「…入って」
翔也が世界序列一位“星界の魔女”セラに正体を明かすと、翔也はいつの間にか木製の頑丈そうな扉の前にいた。翔也の驚愕をよそにセラは一言声を掛けてスタスタと
今いる場所もわからない以上、翔也はセラの言う事を聞くしかない。翔也はセラに習うようにして木製の扉の中に入った。
「…不思議だな」
翔也は今実際に目の当たりにした超常にぼやくように言った。『扉型のゲート』…しかも開けると言う工程を必要としない、そのまま突っ込んでいくタイプのものだ。例を挙げるならハリー◯ッターの魔法界への扉のようなイメージだろうか。
「…こんなのでセキュリティは働いてるのか?」
翔也のふと思いついた疑問にいつの間にか近くにいたセラが答える。
「…私の許可を持っていない人はどこかに飛んでいく」
「……どこへと言うのは聞かないでおこう」
翔也はそれ以上聞くのは藪蛇だと思ったのでそこで話を切った。
改めて部屋を見回す。アンティークな内装と部屋の7割占める本に重厚な机と大きな椅子が視界を埋め尽くしている。なかなか部屋は広いのだろうが本がそこらじゅうの床に置かれているせいでそれをあまり感じない。
翔也は転がっている本の一つを拾って題名を読み上げてみる。
「【これで貴方も完璧!パーフェクト会話術 第一sy─】」
「…駄目」
翔也が本の題名を読んでいると、いつの間にか正面にいたセラがその本を取り上げた。翔也は本を取り上げたセラの顔を覗き見る。すると先ほどまで静謐ささえ感じる無表情を維持していたセラは夕焼けと夜空のグラデーションのような瞳を少し揺らし、頬をほんのりと朱に染めている羞恥心を隠せていない表情をしていた。
「…恥ずかしいのか?」
「違う」
「いやでも─「違う」わかったわかった」
有無を言わせないセラの声色に翔也は諦めたように言う。
翔也はセラによって片付けられた本に埋もれていたソファに座り、優雅に紅茶を口に含んでいるセラをただただ見つめていた。ただ見惚れているわけではないただ、そういうのが当たり前かのようにセラへと視線が吸い込まれるのだ。
その理由がセラの美貌にあった。白雪のような肌。形の良い眉。瞼、瞳、鼻、頬、唇、耳、骨格、鎖骨、肩、胸、くびれ、etc…etc…。どれをとっても美しいと感じる容姿。それは一つの芸術とさえ感じるほどの…
「そろそろ話しても良いか?」
「…ずっと待ってた」
「…」
お前がそう言う雰囲気にしたんだろ…というツッコミをグッと飲み込んで翔也は口を開いた。
「まずは交渉の内容からだ。って言ってもお前はもう“分かってる”だろ」
「…ん」
「まあもう一度言っておこうか、俺から持ちかける交渉は“今から2年間、俺へ全面的に協力すること”だ。細かく説明するなら…セラとの1対1での模擬戦、学園が所持する渦への入場権、セラとの面会権などだ。そして対価は…─」
「…情報。今から3年間の事象や事件、特待生“神楽坂真司”の周りで起きるありとあらゆる可能性…」
「そうだ」
今繰り広げられる会話は第三者が聞いたら意味がわからないものだろう。しかし彼らは確かに通じ合っていた。
「さあどうする“星霊”。のるかそるか…ああ、別に断ったからってどうにかしようとしているわけじゃない。ゆっくり考えてくれ」
「………。どう私が答えるか分かってるクセに…」
普通なら信憑性に欠ける。しかしセラの前にいる浅野翔也と名乗る少年は明らか“普通”ではなかった。
【星霊】…300年ほど前人々に与えられた『加護』の他にエラへの抑止力として創られた人型の“世界の意思”。その目的は世界の守護…それのみ。そして、この星霊の存在を知る者は星霊であるセラ以外いない…その筈だった。
しかし彼が現れた。誰も知らない筈の星霊を知る存在。たったそれだけで奇怪な発言の信憑性が増してしまった。
そして情報は“有益すぎる”のだ。そしてその対価はセラ自身への実害はないときた。要するに…彼女はこの条件を飲み込むしかない。
「…答えは決まっているようだな」
「…ん。私…200年生きてるのに…掌の上だった…。“ショーヤ”の条件…のむ」
「ああ…じゃあこれからよろしく。“セラ”」
