第二十八話です。どぞ~。
夢を、見ているのだろう。
今まで何度も何度も――眩しさに目が潰れるほど見てきた夢だ。
流石に明晰夢だと分かる。
自分が夢を見ていると認識出来る夢。但し、僕の場合は内容をコントロールとかは出来たりしないのがお決まりだ。
『約束だよ? 里香と憂太は大人になったら結婚するの』
そう、この眩しい約束に僕は焼かれてしまっているんだ。
将来を約束する指輪が――
君の未来と――
僕の未来を繋げた気がして――
全て、全て――正夢であってくれと願った夢。
『大人にな“ぁたぁら”ぁ 結婚する“ぅぅぅううん”』
そう、この悲劇を無かったことになんて出来きないんだ。
血飛沫の色が――
君の身体と――
僕の視界を染め上げて――
全て、全て――逆夢であってくれと願った夢。
リフレイン、リフレイン、リフレイン、リフレイン……
朝の日差しと空腹で目が覚める。
何年放浪しようと変わらない、高専寮でのボクの目覚め。
時計を見ると午前六時を指している。
「……お腹空いたな」
朝、お腹が空いて起きるのは調子が良い証拠だ。
洗面台で顔を洗った後にコップ一杯のお水を飲む。
いつものルーティーン。
――今日の朝ご飯はなんだろう。
朝ご飯は高専寮の寮母さんに申請して作って貰っている。
昼と夕は自分で作るか、外で食べるかだ。
といっても最近はもっぱら皆と外で食べてばかりだけれど。
白い制服に着替える。
憂太と同じ白色。問題児だからパッと分かりやすい色にしたらしい。
なんて非道い。ボクは放浪癖があるだけだ。
「さて! それじゃあ朝ご飯を食べに行きますか!」
ガチャリ。
扉を上げて、自分の部屋を出ると……
「おはよう、凜くん」
「……おはよう、早いね憂太?」
……いつも以上に隈を濃くした憂太が立っていた。
「あのさ……教えて欲しいことが、あるんだけど」
「良いけど、朝ご飯食べてからでいい?」
「あ、もちろん」
朝の来訪者と寝起きの放浪者。ともに問題児の白を纏う。
取りあえずボクたちは一緒に、朝ご飯を食べに行くのであった。
~問題児、朝食中~
「それでどったの、急に?」
「う、うん――」
寮のロビーで憂太と食後のティーブレイク。
ソファーに座ってお茶を啜りながら、ボクらは話し始めた。
「――えっと、僕が呪術高専に来てから一週間。まだ呪術的なことを教わってないなーって思って……」
「なるほどなるほど。そろそろ本格的に呪術を学びたいと……」
確かにこの一週間の憂太は身体を鍛えることしかしていなかった。
体育の時間でのランニング、筋トレ、ストレッチ。
午後の時間では、呪術実習ではなく体術。
これは、五条さんの考えたLesson「0」だ。あんな人でも教師の端くれで、そしてぼくは五条さんの考えていることが何となく分かる。
「で、五条さんは今の訓練の説明をしていない?」
「うん、聞いてないや……」
「職務放棄か、あのバカちん」
――うーむ、でも五条さんが話してないことをボクが憶測で説明して良いものか……。
「まぁいっか! それじゃあボクが五条さんの代わりに今の訓練を説明してあげよう!」
多分五条さんそこまで考えてないだろ、ということで教えてあげることにした。
お茶を啜って一呼吸置いた後、ボクは説明を始めた。
「先ず始めに呪術の基本ってなんだと思う、憂太?」
「えっと、呪力操作だったっけ?」
「そう、呪力操作こそ呪術の基本。呪力を小さな負の感情から呪力を捻出し、それを如何にコントロールするかが呪術師の第一歩なのです」
ボクも呪力コントロールの練習から始めたものだ。
ツカモトJr.は今どこにあるのだろうか。
……脱線した。とにかく呪力コントロールは大事、という話。
「憂太の考える呪術的なことってこういうことでしょ?」
「う、うん……概ねそんなイメージ」
「本当はこういう所から訓練していくのがセオリーなんだ。ボクだってそうだったしね?」
だが、憂太はセオリーから外れた順序で訓練を進めている。
そこに五条さんのねらいがあるのだ。
これが憂太専用Lesson「0」なのだと思う。
「でも、憂太はそのセオリー通りではない! 何故か!」
「……!!」
「それは既に憂太が呪力を捻出し! 操作出来てるからなのだ!」
「……??」
――なんだその“僕、何かやっちゃいました?”……みたいな顔は。
どうやら、憂太に無自覚だったようだ。
折本里香の影響なのか。憂太の呪術センスが高いのか。それとも両方か。
