「シャヒーラ!」
「シャヒーラ!無事じゃったか!」
シャヒーラの姿を目にした二人は喜びながら声をかける。
二人の目に映るシャヒーラは健康そのもので、何か乱暴されたようには見えなかった。
「私は無事だけど……みんなは大変そう。とりあえず治すね?」
そう言うとシャヒーラは呪文を唱えた。
「ヒール!」
そう言うと3人の傷、特にネルソンの傷が癒えた。
「シャヒーラ!1週間ぶりだな!会えて嬉しいぞ」
「そうじゃそうじゃ!もうワシらがきたからには安心じゃ!すぐここを抜け出すぞ!」
「抜け出す?な、なんで?」
シャヒーラは困惑しつつ返す。
「なんでって……お主、交渉に来てコイツに捕まっとったんじゃないのか?」
「交渉……あ。」
そう言うとシャヒーラの顔が真っ青になった。
「すいません!ヴァイス様、輝人様、シャヒーラ様!交渉ってなんですか!」
そしてそれを聞いたネルソンは3人に尋ねる。
そしてしばし沈黙した後、シャヒーラは二人に頭を下げていった。
「ご、ごめん。交渉のこと忘れてた。」
「そりゃ捕まっとったんじゃからそれどころじゃないのは仕方ないわい!こいつをぶちのめしてさっさと逃げるぞ!」
「ごめん、捕まるって誰が……?もしかして……私?」
「他に誰がいると言うのじゃ」
それを聞いたシャヒーラは顔がますます青くなる。
「もしかして……二人は私がネルソンに捕まったと思って、ネルソンと戦ってたの?」
「………………シャヒーラ、正直に話そうか。」
いまいち状況を飲み込めていないヴァイスと違い、ある程度状況を把握した輝人が、震え声で言う。
「と、とりあえず停戦成立で大丈夫ですか?」
ネルソンは尋ねる。
「停戦!停戦を許可する!それとタイムを!作戦タイムをくれ!」
赤日輝人はネルソンに向けてタイムを要求した。
シャヒーラは語った。彼女は最初こそ交渉するつもりはあった。しかしそれ以上にネルソンの持つ書籍に関心があり、そのことが頭の9割を占めていたそうだ。
そしてネルソンのうちを訪れた時、彼に
「蔵書を読みに来たのか?」
的なことを尋ねられて、本が読める嬉しさのあまりに交渉の件がすっぽり抜けてしまったのだ。
そして余りにも価値のある蔵書の山、彼女はそれらの読書に夢中となり、1週間ずっと読書話に耽っていたという。
「と言うことはあれか?シャヒーラ、お前さんは交渉のこともすっぱり忘れて、ネルソンの家の蔵書に夢中になっていたと?1週間も?」
震え声でコソコソと、ネルソンから距離を取り、ヴァイス、輝人、シャヒーラの3人は作戦タイムに興じていた。
「ごめん……ごめんなさい。」
「なんと言うことだ……俺たちはお前がネルソンに捕まったと思って、斬り掛かってしまったぞ!?」
「な、なんでそんなことに!」
「お前さんが帰ってこないからじゃ!」
「ごめん!」
シャヒーラはチラリとネルソンに目を向ける。
ネルソン……彼の所で1週間過ごしたが、彼はいい人だ。様々な貴重な蔵書を無償で見せてくれただけでなく屋敷に泊まらせてくれて、美味しいご飯もくれた。
仕事の合間合間に来ては、調子を尋ねてくれたりもしていた。本に夢中でほとんどおざなりな対応ばかりしていたが、それでも彼は常に優しく快く接してくれたのだ。
そんな彼を、私のミスで仲間たちに襲撃させてしまった。とても暗い気分になる。
そしてアントニオ・ヴァイスと赤日輝人もまた、焦っていた。
彼らは明らかに無礼な態度をネルソンにとっていた。しかも相手はそんな自分達に礼儀正しく接してくれ続け、何度も誤解を解こうとしていた。
にも関わらず、二人は彼を攻撃し続けていた。そんな無礼な態度を取る相手に、魔法学園創設の為の融資をしようとするものなどいるだろうか?いや居ない。
それどころか、魔法学園を建てる予定の土地の最大の金持ちと対立してしまったのだ。あまりにも絶望的な状況に、二人は目の前が暗くなる。
「と、とりあえずごめんなさいしなきゃ……。」
シャヒーラの提案に、二人は我に帰る。
「そ、そうじゃの。兎にも角にもまずそれからじゃ。」
