転生したけど原作の千年前   作:フィークス2号

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12話 マグナス大陸闘技大会の準備

 

 

 

 メディア王国にある都市、グローリア。そのグローリアの中央に一際目立つ建物があった。

 その建物は他の建物とは違い和風の建築であり、庭には桜の木が植えられていた。この家は赤日輝人様のグローリアにおける住処であった。

 

 そんな家にある1人の男…‥てか俺は訪れていた。

 俺が戸口を叩き声をかけると、玄関がガラッと開き、黒髪の女性が出迎えてくれた。

 

 「あらあら、よく来てくださいましたネルソンさん。夫も楽しみに待っていましたよ。ささ、上がってください。」

 

 その女性は太陽のような明るい微笑みで俺に笑いかけた。

 髪は長く腰まで伸びており、服は東洋の和風な着物を着ている。顔には泣きぼくろがあり、どこか幸薄そうな印象を与える、大和撫子の美女。

 彼女は赤日輝人様のお嫁さんである、『赤日雪菜(ゆきな)』さんだ。

 

 「雪菜さんお久しぶりです。これ粗品ですが受け取ってください。」

 

 「あらあら、吉中産の茶葉じゃないですか。わざわざありがとうございます。」

 

 俺は東洋から取り寄せた新鮮な茶葉を手渡して、雪菜さんの勧めに従って家に上がらせていただく。

 

 

 

 「二千五百!二千五百一!二千五百ニ!」

 

 赤日邸の屋敷にある中庭、そこでは上半身裸で輝人様が真剣で素振りを行なっていった。

 

 「あなた、ご友人様がいらしたわよ。」

 

 「む?もうそんな時間だったとは……。俺としたことが修行に集中しすぎた。すまんなネルソン。少しだけ待ってくれ。」

 

 そう言うと輝人様は呪文唱え小さな雨雲を出して水を浴びたあと、指をパチンと鳴らして風を起こして自らを乾かし、普段着に着替えた。

 

 「待たせたなネルソン、とりあえず座ってくれ。」

 

 そう言うと輝人様は家の中に上がり、座布団を3人分敷いた。

 

 

 

 

 「それでだ、ネルソン。今日お前に来てもらったのは他でもない、生徒集めについてだ。」

 

 輝人様は神妙な顔で俺に言う。

 

 「生徒集めですか?一応東洋でヴァイス様達と勧誘した生徒達、暗黒大陸で勧誘したミスペルの生徒達に何か問題でもございましたか?」

 

 「いや彼らに問題があったわけではない。彼らは良き生徒、良き魔法使いになるだろう……。問題は上流階級に位置する名門魔法族の家の生徒だ。」

 

 「名門魔法族の子……ですか?確かあなたの建てようとしているグローリア学園には、まだ居なかったと思うのだけれど」

 

 雪菜さんは首を傾げながら言う。

 

 「そうなのだ。いないのだ。いないことが問題なのだ!」

 

 カッと目を見開いて輝人様は言う。

 

 「俺は全ての魔法族が集まり、共に学び、仲間意識を持ち、全ての魔法族を団結させるために学園を建てようとしている!

 だがしかし!今生徒として集まってるものは非魔法族(コモンズ)生まれの者やミスペルが中心で、名門魔法族の生徒がいないのだ!

 これは由々しき自体だ!新しい学園に来る魔法族がミスペルとコモンズだけでは、学園の生徒と名門魔法族の間に分断ができてしまう!

 そこでだネルソン……名門魔法族の子供を生徒にするためにある策を考えたのだが……。」

 

 「策ですか?それならば次の会議で皆様と話せば良いのでは?」

 

 「いや……そうなのだがこの策はかなり金がかかるからな。

 会議で提案する前に予算的に可能かどうか、事前に確認してから話し合った方がいいと思ってな。」

 

 「す……すごい常識的だ。ヴァイスおじいちゃんやシャヒーラ様だったらぶっつけ本番で会議で提案してくるのに。」

 

 「しかしあなた、わざわざ会議でなくこの場でお話しするという事は、ネルソンさんにいくらお求めするつもりですか?」

 

