「何?マグナス大陸から来た調査隊がレイゴルス遺跡の調査の許可を求めている?」
「左様でござります」
暗黒大陸にあるレイゴルス遺跡を含む領地を収める地方貴族宮殿、そこで領主と従者の2人がやり取りをしていた。
領主はでっぷりとした体型で、黒肌をしており、豪華な玉座に座っていた。
「そんな些細なことはそちらで処理しておけば良いだろう。しかし……わざわざワシに許可を求めるなど酔狂なものもいるのだな。」
この領主にとってレイゴルス遺跡は、領内にあるよくわからない古代の建物程度の意味しかなかった。その認識である理由は、とりわけこの領主が古代遺跡に対して関心が薄いだけでなく、時代的にその価値がわかっていないからであった。
考古学や歴史学の発達していない聖暦1000年代、古代の遺跡などは特定の学者を除き、ただの古い建物でしかなかったのである。
「それがその旅の者たちは領主様直々に許可を頂きたいとのことでして、献上品なども持ち寄っているそうなのです。」
献上品という言葉を聞いた領主は目の色を変えて、その話に食いついた。
「ほう?献上品とな?殊勝な心がけではないか。よしよし、その者たちを連れてまいれ。」
「は!」
そして領主は宮殿にある謁見の間に移動し、物好きな旅人たちと話すことにしたのであった。
領主の前に3人の男女があらわれる。
1人目は水色の髪をした若い少年で、腰には付与魔法をかけられているのだろうと予測できるポーチをつけた、髪と同じ色の水色のマントを羽織っていた。
もう1人は、丸みを帯びた体型をした、メガネの優しそうな印象の黒髪の男性であった。この3人の中で唯一成人であることから、保護者的立場なのだろうか?と領主は考えた。
そして最後の1人は褐色肌の少女で、豪華な宝石飾りを体の一部に身につけた、踊り子のような薄着の服装であった。
そして3人のうちの1人、水色の少年が前に出て話し始める。
「お会いできて光栄です、領主様。
私の名前はネルソン、ネルソン・Xと申します。
我々はマグナス大陸にあるグローリア魔法学園から参りました。」
「うむ、続けたまえ。」
領主は口火を切ったのが、年長そうなメガネの男でなかったのに少々驚きつつも、3人が魔法使いであることを思い出し、『魔法で若作りをしていてこの男も成人なのだろう』と納得した。
「本日は領主様の支配する遺跡、レイゴルス遺跡の調査のための許可を頂きたく参った所存でございます。
我々はマグナス大陸では見ることのできない、この暗黒大陸の秘術を知り見聞を広めることを目的にこの地に参りました。
どうか領主様のご慈悲のもとに、レイゴルスを拝見するご厚意に預かれればと思い嘆願させていただいた次第です。」
少年は頭を下げて、領主に丁寧に頼み込んだ。領主は少年の態度に気をよくして答えた。
「ふむ、わざわざワシに頼みに来るとは結構。しかしレイゴルス遺跡はヌシの理解する通り、暗黒大陸でも有数の秘跡。
簡単に見せてやるわけにはいかぬなぁ。」
領主は遠回しに賄賂を要求した。それに対してネルソンは全く動じずに笑顔で対応した。
「勿論でございます領主様!秘跡たるレイゴルス遺跡、その調査の際に我々はより良い調査とするために全力を尽くす所存でございます。
私どもは領主様に調査協力金として、15万ガナットを献上する予定でして……。」
15万ガナット!その大金を聞いたとき、同行していたウマルとシャヒーラ、そして領主の召使は驚き、ネルソンに注目する。しかし領主は微動だにすることなく呆れた顔をした。
「おいおいネルソン君、金額が足りなくないかね?」
「この15万ガナットは勿論手始めにすぎません、他にも……」
ネルソンは調子良く話を続けた。
その過程で話はネルソン商会との貿易の話になり、この領地でのネルソン商会の活動の話になり……どんどんと話は広がり、さまざまな商談が交わされた。その様子をシャヒーラとウマル、召使は黙って眺めていた。
ネルソンと領主は長きにわたって交渉を行った、そして数刻経ったあたりで話がまとまった。
「ではこの書類にサインして、契約成立ということで……。」
ネルソンは笑顔で作った契約書を差し出した。
「賢明な魔法使いといい商談ができて、ワシとしても良かったよ。
この交渉は両者にとって素晴らしいものだ。」
そして領主は笑顔でサインを行い、ネルソンと硬く握手をした……。
「よっしゃあ!交渉成功!これで遺跡の調査ができる!」
ネルソンは宮殿を出るなり小さくジャンプしてガッツポーズをした
「あんなに不利な契約なのにめっちゃハイテンション!?」
「不利な契約?そんなことないよシャヒーラ様、今回の契約は実りの多いものだったよ。
まず最初に遺跡の調査をとっかかりにして、うちのネルソン商会との貿易協定を結べたし。あれのおかげで暗黒大陸にも販路が開けたから十分黒字だよ。
商館を置く権利もいただけたしね。これで暗黒大陸での商売がやりやすくなる!」
ネルソンは嬉しそうに語った。
「あの領主にいいようにされてるように見えて、意外と頑張ってたんだねネルソン君……。商売って難しいねぇ。」
ウマルがしみじみと言った。
「うーん、あの領主の人は結構手強い部類の人だったかね。あの契約であの人も儲かったし、俺も儲かった。どっちがより多く儲かったかは今後次第ってところだと思うよ。」
「それじゃあひとまずはあの商談は引き分けってことかい?」
「いいや、win-winが正しいかな。領主様は儲けられて、俺たちは何より好き勝手に遺跡を調査する権利を手に入れたんだからね!
