ハズレ部屋のソフィ   作:カラテマ

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12 生きて、そして

 

 

「今更、もう1機だと……っ!?」

司令官機の無線が、驚愕を伝える。

ルブリス・ウルにとどめを刺そうとした2機の僚機の注意が逸れる。

 

ドックから飛び出たルブリス・ソーンはこちらに背を向け、一直線に外壁を目指していた。

ウルのほうを振り返る気配もない。

ソフィが時間を稼ぐことを信じ、最速で学園の外へと向かっている。

 

「いかん、追え!」

司令官機が僚機に命令を下す。

2機のベギルペンデが、ソーンを追い始めた。

 

間違いなく、学園の外にもドミニコス隊は配置されている。外と内から挟み撃ちにあえば、いかにエランが凄腕であろうと撃墜は免れない。

 

そうなれば、ノレアも殺される。

一緒に生きたいと自分に願ってくれた少女は、死ぬ。

 

真っ逆さまに落ちながら、ソフィは、それを悟った。

 

「……ア、」

 

思い出せ。

自分は何に乗っているのか。

 

「ガ、」

 

踏みにじる強者。奪われる弱者。

その構図をひっくり返すためのモビルスーツ。

 

「ンダ、ム……」

 

命の代わりに力を授ける悪魔の機体。

ソフィは吠え立てた。

 

「ガンダァァァァムッ! 残りの命をアンタにあげるっ! だから、」

 

スコアを一気に4まで引き上げる。

完全に光を失っていた機体が、血の色に輝き出す。

 

「私に、友達の命を守らせろぉぉぉォ!」

 

ルブリス・ウルはスラスターの光を爆発させ、ソーンを追うベギルペンデに襲いかかった。

1機目の背中にウルが衝突し、その推進装置を破壊し尽くした上で大きく跳ね飛ばした。

2機目が慌ててビームライフルを構えるが、ウルは構わず突っ込み、自らの胴体装甲を粉々にしつつ敵の両腕をへし折る。

瞬間、ウルのコックピットは殺人的なGに晒された。データストームと相まったそれはソフィの内蔵を破壊し、盛大に血を吐き出させる。

少女は構わずウルに命ずる。

「行けぇぇぇぇ!」

ウルは流星と化して、最後に残った司令官機へと突っ込んだ。

「ぬうぅぅぅ!?」

司令官機はとっさに重心をずらして直撃を回避した。

だがウルは残る右腕で敵の胴体を引っ掛け、強引に引きずり回す。

2つの機体はもつれ合うようにして飛んでいく。

ソーンの向かう先とは逆、学園の戦術試験区域のほうへと。

 

 

真っ赤に輝くコックピットの中で、ソフィは気が付いた。

もう心臓は痛くない。――心臓が、なくなっている。

もう呼吸は苦しくない。――肺が、なくなっている。

データストームに焼かれて、からだが、どんどん消えていく。

 

ああ、嫌だなあ。

怖いなあ。

死ぬのがこんなに怖いなんて。

自分がなくなっていくのが、こんなに恐ろしいだなんて。

 

もう二度とノレアに会えないのが、こんなに、悲しいなんて。

 

ああ、でも、そうか。

 

こんなに嫌で、怖くて、悲しいから、みんな必死に生きようとしてたんだな。

みんな必死に、死から逃れようとしてたんだな。

 

きっとノレアも……あいつも最初からずっと、死を怖がってたんだ。

だから必死で考えて、必死で生きてたんだ。

 

 

……そっか。

私は、ようやく、たった今、

本当に生きることが、できたんだ。

 

 

涙をこぼしながら、ソフィは思った。

 

ノレアが死ぬなと言ってくれたから、

一緒に生きたいと言ってくれたから、

 

私は、生きたいと、願うことができたんだ。

 

「……ははっ。」

 

視界が閉じていく。

何も見えなくなっていく。

 

自分のすべてが無くなるその刹那、

ソフィは、この世でたったひとりの友人に、語りかけた。

 

 

「ノレア、ありがとう。

 私を好きで……いて、くれて……」

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

ケナンジ・アベリーは強烈なGに耐え、機体の制御を続ける。

「くそっ……! 確かに、現場から離れすぎていたな!」

緑の機体に完全にとどめを刺す前に、新たに出現した機体のほうへ注意を向けてしまった。専属パイロットだった頃であれば考えられない失態だ。司令官の椅子に座り続けて、自分の勘もずいぶんと鈍ってしまったものだ。