 「雪菜よ……それについてもまだ決まっていない。ただ膨大な金がかかることだけがわかっている策なのだ。」

 

 暗い顔で輝人様は言う。

 

 「輝人様……その策というのは?」

 

 「うむ、俺の策は闘技大会を開くことだ。それも全大陸中の名門魔法族が集まるような、大規模な大会をな……。」

 

 俺はその大会というワードに刺激を受けた。

 

 

 

 

 

 『マグナス大陸闘技大会』

 

 これは俺が転生した作品、『魔道学園グローリア』に出てきた大会だ。この大会で主人公の照麿は優勝し大活躍するシーンは忘れることもできない。

 

 そんなファンとして超重要イベント……その記念すべき第一回の大会を輝人様は開こうとしているのだ。

 俺は思わず立ち上がり、輝人様の手を掴んだ。

 

 「輝人様!素晴らしいお考えです!

 ぜひ!ぜひともその大会を成功させましょう!」

 

 「早い早い早い!まだほとんど説明してないぞネルソン!落ち着け!」

 

 「ネルソン君一旦座りましょうか。はい、あったかいお茶ですよ〜。」

 

 興奮した俺は輝人様と雪菜さんに嗜められてしまう。これは失敗だ。

 

 

 

 

 

 「おほん、話を戻そう。ネルソン、俺はマグナス大陸全土、いや暗黒大陸からも人を募って魔法闘技大会を開くべきだと思う。

 理由は名門魔法族の生徒を取り込むためだ。」

 

 「魔法大会と名門魔法族の生徒……どう繋がるのかいまいち分かりにくいのですが。」

 

 雪菜さんが首を傾げて尋ねる。

 

 「魔法大会を開きまずは名門魔法族のものを集める。そして俺達グローリアの者が大会に参加して華々しい成績を残す。

 すると名門魔法族の者たちは

 『なんとあの者たちはすごいのか!うちの息子や娘もあのくらい強くなってほしい!そうだ彼らの作る学園にうちの子供を入れて、強い子にしよう!』

 と考えるはずだ。名門魔法族は武闘派、知識などに惹かれなくとも強者に対しては憧れを抱くものだ。

 彼らを強さで魅了すれば、あとは彼らの子供を受け入れるだけ……。グローリア魔法学園はミスペル、コモンズ出身の魔法使い、名門魔法族全ての子供が揃い、魔法界は皆グローリア魔法学園の生徒となり、共通の基盤を手に入れ一つとなる!」

 

 「おおー!」

 

 「なるほど……素晴らしい考えですねあなた。

 でも肝心の名門魔法族が大会に参加してくれるでしょうか?」

 

 雪菜さんの質問に対して輝人様は深刻そうに言う。

 

 「そうだ、そこが問題なのだ……。普通の魔法使いは賞金をある程度出せば参加してくれるだろう。しかし肝心の名門魔法族が参加、最低でも観戦に来てくれるかどうか……。

 賞金を釣り上げるにしてもいくらにするかという問題もある。そもそも大会を開くにも莫大な金が掛かるだろうからな。会議で話し合う前にそこを含めて、一旦ネルソンに相談しておこうと思ったのだ。

 どうだ?ネルソン。この策は実現可能だと思うか?」

 

 輝人様は俺に尋ねた。俺は頭の中で算盤を弾いて、思案する。

 

 「うーん、この大会の目的はお金を稼ぐことじゃなくて名門魔法族の人が大会に参加、もしくは観戦してもらうことなんだよね?

