白い邪神、ゆるすまじ   作:下半身のリキキリン(サイズXS)

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ポケモンでラブコメを書こうとしたら、脳内の美〇明〇が無言で微笑みながら首を横に振ったのでこうなった。


黒い死神を知っているか

 黒い死神を知っているか。

 

 ある者は言った。

 噂なら知っている、と。

 

 ある者は鼻で笑いながら言った。

 そんな馬鹿げたものは実在していない、と。

 

 災厄によって世界が破滅の危機を迎えるとき、それは必ず姿を(あらわ)すと、(いにしえ)の時代から脈々と言い伝えられているポケモン使いの伝承がある。

 ()の者は、喪服のような飾り気のない黒衣と目元を隠す色眼鏡をして、大きな革製のトランクケースを肩から担ぎ、不敵な笑みを絶えず(こぼ)しながら、混沌の炎に吞まれゆく大地を悠々と闊歩する。

 不吉な災禍に引き寄せられるように顕現するそれは、まるで魂を狩りに訪れた黒き死神のようであった。

 世に終焉を(もたら)す不吉な鴉の如き畏怖の象徴として、古今東西を問わず、現代に於いても多くの人々から広く忌避されている存在こそが〝黒い死神〟と呼ばれる伝承であり、また(いぶか)しき都市伝説の様相であった。

 

 ある者は興味深そうに言った。

 死神の手持ちは鋼ポケモンで構成されているらしい。

 

 ある者は唸りながらに言った。

 ポケモンバトルの腕前はとんでもなく強いと聞いた。

 

 チャンピオンですら勝てなかったらしい、と。

 

 黒い死神は、鋼の属性で統一された無類の強さを誇るポケモンたちを従えていた。

 鍛え抜かれた圧倒的な実力を(ともな)う鋼ポケモンと、相手の戦術を読み切る思考力と観察眼の前に、多くの名だたるポケモン使いが敗れ去った──。

 これはシンオウ地方にあるミオ図書館という施設にて、厳重に保管されている古い蔵書に記された黒い死神と(おぼ)しき者に関する一節である。同様の内容が記載されている文書がカロス地方にも現存しており、どちらも数百年かそれ以上の時代を遡る歴史的な古書であった。

 黒い死神の戦歴の詳細が書かれた文献は残されておらず、衆目に晒された(おおやけ)の場でポケモンバトルをする機会には恵まれなかったことが窺える。

 

 しかし、黒い死神は確かに戦っていた。

 数多の強者たちに正面から挑み、力づくで捻じ伏せていた。

 世代を超えても(なお)その名を大陸に轟かせる(かつ)ての凄腕のポケモントレーナーたちの不可解な引退や失踪の憂き目には、黒い死神らしき人物の目撃情報が相次いだと聞く。二度とポケモントレーナーとして再起できぬように、自尊心を完膚なきまでに砕き、彼らを絶望の淵へ突き落としたのは、紛れもなく黒い死神だったのだろう。

 

 黒い死神の目的は不明である。

 ある時はポケモンリーグに所属するポケモントレーナーを相手に屈辱的な敗北を一方的に与え、ある時は裏社会に蔓延(はびこ)る闇の組織を単独で壊滅させ、ある時は太古から目醒めた伝説のポケモンと対峙し、果てには〝神〟と呼ぶべき大いなる存在にすら牙を剝いて挑んだと云う。

 

 だからこそ、多くの者は断言するのだ。

 そんな出鱈目(でたらめ)なヤツいてたまるか、と。

 

 所詮は御伽噺(おとぎばなし)である。誰も本気で信じてはいない。ベッドの上で目を輝かせる我が子が寝息を立てるまで、母が読み聞かせる絵本の中の(つたな)い英雄譚にも劣る。

 

 だからこそ、信じるか否かの是非を問うのではなく、漠然と訊き続けることに専念した。

 

 黒い死神を知っているか、と。

 

 無意義ではなかった。意味は大いにあったと言える。

 誰もが出来の悪い虚妄と笑い飛ばすようになった古来の伝承に、時として真摯に受け止める稀有な者たちがいた。

 

 まるで、実際に出遭(であ)ったことがあるように、あるいは一緒(とも)に旅をしたことがあるように、(いた)く懐かしみながら思い出を徒然と語り、やがて最後には口を揃えて「また会いたい」と締め(くく)る。

 会いたいが、簡単には会えない。

 そういう男なんだ、と寂しそうに目を細める。

 黒い死神と同一視される一人の男性について、縁を結んだ者たちの中にさしたる共通点はない。生まれた場所も、過ごした時間も、所属する組織も、好きなポケモンも、まるで違う。

 修行に明け暮れるポケモントレーナーであったり、研究に追われる学者であったり、慈善団体を統括するリーダーであったり、世界的な大企業の社長であったり、はたまたポケモンリーグの頂点に立つチャンピオンであったり、名実ともに最強と謳われるポケモントレーナーであったり、鋼タイプのジムリーダーを務める若い乙女であったり──……。

 

 黒い死神を知っているのか。

 

 彼女は言った。

 知っています、と。

 

 (かげ)りなき真っ直ぐな言葉で、窓の外に広がる青い水平線の向こう側を見つめては寂しそうに目を閉じて、またほんの少しだけ恥ずかしそうに頬を染めてから。

 

 自慢の兄です、と笑った。

 




プロローグとブロロロームは似てるって話はしましたっけ。
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