そう答えるのをはじめかわかっていたかのように翔也はそう言った。この交渉は鼻から翔也の掌の上だった。前世のゲームキャラの設定と、それに合わせたセラへの利害の調整…。そこに織り交ぜたセラが持つ“権能”の情報。それによって自らの持つ情報の信憑性、信頼性を持たせた。
「…本当に、ショーヤには一体何が見えているの?」
「未来ではないことは確かだな」
「…からかってる?」
「冗談だ」
「……これからは協力者。ショーヤが私のことを知っていて、私がショーヤのことを知っていないのはアンフェア…」
セラは自身の情報をずっと持たれたままでは揶揄われ続けると思ったらしい。勿論翔也という男の情報を得るという理由もあるが。200年生きてきて子供に揶揄われ続けるというのは相当セラの心に響いてしまったらしい。
気のせいか初めに会った時より少し不満気に眉が下がっているような気がする。
「…“契約”してくれるなら話しても良いぞ?」
「………そんなに重要な事なの…?」
「世間に出して良い情報だけではないことは確かだ」
そう言うとセラは少し考えたのちに手を軽く動かす。すると先ほどゲートに入って真正面にあった重厚な机の棚から一枚の紙が飛び出してきた。その紙はセラが座っているソファの前にある机の前に置かれる。
流石、星霊というべきだろうか星気を手足のように扱うのを見ると次元が違うと地肌で感じる。
「…“契約書”か。常備してるのか?」
契約書…ただの紙に見えるが星道具の一つで、魔法陣の書かれた反対側に契約内容を書く事で契約者同士の魂を結びつけるものだ。これの同意には血印と本心からの宣言が必要でその危険性を物語っている。
しかしその効力は保証されており、契約に反故した場合その契約者はペナルティを受けなければならない。又その相手を故意に殺した場合殺した側の魂は修復が不可能なレベルにズタズタになる。良くて植物人間。悪くて死である。
「…この学園の教師は大抵常備してる。常識…」
「違うと思うが…」
契約書を常備だなんて聞いた事ないと翔也は内心ぼやく。契約書は使い方を間違えれば人生を棒に振る可能性すらある星道具だ。それを常備するなんて正気の沙汰ではない。
「……できた。確認して」
「…ああ」
翔也はセラから渡された契約書を掴み、内容を読み始める。内容としては双方で共有された情報は相手の許可がない限り他言してはいけない…というものだ。ちなみにそれを破った場合の罰則もしっかりと書かれている。
「不備はない」
翔也はそう言って左手に呼び出した純黒の剣で右手の人差し指を傷つける。それで溢れてきた少量の血を机に置いた契約書に押し付け血印を押す。あとは宣言をすれば契約終了だ。
「…“我、契約に従い…ここに縁を結ぶ”」
「“我、契約に従いここに縁を結ぶ”……─うおっ」
翔也はセラに従い“宣言”をすると、突然契約書が星気によって輝き出す。そして一筋の光線が自身の胸へと突き刺さったのを見て思わず声を上げた。それに伴って起こる内側からのこそばゆい感覚に形容し難い不快感を覚える。
「…少し、気分が悪いな…」
「…大丈夫?」
「ああ、一時的なものだろう」
翔也がそう言っている間にもその不快感は静まりを見せていた。やはり一時的なものだったか…と翔也は内心溜め息を吐いた。
「ふう…何から聞きたいんだ?」
翔也は早速話を持ち出した。ここまで翔也が協力的なのは理由がある。それは原作メインキャラの死亡回避である。翔也は自身をイレギュラーとしてそれによってどんな変化が起こるのかがわからなかったのだ。なのでこの学園1の権力者兼この世界の最終兵器であるセラは味方にしておきたかったと考えた。
要するに最強の協力者を利用して原作キャラが死なないようにしようという誰でも思いつくような作戦だ。
「…聖女のことから」
「俺のことが知りたいんじゃなかったのか?」
「………。それは後で…。さっきは……話して…」
揶揄われたのが悔しかった。とは口が裂けても言えないセラは翔也を急かすことで無理矢理話を逸らした。
「わかった…。さっきアウレリアを襲った奴らの組織はアポカリプスで間違いない」
「…アポカリプス…?」
「裏に根をはやしている組織だ。そして【黙示録の獣】の召喚を目的とする奴等でもある」
「黙示録…!?」
セラは目を大きく見開いて驚愕する。それほどまでにこの情報は彼女に衝撃を与えたのだろう。
