カプリッツォ-神々の宴-   作:笠間葉月

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お久しぶりでございます。
うーん…なるべく一月以上は空けたくないのですが…やはりリアルが多忙というのは苦しいものですね…お待たせしてしまい申し訳ありません。
それにしても、タグに戦闘物と書いておきながら…現状第八話まで戦闘がない計算という…


teaching.-信用-

 

teaching.-信用-

 

「……また助けてくれたね。」

 

……嘘にしないで、と言わない方が良かったのかもしれない。いや。そもそもあの商店街で出会ったときに、もっと早く別れるべきだったのかもしれない。

過ぎたことをどうこう言っても仕方がないのは分かっていても、私の中では確かな後悔の念が生まれていた。

……まずは彼を出口まで見送ろう。

 

「……じゃあ、出口まで案内するね。戻ってくるときは連絡してよ。」

「分かった。いろいろありがとな。」

 

いつも通りの優しい表情。普段は温かいそれが、今は胸に突き刺さる。

……もし私が、あれを通り魔事件と言っておけば大丈夫だ、と考えなければ。もっと危険な事件で、その場所に近付くのも危ないんだと言うべきだって考えていれば。

人払いは徹底しなさいって、司令からも沙羅からも言われていた。なのに、商店街の営業を優先して考えた。それで多くの被害が出た事例だって少なくないのに、私はあの判断を下した。

 

「……」

 

……聯……ごめん……

 

   *

 

「……っと……要するに……」

「何だ?早くも覚え込もうと頑張ってでもいるのか?」

「そりゃあまあ……」

 

どうやらあの組織は“ファング”と言うらしい。能力を悪用しての事件の解決や、その犯人の確保に当たる半官半民組織。構成員は全員志願者だという。司令官はいるものの、あまり顔を出さないがために……基本的に沙羅がトップを務めている、と。

その母体が、こちらも半官半民の“デザイア”。能力を持った子供が捨てられたり、捨てられはしなくても親が子育てに困ることは少なくないようで、その辺りの保護育成を目的としているそうだ。……まあ確かに、いきなり訳の分からないことが出来る子供が生まれたら……正直気味が悪いと思っても仕方ない部分はあるだろう。

 

「あれだけの建物を造ることが出来るほどだ。その権力や財力以上に、何かと需要もあるのだろうさ。お偉方にとってもな。」

「そんなもんか。」

「長というものは往々にして自らに必要な物を取り立てる。あれもその一つ、ということだろう。」

 

でもってこの能力は“アイヴォリー”と呼ばれていて、それを持つ人のことも同じ名前が付けられている。その関係上、能力自体は各々のもので示されることが多いらしい。

奏は“転移”、百目鬼は“転写吸収”。

奏のはそのままの意味のようだ。任意の物体を別の場所へ転移させることが出来る、といういわゆる転移能力。

特筆すべきは、自分が触れているものならいくつでも飛ばせること。そして、自分が手に持っているものと同じ材質のものならやはりいくつでも飛ばせる、という点だろう。彼女が制御できる数には限りがあるようだけど。

転写吸収の方の説明は少し長めだった。それ自体複雑な部分が多いらしい。

まず、物理的エネルギーの吸収と複製、そして放出。熱だろうと速度だろうと重さだろうと、果ては光までもがその対象となるようだ。今のところは百目鬼自身の成長度合いの問題で扱えるエネルギー量には一定限度が存在しているものの、最終段階までたどり着けば理論上無制限となるとのこと。ただ、能力によるエネルギーに関してはすでに制限がないに等しいそうだ。

あの時俺を止めたのもこれなのだという。俺が持っていた速度を吸収することで停止させたとか。正直、物理は分からないからこのノートからの情報しか理解できないけど。

そして……沙羅の能力は書いていなかった。というより、ろくに使っていないためにその実体が不明なのだとか。彼女自身も、分かっていないと話しているらしい。

 

「む?」

 

何かを疑問に思った様子の燐。逡巡した後、ノートに手を触れつつその疑問を俺へとぶつけてきた。

 

