教祖様になっちまったぜ   作:アルピ交通事務局

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心は覚えている

 

「円堂の隣の席が空いてるから、久遠そこに座れ」

 

「はい」

 

 なんで?

 

 俺の脳裏には何故に久遠冬花がここに居るのかが分からなかった。

 俺の記憶が間違いなければ、世界への挑戦編まで久遠冬花とは出会わない。アレスの天秤時空では影も形も無い。何故か知らないけれども、久遠冬花が居る……いや、死んでないのならばそれでいいんだけどさ。

 

「はじめまして、久遠冬花です」

 

「おぅ。俺、円堂守……よろしくな久遠」

 

 はじめまして……か。

 目の前に居る久遠冬花があの小野冬花ならば俺の事を覚えてる……って都合のいい話は存在しない。小野冬花から久遠冬花になったが為に色々と記憶がおかしくなっており俺の事を覚えていない。

 

 たった数ヶ月だったが、小野と過ごした時間は楽しかった。

 楽しかったから少しだけ心苦しい。俺にもっと力があればなんて思ったりするけども、仮に力があってもより強い力に負けてしまう。相手は世界の石油王だ。俺にはサッカーで勝つしか生き残る道は無いんだ

 

「円堂、守…………」

 

 改めての自己紹介をしてみれば少しだけ固まる。

 俺の名前になにか思い当たる節があるんだろう。催眠療法的なので記憶を弄くられてても心で覚えている部分があるんだろう。

 

「久遠、教科書はあるか?無いなら」

 

「冬花」

 

「え?」

 

「冬花って呼んで……守くん」

 

「あ〜うん、分かった」

 

「教科書は持ってないから貸してね」

 

「お、おぅ」

 

 なんかこう…………距離感が前よりも近い気がする。

 久遠じゃなくて冬花と呼べと言われたので冬花呼びに変える。前は小野呼びで今は冬花呼び、なんだか違和感がありまくりだ。

 

 1年生の頃に冬花と親しかった奴が冬花の事を覚えているとかそういう感じの展開は今のところは無い。

 芯があって元気のある子だったけども、今じゃ何処か落ち着いていて雰囲気が大幅に変わってしまっている。これも全部影山とガルシルドのせいだと思っておこう。

 

「円堂、鬼ごっこやろうぜ」

 

「いいぞ」

 

 筋トレやサッカーのトレーニングをする日としない日を決めている。

 練習漬けの日々も悪くないのだが休む時に休んでおかないと、心と肉体のケアに繋がらない。後、人付き合いとかもしておかないといけない。

 

「冬花も鬼ごっこやらないか?」

 

「うん……やりたい」

 

 今の冬花とどう接すればいいのかが俺にはよくわからない。

 取り敢えずは風丸が鬼ごっこに誘ってくれたのでそれに便乗する形で鬼ごっこに誘う。

 

「鬼は俺がやる……普通の鬼ごっこだ」

 

「げぇ、風丸からなの?」

 

「絶対直ぐ別の誰かにチェンジするやつじゃん」

 

「?」

 

 鬼ごっこ開始前に普通ならばジャンケンを行ったりするのだが風丸が鬼をやりたいという。

 他のクラスメート達は風丸が鬼になるのが嫌そうな顔をしている。そりゃそうだ、風丸はクラスで1番足が速い、足が速いだけじゃなくて持久力も凄まじい。普通の鬼ごっことか増え鬼で鬼になると結構強い。

 

「風丸は足が早いから気を付けるんだ……クラスで1番の瞬足だからな」

 

 冬花は皆が風丸が鬼をやるのを嫌そうにしている理由が分からないので教えておく。

 

「そうなのね」

 

「じゃあ、10数えるからバラバラになれよ……1,2」

 

 っと、風丸が数を数えはじめた。

 遊びとは言えども真剣にやらないといけない。筋トレ云々を除いても小学生の世界は何気に地獄だったりする……スポーツできない=陰キャ扱いされるとかいう地獄だからなぁ。

 

「風丸が見える位置はコレぐらいって、あの野郎!!」

 

「それで逃げてるつもりか、円堂!!」

 

