大変長らくお待たせ致しまして誠に申し訳ありませんでしたm(_ _)m土下座
一月以上は空けないようにしようと頑張ったのですが…いかんせん忙しさには勝てなかったと言いますか歌詞作成が楽し過ぎてのめり込んだと言いますか(本音)
…第四話、始まります。
astronomical.-選定-
「全く……これはまたとんでもないところに造ったものだな。」
駐車場を経由して外へ出、屋上と思わしき山の斜面に立って辺りを見渡して位置を確認する。聯の家からそう遠くはない。歩いても四半刻(30分)……彼の足ならば何ら問題のない距離のはずだ。
施設本体は山の中にあるらしく、内部の無骨なコンクリートは外からは見えない。駐車場の入り口がほとんど洞穴のようにして周囲に溶け込んでいたのには笑えたが。
「……変わらぬな。この町も。」
人も町並みも全て変わった。私の知る町はもうない。
だというのに、どこかあのころの風情を保ちつつまた私の目の前に現れている。人はこれを幸福なことと言うのだろうか。
『もしもこうして生きている場所が、何年も、何百年も続いたらさ。それってすごく幸せなんじゃないかなって思うんだ。』
……お主の言うとおりだ。お主が生きた証などどこにもないが、お主が生きていた町がこうして姿を変えてここにある。思いの外嬉しいものだ。
「……ふん。毒されたか。」
そろそろ聯の方でも見に行ってやろう。場所は……直下か。
*
黒葉に案内されたのは、10メートルごとに色分けされた床と、いくつかのゲートが存在する壁とに囲まれた長さ100メートルほどの部屋だった。要するに……走れ、ということらしい。
「えっと……そこのスタートラインから向こうまで、能力を使って走って。なるべく全力でね。」
「まさかこんなところで体力測定されるとは思ってなかったんだけど……」
「ま、まあまあ……」
昨日のあれでいったいどのくらいの速度が出ていたかは知らないけど、それなりの数値は叩き出していたはずだ。それと同じくらいの速さが出せれば大丈夫だろう。
「……昨日、ありがとね。」
「?」
唐突に礼を言われ、少々困惑する。むしろ邪魔になったんじゃないか、と考えていただけあって尚更だ。
「実はさ、ちょっとだけ危なかったんだ。君がいなかったら何発かやられてたかもしれなくって。」
淡々と語っているようは見える。でもこういう時、彼女は怯えていたり怖がっていたりすることが多い。たぶん、今もそうだ。
「だから、今の内に一つだけ聞かせて?」
「……何?」
「……君はどうしてあんなに速かったの?」
部屋の壁に設置されていたコンソールを手に取り、少し操作してからその画面を向けてきた。使用回数一回。表示されていた文字だ。
「俺にこの力をくれたやつが言ってたけど、願えば願うほど強くなるんだってさ。あの時はお前のこと助けたくって必死だったし……」
「……」
黙って話を聞いてくれている彼女が信じているかは分からない。燐の話ではそういう形を採っている能力は他にないとのことでもある。けど……それでもいいと思えた。
「ん。……じゃあ約束。」
「約束?」
「私を助けてくれたこと、嘘にしないでね。」
いたずらっ子のような笑みを浮かべつつ苦笑した黒葉。開かれた手がこちらへ向けられている。
「……分かった。」
その手に答えると、彼女は少し恥ずかしそうにしながら小走りに部屋を出ていった。長い付き合いだけど……ああいう黒葉を見るのは久しぶりになるかもしれないな。
「さあて、それじゃあ好きなタイミングで走ってくれて構わないからね。」
スピーカーから流れた奏の声。後ろ斜め上にあるガラス張りの部分からは、四人の姿が見て取れ……いや。五人か。
《ほう。面白いことになっているな。》
《テストだってさ。要するに走ればいいらしい。……てかどっから……》
《転移だ。出来ないとでも?》
《……なるほど……》
願いの強さが、能力に比例する。正直それがどういうことなのか、未だによく分かっていない。いや……分からないことしかない。
だけど今、俺は黒葉との約束を守りたい。それが願いだ。
「……よし。」
蹴った足が体を押し出し、次の一歩へ身構え、再度蹴った足が更に遠くへ体を運び、次の蹴り足が前に出る。
走るっていう単純な行為の中、速く速くとただそれだけを考えた。その度に一歩の距離が増していく。
その一歩が10メートルを超えた頃……
「ストップです。それ以上行くと壁に追突してミンチになりますよ?」
極々普通の速度まで一瞬で戻された。一拍遅れてかなりの強風が体を打ち付ける。
「つっくーナイス!」
スピーカーから少々大きすぎる声が響いた。奏の声だけど……つっくー?