どちらにせよ、憂太は呪力コントロールがある程度出来ている。雑だけど。
多分意識して出来る様になればもっと良くなる。
「つまりね、憂太は呪力コントロールが出来てるから先に貧弱な身体を何とかしよう、ってのが五条さんの考えてることだと思うよ」
「そうなんだ……」
「そうなのだ。今までのが本番前のLesson「0」。憶測だけど次が本番のLessonなんじゃないかな?」
「次のレッスン?」
――そう、Lesson「0」はこのために……。
「うん、次は折本里香の呪いを“解く”方法に舵を切っていくと思うよ」
「ほッ本当……!?」
「ホントホント。でも次は長いLessonになるね」
何千何万もの呪力の結び目を読み、ほどいていく作業。
そりゃ長くなる。
五条さんも早くそこに到達したかったから、ここまで急いだのだろう。
「ある程度の呪力コントロールと、ある程度の身体が出来たのなら、後は同時並行で里香の解呪をすすめる。ここからが本番だよ憂太」
「う、うん……! 頑張るよ……!」
「ま、この憶測が当たればなんだけどね」
「あ、そっか……」
突然梯子を外された憂太はガックシとしている。
ボクはここまで説明し、残っていたお茶を一気に飲みきった。
「ふう、ご馳走様でした。……そろそろ教室行こっか」
「そうだね。……えっと凜くん、今日の訓練一緒にやらない?」
「ん、いいよー」
長く話した気もするが、起きた時間が早いのかまだ余裕がある。
そうだ、教室でも少し呪術教室を開いてあげよう。
「呪術のLessonはハードだぜ~、憂太」
「……えっと?」
「あはは! なんでもない!」
午前中の座学はサボった。
なぜなら、既に高校の教育課程も、呪術の勉学も終わっているから。
復習するために出席しても良かったけど……まぁ秘密の特訓があったのだ。
『おいコラ凜! てめェ午前中の座学サボりやがってズリィぞ!』
『しゃけしゃけ!』
『サボるなら俺たちも誘って欲しいゾ』
『……怒る理由、ズルいからなんだ』
と、皆に怒られてしまった。
そんなボクたちは“皆でサボって五条さんを困らせよう同盟”を結成。
次は一緒に赤信号を渡ろうね、ということになった。
そして、今は午後の全体訓練の時間。
グラウンドでボクと真希、棘、パンダが模擬戦を交代で行っていた。
憂太は五条さんと一緒にどっか行ってる。
「にしても、凜から一本も取れないな俺たち」
「チッ、なんでそんな強ェんだよ、オマエ」
「見る? ボクの逞しい肉体美」
「見ねェよ!?」
細身に見えるが、術式の関係で基本的に身体はバキバキなのだ。
特に放浪の道行きで仕上がった下半身なんて美しいの一言。
普段、制服の下に隠しているのが勿体ないくらいである。
「真希の腹筋もバキバキだけど、流石にボクの腹筋の方がバキバキだよね」
「あ? 喧嘩なら買うぞ? はいもう買った、後悔しても知らねぇからな。
おいパンダ! 棘! 審査しろ!」
「「えぇ!?/いくら!?」」
突然始まった小規模ボディビル大会。
そうやって訓練そっちのけで遊びふけっていたら、五条さんと憂太が帰ってきた。
因みに厳正な審査の上、勝ったのはギリギリ真希。
「何やってんの君ら?」
「五条さん……ボク負けました……絞りが甘かったんですッ!」
「フッ……マ○クのバーガー5個で許してやる……」
「なんて寛大な……真希は心までシックスパックなの?」
「ふざけてないで、模擬戦再開しな?」
流石に怒られたので模擬戦再開。
次は棘とパンダがやり合っている。
ボクと憂太と真希は見学して、後で感想戦に参加するのだ。
ボーッと見学してたら隣の憂太が話しかけてきた。
「凜くん、朝聞いたとおりだったよ。ほら」
「お、ふざけてて気づかなかったけど刀だ。じゃあやっぱり呪いを解く方向に舵を切ったんだね」
「なんだ憂太の反応がイマイチだったと思ったら、凜が説明してたの?」
ボクと憂太の話に五条さんが乱入してくる。
呪いを解く方法までは話してなかったけど、憂太は刀に呪いを篭めるようだ。
これからは刃物の扱いも覚えなきゃいけないらしい。
「凜も呪具の扱いは一通り出来るでしょ? 憂太に教えてやってよ呪力篭めるの。呪力コントロールだったら僕に迫るレベルなんだから」
「「え?/は?」」
「いいですよー、久しぶりですね拳以外っていうのも」
五条さんの発言に今度は真希も反応する。
呪力コントロールは確かに得意だが、五条さんに迫るは少し言い過ぎだと思う。
まぁ、別に反論しないが。