 10秒数え終えた風丸が他を一切気にする事無く俺を狙いに来やがった。

 他にも位置的にも風丸の足ならば確実にタッチする事が出来ると言うのになんの迷いもなく俺を狙いに来やがった。

 

「馬鹿野郎、まだ本気を出してねえだけだよ!」

 

「待て、円堂!」

 

「鬼ごっこで待つ馬鹿が居ると思うなよ!」

 

 取り敢えずは逃げる。

 純粋な足の速さならば風丸の方が上だから普通に走っても意味は無い。体を傾けたり倉庫なんかの遮蔽物を利用したりするけども流石は風丸だ、普通に追いかけて来る。

 

「円堂来るんじゃねえ!」

 

「鬼ごっこは弱肉強食なんだよ!!相手を如何にして踏み台にするかも鬼ごっこの戦術だ!」

 

 中々に風丸を振り解く事が出来ないのでちょっと変化球を使う。

 風丸が俺を狙っているからホッとしている連中の元に向かって走って行く。俺1人に集中砲火されているならば風丸の意識を分散させればいい、ただそれだけの話だ…………話なんだけどなぁ………

 

「おまっ、確実にタッチする事が出来ただろう!」

 

「悪いが今日はお前狙いだ」

 

「くっそ」

 

 他の連中を狙いに行かせる作戦を練ったけれども、無理だった。

 風丸の野郎、最初から俺狙いで他を一切気にしていない。風丸の足ならば確実に他を捕まえる事が出来るって言うのに、俺狙いとは。

 

「タッチだ!」

 

「だ〜クソっ……」

 

「分かってると思うけど、俺を狙うの無しだからな」

 

 色々とあの手この手を尽くしてみたけども、風丸から逃げ切る事が出来なかった

 4分ぐらいずっとつけっぱなしで逃げようとはしてみたものの、足の速さとかは風丸の方が1枚上手で普通に負けてしまいタッチされてしまった。

 

 俺達のやっている鬼ごっこのルールは普通だ。

 タッチしたら鬼になる。ただ、タッチされた奴がタッチした奴にタッチをしかえすのは禁止である。つまりは俺は風丸をタッチする事が出来ないのである。スタミナ切れとか筋肉痛無しの風丸追い掛け回してタッチ出来るの俺ぐらいだからな。

 

「よし、まだ動けるな」

 

 風丸は足が早いから逃げるのには一苦労で普通に全力疾走を行っている。

 足に疲労感はあるけれども、まだ動くことが出来るとクラスの連中を追い掛け回す。風丸ならば手こずるけども、他の連中ならば簡単にタッチする事が出来る。風丸と激闘を繰り広げた後だが俺の体はまだまだ元気だったので割とあっさりとタッチする事に成功した。

 

「ふぅ、コレで少しは休める」

 

 風丸との全力ダッシュ鬼ごっこは割と疲れる。

 新しく鬼になった奴は他の奴を追いかけにいく。追い付くことが出来ないと分かっているのか風丸をタッチしに行こうとはしない……あ、冬花がタッチされた。

 

「冬花は……風丸狙いに行った!」

 

 距離的にもまだタッチ出来そうな奴が居るのに、なんの迷いもなく風丸をタッチしに行った。

 風丸は面白いと背を向けて走っていくのだが冬花もそれに負けないぐらい……風丸との差が徐々に徐々に詰められている。純粋な足の速さとかは風丸の方が上だけども倉庫とかの遮蔽物を避けたり曲がったりする時のブレーキのかけ方が上手い。

 

 最初に全力ダッシュで俺を狙いに来たから足の方が悲鳴を上げてるんだろうな。

 徐々に徐々に追い詰められていく風丸は最終的にはタッチされてしまった。

 

「円堂以外の奴にタッチされるなんて」

 

「スゴイでしょ」

 

 俺以外なら確実に逃げ切れると思っていた風丸は冬花にタッチされた事を悔しがる。

 最初に全力ダッシュで俺を追いかけて来たから本当の意味での全速力を出すことが出来ていない……が、それでも風丸の足は早い。そんな風丸をタッチする事が出来るとか冬花スゲえ……ってぇ!!