だが、ガンダムへの対処方法まで忘れたわけではない。

 

最優先で狙うべきコックピットは、武器の届く位置にない。だが、次の優先目標なら問題なく攻撃できる。

ケナンジは、敵機の頭部で輝くシェルユニットに狙いを定める。

頭部ごと吹き飛ばす勢いで、ベギルペンデの拳を叩きつける。

 

シェルユニットは粉々に破壊され、ガンダムの赤い発光が止まった。

凄まじい加速でベギルペンデを引きずり回していた敵機が、急速に速度を失っていく。

 

ケナンジは自機の姿勢を立て直し、大きく開けた広場――戦術試験区域の只中に、敵機ともつれあいながらもどうにか着地した。

「ふう……」

思わず、安堵の吐息を漏らす。

 

モニターを確認すると、新たに出現したもう1機のガンダムは、すでに外壁を破壊して脱出していた。

ケナンジは通信機で学園外の部下に連絡し、その旨を伝える。

もっとも、まだ本命であるプリンスとその部下の制圧が完了していない。あのガンダムの捕縛にまで手が回るかは微妙なところだ。

 

次にケナンジは、2機の僚機に通信を飛ばす。

「おいお前ら、まだ生きてるか?」

すぐに返信が来た。パイロットは二人とも無事、しかし機体は中破し、これ以上の戦闘任務は不可能。

「やれやれ……」

ケナンジは嘆息する。

この学園にプリンスの隠し玉が潜んでいるだろうと睨んではいたが、これほどの痛手を被ることになるとは予想していなかった。

 

もっとも、と、彼は視界を巡らせる。

少なくとも探知できる範囲では、建物の被害は皆無。このぶんなら学園の生徒たちに犠牲者は出ていないだろう。その意味では幸運だった。

 

と、部下の一人から確認の通信が入る。

司令官殿は無事か。そちらのガンダムはどうか。

「俺は無事だよ。ちゃんと死に損ねた。で、ガンダムは」

視界を引き戻す。

緑のガンダムは着地の衝撃で仰向けに倒れていた。頭部と胸部のシェルユニットを失い、完全に沈黙している。

「こちらのガンダムは無力化した。もう問題はない」

部下にそう伝えながら、ケナンジは感慨を深めた。

 

……まさか、仲間を逃がすために、自ら囮になるとはな。

 

憎しみのままに自爆同然に突っ込んでくるガンダムなら、これまで何度も見た。

だが、仲間を助けるために自分の身を犠牲にしたガンダムパイロットは初めてだ。

 

……いや、違うか。かつて一度だけ同じことがあった。

 

ケナンジは21年前を思い出す。

ヴァナディース事変。

あのとき最後に交戦したガンダムも、味方を逃がすためにこちらの乗機に組みつき、戦域外まで押し出して時間稼ぎを図った。

今回のパイロットも同じことを狙い、そして21年前と同様、見事に時間稼ぎを成功させた、というわけだ。

 

さらに、21年前との共通点がもうひとつ。

ケナンジは無線で部下に尋ねる。

「お前ら、少女の声は聞こえたか? ありがとう、という」

二人の部下は二人とも、戸惑いながらも同じ言葉を返した。イエス、と。

聞き違いではなかったことを確認し、ケナンジは目を閉じる。

 

無線ではなく、データストームを介してのメッセージの伝播。

 

「あのとき聞こえてきたのは、誕生を祝福する歌。

 今日聞こえたのは、仲間への感謝の言葉、か……」

 

あの少女の声は、この学園周辺で通信を聞くすべての人々の耳に届いたはずだ。

 

ケナンジは改めて緑のガンダムに見入る。

頭部を破壊され、右腕以外の四肢を失い、地面に横たわるガンダムは、しかしどこか満足そうに見えた。

命のすべてを燃やし尽くして、誇らしげに天を向いていた。

 

「……だから、ガンダムには関わりたくないんだよなあ」

 

疲れた中年の表情で一人ぼやいた後、ケナンジは司令官の顔に戻った。

任務に戻るべく乗機を再チェックする。

テロリストの捕縛と証人の確保。それが終わるまで、休むことはできない。

 

緑のガンダムの処理を部下たちに任せ、紫のベギルペンデは、戦術試験区域を飛び立った。

 

 

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