異世界で宇宙戦艦をゲットした時に起きる事 -サプライズ宇宙戦艦理論-   作:デュアン

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思わぬ再会

 思い立ったが吉日、案ずるより産むが易し、俺はハルメスに訪れる。

 反重力式の箒に二ケツして白昼堂々と城へと入っていく。兵士達が大騒ぎして攻撃してくるが悉くシールドによって阻まれ、通路を塞ごうとするもショックガンで次々と気絶する。

 今日は聖女達とは会わなかった。兵士の悔しそうな呟きによれば、どうやら魔王軍の突然の撤退を調査するべく西に赴いているらしい。

 その原因は今まさにここに居る訳だが、まあ面倒があちらから遠ざかってくれたのだ。タイミングの良さに感謝しよう。

 

 そうして禁書庫に辿り着き、出入口をシールドで覆って悠々と探す。今度はミズリにも手伝って貰えるので作業はより速く進んでいた。

 

「マスター、こちらを」

「……おお、これは」

 

 早速見つけた様だ。俺は促されるままにそれを読む。

 そこに載っていたのはまさしく俺が探していた物───異世界召喚の方法であった。持ち帰るのも面倒なのでこの場で読み進めていく。

 だが───読んでいくうちに、俺の表情は険しくなっていった。

 

「マジか……マジかー……」

 

 異世界召喚。異世界人にはイルミスの人間が殆ど保持していない"スキル"の才能を保持しており、魔素に触れさせる事でそれは覚醒する。俺の様な例外は居るには居るが。

 そんな彼らを召喚し、戦力として使う。それがこの魔法の目的だ。かつての大魔王を倒す為にも使用され、その際に召喚された者達の中の一人が"勇者"のスキルを保有していた。彼が伝説に伝わる勇者である。

 さて、そんな魔法ではあるがデメリットも大きい。

 発動に多大なる魔力が必要になる点もあるが───最も大きいのは生贄が要るという点だ。一人につき一人分の心臓が要る。俺達は40人弱で召喚されたのだから、その時はそれだけの数の人間が死んだという事になる。

 

「駄目だ駄目だこんな魔法! 却下!」

 

 こんな魔法で帰ったとして、きっと俺は後悔する。例え対象があの聖女や安田だったとしても、だ。人を殺したという事実は俺の脳にこびりついて離さないだろう。元の日常には戻れない。心から憎んでいる相手のせいで俺の日常が脅かされる、これ程あほらしい事はあるまい。

 それに、この本には魔法を発動させる方法は載っていても世界の指定の方法は載っていない。もしこの魔法を応用して帰ったとして、その先が地球だという確証はないのだ。

 という訳で他の本を探ってみる。だが、目ぼしい物は見当たらない。

 結局、今回の襲撃は完全に徒労に終わったのである。

 

───────

 

 さて、ハルメスから抜け出した俺は心機一転して買い物をしていた。

 

「これと……これなんかもいいかな」

「マスター、こちらは如何でしょうか」

「おお良い感じ。これも買おうか」

 

 場所は南、レファテイン王国のある大陸───ゲリュバテス大陸とコントリール海を挟んだ場所にある大陸、ニルシエント大陸北部の港町、ソーマニアである。

 そこで何を買うかといえば、作物である。ここには様々な場所から船で様々な作物が届くのだ。魔法のお陰で新鮮なそれも腐る事なく運ぶ事が可能であり、数多くある屋台には魚介類だけでなく色鮮やかな果実や野菜、穀物が並べられていた。

 

「魔石を取っといて正解だったな」

 

 ダンジョン探索で得た魔石、アレを全て売り払ったお陰で今マトモに買い物が出来ているのである。あの時の判断に感謝だ。

 さて、何故今俺達がこんな事をしているかといえば、魔界の為である。

 魔界は確かに日光が射す様になったが、それだけで全てが解決する訳ではない。魔界で育てられている作物の多くは日光を殆ど必要としない物だ。だがそれでは収穫量は落ち、またこれからの太陽の下で上手く育つかは分からない。だからこそ、俺が持っていく必要があるのだ。

 人間界から魔王軍を撤退させたのは俺である。この位はしておくべきだと俺の良心が言っていた。

 

「ミズリ、頼む」

「了解しました」

 

 買ったそれらをミズーリ艦内に持ち込み、艦内工場に入れる。そこで行われるのはゲノム編集による品種改良であり、魔界の土地に合ってかつ成長が早く収穫量の多い物へと変えるのだ。

 現代日本では忌避されている技術だが、このミズーリの技術力ならば確実な安全性を担保する事が出来る。魔界の生物や魔族に対する毒性の有無も既に確認済みだ。

 そうして完成した種子を量産し、魔界へ持っていく。本来ならば外部からの生物の持ち込みは生態系の破壊に繋がるが、今の魔界にそんな事を気にする余裕は無く、またそもそも大した植物も生えていないのであまり問題にはならないだろう、それがミズリの見解だった。

 