 

「また俺かよ!!」

 

 鬼になった風丸は迷いなく俺を狙いに来る。

 さっきみたいに他の奴等が居るところに向かってはみるが風丸は俺しか目に留まっていない。この野郎、俺との勝負をそんなに楽しみたいか。

 だけど分かってるぞ、純粋な足の速さならば風丸の方が上だけども持久力とかは俺の方が上なんだ。ガッツが違うんだよ、ガッツが。

 

「もらった!」

 

「クソっ……」

 

 とまぁ余裕ぶってみるものの俺の方も足はクタクタなのでさっきより時間は短いものの風丸にタッチされた。

 一点の爆発力ならば風丸の方が上……やっぱメインキャラなだけあるな。だけどもそれを理由に逃げていいルールは存在しない。

 

「ふぅ……疲れた」

 

 その後は俺が誰かをタッチして、その誰かが別の誰かをタッチして最終的には冬花がタッチされて風丸がタッチされて俺がタッチされるローテションみたいなのが生まれた。風丸の奴、最後の最後まで俺狙いを諦めなかったな。

 

「冬花、スゲえな。風丸相手に追いつくなんて」

 

「そうかな?」

 

 俺を追い掛け回して全力全開とは言えないけれども、それでも風丸の足は早い。

 マラソンとかなら結構勝つことが出来るんだけども真っ直ぐに走るだけの純粋な短距離走は1回も俺は風丸に勝つことが出来ていない。

 

「なんかスポーツでもやってるのか?」

 

「……スポーツ…………っ………」

 

 あ、なんか地雷を踏み抜いてしまったかもしれねえ。

 スポーツはやっていないと思うけども、それでも風丸を追い掛ける事が出来る足の速さや持久力はスゴい……もしかしたらクラスの女子で1番かもしれないな。

 

「ううん、なんにもやってないよ……守くんは?」

 

「俺はサッカー……って言ってもやってくれる奴全然居ないんだよな」

 

「サッカー……そっか、守くんはサッカーをやってるんだね」

 

「自己流でどっかに通ってるってわけじゃないけどな」

 

 まだまだ基礎訓練が足りないんだ。

 何処かでちゃんとした指導者に指導してほしいけれども、そんなコネは今の俺には存在しない。ネットと爺ちゃんのスゴ技特訓ノートだけが頼りだ。

 

「私、こっちの道だから……じゃあね、守くん」

 

「ああ、また明日」

 

 そんなこんなで家に帰る。

 

「……なんで冬花は居たんだろ?……」

 

 再会を果たすまで5年以上は掛かると思っていたのにあっさりと再会を果たした。

 しかし残念な事か記憶は消えていた。1年生の頃の僅かな時間が消え去っており、何処か物静かな雰囲気を醸し出していたけども……エルドラドやオーガ辺りがなんらかの介入をして未来を潰そうとしている?

 

 例えばそう、円堂ハルや円堂カノンの誕生を阻止する為になんらかの介入をして……いや、それは無理か。

 シャインは夏未、ダークは冬花が奥さんであり世界線は無数に存在している。円堂守や円堂大介を消さない限りは円堂ハルや円堂カノンの誕生を阻止する事は不可能で、円堂守も円堂大介も世界にとって重要な存在だかなんだかで下手に暗殺したりすれば滅ぼしたら並行世界のそのものが潰れる可能性があるとかいう設定だった筈だ。

 

「う〜ん…………考えても無駄か」

 

 俺みたいな凡人が頭を悩ませたところで限界がある。

 俺はアレだ。とにもかくにもサッカーで勝ちまくればいいんだ。これから色々な悪人が出てくるからサッカーで蹴散らす……サッカーは社会の地位を示す道具じゃない、戦争の道具でもない、ただ純粋に楽しむものな筈だけれど、それ言い出したら並行世界で超次元サッカーが流行ってないがLBXとか言うガンダムもどきが流行ってる世界のほうがもっとヤバいからな。

 

 あの世界、普通にヤバい。

 LBXで色々と事件を巻き起こしてたり代理戦争をさせたりしているのにLBXが発売禁止にならない。SAOの世界とかVRMMO関連で散々トラブルを起こしてて発禁したりしたけどもなんだかんだで別のが発売している世界もあるから気にしてたらキリが無いよな。

 