シャヒーラ様!遺跡にあるお宝とか資料とか全部持ち帰り自由ですよ!」
「自由!?ほんと!?やった!」
ネルソンに好きに遺跡にものを持ち帰って良いと言われて、シャヒーラは喜び小さく飛び跳ねた。
「じ、自由に持っていっていいって……ネルソン君とんでもない契約してないか?」
歴史的遺物の価値を理解しているウマルは困惑顔でネルソンに尋ねた。
「領主様にとっては専門外だからね。でもまあ15万ガナットも払っておけば後からとやかく言われてもぼったくり扱いはされないと思うんで大丈夫ですよ!」
「そうだよウマル!15万ガナットだよ!遠慮するなんてない!
調査しよう調査!調査調査調査調査調査調査調査!」
シャヒーラは遺跡を好きに調査でき、手に入れた物を好きに持ち帰れると聞き大はしゃぎである。
そしてウマルもまた、1人の研究者としての探究心が、良識人としての自制心に勝り、最終的に契約通りに好きに遺物を持ち帰ることに決めたのであった。こうして3人はレイゴルス遺跡の調査に向かうのであった……。
レイゴルス遺跡、それは砂漠の中に堂々としながら佇む巨大な鉄製の建築物であった。しかしその建物の表面は電子的な雰囲気の青色の文字が刻まれていた、いや正確に言えば文字が滑るように流れていた。まるで電光掲示板の文字が流れるように……。
そしてその周りをプロペラがついたドローンが飛行し、歯車仕掛けのロボットがプシューん、プシューんと音を立てて徘徊しており、そのロボット達によって護られていた。
「これが古代遺跡レイゴルス……なんだかすごいSFチックというかスチームパンク感があるというか……。」
俺はレイゴルス遺跡に来て、思わずその技術力や世界観の違いに驚愕して言葉を漏らした。
「えすえふ?すちーむぱんく?」
シャヒーラ様が不思議そうに俺を見る。
「ごめんなんでもない。」
この聖歴1000年台の時代では、異世界とはいえSFやスチームパンクといったジャンルはまだなかったようだ。
俺は改めて遺跡を観察する。建物には窓はなく、屋根には複数本の煙突があり、屋根はギザギザの直角三角形が幾つも合わさったような形で……。
これはもしかして工場か?
俺は転生した原作、『魔道学園グローリア』について必死に思い出す……。
だめだ!やっぱりこんなの記憶にない!まだ原作で出てきてないのか、この古代遺跡について何もわからない!
いや、原作で悪役の『ゼルトー』が謎の超技術を使ってたから、もしかしたらこの古代遺跡から技術を仕入れてた可能性もあるけど……やっぱりそれでもわからん!
