第三十話 “びしょ濡れの迷子” どうぞ~
ざあざあ。ざあざあ。ざあざあざあ――
今日も雨は止みません。
ざあざあ。ざあざあ。ざあざあざあ――
今日も涙は止みません。
ざあざあ。ざあざあ。ざあざあざあ――
今日も、明日も、明後日も。
――私は梅雨に閉じ籠もる。
「雨、参っちゃうな……」
今日は彼女との初デートの日。
しかし、あいにくの雨模様。黒い雨雲が空を覆い尽くしている。
そのせいで日が暮れたように暗い。
梅雨だから仕方が無いとはいえ、今日くらいは勘弁して欲しかったものだ。
「私はほんとに毎度毎度……。雨男は辛いなぁ……」
雨の中、待ち合わせ場所で立ち尽くしている。
公園の屋根がある東屋風の休憩スペースで、濡れてしまった身体を拭いているのだ。
じとじとと身体にまとわりつく湿気を我慢しながら待ちぼうけ。
わたしの心も涙を落としそう。
「晴子さん、まだかなぁ……」
この歳にして恥ずかしいのだが、初めて出来た彼女だ。
年甲斐もなくテンパって告白し、そして付き合えた。とてもとても綺麗な女性。
正直、わたしなんかとはつり合わないと思う。
今日の行き先はベタだが映画館。
そして、見る映画もベタに恋愛モノ。
偶然、映画鑑賞がお互いの趣味ということでデートプランが決定したのだ。
「……楽しみだ」
声に出した言葉とは対照的に、わたしの心は陰っていく。
もしも、彼女が来なかったらどうしよう。
もしも、彼女が来なかったらどうしよう。
もしも、もしも、もしも――
そんな、有り得もしないイフが頭に埋め尽くされて、陰っていく。
「ハッ……いけないいけない。ネガティブな思考は良くないぞ、私!」
そう。“もしも”の話なんて現実で起こりはしないのだから。
…………そういえば、傘を忘れてしまった。
どうやって帰ろうか。雨の勢いも弱まる気配もないし。
「晴子さん、晴れ女って言ってたし大丈夫でしょう」
そういえば、彼女に告白した日は午前中が晴れで、午後が雨だった気がする。
彼女とは、この公園で出会ったのだ。
私が通勤する時間帯にここで彼女とすれ違うのがキッカケ。
流石に毎日すれ違ったわけじゃないが、段々とお互いの顔を覚えて挨拶をするようになり、そこから親密になった……はずだ。
結構、前のことだから、記憶が、ボンヤリしている。
「えっと待ち合わせの時間が午後一時半で、今は――「すみません」――はい?」
気づいたら休憩スペースに女性が立っていた。
わたしと同じように雨に降られて、ここに避難したのだろう。
服や髪から雫がポタッ……ポタッ……と滴り落ちていた。
その人は私をジッと見ながら尋ねてくる。
「えっとすみません。今、何をしてらっしゃるのですか?」
「はい? 今ですか? 今は彼女と待ち合わせをしていますが……」
「そうですか! それは良いですね!」
どうやら只の近所話のようだ。
しかし、それから会話は続かなかった。
急にその女性は黙り込んで、空をボーッと覗いている。
この公園で出会ったのも何かの縁だ、と私はそう思い、今度はこちらから話しかけてみることにした。
「酷い雨で困ってしまいますね」
「えぇ、ホントですよ。なんだか悲しい気持ちになっちゃいますよね」
「まったくです」
そこで会話は止まってしまった。
コレは酷い。どうしてこのコミュニケーション能力で彼女が出来たのか。
今、この雨模様以上にワタシの心は涙を流している。
「そういえば知ってますか? この公園って幽霊が出るらしいですよ」
「え、そうなんですか?」
白い服の彼女から話題を提供してくれた。
しかし、怪談話とは。ホラーが好きなのかもしれない。
今度、わたしから話題を振ることがあればホラー映画の話をしてみたい。
……そんなことがあれば。
「ちょうど今日みたいな雨模様の日に幽霊が出るらしいんです。ソレは雨にびしょびしょに濡れた姿をしていて、ボソボソと何かを話している。ソレに何かを聞いてしまうと彼岸に連れて行かれるという噂です」
……ワタシは彼女の話し方で一つ気になったことがあった。
「何故、幽霊のことをソレと呼ぶのですか?」
「あはは、もしかしたら人間の形をしていないかもしれないじゃないですか。
まぁ杞憂でしたけど――」
「???」
彼女の言っていることは全然分からない。
まるで、雨の音で聞こえてこないかのよう。
息が詰まるような湿気で、耳が詰まってしまったのかもしれない。
まぁ、いっか――早く、デートに行こう。
「それはそうと遅かったですね」
「……何がです? そういえば一つ、質問いいですか?」
「えぇ、構いませんよ」
「――今、何時ですか?」
彼女は、今、の時間が気にな、るらしい。
遅れてしま、ったことに罪悪感、を、持っているの、だろうか。
そ、んなこと気 にしなくて良、いのに。
「今は二時ですよ」
「そうですよね!