「ゲームが普通でよかったなぁ……」

 

 今日はトレーニングをしない休息日なので家に帰って宿題をすればテレビゲームをする。

 テレビゲームをするなんて円堂守らしくないと思われるだろうが、休む時にはキッチリと休む。4日に1回ぐらいは休息日、3週に1回は金土休みを設けている。そうじゃないと吉田祐広として限界が来る。普通にゲームとか漫画とか読みたいって思う。だって何処にでも居る工業高校の生徒だったんだもの。

 

 休む時に休むことが出来ないのもスポーツ選手として失格だ。

 幸いにもLEVEL5関係のゲーム以外の殆どは前の世界と大して変わらない、コロコロコミックじゃなくてジャンプとかも普通にある。デュエルマスターズじゃなくて遊戯王がある……割と嬉しい。

 

「しかし……普通のサッカーだな」

 

 超次元サッカーな世界のくせしてサッカーゲームは何処にでもある極々普通のサッカーである。

 イナズマイレブンは普通のサッカーゲームじゃないのを知ってはいるけれども、ゲームでは超次元な要素が少ない。キャプテン翼レベルの現実……いやまぁ、キャプテン翼も色々とアウトなんだけども。

 

 オフの日だから取り敢えずはゲームをやり続けておく。

 もっとこう生産的な趣味はしないのかとか言われそうだけれども、サッカーの時点で自分磨きは出来ているし肉体を鍛える事も出来ているんだ。

 

「お〜し、行くか」

 

 そんなこんなで休む日が終われば次は普通のサッカーの日だ。

 学校に行くのにもドリブルをしながら向かう。ドリブルしながらだから少しだけ早目に家を出て行かないといけない。最初の頃は遅刻しかけていたが今になっては普通に登校する事が出来る。

 

「あ、守くんおはよう」

 

「おはよう、冬花」

 

「……ドリブル?」

 

「ああ、ドリブルしながら登下校してるんだ」

 

 何時もと同じペースで登校していると冬花と出会う。

 サッカーボールを見て何をしているの?と冬花は首を傾げているのでドリブルしながら登下校している事を教えると無言になった……待って、分かんねえ。冬花の地雷が何処にあるのか分かんねえ。

 

「サッカー…………っ………守くん…………」

 

「大丈夫か!?」

 

 なんかのショックで記憶を取り戻しそうな冬花だが震えている。

 なにが原因でこうなっているかは流石に分かる。小野夫婦が死んだのを目の前で見てしまったからそのショックを、トラウマを思い出しそうになっている。コレはマズい……けど、けど、どうすればいいんだ……

 

「俺はここに居るぞ」

 

 過呼吸になってるならビニール袋の1つでも頭に被せればいいのだが、過呼吸は起きていない。

 取り敢えず出来そうな事は無いかと色々と考えてみた結果、手を握る事は出来ると手を繋いだ。

 

「守、くん……」

 

「なにがあったか分からねえし、俺になにが出来るか分かんねえけども手を握る事ぐらいは出来る……冬花、サッカーが怖いのか?」

 

「ううん、怖くない……サッカーを見ていると胸の中が暖かくなってくるの」

 

「そっか……」

 

 ……なんで冬花が再び戻ってきたのかは謎だけど、俺にも出来そうな事はある。

 エルドラドの介入かオーガの介入か、それとも俺が円堂守になったからこうなったのか……どれかは謎であるが、前に進むしか無い。80年ぐらいすればタイムマシンを作れるぐらいに優れた科学技術を持っている世界だけども。

 

「守くん」

 

「なんだ?」

 

「もうちょっと手を握っててくれないかな?」

 

「学校の前までな」

 

「うん」

 

 ドリブルによる登校が出来なくなったけれども、まぁ仕方がない事だ。

 冬花のトラウマと真剣に向かい合う事が出来ていない気もしなくもないけれども、俺に出来る精一杯の事はしていると思う……世界への挑戦編で冬花が記憶を思い出したら、最初から気付いていたけどもなにも言わなかったって言えば嫌われたりするんだろうな……。




冬花はどうして居るんでしょうね…………謎である。

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  • 10話ぐらい溜め込んで毎日1話ずつ出す
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  • 週一ぐらい
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