呪いを焚べる   作:N島 ジュン太郎

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どちらにせよ裏と表はあるんだね。
そう、月だって――

第二十七話どぞ!


第二十七話 立体ノ月

まあるい、まあるい、お月様――

明るく、暗く、満ちては欠けては、キラキラキラ――

それでも、それでも、いつだって――

絶対見せない、あちら側――

 

 

 

 

 

 

 

――ぶっすー。

 

「ほら凜。しゃんとして! これから総監部の年寄り共との会合なんだから」

「嫌すぎる! やっぱり五条さん一人で行ってくださいよー!」

「ヤダ♡ ていうか折本里香に対応したのは凜だから絶対無理♡」

「ぐえー」

 

 ボクたちは今、高専の敷地内を歩いている。

 置かれている鳥居や墓石の間を抜ける。

 呪術総監部のうるさい連中がやって来て、この前の折本里香完全顕現のことで会合をするのだ。

 

「そもそも、五条さんがボクを連れて行かなきゃ折本里香は暴走しなかったんですよコノヤロー」

「僕知らなーい」

「このバカ目隠しがよぉ……」

 

――あとで五条さんのお菓子食べちゃお。

 

 ボクは静かに復讐の炎を燃やす。

 やいのやいの、と歩いて向かった。

 因みに、もう会合の開始時間は少し過ぎている。

 

「さて、と……着いた」

「それじゃあ凜、入ろっか」

 

 ようやく着いた扉の前。

 五条さんが無造作に扉をギィっと開けた。

 

 うす暗い部屋――

 蝋燭の光しかボクたちを照らすものがない。

 そんな暗雲とした雰囲気がボクらを迎えた。

 

――あはは……当然のように、歓迎されてない~。

 

「遅いぞ! 五条悟! 鈴月凜! 重要な会合に10分も遅れるなど何事だ!」

「五条さんが寝坊しました。ボク悪くありません」

「平然と嘘つくの止めようねー凜」

「ワタシノ辞書ニ、嘘ナンテ言葉アリマセーン」

 

 ボクらを囲うように複数の障子が並ぶ。

 それら一つ一つの向こう側で、上層部の年寄り共がボクらを睨んでいるのだ。

 言うなればこれらはボクらを呪うモノリス。

 

「時間も勿体ない。早く始めましょう」

「遅れたのは君たちであろう?」

「ボクを五条さんと一緒にしないでくださーい」

 

 会合の開始を急かす五条さんと軽口を叩くボク。

 それに対する年寄りのため息が、会合開始の合図になった。

 

「先ず本題に入る前に……鈴月凜」

「はい?」

「四年後。呪術高専を卒業したら、高専所属の呪術師になるのだな? 貴様には呪術師になることを約束に金銭的援助を施したのだ」

 

――なんだ、いつものかよ……。

 

 総監部は何かある度に、この台詞を吐いてくる。

 どうしてもボクに首輪を付けて起きたいようだ。

 だがしかしボクの返答もいつも通り。

 

「なりませんよ。この前も言ったでしょ……。ボケたんですか?」

「だが縛りが――」

「呪術師になる縛りはしましたが高専所属になるとは言ってません。

 ……もういいでしょ、こんないつも通りのやり取りなんて時間の無駄です。ボクは卒業したらフリーランスで呪術師をやらせて貰う」

 

――これだから来たくなかったんだ。

 

 総監部の年寄り共がここまで首輪を付けようと必死なのは、ボクの体質を利用しようとしているからだろう。

 人を呪って権力を得ている連中だ。ボクのような無意識に誰かを呪う体質など、手中に収めておきたいはず。

 

「高専に留まるのはこの四年間だけです。それ以降は放浪に戻ります。

 ボクを使いたければお金を積んでくださいな」

「だがッ――」

「もうよくないですか? フラれたんだからさっさと本題に入りましょうよ」

「……そうだな……」

 

 五条さんが割って入ってくれた。

 全くこれっきりにして欲しいものだ、この話。

 働き方改革なのだよ、最近のトレンドは。

 

 ゴホンと咳払いをする年寄り。

 荒れていた空気を元に戻し、重苦しい雰囲気で本題を切り出した。

 

「……特級過呪怨霊、折本里香。四百二十二秒の完全顕現。

 このような事態を防ぐために乙骨を君たちに預けたのだ。申し開きの余地はないぞ。五条悟、鈴月凜」

「まぁ元々、言い訳するつもりなんてないですよ」

 