「流石にそこまで遅刻してないですよ、
「……」
どう、して、そんなこと言、うの だ、ろ、う。
いや、どうでも……いいか。晴子さん、が来たのならデー、トに行かなくちゃ。
だって、初めての彼女――
だッて、初めtのデーと――
だって――はじ、初めてのま、待ち合わわわせせせせせせせせせせせセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセセせせせせせセセセセセセセセセセセセセセセセセセ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――――
「――オマエ。晴子sんじゃなiなaaaァァああ!!」
私はゲキドした――ざあざあ。
わたしは雨にヌレタ――ざあざあ。ざあざあ。
ワタシは涙をナガシタ――ざあざあ。ざあざあ。ざあざあざあ。
■■■は■■■は■■■は■■■は■■■は■■■は――
――何度もこの雨を繰り返した。
この梅雨の待ち合わせを。
だって彼女は待ち合わせの前に■■で亡――――
「ごめんね。ボクは晴子さんじゃないんだ」
そうだ、この人が悪いんだ。この人が晴子さんを、この人が晴子さんを。この人がががが。晴子さんが晴子さん晴子さん晴子さんハルコさんハルコハルココココkkkrrrこr殺殺殺ころkろころころ頃頃ころkrこr殺殺殺殺殺殺殺ssss!!!!!
「殺sてヤルルルるるるるるrrrrrrr!!!!!!」
ワたし、は。
いつもノ嘘を憑くヤツと、同じように――
■■のように――
イツモノヨウニ首をシメテ――
「領域展開――黄昏之帰炉」
「あぁ、やっと。……晴れましたね、晴子さん」
○報告書 担当教師:五条悟 先生
作成日:2017年6月12日
所属:
氏名:鈴月凜
件名:○×公園内呪霊祓除
報告内容:生得領域内にて呪霊を祓った。
問題点や改善点:事前報告では一級と誤報告。簡易領域持ちの弱い特級だった。
備考:最後までボクを彼女だと思っていたらしい。
「はいこれ。報告書です、五条さん」
「……はいオッケー! しっ~かりと確認しましたよっと。
お疲れ、凜。特級だったなんて大変だったね?」
「いえ別に。領域を領域展開で上書きするだけのイージーゲームでしたし」
梅雨の季節への負の感情から生まれた呪霊。
人によっては梅雨なんて大嫌いだと言う人がいるだろう。
その負の感情が、あの場所で自殺した男性の噂を器として積み重なったのだ。
「にしてもウケる。凜を自分の彼女だと勘違いしたまま逝ったって」
「あはは、不謹慎ですよ」
「凜だって笑ってるじゃん」
――ボクのは同士を送り出す笑顔だからセーフ。
来世で彼女さんと出会えると良いねという祈りなのだ、コレは。
しかし呪霊として人を殺しているから、暫く地獄にいた方が良いと思うけど。
「それはそうと、最近ボクの任務に誤報告多くないですか。調べてくれました?」
「うん、伊地知に調べさせておいたよ」
「五条さんはもっと伊地知さんを労った方が良いと思う」
「まあまあまあまあまあ!」
――勢いで誤魔化した……。
後で伊地知さんに差し入れをしようと思いつつ、今は五条さんの話を促す。
おおよそ上層部の嫌がらせだと思う。けれど、上層部の命令でボクに誤った報告をした補助監督が誰なのかを調べて貰わなくちゃいけない。
……伊地知さんに調べて貰うのが一番早い気がしてきた。
「案の定、上層部と繋がってた補助監督がいたよ。今はもうクビにしたけど」
「はぁ……上層部のクソ共は何がしたいんだ……」
「凜に首輪をするのを諦めて、始末する方向にしたっぽいね。
まぁこの程度の特級案件なんて楽勝だし。ほっといて大丈夫じゃない?」
「めんど! 放浪に戻ろうかな!」
「だめ♡」
どうやら不穏な状況になってきた。
ボクの心にも梅雨のような雨が降り注ぎそうだ。
「心配なら僕が稽古つけてあげようか」
「……いいですね、張り倒してスッキリさせて貰いますよ」
「また吐かせてあげるよ」
「上等! やれるもんなら!」
結果――吐いた。
どもっす!<(_ _)>
N島ジュン太郎です。
読了!感謝!
因みに、晴子さんの死亡理由は自殺です。
そうなると公園ですれ違っていたのも偶然じゃなさそうですね?
ま、知らぬが仏です。
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