 それだったら問題なく行けるはずだよ。

 黒字にしつつ名門魔法族の人に参加して貰うなら少しハードルが高いけど、赤字になってもよくて、採算度外視でお金を使えるからなんとかなると思う。勿論それでも黒字化を狙うけどね!」

 

 「おお、そうか……それはよかった!ならば次の会議で正式に提案するとしよう!」

 

 「輝人のために色々と考えてくれてありがとうございますネルソンさん。これからもこの人を助けてあげてくださいね。」

 

 俺の説明を聞き安堵して喜ぶ輝人様、そして俺に対してお礼を言う雪菜さん。

 

 3人での話が終わったあと、俺は輝人様の家で昼食を食べさせてもらい、その後一緒にマグナス大陸武闘大会のための計画を練るのであった……。

 

 

 

 

 

 

 そして数日後のグローリア城で開かれた、グローリア魔法学園創設のための会議。そこで輝人様は俺と一緒に計画した『第一回マグナス大陸闘技大会』について話した。

 

 「第一回マグナス大陸闘技大会のう……。なかなか良い考えじゃな!」

 

 「大会……お祭り……。いっぱい人が集まる。お客さんと知識の教え合いっこ……。賛成!大会に賛成!」

 

 会議で大きな影響力を持つ創設者である俺と輝人様以外の2人、ヴァイスおじいちゃんとシャヒーラ様は快く受け入れてくれた。

 

 「うーむ、なかなかいい提案だと俺も思う。だが……どうやって名門魔法族の者に参加して貰うつもりなんだ?

 祖父や輝人さん、シャヒーラさんの実力はマグナス大陸でも轟いているが、それだけで参加してくれるだろうか?」

 

 ヴァイスおじいちゃんの孫であるエデュラス・ヴァイスさんは不安そうだ。だが俺には秘策がある。

 

 「そこら辺は大丈夫だと思う。大会に賞金をつけるだけじゃ無くて、名門魔法族の人たちには参加してくれることを条件にお金を出すつもりだから、それで釣れるはずだよ。」

 

 「ちょ、ちょっと!ネルソンあなた参加して貰うためだけにお金を使うつもりなの!?

 大会の賞金にもお金を出すのにそんなにお金を使って……そんなにお金があるなら研究費増やしてよ!」

 

 「リンファ……。うん、ネルソンがお金を使いすぎだというのには同意するが、この流れで研究費をせびるのは卑しすぎる。」

 

 リンファさんが思わず立ち上がり、それを隣に座っていた兄のハオシェンさんが引っ張って座らせた。

 

 「リンファさん落ち着いて、これは必要な出費なんだよ。

 闇雲にお金をばら撒こうってわけじゃないんだ。一部の有名な名門魔法族が参加するとなれば、大会に箔がつく。大会に箔がつけば自然と他の名門魔法族も参加して、大会自体も盛り上がる。

 そして大会が盛り上がれば……当然大会の稼ぎだって増えるんだ。だからうまくいけばばら撒いたお金以上のお金を稼げるはずだよ。」

 

 「なるほど……それなら納得だわ!儲けが出たならどうか予算増額プリーズ!」

 

 「妹よ……見ないうちにどうしてそこまでがめつくなったのだ。」

 

 「医療のためにはね、お金が必要なの……。お金がないと命救えないの……。」

 

 「……すまなかった。」

 

 リンファさんの切実な言葉に、会議室が暗くなる。

 

 「そ、そうだリンファさん!リンファさんって医者だよね?

 今回の大会で負傷者とか出ると思うから、その治療のために協力して欲しいんだけどいいかな?」

 

 「ええ、戦いの傷は専門ではないけど人並み以上には治療できるわ。任せておきなさい!それと私だけじゃ手が足りるかわからないから、東洋にいる医療仲間にも声をかけてみるわ。

 ……その代わり、大会で儲けが出たら研究費の増額を……。」

 

 「もちろんだよリンファさん、すごい助かる!ありがとう!」

 

 「感謝とは言葉では無く金額よ、ネルソン。」

 

 リンファさんはファッサァと銀髪の髪をなびかせながら言った。

 

 「わかったよリンファさん、……5%増額でどう?」

 

 「もう一声!大会に備えて鎮痛魔法とか麻酔法とか開発したいの!」

 

 「じゃあそれらの魔法の開発に成功したら、半年の間は20%増額で!」

 

 「のった!」

 

 俺はリンファさんと固く握手をした。

 

 「……リンファ、見ないうちにすっかり逞しくなりましたね。」

 

 「ふふん!命のやり取りをしてるとタフになるものなのよお兄ちゃん。」

 

