「……どうだ?」
「早くなってるよ、お兄ちゃん!」
吹雪くんが言う風を感じる特訓をして数日が経過した。
本来の目的である吹雪くんのスカウトが思った以上にあっさりと終わったのとエイリア学園の足取りが全く追えないのもあって白恋中での特訓を中心にしていて、今日成果の確認をした。
鬼道くんがドリブルで走り抜けるけれども何時も以上の速度を出している。無理矢理じゃなくてホントに極々普通の自然体で出していて吹雪くんが言っていた特訓は確かな成果があった。
「伊達に氷のストライカーの特訓じゃないみたいだな」
「土門くん、そっちの方はどうかしら?」
「ああ、全員早くなってるよ」
氷のストライカーの特訓に付き合った甲斐があった。
土門くんは良かったと笑っているのでDF陣も基本的なスピードなんかが向上しているかを聞けば特訓の成果はしっかりと出ている事を報告してくれる。
「後はエイリア学園ね……」
エイリア学園はサッカー部がある学校を襲撃している。
白恋中も最近になってサッカー部をサッカー協会に認知してもらっているから近い内に白恋中に来る可能性はある。でも、これで沖縄とかに行ったらどうしようもないわね。
「吹雪」
「なんだい、染岡くん?」
「俺と勝負しろ」
「ちょっと、染岡くん!」
「夏未さん、いいと思うよ」
全員が目に見えて分かるパワーアップをしていると実感している中で染岡くんが吹雪くんに挑みにいった。
まだ吹雪くんの事を認めてないの!?と止めに入ろうとしたけれども、冬花さんが戦わせる事に関して逆にいいという。
「染岡くんは1回ぶつかった方がいいと思うの」
「でも……」
「守くんなら、ぶつかってこいって言うよ?」
ただでさえ豪炎寺くんが抜けて色々とギスギスしている空気があるのに、吹雪くんとなにか大きな争いに巻き込まれたら大変。
冬花さんは染岡くんが吹雪くんと真っ向からの勝負をした方がいい、円堂くんならばきっとそうすると言われて想像するけれども円堂くんも同じ事を言い出しそうだとイメージが湧いた。
「えぇ……めんどうだな。僕がエースじゃダメなの?」
「エースは豪炎寺だ。だが、豪炎寺は今居ない。いくらセンスがあるからっていきなりエースストライカーになりますは俺は認めねえ!」
「……わかったよ。エースの座は欲しいからね、勝負しよう」
吹雪くんは最初嫌そうにするけれども、染岡くんの熱意に負けた。
エースにお互いにこだわりを持っているので譲ることは出来ない。譲らないからエースじゃない、譲れないからエースになれる。
エースストライカーの称号は自分が強いとかのエゴを持っておかないといけないところもあってある意味この2人にはお似合い。
「じゃあ、1本だけよ。今回はエースストライカーの称号をかけての戦いだから他のチームメイトとの連携は無しの1対1の勝負。平等にする為に古株さんがパスを渡すからそこからスタートよ」
凄くアレな話だけれど、こういう時も瞳子監督は協力してくれないわね。
瞳子監督、監督として有能なのは確かなのだけれども監督としてしか動こうとしない。私達選手が大丈夫かどうかの確認を一切しない。
「ほれ、いくぞ」
古株さんがボールを蹴った。
2人が競り合う事が出来る絶妙な位置にボールは飛んでいくけれども、吹雪くんは競り合いをしなかった。染岡くんがボールを受け取れば吹雪くんを強く睨む。
「吹雪、テメエ……」
やろうと思えば染岡くんと競り合いが出来たけれども吹雪くんはしなかった。
その事について染岡くんは手を抜いていると認識しているけれども吹雪くんは余裕を見せている。
「僕は攻撃だけじゃなく防御も出来る完璧な選手だからね……君からボールを奪ってそこからシュートをする、そうすれば君はなにも言えない筈だよ」
どうやら吹雪くんは真っ向から染岡くんを叩きのめす。
オフェンスでもディフェンスでも頼りになることが出来る完璧な選手だと見せつける為に。
「俺を止めれるもんなら止めてみろ!!」
「じゃあ、いくね……アイスグランド」