「どうしよう俺……ネルソンにめちゃくちゃ無礼な態度とってしまった。」
「そ、それも含めて謝ろう」
シャヒーラはとりあえず罪悪感から、早く謝りたい気持ちでいっぱいだった。
「作戦タイムは終わりましたか?」
ネルソンは3人に尋ねる。
そして3人は声を揃えて頭を下げつついった。
「「「この度は申し訳ありませんでした」」」
「本読ませてもらったのにおざなりな対応ばっかしてて、その上で私のミスで仲間に襲撃させちゃってすいませんでした。」
シャヒーラが言う。
「いえいえ、本に夢中だったのですし、おざなりな対応は別に気にしてませんよ。」
「ワシも本当にすまなかった。話も聞かずに攻撃してしもうて……。しかもその上、横柄な態度をとってしまった。これはワシの恥じゃ。」
ヴァイスが言う。
「いえいえ、仲間を襲われたと勘違いしたのであれば、あんな態度になってしまっても仕方ないですよ。誤解が解けたのであればこちらとしても嬉しいです。」
「俺も斬り掛かってすまん。そのせいで家具とか部屋もボロボロにしてしまって……。
頼む俺を許してくれ。そしてついでにこれから学園を建てるつもりだから金を貸してくれ!頼む!」
輝人が言う。
そして謝るついでにとんでもないことを頼む輝人を、ヴァイスとシャヒーラが目を見開いてを見た。
(輝人……タイミング考えて……。)
(ああ、終わったのう。このタイミングで頼んでいいわけなかろうて。まずは謝罪に専念せねばいかんのに……。ああ、終わったのう。)
それに対してネルソンは変わらぬ笑顔で応対した。
「いえいえ、仲間のために血が上ってしまい、斬りかかったのも仕方ありませんよ。
それに魔法学園の件も……魔法学園?」
しかし喋ってる途中で、ネルソンの口が止まる。
「ああそうだ!俺たちはこの土地、グローリアに魔法学園を建てようとしているんだ!
ネルソン・X!君は魔法族の未来について考えたことはあるか!
戦いの能力のある魔法族だけが生きることを許され、それ以外の魔法族は弾圧される時代!そんな時代に我々は終止符を打たねばならない!
そのためには世界中の魔法使いを集めて、共に学び、共に暮らし、共に高め合う環境が必要なのだ!
そうする事で魔法族は共有するアイディンティを獲得し、魔法界は発展することとなる!
ネルソン・Xよ!我々の出会いは酷いものであった!最悪であった!しかしだ!過去は変えられなくても、未来は自由に変えることができるのだ!
ネルソンよ!どうか魔法族のために、魔法学園の創設に力を貸してくれ!
グローリア魔法学園の……創設者の一人になってくれ!」
赤日輝人はネルソンに詰め寄り、手を握りながら言った。
「は、はい!わかりました!このネルソン!グローリア魔法学園の創設の為に、全力を尽くさせてもらいます!」
ネルソンはその手を力強く握り返して答えた。
「「えええええええええぇぇぇぇぇ!?」」
まさかの説得成功に対して、ヴァイスとシャヒーラは困惑して叫び声を上げた。
「停戦!停戦を許可する!代わりにタイムを!作戦タイムをくれ!」
赤日輝人様から、停戦のお許しと作戦タイムのお願いが出た。
俺は3人の作戦タイムを了承して、3人の話がまとまるまで待つ。
そしてある程度話が終わった後、3人は俺に向き合った。俺は尋ねる。
「作戦タイムは終わりましたか?」
ネルソンは3人に尋ねる。
そして3人は声を揃えて頭を下げつついった。
「「「この度は申し訳ありませんでした」」」
そして彼らは、今回の件についてあらましを教えてくれた。
まず3人は原作通りに魔法学園を建てようとしていたようだ。
しかしお金が足りないという問題に直面しており、それを解決する為に俺に融資を頼みに来ていたのだという。
その交渉のために、俺の家に来たのがシャヒーラ様だ。しかし彼女は、俺の家の蔵書が魅力的すぎて、交渉のことを忘れてしまい、読書に耽ってしまっていたらしい。
シャヒーラ様もおっちょこちょいなところがあるものだな。かわいい!