黙示録の獣とは、新約聖書の最後の聖典の『ヨハネの黙示録』に出てくる666番目の獣だ。ソレは終末に至る過程に置いて、地獄より顕現し地上を支配すると言われている。
─思慮のある人は考えてほしい
この数字は終末の獣の烙印であり、その獣を意味する数字である
その数字とは666である
これはヨハネの黙示録の中でも特に有名な一節であり、ソレがどれほどの存在と想像するのは安易だ。
「落ち着け」
「…………わかった」
セラはすーはーと自分を落ち着かせるために深呼吸する。そして翔也は落ち着いた頃を見計らって話を再開する。
「続けるぞ。…アポカリプスの目的は聖女の能力の封印だ。殺した場合、新しい聖女が生まれる可能性があるからな」
「……封印」
「ああ、外部から他所の人間を迎え入れる…星天学園の試験日の今日を狙ったんだ」
「………まって。…なんで、その組織は彼女が学園に残る事を知っていたの?……まさか」
「ああ…そのまさかだ。この学園にはスパイが居る」
翔也がそう言った途端、何かに押しつぶされるような重圧が彼を襲った。
「ぐっ」
セラは憤っていた。アウレリアを危険な目に合わせようとした組織に。そしてそれを招くことになった浅はかな自分に。その怒りに部屋に充満した星気が呼応する。
これ以上は危険だと感じた翔也はセラを落ち着かせるために口を開く。
「……落ち着け。これ以上はこの空間が持たないぞ……。それに、今は怒るよりも…その後の対処のほうが大事だ。力を持つ、お前なら尚更だ…」
翔也が苦し紛れにそういうと少しずつさっきまで感じていた重圧がおさまってきた。
「…………ごめん。あなたの言う通り…」
セラは申し訳ないと思っているのか顔を伏せたままそう言った。翔也は溜め息混じりに口を開く。
「はあ………話を続けるぞ。取り敢えず…お前はこれから常に監視されていると思いながら過ごさなければいけないぞ。…ちなみに俺はスパイは誰と言うのは知らないからな。無駄な期待はするな」
「……ん。…それについてはわかった。次はあなたのこと…聞かせて。…なんでそんなことを知っているのか…そして“彼”のことを知っているのか…」
セラは自身を落ち着かせるために飲んでいた紅茶のカップを机に置いてそう言った。翔也は少し考えるように間を開けてから口を開く。
「…それは俺が転生者だからだ。なんの因果か、世界の意思だか、神の意思だかは知れないが俺は違う世界の記憶を持っている」
「……違う世界?…でも…それじゃあ……」
「ああ、説明にはならない。まあ、結論から言うなら“この世界はゲームをベースにした世界だ”」
「ゲーム……?」
「今のところ前世でやったゲームとの差異はないな。だからこそお前の正体、力のことも知っていたわけだ」
「……………」
そう言われたセラはピシッと石のように固まる。そうしてしばらく固まった後ようやく口を開いた。
「……ずるい…」
「は?」
「………ずるい…最初から、出来レースだった……」
翔也はセラは自分の前知識として自身のことを知っていたからこの交渉は最初から彼の掌の上だったと言っていることを瞬時に理解した。
翔也はその様子を見てつい笑いが出る。
「…未来は読めても人の心は読めないんだな」
「!」
スパイの件を合わせた翔也の皮肉にセラはズモモ…と音がしそうなほど不機嫌なオーラが漏れ出している。翔也は紅茶を啜りつつセラのジト目を受け流す。どうやら自分にはSの素質があったらしいと翔也は心の中でつぶやいた。
「……模擬戦…ぼこぼこにする…」
「口で勝てないからって強硬手段に出るなよ」
思ったよりも幼稚な手段を選んだセラに翔也は思わず突っ込む。
「……今から…」
「は?ちょ、俺、今から帰るんだけ─「逃がさない…」…おい。そんなことで星気使うなよ。って、本当にやるのか?おい。待てよ!!!」
静止を聞かないセラへの訴えは夜の学園に儚く消えていった。
たんたかたん
みんなが丁度いいと思う1話の文字数は?
-
1000〜2000文字
-
2000〜4000文字
-
4000〜6000文字
-
6000〜8000文字
-
8000〜10000文字
-
10000〜12000文字
-
12000文字以上