父親、社会人、そして少女   作:ニセ神主

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第6話

 

 

「う、おぉぉ……」

 

 目の前の光景に、自然と声が漏れる。

 柔らかな照明の下に照らされて展示されている数々に、罪悪感と羞恥心から顔を背けてしまいたくなる。

 しかしこの困難とも呼べるこの場から逃げてしまうことを、きっと香澄は許さないだろう。そしてそんなことしても直ぐ様捕まえにくるはずだ。

 

「ほら、早く行くよ」

 

 先に店内へと入っていた香澄が私を呼ぶ。

 その隣では既に事情を説明済みなのか、若い店員さんがまるで愛玩動物を見るような微笑みを浮かべながら私の入店を見守っている。

 

 ──この歳になって、まさかこんな窮地に立たされることになるとは。

 

 

「……やっぱまた今度にしないか?」

 

 きっと無理だろうなと思いつつも、ダメ元で香澄に提案する。

 

「あぁもう、女々しいなぁ! 下着買うくらいでビクビクしないの!」 

 

 そう。私は今、女性用の下着を売っている店舗に来ていた。

 

「無茶言うな……」

 

 やはり身体が女になっていると言っても、私の精神は男のままなわけで、女性用の店に入るのは気遅れというか背徳感があって抵抗してしまう。

 

「さっき家で渡した下着は問題なく着てたじゃん!」

 

「いや、あんな色気のないものは大丈夫……」

 

「ハァ⁉︎」

 

 言った瞬間マズいと思ったが、時既に遅し。慌てて口を噤むも、怒り心頭といった表情で香澄が詰め寄ってくる。

 

「せっかく予備の新品渡したのに……もう怒った!店員さーん! この子のサイズ測ってとびきり可愛いの着させて下さーい!」

 

「ちょ、香澄⁉︎」

 

 香澄が鼻息荒く私の腕を引っ張り、無理矢理にでも店内に連れ込もうとする。先程の私の失言を受けてより意固地になったのか、その力は今の私では到底抗いきれるものではなく、ズリズリと引き摺られていく。

 

「任せて下さい! 従業員一同、腕によりをかけて妹さんにピッタリのを選びましょう!」

 

 いつの間に集まったのか、数人の店員さんが目を輝かせて手招きしながら連れ込まれる私を待ち構えていた。

 

 ──えぇい、任されんでいい!それに妹ではない!

 

 そんな私の抵抗などやはり無意味で、私の身柄が店員さん達へと引き渡されると、そのまま続けて引きづられながら中へと連れ込まれてしまう。

 

「おのれ、香澄ぃぃぃ⁉︎」

 

「ばいば〜い。私はあっちのカフェで休んでるから、終わったら来てね」

 

 私の訴えも虚しく、あろうことか香澄は引きずられる私の姿を携帯電話のカメラで写真を撮ると、楽しげに手を振って立ち去っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、おかえりー。どうだった?」

 

 精魂尽き果てヨロヨロとした足取りで指定されたカフェへと向かうと、そこにはニヤニヤと笑みを浮かべた香澄がケーキを頬張りながら待っていた。

 

「……おかげで散々な目に遭った」

 

「まぁまぁ。とりあえず目的は達成出来たから良かったじゃない」

 

 香澄の前の席に座り、荷物を傍らに置きながら非難めいた視線を香澄に向けるもやはり効果はないらしい。ケーキの最後の一口を頬張り紅茶を飲みながらホッと一息つく香澄に、反省の二文字は存在しないようだ。

 

 

「しっかし、その紙袋は何? そんなにいっぱい下着買ったの?」

 

「そんなわけないだろう」

 

 揶揄うような香澄を一瞥し、私は座席の傍らに置かれた紙袋を漁って香澄の疑問に答えるようにその中身を取り出す。

 

「どうやら店員さんが騒ぎすぎたせいか、途中から隣の服屋の店員さんまでやって来て色々着させられたんだ」

 

 そう言いながら取り出したのは、その時に試着した数セットの服。

 

「何着か着させられて、その中でも店員さん達の評判が良かった組み合わせをついでに買ってみたんだが……どうだろうか?」

 

 女性の──それこそ中学高校生ぐらいの子達の服装の良し悪しなんて私には分からないため、勧められるがままに買ってしまったが、変ではないだろうか。

 仕事中は背広だし、普段着は主にトレーナーやシャツを着てるからそこらへんの価値観がまるで分からん。

 

「うん、凄く可愛い──って、よく見たらこれ最近流行りの新作じゃん!」

 

 香澄が驚いたような声を上げる。

 

「あぁそれか。店員さんに写真を何枚か撮らせたらオマケでくれたんだ。

 あげてもいいか?と聞かれてな。よく分からないから好きにしてくれと言ったら、そのお礼って」

 

「え"っ」

 

「しかし最近の服屋は気前が良いんだな! 父さん知らなかったよ」

 

 他にも何点か試着した写真を撮らせることで、かなり値引された金額で服を手に入れることが出来たことを誇らしげに語ると、何故か香澄が深い溜め息を吐く。

 

「どうした?」

 

「ううん……家に帰ってから話すわ」

 

 そう言って何やら携帯電話を操作したかと思えば、「やっぱり……」と呟いて再び大きな溜め息を吐く。

 

「そ、そうか……しかし意外だったな。朝のお前の様子だとてっきり私の下着や服はお前が選ぶものかと思っていたんだが」

 

 香澄の様子に一抹の不安を感じて話題を変えようと、そう溢す。

 

「あはは……ホントは選びたかったけどお父さ──優ちゃんの性格だったら私が選んでもどうせ絶対反対して買わなかったでしょ? だったら最初から店員さん達に任せた方がいいかなーって」

 

「なるほど……確かに」

 

 そう言われると確かに香澄が勧めるのと店員さんが勧めるのとでは、何というか説得力が違う。

 

「確かにって……さすがに傷付くって優ちゃん」

 

「喧しい。朝の自分の姿を省みなさい」

 

「クッソぐうの音も出ねぇ……!」

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