そして1週間帰ってこなかったことで、俺への不信感を募らせて、ヴァイス様と輝人様は俺の屋敷に乗り込んできたそうだ。
お二人の態度が悪かったのは、誤解から来たものだとわかり安心した。
俺が知るはずのないヴァイス様と輝人様の正体を言い当てたことで、お二人を警戒させてしまったそうだ。
原作知識のせいで要らぬ混乱をもたらしてしまった。
しかしお二人は圧倒的な戦闘センスだった、俺の持ってる魔法道具は全て使い切ってしまったし、残ってるのは屋敷の防犯システムが2割だ。この様ではろくに戦うこともできない。魔法道具もまた1から揃えねばならない……。圧倒的なアウェイでの戦いなのに、俺をここまで追い詰めてくるとかお二人様やっぱやばいな!?
そんなことを考えていると、3人がそれぞれ謝り始める。
しかしそれらの謝罪を受けていると、赤日輝人様がとてつもない申し出をしてきた。
「俺もなんか切り掛かってすまん。そのせいで家具とかもボロボロにしてしまって……。
頼む俺を許してくれ。そしてついでにこれから学園を建てるつもりだから金を貸してくれ!頼む!」
「いえいえ、仲間のために血が昇ってしまい、斬りかかったのも仕方ありませんよ。
それに魔法学園の件も……魔法学園?」
赤日輝人様は、とんでもないタイミングで魔法学園設立についての話をぶっ込んできた。
あれか!?赤日輝人様流の交渉術なのか!?小さなお願いをして、それを受け入れてもらった後に大きなお願いをすると通りやすくなるという交渉術を思い出す……。輝人様はそれを実践なさってるのだろうか。
「ああそうだ!俺たちはこの土地、グローリアに魔法学園を建てようとしているんだ!
ネルソン・X!君は魔法族の未来について考えたことはあるか!
今の時代、戦いの能力のある魔法族だけが生きることを許され、それ以外の魔法族は弾圧される時代!そんな時代に我々は終止符を打たねばならない!
そのためには世界中の魔法使いを集めて、共に学び、共に暮らし、共に高め合う環境が必要なのだ!
そうする事で魔法族は共有するアイディンティを獲得し、魔法界は発展することとなる!
ネルソン・Xよ!我々の出会いは酷いものであった!最悪であった!しかしだ!過去は変えられなくても、未来は自由に帰ることができるのだ!
ネルソンよ!どうか魔法族のために、魔法学園の創設に力を貸してくれ!
グローリア魔法学園の……創設者の一人になってくれ!」
輝人様は熱く熱く、魔法学園創設についての熱意や夢を語り始めた。その言葉一つ一つが、俺の胸を、心を、魂を刺激する。
輝人様の熱い想いが、俺まで熱くする。
輝人様の輝かしい目が、俺の目を見つめ俺の中を照らす。
輝人様の俺を握る手が、俺の心を動かす、
『魔道学園グローリア』、その原作のファンである俺が、創設者の一人になってくれと頼まれたのだ。こんな光栄なことは他にないだろう。俺の取る行動は決まっている。
「は、はい!わかりました!このネルソン!グローリア魔法学園の創設の為に、全力を尽くさせてもらいます!」
「「えええええええええぇぇぇぇぇ!?」」
ヴァイス様とシャヒーラ様の絶叫が響く。
まずい、輝人様は勧誘してくれたけど二人から拒否られそう、つらたにえん。