「ついに……ついに到着したぞー!」
北洋の地にて魔法族の名家たる実家を、呪文魔法を使えないミスペルだと分かって追放されてから早くも2年。俺は原作の舞台となる土地、グローリアに13歳の時に到着した。
この2年間の旅路で、俺はマジックアイテムの作成と売買以外にも、その土地の特産品を仕入れて交易するという交易商人のようなことも始めて、一財産を築くことに成功した。
そのおかげで潤沢な資金を手に入れたのだが……。
「『グローリア魔法学園』創設まで、どう過ごそうか……」
ウッキウキでグローリアに到着したのだが、肝心の『グローリア魔法学園』がまだ創設されていなかった。創設に関わるチャンスが生まれたとはいえ、まだ学園をお目にかかれないのは少し残念だ。
「うーん、具体的にいつ頃魔法学園が出来るのかわからないしなぁ……。この街に根を張って、商人として学園が創設されるまで過ごすか!」
そして俺はこの街で結局、居を構えて商売を始めることにした。
幸い商売を始めるための資本金は十分にある。俺は土地を買い、自作のマジックアイテムの売買を中心にした、店を開くことにした。
そしてこの店なんだが……これが面白いことに儲かるのなんの。
俺はミスペルで呪文魔法こそ使えないが、腐っても稀少な魔法使い。流通量の圧倒的に少ないマジックアイテムを作っては、破格の値段で売りまくるので街の住人たちから、いや街の外からの人からも大人気で商品が売れまくる。
しかも俺は自作のマジックアイテムの箒で、空を飛ぶことができる。その上自分のバックに拡張魔法を付与したり、重量軽減魔法を付与したりで大量の商品を持ち運び輸送することができる。
これを利用して街ごとの商品の相場の違いを利用して、その利鞘で大儲けすることができた。
そうこうしているうちに貯まるわ貯まるわ、お金がバンバン貯まっていく。最近ではマジックアイテムの作成よりも、交易での儲けの方が圧倒的に多い。
しかし儲けてるといっても、俺の体は一つしかない。増えていく売り上げにも限界が見えてきた、そこで俺はごく当たり前の解決方法を取ることにした。
「そうだ!人手を増やそう!」
俺は魔法族の従業員を増やすことで、事業を拡大することに決めた。なぜ魔法族に限定するかというと、魔法を付与したマジックアイテム事業の拡大も視野に入れてるからだ。それにマジックアイテムを使う際、非魔法族よりも魔法族の方が何かと便利なことが多いのだ。
しかしこの世界は魔法使いが貴重だ、滅茶苦茶貴重だ。魔法使いが貴重だからこそ、子供の俺が作ったそこまで質の高くないはずのマジックアイテムが売れまくったわけだし。
そこで俺は雇う従業員には、俺と同じミスペルを採用することに決めた。
魔法族の子として生まれながらも、呪文魔法を使えないミスペルは、魔法族の家で冷飯ぐらいをさせられてることが多い。なんなら俺みたいに家を追い出されてるものも少なくないそうだ。
そんな状況にいるミスペルであれば、自分を歓迎してくれる職場に対して、喜んで就職してくれるかもしれない。そう思って俺は商人として培った情報収集能力を元に、俺と同じようなミスペルを探して採用することに決めた。
私、エルメス・フローリアンはこの25年間、無意な人生を過ごしてきた。魔法族の家に生まれながらミスペルという出来損ないであり、家族からは冷ややかな視線を向けられつつ、居ないもののように扱われる日々。
そんな地獄のような日々を過ごしていた時、ある商人から手紙が届いたのだ。
『ミスペルである君を、うちの商会で雇いたい』
そのような申し出を受けた時、最初私は何かの間違いではないかと思った。
魔法族は基本的に、呪文魔法を使うことを求められる。なぜなら魔法族に求められる一番重要な仕事は戦場で戦うことであり、その為には呪文魔法を使うことが必須技能とされているからだ。