「でも呪具の扱いは真希ほどじゃないから、そっちは真希の方が適任。僕は全体的に使い古しているだけで、真希みたいに使い熟しているわけじゃないんだ」
「えっと、真希さんお願いしても良いかな……?」
「……悪いが手取り足取り教えるのは性に合わねェ。……私から一本取れるようになれば、形にはなるだろ」
「うん……! 頑張るよ……!」
ボクが呪力コントロール。真希が呪具の扱い。ということになった。
さらっと訓練教官が決まり、憂太も嬉しそうだ。
真希はそっぽ向いている。少し照れてるのかな? 青春だね。
「というか! さらっと流れたけどオマエそんなに凄かったのかよ!」
「おや、流したのがバレちゃった。確かに呪力コントロールは得意な方だよ」
「確かに凜くん……呪力が全然揺らいでない……というより自然体?」
二人にグイッと詰められる。
あの、憂太さん? ボクはそれより君がさらっと呪力感知で呪力を見てることに驚いてるんだけど……、と憂太の呪術センスにビビる。
ボクが驚いてると、五条さんが解説し始めた。
「凜は普段の生活からずぅっと呪力を一定にしてるんだよ。それこそ寝ても覚めてもね」
「寝てるときも……ですか?」
「それは慣れ。
ボクの体質のことはもう二人も知ってるでしょ? 呪力コントロールは体質のコントロールに直結するからね。やってたら身に付いてたよ」
寝てるときも呪力を一定にしているのを自覚したときは笑ったものだ。
気づいたきっかけは五条さんの寝起きドッキリだったか。
そんなこんなで身に付いた静謐な呪力コントロールはボクの大きな武器になった。
「これを十年間続けてるんだ。流石に最強な僕もその一点に限ってはビビっちゃうね」
「あはは、五条さんのオート無下限バリアほどじゃないですよ」
「「……」」
――あらら、引かれちゃった。
呪力を小さな火種から捻出して一定に保つ訓練を二十四時間続けるだけで、術式をずっと出しっぱにしてる五条さんより全然普通だと思うのだが、どうでしょう。
あと僕の場合、日常で呪力の漏出を限りなく減らさないと呪霊が寄ってくるのだからやるしかない。放浪必須スキルだ。
「でも術式を発動したときのロス呪力、五条さんほど減らせないンだよなぁ」
「ただの呪力コントロールで六眼に並ばれたら立場無くなっちゃうよ」
「話の次元がいくつかブッ飛んでやがる……」
「ははは……」
言うなればこれはボクのLesson「0」なのだ。
この世界で生きていくためのちょっと難しい準備段階にすぎない。
これが出来る様になったから、ボクは様々なところをチョーカー無しで出歩けるようになったのだ。流石に近くにいると寄ってくるが……。
――そう、Lesson「0」はこのために……。
そんなこんなで話をしていると、模擬戦の決着が付いたようだ。
結果は棘の勝ち。
パンダが無理に攻めようとして、脳を呪力で守るのが疎かになった。その隙を突いて棘が呪言を決めた。
「それじゃあお望み通り、しごいてあげるよ憂太」
「ビシバシいくからな、覚悟しろよ憂太」
「お、お手柔らかにお願いします……」
~鈴月凜スキルパラメータ~
呪術センス――9
座学――9
運動神経――9
凜「10が一つもないのは何で?」
作者「才能はあるけど上には上がいるよ、ってこと。でも十年間の努力で才能を磨いてきたから項目全部が9になってる感じだね」
凜「確かに憂太みたいな呪術センスはなかったからなぁ……」
作者「まぁ作者のさじ加減なところはある」
凜「えぇ……」
どもっす!<(_ _)>
N島ジュン太郎です。
読了!感謝!
憂太は得物の扱いを軸に修行を進めるタイプだけど、身体が貧弱過ぎるから一旦鍛えようねって話。あと憂太の呪術センスが10だからこんな感じの妄想で作り上げた話でした!
あと呪力操作がマジヤバすな凜くん。
結局どのくらいの継戦能力があるの?っていうと死滅回遊の憂太くらい。
呪力量:そこそこ 呪力効率:バケモノ 呪力操作:バケモノ というステータスでようやく特級共と並ぶ継戦能力になる。
あと作者なりの解釈ですが、
呪力コントロール→呪力を一定に捻出すること
呪力操作→呪力を身体に流し操作すること
だと作者は解釈しています。異論は認める。本文中どっかで入れ替わってたりするかも。
例の如く、休日は投稿お休みになります。月曜日にまた会いましょう!
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