――ボクは巻き込まれただけだっつーの。

 

 再度、辟易する。

 人に文句を言うコトすることが出来ないのかと、肩をすくめる。

 そうだった。保身馬鹿、世襲馬鹿、高慢馬鹿、ただの馬鹿、腐ったミカンのバーゲンセール。コイツらは誰かを呪うだけのクソ呪術界の中心だった。

 

「何をふざけている!? 折本里香の暴走を止められなければ、町一つ消えていたかもしれんのだぞ!!」

「凜が必死に止めてくれたんだから良いでしょ。

 あのね、私らがあの呪いについて言えることは一つだけ――『出自不明』――呪術師の家系でもない女児の呪いが、どうしてあそこまで莫大なものになったのか」

 

 五条さんの話を聞いて想起する、呪いの女王の姿。

 底がない――というより、底が抜けた深淵のような呪力の総量。

 確かに、どうして一般家系からあんなものがと思う。

 

「理解出来ないものを支配することは出来ません。

 ま、トライ&エラーってね。暫く放っておいてくださいよ」

 

 “話は終わりだ”というように踵を返す五条さん。

 ボクはひょこひょこと、その後ろに着いてく。

 

――やった、もう帰っていいんだ。

 

 こんな陰鬱とした場所はさっさとおさらば。

 たとえ呪術師といえど、ボクは明るい場所にいたいのだ。

 

「……乙骨の秘匿死刑は保留だということを忘れるな」

「――そうなれば、私が乙骨側につくことも……忘れずに」

 

――おぉ、怖い怖い。

――……あ、そうだ。

 

「頑張ったのでお賃金弾んでおいてくださーい!」

「……」

「なんですかその目は……。言っておきますけど、流石にお賃金くれないと、折本里香の対処なんてしませんからね!」

「……今日中に色を付けて振り込んでおこう」

 

 コレはいっておかなければならぬ。

 何故か五条さんに微妙な目で見られたけど、知らんぷりだ。

 ……譲らないぞ。

 

 

 

 

 

 

 そうしてボクたちはその場を離れた。

 無造作/乱雑に鳥居や墓石が置かれている高専の敷地を五条さんと並んで歩く。

 

「……ったく野暮な年寄り共め。ああはなりたくないね。気をつけよ」

「実はもう、生え際が似てたりして~」

「まったくもう口が悪くなっちゃって! 誰に似たんだか!」

「鏡、いります?」

「グッドルッキングガイしか映ってなくない?」

 

 先ほどの溜まった鬱憤を晴らすかのように軽口を飛ばし合う。

 なんだかんだ言って、この人とのこんなやり取りが心地良いのだ。

 自然と笑えてくる。

 

「――凜」

「……なんです?」

 

 サングラスを外して包帯を巻き直した五条さんが、神妙に――

 珍しく真剣に――ボクの名前を呼んだ。

 

「――強くなったね。そろそろ僕の背中、見えてきた?」

「あはは! いえ、まだまだです!

 いつかまた、背中を思いっ切りぶったたいてやりますとも!」

「それは、怖いね」

 

 乱暴に、粗雑に、けれど大きなその手で頭をグリグリされた。

 久しぶりに頭を撫でられた気がする。

 いつまで経っても撫で方が変わらない兄貴分だこと。

 

「……若人から青春を取り上げるなんて、許されていないんだよ、凜。何人たりともね」

「まったくです」

「……凜も若人の一人だよ?」

 

――精神的には五条さんと同い年なんだけど……。

 

 五条さんと一緒に、遠くでグラウンドを走っている同級生を眺める。

 今は午前中、体育の時間だ。

 ちょうど憂太が周回遅れになってるのが見える。

 

「……凜はさ、なんで放浪してるの?」

「単に趣味ってだけですよ。キッカケは……家出でしたけど」

「それだけじゃないでしょ?」

「……」

 

 変に勘が良いの勘弁して欲しい。

 これで性格もしっかりしてくれたらと毎度思う。

 

「言っておきますけど、ボクの体質に皆が巻き込まれるのを嫌った、とかじゃないですからね。今は本当にただの趣味ですよ。

 元々、一つの場所に留まっている性質じゃなかったんです」

「“今は”……ね。ホントは寂しがり屋のくせに頑張っちゃって」

「……うっさい。心配するのかおちょくるのか、どっちかにしてくださいよ」

 