「僕のことです。下の名前が月咲ですし。奏さんって自分より上の人以外は誰でもニックネームで呼ぶんですよ。」
「……そういうことか……」
俺の肩に手を置いて立っている百目鬼が説明を入れてくれる。……速度が落とされたのは彼の影響だろうか?
《前回より速かったな。》
《マジで?》
《嘘を言う理由はないだろう?》
確かに彼女にその理由はないだろうけど……実感が沸かないものであるだけに確認したくなる。必死で走っているだけなのに近いせいでもあるはずだ。
「戻ってきてもらえる?まだいくつか確認したいことがあるから。」
さっきと変わらない若干突き放すような口調で沙羅に言われた。決して大きくはない声のはずなのに、どこか重量感を伴っているように思える。
……何となく、一時期の黒葉を彷彿とさせる人だ。
「分かった。……ってか確認したいことって?」
「後で話すわ。まず戻って。」
「順序立っていないことが大嫌いなんですよ。沙羅さんは。優先事項から話してくれるのはありがたいんですけどね。」
言外に全体のことも言って欲しい、と告げている。さっきまでの彼の様子からしてオブラートに包むことを知らないんだろうと思っていたけど……そういうわけでもないようだ。
「えっと、先に伝えておくとですね。まず奏滝さんにはここへの所属をするかどうかを選んでもらいます。」
「選ぶ?」
先ほどの部屋へ歩き出してすぐ百目鬼が切り出した。正直ここに連れてこられた時点で強制だと思っていただけあって少々面食らいつつ、そんなものなのかもしれないな、と妙に納得している自分がいることに気付いた。さっきまでが早計だった……というか、早とちりだったのかもしれない。
「はい。基本的には所属した方が得ですけど。」
「得って……」
「分かっているとは思いますが、この能力は悪用すれば大きな被害を生むものとなります。事実そういう人は後を絶えませんし、そのために僕達が組織されているとも言えます。」
「まあ……そうだよな。」
俺の能力で考えたとして……使いこなせるようにさえなれば、いくらでも楽して暮らせるようになるだろう。盗みだろうともっと酷いことだろうと難しくないはずだ。
「当然ながらそういう方々は骨片一粒まで炭にするか死ぬまで拷問するか死刑囚として被検体にするか……何にしてもちょっとばかり楽しめる形でここへお招きするわけですが……」
……火葬するか尋問するか強制的にテストするか、だと信じたい。
「この組織に所属する、ということは、その正反対の位置につくということ。僕達にとっては監視の必要をそれほど感じなくて済む仲間です。定期的なメンタルケアや交友関係の簡易チェックくらいはありますけど。そしてその逆とあれば……もしかすると能力を使って悪事を働くかもしれない人、として、厳重に警戒すべき監視対象となります。」
「つっても、お前らのとこに入ったって危険は危険なんだよな?」
「まあ……当然ですね。敵が存在している以上、今この瞬間に捻り潰されてもおかしくはありません。全員、それは自覚した上で所属してます。誓約書にも書かれていますから。」
ある意味、この説明をしてくれるのが百目鬼なのは正解なのかもしれない。普通なら言うのがはばかられることでも、彼なら包み隠さず持ち前の毒舌で教えてくれるだろう。
「もっと詳しいところになると、規則上所属者にしか伝えられない物に分類されるので……ここまでの説明を踏まえた上で、誓約書の注意事項に目を通してもらって、所属するかしないかを選んでもらうことになります。それで大丈夫ですか?」
すでに部屋の入り口に差し掛かっている。こっちとしても聞くことは聞けたし、何とかなるだろう。
「OK。後は誓約書ってのを読んで何とかするよ。」
「了解です。」
日常から離れたい、とは思っていたけど、さすがにこんな形になるとは考えてなかった。
……でもまあ……これはこれで良いかもしれないな。
*
「で、これがここでの規則をまとめた本。こっちがここに所属する上で知っていなければいけないことをまとめた本。でもってこの束が戦術マニュアル。それからこれがメンバーのデータ。えっとあとは……あ、これこれ。部屋の電子ロックキー。ブレスレット型だから肌身離さず持っておいて。」
「お、おう……」
直角に曲げた腕へと容赦なく重たい何かを乗せていく黒葉。
数百ページはありそうな大型本が六冊に、分厚いレポート的な何かが四つ。それに幅1cm弱の少し厚いブレスレット。レポートとブレスレットはともかくとして……本は読むのに骨が折れそうだ。
「ついでにこれ。」
それらの上に更に一つ、小さなノートが置かれた。さっきまでに持たされた本とは違い、手書きのものだ。