 

 

 それからも会議は続き、どこの名門魔法族に声をかけるか、どの程度の規模にするのか、日程はいつにするのか、その他様々な内容について話し合った。

 そんな感じで話をしていると、輝人様がとある提案をしてきた。

 

 「ところでなんだがネルソン、お前もこの大会に参加してみる気はないか?」

 

 「え!?俺が!?いやー……実力的に厳しいでしょ。」

 

 俺が困惑していると、古株であるエルメスさんが興奮しながら言った。

 

 「そんなことないですよネルソン会長!私聞きましたよ、輝人さんとアントニオ・ヴァイスさんの2人を相手して、互角に戦ってみせたって!

 大陸中に名が轟く2人を相手にして見せたんですもん、ネルソン会長なら優勝だってできますよ!」

 

 「いや無理無理無理無理!あの時は輝人様もヴァイスおじいちゃんも、俺を生捕りにしてシャヒーラ様の居場所を聞き出すために手加減してたし、それに屋敷の防犯設備があったから戦えたんだよ。その上生き残ること最優先でマジックアイテム類を出し惜しみなく使ったからこそのあの戦果であって、真面目にやり合ったら瞬殺されるよ!」

 

 俺は必死になって言う。あの時は特殊な状況だから、あそこまでやり合えたのだ。あの2人並みに強いなどと誤解されるのは正直とても困る……。

 俺が猫並みの強さなら、他の創設者は戦車並みの強さだ。比較になんてなりやしない。

 俺がそんなことを思っていると、輝人様が顎に手を当てて言う。

 

 「まぁ確かにあの時は状況が特殊だったからなぁ……。それでもネルソンが大会に参加するのは大きく意義があることだと思うぞ?

 ネルソン、お前はミスペルの中では最高峰に強いだろう。

 マジックアイテムを使う戦い方、あれは画期的な物だった。」

 

 輝人様ごめんなさい、あれ原作知識の応用なんです。俺が考えたんじゃないんです。

 一千年後のミスペルのテロリストとか、ヴァイスおじいちゃんの子孫のゼルトー・ヴァイスの戦法をまるパクリしただけなんです。

 

 「俺が保証する。ネルソン・X、お前は強い。お前が俺たちの元で修行すれば相当な実力者になれるはずだ。

 それこそそこらの普通の魔法使いに負けないほどにな。この大会にもいい成績を残せるはずだ。

 『ミスペルでも修行すれば強くなれる』。

 そういう意識をこの大会で全魔法族に刻み込むのだ!そうすればお前の、いや俺たちの目標であるミスペルの地位向上や救済に大きく貢献するだろう!」

 

 俺は輝人様の言葉に感銘を受けた。輝人様は俺の夢であるミスペルの地位向上、それを真剣に考えた上で俺に大会への参加を促していたのだ。

 ミスペルの地位向上というグローリアの会議で決まった目標。この目標はおそらく原作には全くないだろうし、ほぼ俺への配慮で決まった目標だが、それでも輝人様は本気で実現することを考えてくれていたのだ。

 俺は改めて輝人様を尊敬した。

 

 「輝人様……そこまで考えて俺の参加を促してくれていたのですね。

 輝人様が指導してくださるのであれば心強いです!必ずや大会でもいい成績を残して見せます!」

 

 「うむ!ビシビシ鍛えてやるぞ!大船に乗った気分でいてくれネルソン!」

 

 「ほっほっほ。そうじゃなぁ、その修行の話じゃがワシも指導して良いか?

 戦闘に使うマジックアイテムの作成などで、色々教えられることがあると思うのでな。」

 

 「私もネルソンを手伝う!戦闘魔法に関する知識や理論とかでネルソンをサポートできると思う!」

 

 俺に対してヴァイスおじいちゃんとシャヒーラ様が有り難すぎる申し出をしてくれる。

 

 「ヴァイスおじいちゃんにシャヒーラ様まで……ありがとう!

 絶対に強くなって活躍してみせるよ!」

 

 こうして、俺の修行と大会の準備が始まったのだった。

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