 昔に、オマエはこの世に交ざってはいけない故障箇所だ、と言ったどこかの秩序がいたが、そんなこと言われても知らないとボクは自分勝手に生きてきたのだ。

 たまに気の迷いで落ち込んでも、美味しい物を食べて頑張る。

 ホントはちょっと気にしていたとしても、ぐっすり眠って復活。

 

――五条さんも教師らしくなったってことかな。

――ボクを心配するなんて珍しいや。

 

 辛いことは辛い。

 でも、受けた呪いに対して胸を張れるように、自分勝手に頑張って生きているだけ。

 今更こんな呪霊誘因体質なんてホントに気にしていないのだから、五条さんも気にしなくて良いのだ。……ホントに。

 

「大丈夫です! ボクは元気いっぱい! 勇気凜々な若人ですよ!」

「ははッ、頼りになるね」

「最強に頼られるなんて……。もしや、ボクも結構なナイスガイでは?」

「ん~もうちょい! 身長が欲しいかな?」

「なんだァ? てめェ……」

 

 凜、キレた!! と再び、やいのやいのと軽口を飛ばし合う。

 十年経っても、変わらぬやり取りだ。

 いつだって永遠の底には、ボクらの青い春が澄んでいる。

 

「さっきのお金で焼き肉でも行きましょうか。皆も誘って食べ放題のやつ」

「えー行くなら高級な方が良くない?」

「こういうのは食べ放題の方が青春っぽくて良いじゃないですか」

「確かに」

 

 改めて思う。ボクは五条さんのような、ヒーローのような呪術師ではないけれど。

 それでも、それなりに人を救ってきて、それなりに幸せなのだ。

 きっと今日の夕飯も楽しいものになるはず。

 

「ほら、そろそろ皆のところに行っておいで」

「え、授業免除じゃないんですか!?」

「そんなわけないでしょ! いってらっしゃい学生!」

「ちくしょー! 五条さんのバカヤロー!」

 

 ボクは飛び去るように皆が走ってるグラウンドまで飛翔した。

 五条さんも少しは大目に見てくれても良いじゃないか。とムっとして。

 

「……僕に嘘はついてはいないね。

 ちゃんと息抜きが出来てるなら、良いんだけどさ。

 恵のこと、やっぱ気にしてんのかなー」

 

 

 

 

 

 

「……月の裏側はボコボコなんだっけ」

 

 

 

 

 

 

~焼き肉に行けないパンダ~

 

「俺、呪骸だから焼き肉食べ放題行けないゾ?」

「「「……あ」」」

 

 ボクたちは体育の授業が終わった後、夕飯の焼き肉食べ放題について話していた。

 ……のだが、緊急事態が発生した。

 パンダは呪骸だから人前で無闇に動けない。

 

「仕方ねェ。パンダは留守番だな」

「何でだよ!? オマエらだけずるいぞ!」

 

 真希の無慈悲な宣告に異を唱えるパンダ。

 ボクと憂太と棘は後ろでコソコソと雑談だ。

 

「パンダってお肉食べて良いの?」

「しゃけ!」

「え、マジ? パンダって雑食なの?」

「凜くんどうやって通じ合ってるの……?」

 

 棘が言うにはパンダは雑食で、そもそもパンダは呪骸だから雑食らしい。

 なるほど……分からん。

 つまり、雑食とか関係ないって話では?

 

「高菜! 高菜……明太子!」

「え? ボクのトランクにパンダを詰めるって?」

「トランク? パンダくんが入る大きさなの?」

 

――いや、あくまで普通サイズだと思うけど。

 

「すじこ、明太子……。明太子、明太子~! ツナ、ツナマヨツナマヨ、ツナ」

「ふむふむ、棘……さてはお主天才か?」

「あの……狗巻くんはなんて言ってるの、凜くん?」

 

 しょうがないにゃあ、憂太くん。とボクは立ち上がる。

 トランクから丸い伊達眼鏡を取り出し先生風に。

 

「先生が教えてあげましょう!」

「「お? なんだ棘の妙案か?/俺も焼き肉行けるのか?」」

「ふふ……つまりこうです!

 ボクの脳筋術式でパンダを超圧縮、トランクに詰めて――」

「絶対止めろ!?」

 

 結局、ボクの部屋で焼き肉パーティーに変更して楽しんだのであった。

 

 

 

 




どもっす!<(_ _)>
N島ジュン太郎です。
読了!感謝!

放浪は趣味。それはホントだけど、寂しがり屋なのもホントな凜くん。
彼はただ、黄昏に消えた彼女に報いたいだけなのです。
彼はだた、それだけで頑張れるのです。

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