名門の魔法族は戦場で戦い、常に危険を晒す。その代わりに王や国などから手厚い補償を受けて、貴族やそれに類する地位を保障されるのだ。
ミスペルは呪文魔法以外の魔法、付与魔法や錬金術、召喚魔法などを使うことができる。しかしそれらは戦場で直接戦うことには、そこまで貢献しない。そのため呪文魔法を使えないミスペルは、戦場では戦力外となる。
魔法使いであるにも関わらず戦力外であること、それは義務を果たすことのできない穀潰しを意味する。
付与魔術や錬金術などで多少家に貢献することは出来るが、そんなことはミスペルでない魔法使いにもできる。そのためやはり劣った出来損ないとして家で扱われるのが普通だ。
いや、出来損ないとして白眼視されるならまだいい方だ。名門魔法族の家からミスペルを出すということは、その血統に問題があると思われたり、母親が非魔法族と浮気したと疑われることもあり得る。その為元から生まれていなかったことにする為に追放されたり、病死や事故死ということにして殺される事もあるのだ……。
「本当に……私を雇ってくれるんですか?私は……魔法族だけどミスペルですよ。miss spelling……。つまり呪文魔法を使えない魔法族です。それでも私を必要としてくれるんですか?」
そして私は家を訪れて勧誘に来た目の前の少年、ネルソン・Xを名乗る商人に尋ねた。
ネルソン・X……彼はミスペルである私を勧誘してきた物好きな商人である。彼は13、4才ほどの若さのように見え、身長もそれに準ずる小ささだ。髪は澄み切った水色で目の色も同様。肌は北洋生まれの人間に見られる薄い白で、マントも青……。(全体的に青色の少年だな)と思った。
「ミスペルであることを気にしているのかい?そんなこと関係ない、それに俺も……実は貴方とおなじミスペルなんだ。」
目の前の少年、ネルソンは照れくさそうに言った。
「ミスペル……!?貴方も、私と同じミスペルなのですか?」
私は正直驚いた。今急速に力をつけてる魔法使いの商人がいると聞いていた、きっとその魔法使いはミスペルである出来損ないの自分とは違う、正真正銘の魔法使いなのだろうと思っていた。
しかし、実際には違った。自分と同じミスペルだったのだ!
「ああ、俺もミスペルだ。ミスペル同士一緒に商売を始めないか?
俺の店の評判は聞いているだろう?いろんなミスペルに声をかけててな、グローリアで一番の店にするつもりだ!その為にも貴方の力がいる!どうか、うちで働いてくれないか?」
そう言うと水色髪の少年、ネルソンは私なんかに対して頭を下げたのだった……。
しゃあ!採用できた!俺ことネルソン・Xは新しい従業員、エルメス・フローリアンさんを雇うことに成功した。
エルメスさんは大陸中央部の魔法族の名門フローリアン家の出身だ。髪は長いオレンジで、俺とは対照的に高い身長をした、女性のミスペルだ。
いや俺の身長は低くない。14才にしては少し低いけど、これからもまだ伸びるだろうし……。しかし童顔なこともあって、舐められることが多いんだよなぁ。おっと話がそれた。
俺の店、ネルソン商会は魔法道具(マジックアイテム)の作成や使用で富を得ている。
今回雇ったエルメスさんには、まずは魔法道具を使いこなしてもらう事にする。
魔法道具は魔力を使い切って魔力切れになっても、大気に含まれる魔力を吸収して再び使えるようになる。しかし魔法使いが魔力を注ぎ込めば、すぐに魔力が充填されて使えるようになるのだ。
なので俺はエルメスに、俺が作った魔法道具……空飛ぶ箒などを扱わせて、練習してもらうことにした。
エルメスさんは最初、箒を使って空を飛ぶことに苦戦していたが、訓練を始めたその日のうちには飛べるようになり、1週間で完全に箒を使いこなしていた。
エルメスさん鬼すげぇ!?俺の場合一ヶ月かかったのに!
俺はエルメスさんの才能に脱帽しつつも、次々とマジックアイテムの使い方を教えて、我が商会の戦力として育成するのであった……。