「マッスルシバリング!」
「なっ!?」
自分を止めてみろと言う染岡くんに対して十八番のアイスグランドを使う。
吹雪くんがどれだけの選手なのか見る際にはあっさりとやられていた染岡くんだったけど、この数日間なにもしていなかったわけじゃない。筋肉を振動させるマッスルシバリングでアイスグランドの凍結を防いだ……けれども、突破しない。
「どうした?試合の時みてえに燃えねえのか!」
ディフェンスの吹雪くんは落ち着いた状態に居るけれども、オフェンスの吹雪くんは荒々しいところがある。
オフェンスの時の吹雪くんが出てくるように染岡くんが挑発をする。吹雪くんがマフラーに手を当てた。オフェンスとディフェンスに切り替える際の吹雪くんのルーティーン、吹雪くんは繊細な動きからかけ離れた大胆な動きに切り替わる。
「誰が燃えてねえかってか!!俺は何時でも燃えてんだよ!!」
「来たか」
吹雪くんがオフェンスの時の状態に入れば染岡くんは待っていたのだとボールを足で押さえる。
吹雪くんがボールを奪いに行こうとすれば染岡くんはパワードリブルで走る。吹雪くんはそれに対して当然の如く追いついているけれども、染岡くんはまだ終わらない。
「はぁあああ!!」
「なっ、なんだと!?」
「染岡くんにはまだ化身が」
染岡くんの背後に化身が出現する。今まで化身を見せていなかったからか吹雪くんは慌てている。
戦極武神ムサシを出現させた染岡くん、吹雪くんはボールを奪いに行こうとするけれど化身を出している状態の選手からボールを奪うのは至難の技、さっきみたいに繊細で余裕がある吹雪くんならともかく今の吹雪くんには難しい。
「武神連斬!!」
染岡くんは武神連斬を決める……この技単体だけで見ればやっぱり染岡くんも豪炎寺くんに負けず劣らずの強さを持っていると感じさせられる。シュートはゴールに向かっていく、ここで吹雪くんとの試合は終わり、1対1の試合を見守っていた面々は思っていたけれども全員の予想は外れた。
「まだだ、まだだ!完璧な吹雪士郎を舐めんじゃねええええええ!!」
吹雪くんは武神連斬を蹴り返そうとする。
吹雪くんのキック力が強いのは分かっているけれども、それでも武神連斬は化身シュート、並大抵の方法じゃ無理。吹雪くんは染岡くんの武神連斬を蹴り返すのは不可能、そう思っていると……吹雪くんの背後から黒い靄の様なものが出現し武神連斬がブロックされた。
「そう来るだろうと思ってたぜ」
ブロックされてボールは空中を舞う。染岡くんは今の武神連斬で吹雪くんからゴールを奪えるとは思っていなかった。
染岡くんは足から白い龍を出した。白い龍は渦を描くかの様に動いておりボールの周りに纏わりついた。染岡くんは高くジャンプし
「ドラゴンブラスター!」
新しい必殺技、ドラゴンブラスターを決めた。
ボールは吹雪くんの横を通り過ぎてゴールに叩き込まれた…………
「これほどなんてって、顔をしてるね」
「ええ……流石に予想外よ」
この勝負、やっぱり吹雪くんが勝つんじゃないのかと冬花さん以外は思っていた。
私もいい勝負は出来るけれども染岡くんじゃ吹雪くんに勝てないと心の何処かで思っていたけれども、それを染岡くんが覆した。
染岡くんは勝ったと満足気に笑みを浮かべており、吹雪くんは膝を地面につけている。
「そんな、そんな……こんな、こんな事が……ありえるのか?僕は完璧な選手の筈なのに。攻撃もダメじゃ。防御もダメだと、僕はいったい……」
戦いが終わったけれども、吹雪くんは意識の切り替えが上手くいっていない。
明らかに吹雪くんが勝ちそうな展開の中での染岡くんの勝利、吹雪くんは敗北を受け入れるのに時間がかかっている。
「どう、すればいいのかしら?」
豪炎寺くんが抜けた穴を防ぐために吹雪くんのスカウトに来た。
その吹雪くんを認めないと染岡くんが吹雪くんに挑んで吹雪くんは染岡くんに負けた。これが何十回に1回起きるかもしれない偶然の1勝かどうかなんて関係無い、ホントに大事なところでの負けは負けだけれど……この場合は吹雪くんに対してどういう風に言葉をかければいいのかが分からない。円堂くんならなにかを言ってくれるだろうけど、思い浮かばない。
