろしくない。

 他に何か用事があるのか、凜くんは誘いを受けるかどうか悩んでいるふうだ。

 迷惑をかけるわけにはいけない。明日にしよう。

 

「――憂太、それって……」

「あ、うん……野菜炒め、なんだけど、今日は――凜くん……?」

 

 僕が持ってきたおかずに、凜くんは釘づけになっていた。

 今日は彼に迷惑をかけてしまったからと、些細ながらお礼にと作ってきたのだ。

 

――なんだか急に目が輝いてる……。

 

 凜くんの表情がパァっと明るくなった。

 ……なにこれ。お世話になった人に対して失礼だけど、ちょっとお腹を空かせた小動物っぽいぞこの人……。

 

「……一緒に食べようと思って……」

「いいの!? いやぁご飯済ませちゃったから悩んでたけど、恵んでくれるのなら喜んで!!」

「ははは……ご期待に添えるかどうか分からないけど」

 

 凜くんはエヘヘと嬉しそうに笑いながら身を引いて、僕を部屋の中に招き入れてくれた。

 玄関のすぐ側にある台所、そこの洗い場に片付けたばかりのお皿が積んである。

 

「凜くん、お腹大丈夫? 結構な量の食事済みのお皿があるんだけど……また今度とかでも……」

「え、――――大丈夫大丈夫!! 全然まだまだ食べられますよ憂太さん!!」

「憂太さん、って……」

 

 なんだか、必死そうに説明する凜くんがおかしくて笑ってしまう。

 その様子は、おもちゃを買って貰うために母親を説得しようとする子供そのものだ。

 里香ちゃんを抑えていた凜々しい時とは全くの別物すぎて――

 

「あ! 笑ったな! いい笑顔で笑ったな!」

「ははは、だって凜くんが面白くて」

「エネルギー補給は大事なんだよ!? 身体的、精神的にも食事というのは重要な要素――ってまた笑ってる~!?」

 

 謎な人だ。

 ただの野菜炒めにここまで必死になってくれる人なんて、いまどきとても珍しい人かもしれない。

 

 

~少年たち、食事中~

 

 

 凜くんは野菜炒めでご飯を三杯、僕はご飯を一杯食べて、食後のお茶とあいなった。

 丸いちゃぶ台を囲んで座り、凜くんとお茶をすする。

 

「ご馳走様でした」

「あっ、お粗末様です」

 

 礼儀正しくペコリとお辞儀する凜くん。

 元々一人暮らしで自炊をしていたが、人に振る舞うのは初めてで、こんなやり取りが慣れないことこの上ない。

 

「……にしても今日は頑張ったね、憂太」

「え、あ、うん。ありがとう……」

「そしてボクも頑張った! 五条さんの無茶振りに!」

「ははは……」

 

 凜くんは“エッヘン!”と胸を張ってドヤ顔をしている。

 ほとんど歳の変わらないこの彼が、里香ちゃんを止めたというのだから確かに凄いことだ。

 僕も彼のように強く生きられるだろうか――

 

「――実は、凜くんに話したいことがあって来たんだ」

「話? いいよ、何だい?」

「病院で五条先生に言われたんだ――愛ほど歪んだ呪いは無いって」

「へぇ、意外とロマンチストだよねあの人も」

 

 僕は病院での五条さんとの会話を思い出す。

 自分で決めたことを改めて自身に刻みつけるように。

 やりたいこと――

 やらなければいけないこと――

 

「呪術高専で、僕は里香ちゃんの呪いを解きたい」

「そっか、いいんじゃない?」

「あ、うん」

 

 返ってきたのは、思っていたより軽い反応だった。

 凜くんはニコニコしながら僕を見つめている。

 それはなんだか、五条先生と同じような雰囲気を纏っていて――

 

「ウンウン、若者はこうでなくっちゃね」

「若者って……」

「協力するよ。……だって憂太、頑張ってるじゃん。

 頑張ってる人は応援したくなっちゃう。それが人間ってものでしょ?」

「――」

 

 脳裏に浮かぶ、あの時の言葉。

 呪霊の腹の中に閉じ込められた際の、ちょっと気が強くて優しい、そんな彼女の励ましの言葉――

 

『呪いを祓って祓って祓いまくれ!! 自信も他人も、その後に付いてくんだよ!!』

 

――……真希さんの言うとおりだった。

 

「ん? どしたの憂太?」

「ううん、なんでもない」

 