「これが……その麦ですか?」

「ええ、春と秋に植えて下さい」

 

 ある村に行き、作物の説明をする。長らく曇りしか来なかった世界の住人にとって日光を前提とした作物を育てる為には専門家の説明が必要であり、そしてそれが出来るのは俺かミズリしか居なかった。一応デルデオーラやその部下などにもマニュアルを渡しているがそれでも人数は一人でも多く必要だった。

 一年に二度収穫出来る麦、野菜、果実。日本人としては米を勧めたい所だがあれは水が豊富にある場所でなければ育てられないので止む無く断念した。

 

「ふう、こんな物かな」

「お疲れ様です」

 

 説明を終え、念の為に紙のマニュアルも渡した所で一息つく。正直自分がやる事ではないようにも思えるが達也の場所が分かるまでは暇であるし、その間の時間を持て余す位ならば人の役に立つ事をしたかった。人ではなく魔族だが。まあ、所詮は独り善がりな行動ではあるが、やっている分には気持ちがいい。

 今、俺は少し変装をして魔族だと思わせている。もしこの技術が人間から貰った物なのだと知ったら彼らは何を思うのだろうか。

 そんな事を考えながらその辺にあった岩に腰かけていると、村長である初老の男が近付いて来る。

 

「サクライ様、今日は本当にありがとうございますですじゃ」

「いえ、貴方こそ村人を取り纏めてくれてありがとうございます」

「魔王様から話は聞いておりましたから、この位は当然ですじゃ」

 

 特徴的な語尾の彼は、穏やかな表情を崩さずに言う。

 

「所で、サクライ様にお会いして頂きたい者が居るのですじゃ」

「会ってほしい人?」

「ええ、その者は今出かけておりまして。そろそろ帰ってくる筈ですじゃ」

 

 俺は促されるままに彼に着いていく。

 この村から少し行った所に例の毒の森がある。彼が言うには件の者は耐毒スキルを持っており、定期的にその森に潜ってはそこのしか無い貴重な資源を採ってくるのだという。

 今回出かけたのは三日前、いつもならばそろそろ帰ってくる頃らしい。

 

「サクライ様は───人間ですよね?」

「……」

 

 歩いていると、彼は不意にそんな事を言う。俺は沈黙で返したがその動揺は隠せていただろうか。

 そんな俺の思考を察したのか彼はフォローを入れてくる。

 

「ご安心ください、今から会わせたい男も同じ人間なのですじゃ」

「……なるほど」

「我々は人間とはいえ我々と何ら変わらないメンタリティを持っている事を知っています、今更人間だからといって忌避するつもりはありませんですじゃ」

 

 人間。魔界においてその種族が存在する理由はほぼ全てが魔王軍によって食用として連れてこられたという物だけだ。

 ならば、その中の一人が逃げ出したのだろうか。それとも達也が使った様なテレポート装置が他にもあり、偶然そこから来てしまったのだろうか。

 

───結果から言うと、俺の予想は全て外れていた。そして、ある根幹的な予測ですらもそれによって外される事となった。

 

「おお、帰ってきましたぞ」

「へえ……?」

 

 村の入り口に立ち、件の人間を村長と共に出迎える。

 だが、その見えた姿を見て俺は言葉を失った。

 

「村長、何故雲が───は」

 

 何故ならば───いかつい髭面に野太い声、腐ったおっさんといった見た目をしているその姿は、俺にとっては非常に見慣れていて───そして、絶対にこの世界では遭う筈の無い物だったのだから。

 

「松本……先生……?」

「お、前……櫻井……か?」

 

 俺達の担任であり、そして共に召喚された世界史教師。召喚直後に聖女に反発して強制的に元の世界に帰された───筈の男。

 松本先生。少し老け込んでかつ筋肉がついてはいるが、その声や雰囲気は変わらない。

 

「おや、お知り合いでしたかな?」

「は、はい。すみませんが、少し二人で話させてもらってもいいでしょうか」

「ええ、ええ。随分と久しい再会の様ですし積もる話もあるでしょう。ゆっくりとしてくだされですじゃ」

 

 そう言うと、村長は村の中に戻っていく。それを見送り、続けて彼は俺を強く抱きしめた。

 

「お前……本当に無事でよかった……!」

「せ、先生」

「こんな過酷な世界で子供が放り出されて、心配したんだぞ……!」

 

 彼の言葉がぶつぶつと途切れる。ぽたり、ぽたりと地面に染みが出来ていく。地球では想像すらしなかった光景が今、この場で行われていた。

 いつも淡々と授業を進め、愛嬌という言葉から世界一無縁とまで思っていた彼は、どうやら俺達が思っていたよりもずっと情感深い人だったらしい。

 

「あ……」

 

 きゅっ、と喉が詰まる。胸が、息が苦しい。抱き締められているからではない。

 

「先生、俺」

「何も言うな。何も……言わなくていい」

「う……ぁ……」

 

 気付けば俺は、泣いていた。

 雲が晴れた。陽光が照らす下、俺は久しぶりに心配された。




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