「さすがにそれ全部読むのは時間かかるでしょ?最重要事項だけでもまとめておければ、って思ってさ。ひとまずそれを読んでおけば最低限ここで生活できるようにはなるから。……ちゃんと本も読まなきゃだめだからね?年表は別にいいけど、他は全部。」
「へえ……助かるよ。サンキューな。」
「えへへ。もっと感謝してもいいんだよ?」
相変わらず、こういうところに気が利くのは流石としか言いようがない。
……目の下に深い隈が出てしまっている。きっと、ほとんど徹夜で作っておいてくれたのだろう。そういうところを気付かれないように振る舞ってはいるけど……生憎長い付き合いだ。彼女の足取りが微妙に覚束ないことくらいは見れば分かる。
「この施設なんだけど、奥の方に司令室とか作戦本部とかがあって、真ん中辺りに食堂とかの共同設備が集められてるの。外に近い方には居住区画があって、いざって時は部屋から外に出ることも出来るの。」
「いざって時って……つまり?」
「火事とか地震とかの災害の時。それと敵の襲撃。」
淡々と語った。それだけ、普通のことでもあるのだろうか。
「それって多いのか?」
「うーん……月に一回くらいはあるかな。ほとんどは防衛システムで片が付くけど。」
……アニメやゲームなら拠点を移すレベルの話だ。たぶん、それが出来れば苦労はしないのだろう。
《そういえば外から見てきたんだっけ?》
《む?ああ、確かにここは山の中にある施設だ。おそらくは山をくり抜きつつ造っていったんだろうが……まあ、移設は不可能に近いな。》
《山の中か……》
《カモフラージュには最適。だが他の面では欠点も多い。……山とは、そういう場所だ。》
どこか意味深な発言にも聞こえる。あの崖にリングの形で埋まっていたからだろうか。
結局その言葉を最後に口を閉ざした燐。その様子を少し気にかけつつ黒葉の後に付いていく。
「あ、着いたよ。ここが奏滝君の部屋。」
テストを受けた部屋から五分ほど歩いたところで黒葉は止まった。全体的に近未来的な色調や形状を採っているらしきこの施設の中では珍しく、今いる辺りの壁や床は家庭的な造りが見受けられる。ここが居住区なのだろう。
「荷物とかはここに持ってこられるけど……どうする?ここに泊まらなきゃいけないことも多いし、あると楽だよ?」
腕に積まれている本の一番上に置かれたブレスレットを取り、それをドアノブの上にある感知器にかざした黒葉に尋ねられた。普段家から通うことにするとしても、日用品を置いておいて損はなさそうだ。
「なら家に帰っていろいろ持ってくるよ。」
「分かった。じゃあ、そのブレスレットがここの入り口の通行許可証にもなってるから。出るときは端末にかざして。外にいるときはポケットに入れててもいいよ。」
なくしちゃだめだからね、という言葉がどこからか聞こえる気がする言い方だ。
その後も続く彼女の話を聞きつつ隅にあるデスクの上に本を置き、これから第二の自室となる部屋全体を見回した。こじんまりとしてはいるものの、落ち着いた雰囲気に包まれた良い部屋だ。廊下と同じく家庭的な造りがなされており、ここがとんでもない集団の秘密基地であることを忘れさせる。
「……以上。何か質問は?」
簡潔にまとめられた黒葉の話も終わり、あとは帰って荷物を作るだけになった。家路で彼女がまとめてくれた本でも読むとしよう。
「いや。大丈夫。帰って準備して戻ってくるかな。」
「とんぼ返り?」
「……そう言われると何か悲しいんだけど……」
俺の答えがつぼにはまったのか、鈴の鳴るような声で楽しそうに笑った。どこか場を明るくさせる力を持つ、とでも表現できそうな笑顔だ。
その笑顔が、少し収められた。
「……うん。ありがとね。」
「?」
「ほら。ちゃんと、本当のことにしてくれたでしょ?」
そういえば今回はそれを叶えたい、っていうのを願ったんだったか……少し複雑な気分だ。
「……ーーー。」
ぼそりと呟いたようにも思えたけど、彼女がこうして周りには聞こえない程度の呟きをしたときは、それが言う必要のないことか、そもそも相手に聞かれたくないかのどちらかだ。……時折陰口を言っていたりもするだろうけど。
「……じゃあ、出口まで案内するね。戻ってくるときは連絡してよ。」
「分かった。いろいろありがとな。」
“柚子香作!読むべし!”と表紙に書かれたノートを持ち、俺は部屋を後にした。
あまりのんびりしていると終わらなさそうなので…少しスピードアップです。
本来は一番最初の部分がもう二話ほど先にあるはずだったのですが…
そういえば、おかげさまでこの作品のアクセス回数が百回を突破しました。たった三話だけ、それもこのような亀更新の中、それなりに多くの方に読んで頂けているようで一安心です(笑)
今後とも、このカプリッツォをよろしくお願いいたします。