「黒葉の能力は書いていないようだが……」

「……言いたくないんじゃないか?」

「彼女が隠し事をすると思うか?数度会っただけだが、嘘をつける性格でもあるまい。」

「まあ……」

 

……確かに、黒葉は嘘が苦手だ。ほんの些細なことでも顔に出ることが多い。人からそうしてほしいと言われた時を除いて、彼女が嘘を言う時必ず申し訳なさそうな表情を浮かべる。

だけどこれは……たぶんそういうことじゃない。同時に軽々しく燐に教えて良いことでもないだろう。俺の予想が正しければ、の話だけど。

 

「……書き忘れたんじゃないか?あいつ意外と抜けてるとこもあるしさ。」

「……」

 

尚も疑いの念を持ってノートを見つめていた燐だったが、最終的には……

 

「まあ良いか。邪魔をしたな。」

 

そう言って引き下がった。あまり深く追求するつもりはないらしい。

それぞれの能力についての記述の下には“フィールド”と言う項目があった。内容からして、俺が初めて能力を使ったあの空間を指すもののようだ。

アイヴォリー同士、あるいは能力によって生み出された何かが戦闘する際に発生、強制的に飛ばされる空間らしい。現実世界を反映してはいるものの、フィールドでの破壊や移動がこちらに影響を及ぼすことはなく、閉じられた瞬間に元に戻るのだそうだ。これにより、戦闘中に傷を負ったとしても、現実では無傷でいられるらしい。

フィールドが開かれている場所にアイヴォリーが外から入った場合、自動的にフィールドへ飛ばされる。能力によって出現した物も同様で、例えば奏がフィールドの外から何かを転移させて中へ送ったとしたら、その送られたものはフィールド内部に出現するらしい。その逆も同様なのだと書かれていた。

この空間の発生条件は大きく分けて三つ。

一つ目。アイヴォリーや能力によって生成されたものが、どちらかの警戒圏内に自身を合わせ複数存在すること。

二つ目。上記の内のいずれかの個体が戦闘態勢を整えていること。

三つ目。すでにフィールド内にいないこと。

これらが揃ったときにのみフィールドが形成されるため、原則として戦闘はその中で行われるとのこと。要するに他の人を気にしなくても良い、と。こう言って良いかどうかはともかくとして……便利だ。

ただし、自分がフィールドにいるのか現実にいるのかは、気付いていなければ、あるいは注意していなければかなり曖昧に思えるらしい。……奇襲は成功しやすい、ということだろうか。

ちなみに、中にいられるのは意識を保っているもののみ。フィールド内で意識を失うと、強制的に外へ出されるそうだ。

 

「……ややこしいな……」

「何?……ああ、あの空間か。」

 

詳しく知ってでもいるかのような口振りの燐。そういえば、彼女と初めて出会ったのもこのフィールドという空間だった。

 

「あまり難しく考えることはない。そういうものだと思っておけば良いさ。」

「そんなもん?」

「そんなものだ。」

 

相変わらず……適当なのか細かいのか分からない。とは言っても彼女がこう言っているのなら、実際その程度の認識で問題ないのだろう。

フィールドの説明の次には、俺達の敵に相当するものの解説が載っていた。“ログ・アイヴォリー”と言うらしい。

定義としては、能力を悪用するアイヴォリーを示していて、その数はなかなかに多いそうだ。

そのログ・アイヴォリーの中には自身の能力を反映させた“ドール”と呼ばれる……いわゆる兵士のような物を作り出せるものもいるのだとか。

……ドールを作り出せるようになるために必要なのは、自らの能力によってアイヴォリーでない人を手に掛けること。ほとんどの場合、彼らはドールを使って攻撃してくるという。

 

「お前が昨日斬ったのもそのドールだな。」

「あれか……」

 

ドールはフィールド外での活動が困難であり、出現するのはその中のみ。とはいっても、希に外へ出てくる個体も存在するらしく……

 

「出現が確認された場合、速やかに報告し、当該地域へ一定の措置を執ること……」

「一般人が相手取れるものでもないのは分かっているだろう?大きな騒ぎにならない程度には、人払いをする方が良い。」

「……あの通り魔もそう……なのか。」

 

