lord.-韜晦-
「くっ……!」
前回は不意打ちだったから良かったものの……今回は真っ向勝負。そこに相手の攻撃範囲が広いとなると……なかなか手を出せない。
【ふうん。動体追尾型かあ……れんれん、最高速って試した?】
「この距離でやれる範囲なら。視界に入った途端に蜂の巣にされかけたけど。」
【あちゃあ……】
何とか弾に当たらずに走ることは出来るだろうけど、それで攻撃が出来なければ意味がないわけで……
《ちょうどいい訓練相手じゃないか。昨日似たようなことをやったばかりだろう?》
《こっちの方がたちが悪いって。》
岩みたいに見えるものが飛んでくるならともかく、銃弾までは目で追い切れない。予備動作で何とかしろなんて、ゲームの中だけだ。さすがに撃つ前にラグはあるっぽいけど……
【射撃開始までコンマ2か3、だね。どのくらい動ける?】
「動き始めだと……道渡るくらいで終わりだと思う。」
「私は蜂の巣……」
【だよねえ。】
緊張感に欠けるような気もする奏。……真剣にリラックスしている、の方が近いかもしれない。
「……引き付けてみるか。」
「え?」
「動き続けてればギリギリ当たらないからさ、あいつの周りを動き続けてれば……」
少々無謀な提案を、黒葉は人差し指を立てて止めてきた。
「それは最後の手段。まだ他の考えよ?」
「……分かった。」
怪我をしても大丈夫。物を壊してもここの外に戻れば元通り。そうであったとしても、無理はしない……こういうところは昔から変わってないな。
「さあて。どうしよっか?」
こちらを捕捉していないときは微動だにしない相手を壁際からのぞき込みつつその隙を探るが……むしろ動かないからこそ隙がない。頭もないからどこを確認しているかも分からない、と……刀を握る手に汗が溜まるばかりだ。
……それにしても……よくこんな刀があるな……
《どうかしたか?》
《いや……よくこんな刀がほいほい出て来たなって思ってさ。》
《ふむ。……確かに、良い刀だ。》
黒葉の薙刀も、見たところかなりの業物……要するに、それだけの人材を雇えるほどの力がある、ってことか……
【熱探知じゃないのが幸い……あれ使う?】
「あれ?」
【スモークグレネード。普通のだと投げた直後に撃たれて爆発しそうだし。】
……それだけの力がある、ってことか……
《……危なっかしい物を……》
《刀だって十分危なっかしいって。》
ちなみに燐は……俺と黒葉が隠れている建物の屋根に座って面白そうに観戦している。見えないからって自由すぎるだろと言っても、おそらく聞き流されて終わるだろう。
「使ってみよっか。瑞希、お願い。」
【はいはーい。】
奏の声から半拍遅れる程度で、黒葉の手には円筒状のものが握られていた。レバーとピンが横に取り付けられた、まぎれもないスモークグレネードだ。
「じゃあ、8秒ね。ラスト三秒でカウント。」
「OK。」
答えを聞くが早いか、ドールから見えるであろう道路上へそれを頃がした。
瞬間、グレネードが弾丸に撃ち抜かれる。
「……速……」
「予定変更。このまま行くよ!追加お願い!」
【OK!合図任せた!】
駆け出した黒葉。その手には、次々とグレネードが送られてくる。それを投げながら前進し続け……ようやくこっちの射程にドールが入った。
《お前の仕事だ。奴の腕でも切り落としてやれ。》
《分かってる。》
煙の中とはいえ、目の前まで行って気付かれないとは思えない。黒葉の速度では反撃を食らうだろう。
あいつが気付く前に。黒葉が届くより前に。速く。速く。
刀が触れる寸前、ドールが俺を見た。
「遅い!」
一発の銃声と、肩を掠めた銃弾、手に伝わる確かな手応え、何かが風を切って飛ぶ音。そして、後ろからの声。
「頭下げて!」
俺の初陣は、頭上を石突きが通り抜ける音と共に幕を閉じた。
*
「おー。状況終了、っと。れんれんやるじゃん。」
「これで黒葉さんの負担も減りますね。」
あの奏滝とかいうのがいなければ、柚子香は撃たれていただろうか?いや。そんなはずはない。柚子香が誰かに劣るはず……
……バカ。認めなさい。嫉妬なんてらしくもない。
「瑞希、二人を回収。凪は能力を解除。」
「おっけー。」
【了解。】
戻ってきたらメディカルチェックを受けさせて……ああ、凪がまだあいつと会ってないから……全く。面倒くさいやつ。
「月咲。二人が戻ってきたら、柚子香に先にメディカルチェックを受けさせて。その間に凪と奏滝の顔合わせでもさせるわ。」
「分かりました。分析はどうしますか?」
「奏滝のデータだけなら帰投までに終わるでしょ。それ以外は暇そうな部署にでも回しなさい。」
「了解です。」
それにしても、これが二回目の能力使用?どう考えてもおかしい。嘘をついていると見て間違いない……か。柚子香に言っておかないと。
*
「……」
《何だ?どうかしたか?》
《え?あー……ちょっとさ。》
ドールが消えたのとほぼ時を同じくして、周囲に人や何やらが現れた。彼らの目からは俺達が突然出現したように見えると思ったんだけど、どうやらそういうわけでもない……というか、それを認識していない、というか……
《誰も不思議に思わないんだな。俺らがいきなり出て来たように見えたんじゃないのか?》
《それもあの空間の性質だ。……そうだな……彼らにとってさっきまでのお前達は、“そこにいることを知覚は出来ないが、認識はしている”扱いだった、と言えば分かるか?》
《……まあ何となくは。》
《それでいいさ。》
結局のところ、あのフィールドってのは何なんだろうか、と……しばらくの考察事項が決まったかな。
《お前達がフィールドと呼ぶ空間は、三途の川のど真ん中とも言える。それを踏まえた上で考えてみると良い。お前なりの結論が出るまでな。》
《……》
三途の川ねえ……
「どうだった?初めての戦闘は。」
「……よく分からん。」
「そっか。」
寂しげに笑い、どこか憂うようでもある黒葉。こんなことをずっと続けてきたのだろうか?それも一人で?
……たぶん、奏達がいるから一人じゃないよ、とか言うんだろう。けど、さっきまでここに立って、実際に戦っていたのは俺と黒葉だけだ。しかもそれを、彼女は受け入れている。
「怪我とかないよね?」
ちらっと俺の肩に目をやりながら聞いている。気付いていたらしい。あの中で、というのも恐ろしい話だな。
「どこも。お前は?」
「……大丈夫。」
どことなく不満げだ。そういえばさっきも、怪我を厭わないのが最後の手段だ、とか言ってたな。
「……傷が治れば全部元通り、なんて考えちゃ、だめだからね。」
「分かってる。」
「……ん。」
……見えない傷もある。彼女が一番、それを知っているからだろう。
さてさて。初の戦闘回を終えたわけですが、物語上でも第一部、もしくはプロローグの終了となります。
…書けてない重要人物がかなりいて、どんな風に出していくかを考えあぐねている状態ではありますが…細々続けていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。
それではまた次回、お会いしましょう