「まだだ……まだ終わっちゃいねえ!」
「ああ!そうだ!!今回は勝ったが次は負けるかもしれねえ!だが次も勝つ!お前に勝ち続けることで豪炎寺の抜けた穴を俺が埋める!」
「ストップ、ストップ!勝負は1回だけだよ!!」
吹雪くんがまだ終わっちゃいないと立ち直ろうとしたら染岡くんが立ち塞がる。
このまま2本目に行きそうな雰囲気を醸し出しているので秋さんが間に入った。多分、もう1回勝負したら色々と大変なことになってたかもしれない。
「……吹雪くん、染岡くん……このままじゃ2人ともエースストライカー失格だよ」
「なに!?」
「なんだと!?」
「2人とも、目先の欲に囚われてて大事な事を見失ってるよ?」
白熱している2人に水を差したのは冬花さん。
染岡くんと吹雪くんがエースストライカー失格と言い放つ、その理由は……
「なにもかも背負い過ぎよ」
なにもかも背負い過ぎている。
吹雪くんはオフェンスだけじゃなくディフェンスも完璧に出来る選手であろうとしている、染岡くんは豪炎寺くんの抜けた穴を防ぐ為に豪炎寺くんの代わりになろうとしている。確かに2人の言いたいことは主張は分かるけれども1人でなにもかも背負いすぎている。
「サッカーは1人でするものじゃないわ。エースの存在は必要だけれど、それでもワンマンチームじゃない筈よ」
1人でなにもかもを背負う思いはいいけれど、それだけじゃダメ。
サッカーはチームスポーツなんだから1人でなにもかも出来ればいいわけじゃない。
「「………」」
お互いに1人でなにもかも背負いすぎていることを言えば心当たりがあるのか無言になる。
私達に対してなにも言い返さないのは言われてみればそうだろうと自分の中で自問自答をしているから。
「た、大変だぁ〜吹雪くん!雷門中の皆、大変だよ!」
2人のギクシャクした関係性は続いている中で白恋中の生徒がやってきた。
なにかとても慌てており、手にはスマホが握られている。なにが大変なの?と思っていればその疑問は直ぐに解ける。
『白恋中サッカー部に告げる!次に襲撃するのはお前達の通う白恋中だ!』
「白恋中が、白恋中が標的にされたよ!」
「なっ……白恋中にまで……」
エイリア学園のジェミニストームのキャプテンであるレーゼが学校を壊した後で次は白恋中だと宣戦布告をする映像を見せられる。
吹雪くんや真人くんと言った強い選手は居るけれどもまだまだ無名の白恋中に対しての宣戦布告、そこまでするのかと吹雪くんは言葉を出せない。
「……次こそは……」
1回目はなにもすることが出来なかった、2回目は対応をするのに必死だった。
けど、今は違う。吹雪くんの指導のおかげで1回目のあの時から何段階もパワーアップをしている。これで今度こそ、今度こそエイリア学園を倒す。
「……このままで大丈夫なんすかね?」
「どうしたの?」
「エイリア学園が強すぎて……特訓してパワーアップしたのは分かったけど、自信が無くて……」
皆が思っていても言葉にしないことを壁山くんは口にした。
異次元の力を持っているエイリア学園を相手に心が折れかかっている……エイリア学園を実際に相手にした雷門中の面々は今度で終わりにする事が出来るのかを不安に思っている。
「……こんな時に、円堂くんが居てくれたら……」
「目金さん、それは言っちゃダメです!」
今、円堂くんはここには居ない。円堂くんならば私達に力を与える言葉をくれる。
でも、それは無理。今の円堂くんは両腕が折れていてプレイヤーとして使い物にならない。エイリア学園との激闘に備えてベンチメンバーに入っていない控え選手、何故か襲われていない帝国学園の選手を主体にバックアップメンバーと共にいる。
「何時までも円堂くんばかりじゃダメよ……」
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