ご丁寧に書き記された『あの商店街の通り魔事件もその一環だよー♪』の一文。音符を付けるところでもあるまいに……

その後はは施設内での規則のようだ。十数個書かれているものの、そのほとんどが常識レベル……特に気を付ける必要があるのは外出に関する事項くらいだろう。

施設外に出る場合、この町の中までならブレスレットを通すだけで外出可能。それより遠くに行くのであれば、ゲートで外出先などを記入した用紙を提出しなければならないらしい。

ノートに書かれていた文章はそこまでだった。このくらいなら今日中に覚え込めそうだけど……

 

「あの本……この何倍あったっけ?」

「知るか。」

 

   *

 

気の抜けたような開放音と共にドアが開き、欠伸をしながら百目鬼が入ってきた。

 

「いい加減ノックを覚えたらどう?」

「呼んだのは沙羅さんじゃないですか……」

 

……彼の場合、ノックを覚えるより先に減らず口の方を減らすべきかもしれない。この場合はまだ呼びつけた側だから良いけど……

 

「用って、奏滝さんのことですよね。」

「それ以外に何があるのか教えてほしいのだけれど。……話し相手に呼んだとでも?」

「そういうのは黒葉さんにお任せしますよ。僕じゃいろいろ役不足ですし。」

 

分かっているのならわざわざ聞かないでほしいものだ。柚子香以外と話すのは疲れる。

 

「……そうですね……能力としてはとても優秀でしたけど、まだ使い慣れていないのか、全体的にムラのある感じ……というより、少し能力を抑えつけているというか、信用していないというか。あのままだとアイヴォリー戦では使い物になりそうにありませんでした。」

「予想通りの回答ね。他には?」

「……他……ですか。」

「ええ。何が言いたいのかは分かっているはずよ。」

 

……これだから、人は嫌いだ。隠そうと思えばどこまでも隠してしまうし、裏切ろうと思えばどこまでも裏切る。

 

「……おそらく彼は、想いや願いによって能力を使っています。彼を止めたときに速く速くって呟いてましたし。」

「まだあるでしょう?」

「……」

 

あの二人と同じだ。そしておそらく私も。

 

「……僕と同じ雰囲気がします。沙羅さんとも。」

 

彼や奏はまだ良い方……しっかり詰めていけば、正直に答えてくれる。今も言い渋っていたことを告げてくれた。

……でも私は、彼と分かり合えるとは思えない。

 

「……呼びつけて悪かったわね。」

「あ、いえ。僕も沙羅さんに用がありましたから。」

「用があった?何故?」

 

彼から何かあるとは珍しい。……呼びつけておいてそんなことを思うのも何だけど。

 

「姉が沙羅さんの“先”を視たそうで……その伝言です。〈あなたのために世界が空けてくれた時間は、もう多くないでしょう。引き際と進むべき時は対にしてまた同じ。あなたなら分かるはずです。……弁えなさい。〉」

「……相変わらずね。全く持って訳が分からないわ。」

「僕もです。姉はいつもそうですけど。」

 

去り際にそう言い残していった百目鬼の背を最後まで見送ることもなく、大きくため息をついてからテストルームへと向き直った。奏滝が走ったことによって若干ながら歪みが発生した床は、技術部によって修復作業が進められている。

 

「……言われなくても分かってる……」

 

奏滝を見て分かった。もうのんびりしている暇はない。

でも私は……

 

「……私は……」

 

……私は、あなた達のようにきれいじゃない。

 

「私は……どこにいるの……?」




あ、そういえばサブタイトルですが…実はリアルの方でこんなことを言われました。
「英訳間違ってないか?」
…あの…英訳ではないのですが…
サブタイトルは全て、私の中でのイメージを五つくらいの単語で表し、それらの中から解釈的につながりを持たせることの出来るものを二つ選び出し、両方とも日英双方から意味を鑑みて付けているものとなっております。
…要するに訳しても意味は被らないことがほとんどです。第一話なんかは分かりやすいかもしれません。
にしても…まだ本当に書きたいキャラが書けない…というか出てきてない…うぅ…
…さて。それではまた次回お会いしましょう。
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