 ふと――凜くんが何故呪術師をしているのか気になった。

 こんなにもニコニコと笑っている彼が、どうして呪いと関わっているのか。

 こんなにも優しく応援してくれる彼が、どうしてあんなに強くなったのか。

 

「凜くんは、どうして呪術師をやってるの?」

 

 口に出してから、ハッとなった。

 もしかして、凄く無神経なことを聞いてしまったかもしれない。

 僕にも事情があったように、呪術師をやってる人には、あまり人には言いづらい訳があるのかもしれない……と思ったから。

 

「えっと、ごめん! 言いたくなかったら――「いいよ、教えたげる」――……え?」

 

――大丈夫……なのかな……?

 

「大丈夫大丈夫! 別に隠してるわけでもないし! 野菜炒めをくれたお礼に教えて進ぜよう!」

 

 ケラケラと笑ってそう言う凜くんは、別に何も気にしてなさそうだ。

 本当によかった。

 親切にしてくれた友達に失礼をしてしまったかと思った。

 

「ボクが呪術師をやってる理由はね――」

「う、うん……」

「――幸せになるためだよ」

「……え、えっと……?」

 

――し、幸せになるため? 呪術師をやる理由が……?

 

「あはは! ごめんごめん言葉足らずで分からないよね!

 ボク、生まれたときから呪霊を引き寄せる体質でさ? 物心ついたときから呪霊に呪い殺されそうになる人生だったんだー」

 

 凜くんが気軽に言葉にしたのは、あまりに不条理な運命だった。

 ……言葉が、出ない。

 つまりそれは――

 

「だから、呪術師として生きるしかなかったんだ」

「――」

「あれ、憂太? 大丈夫?」

「――――ごめん、僕……辛いことを……聞い、て」

 

 そう、とても無神経だった――

 失礼だった――

 不躾だった――

 無遠慮だった――

 

――なんてことを……聞いてしまったんだ。

 

「同情してくれるんだ? ありがと、嬉しいよ」

「ご、ごめん」

「イヤイヤ! ホントに嬉しいと思ってるよ! ボクは別に同情されるのが嫌とかないし! だってその人は優しい人なんだ、って思えるじゃん!」

 

 またしても僕を思いやる凜くん。

 これ以上は本当に失礼になってしまう気がしたから、しゃんとして彼の言葉を待とう。

 

「憂太落ち着いた?」

「う、うん……」

「じゃあ話の続き……と言っても“呪術師でも幸せに生きたい!”ってだけなんだけど。今際の際に『幸せだった!』って言ってやるんだ~!!……良いでしょ?」

「…………」

 

――……格好いいな……凜くんは。

 

「……お? 良いでしょ? ……あ、あれ憂太? 良くない?」

「うん――めちゃくちゃ良いね」

「でしょ~!!」

 

 ガハハ! と笑ってガッツポーズを取ってる凜くんは、誰がどう見ても幸せそうだ。

 こんな人も、いる――

 今を必死に生きている彼は、とても格好いいと思う。

 

――こんなふうに生きたいな。

 

 自分はまだ十六歳で、生き方なんて考えたこともなかった。

 もしも、見本にするのなら――

 ――彼のように、強く、真っ直ぐに生きられたら良いと思った。

 

 

 

 

 

 

~GO!GO!五条!~

 

五条「凜が僕に冷たいの、なぁぜなぁぜ?」

凜「うわっ、すぐに流行に乗りたがるおじさん!」

五条「ウッ……(絶命)」

凜「五条さんが死んだ! この人でなし!」

家入「元から人でなしだろ~」

 

 

Q:大人になると男女がすることってなーんだ?

五条「こんなの簡単じゃん、答えはセッ――」

一年ズ「「「「成人式」」」」

五条「僕は汚い大人……」

棘「しゃけ」

凜「んー、ボクは明太子の気分かなー」

 

 




どもっす!<(_ _)>
N島ジュン太郎です。
読了!感謝!

えー真希が凜を訓練に誘ったところ。原作の真希は強くなるために他者を頼る発想がなかった、とありましたが、今回の真希は頼ったというより本当に誘っただけです。
地の文のあれは凜の勝手な憶測。精神年齢がおじさんの勝手な妄想というだけです。
無意識青春おじさん、凜くん。そんな裏話。

気軽に感想を送ってくださると、作者は泣いて喜びます。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。