「ネルソン、難しい顔してるけど大丈夫?」
「ネルソン君、体調が悪いなら一旦戻るかい?」
シャヒーラ様とウマルさんが俺を気遣い声をかける。
「いえ大丈夫です。しかしこの遺跡は大量のゴーレムに守られてるね……。
どうやって調査する?」
「大丈夫大丈夫。ネルソン、あそこにいるゴーレムを凍らせてもらっていい?」
シャヒーラ様は自信満々に遺跡から少し離れた所にいるゴーレムを指差した。
「え?いいの?」
「大丈夫!私を信じて!」
俺は頷いた後、凍結光線が出る杖を取り出して、一体のゴーレムを凍らせた。
するとシャヒーラ様は手招きするような仕草をしたかと思うと、凍ったゴーレムを引き寄せた。
「ありがとうネルソン。はい、ウマル。ゴーレム捕まえたから、一緒に解析しよ。」
「そうだね、解析してみようか。ネルソン君ありがとね。」
そういうとウマルさんは呪文をいくつか唱えた後、テントを召喚した。
「あれ!?今ウマルさんがやったの詠唱魔法であって召喚魔法じゃないよね!?どうやったの!?」
「ああ、呪文魔法で風を起こして召喚陣を描いて、間接的召喚魔法を使ったんだ。」
「ウ……ウマルさん凄い……すごくない?」
「私にもそれくらいできるよ。多分ヴァイスもできる。輝人は……私が教えれば出来るようになるはず!」
「マジで!?みんな凄い!」
そしてシャヒーラ様とウマルさんはゴーレムをテントの中で調べ始めた。
俺はその様子を見せてもらったが、俺にはちんぷんかんぷんでわからなかった。
「しかし遺跡のものを自由にしていいと許可を貰ったのは幸いだったね。おかげでこのゴーレムから色々なことがわかったよ。」
ウマルさんはいい笑顔で言った。
「おかげでゴーレムの目を誤魔化す魔法も思いついた。
これでもういちいちゴーレムを凍らせたり、壊したりしないで遺跡を探索出来る。ブイ」
そういうとシャヒーラ様はVサインをした。
「おお凄い!それじゃあ早速中も調査しましょうか!」
そして俺たちはレイゴルス遺跡に入り、探索した。
中はベルトコンベアーやプレス機などが稼働しており、よくわからないものを作っていた。作られているのは光る輪っかのついた緑の球や、よくわからない棒状の青い何か。これ体に有害じゃないよね?
「いったい何を作っているんだろう?」
「おそらく待機中の魔力を固体化させてる……人工魔石?。しかも全部純度が高い、サイズも全部同じになるように作られてる。相当技術力が高い。
幾つか……いや出来る限りサンプルとして持って帰りたい!」
「わかりましたシャヒーラ様!俺のポーチにバンバン詰め込んじゃいますね!」
俺はそう言うと、魔石や魔石棒をポーチに突っ込んだ。
「とりあえずこの建物は魔石を作るために作られたようだね。
しかしなぜこの建物だけが残っていたのだろうか……。まだまだ調査のしがいがありそうだ!」
ウマルさんはウキウキでこの遺跡、おそらく人工魔石工場を探索した。そして驚くことに……俺たちは書類を見つけることに成功した!
レイゴルス遺跡ってそんなに最近の遺跡なの!?それともこの紙がやばいのか!?
俺が触って崩れないかオロオロしてる間に、シャヒーラ様は紙を手に取り色々と調査する。
「シャヒーラ様!?それ触っていいんですか!?崩れたりしませんか!?」
「あ!思わず触っちゃった……。」
「うーん、耐久魔法、それも何千年も持つレベルの物がかけられてるから大丈夫そうだね。しかし一体ここまで持つほどの魔法をかけるとは、一体何が書かれてるんだ?3人だけじゃ人手が足りなさすぎる。」
「そっかぁ……。それじゃあグローリアに帰った時にみんなで研究できるように色々と機械を持ち帰ったり、写真を撮ったりして帰ろうか。」
「そうだね、写真魔法で色々と撮ったりしてから帰ろうか。」
「待って待って、どうせならゴーレムも持ち帰りたい。ネルソン、私がゴーレムに縮小魔法かけるから、ポーチで持って帰ってくれる?」
「アイアイさー!」
俺たちはレイゴルス遺跡から書類やゴーレム、人工魔石に一部の機械を持って帰ったのだった。
こうして俺たちの暗黒大陸での教員探しの旅は、本来の目的とは別の成果を多大に残して終わったのだった。
色々とグローリアに帰って調査したけど、結局なぜあの工場やゴーレムだけが現在まで残っているのか?あの工場はいつからあるのか?何のために誰が作ったのか?それらは分からずじまいだった。
それでも一つだけわかったことがある。
それは………
あの書類の内容がエロ本だったことだ。
人間はいつの時代だろうとエロが大好きのようだ。あの書類は博物館に、そして内容はいつでも読めるように学園の図書館にコピーして置いておくことになった。
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