異世界で宇宙戦艦をゲットした時に起きる事 -サプライズ宇宙戦艦理論-   作:デュアン

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決戦開始

「高エネルギー体接近‼ 避けて下さい‼」

「分かってる‼」

 

 ハルメスへと近付いた俺達を迎えたのは金色のビームであった。様々な計器、ミズリ、そして俺の本能が危機を告げる中必死に操縦桿を動かすが、ビームは俺達を捉えて離さない。

 

「うおおッ⁉」

 

 ガクン。機体が大きく揺れる。確認するとシールドがビームを受け止めており──されど、耐えきれるかは未知数だった。

 悪い予感という物はえてして当たるものである。

 

「──ッ⁉」

「うわあああっ⁉」

 

 瞬間、強烈な爆音と共に振動が俺達を襲う──被弾したのだ。これまで無敵の防御だと思っていたシールドが破られたのである。片翼がもぎ取られ、機関出力が急速に低下する。機体に備わった反重力装置は作動せず、ポケットタイプのそれでは出力が足りない。

 となれば、ここで俺がやるべき事は一つだけ。

 

「不時着する! 何かに掴まれ‼」

 

 操縦桿を引き、残った片翼と僅かなエネルギーで何とか機体を制御する。不時着するのは今蜘蛛の子を散らす様に人々が逃げている王都の広場。みるみるうちに石畳が近付いていき、恐怖も比例して増大する。

 だが、ここで手放せば死ぬだけだ。煩い程に鳴り叫ぶ心臓を押さえ、操縦桿を動かし続ける。

 

 そして──

 

「──っ……生きて、るのか」

 

 激しい衝撃で一瞬意識が飛び、気付いた時には既に終わっていた。機体内部に居た皆は持ち前の頑丈さで無事。俺も──と言いたい所だが、左手が上手く動かせない。そう気付いた瞬間に激しい痛みが襲ってくる。スキルが無い時代に何度も経験させられた痛み──骨折していた。

 

「マスター、ただちに治療を」

「ああ……と、言いたい所なんだが」

 

 俺はひび割れたキャノピーから外を見る。

 破壊されて無造作に水を噴き出す噴水、ボロボロに削れた石畳、そこに並びこちらを睨み付ける武装した兵士とクラスメイト。久しく感じていなかった〝絶体絶命〟が今、ここにあった。

 

「──っ‼ 皆、外に出て‼」

「高エネルギー反応を確認、ただちに退避して下さい‼」

 

 その状況だからこそ、痛みに喘ぐ暇など当然与えられる筈もなく。何やら感じ取ったらしい達也とミズリが同時に叫び、そしてミズリが俺を、達也がイリィをそれぞれ抱えて外に飛び出る。

──次の瞬間、機体が大爆発を起こす。どうやら魔法で狙われていたらしく、これで俺達と彼らを遮る物は何も無くなった。

 

「櫻井夜空!」

「如月……」

 

 明らかに彼から感じるオーラが強くなっている。彼だけではない、他のクラスメイトや一般兵、そして神妙な顔を浮かべるエリスフィーズも。それは僅か数日の間に起こっていい物ではなく──

 

「──神イルミス様の命により、貴様を討ち取る!」

 

──彼のその言葉で察しがついた。神敵に選ばれた俺を本気で狙ってきたという訳だ。

 

「如月! 目を覚ませ!」

「っ⁉ ま、松本先生⁉」

「どうしてここに……?」

 

 そんな彼らの前に出て説得を試みる先生。日本にいち早く帰ったと思っていた彼らは動揺する。

 

「俺は帰されてなどいない。魔界に単身で飛ばされたんだ! 村の人々に助けてもらわなければ今頃は……だが、本当に帰る方法が見つかった!」

 

 エリスフィーズが最初に行った行為が嘘だった。その事実で皆に衝撃が走る。

 本当なんですかエリス様、俺達を騙したのか、そんな声が散発する。だが、彼女は一言も発しない。それは反論出来ないからではない。

 

「そんな事はもうどうでもいい‼ 皆、目の前の〝敵〟を殺せ‼」

 

 如月のその叫びに皆の思考が塗りたくられる。〝勇者の鼓舞〟、本来士気を上げる為のそれは今や洗脳となって皆に襲い掛かっていた。

 彼にとって最早エリスがどうのとかは関係が無かったのだ。今の彼を突き動かしているのは仮初の自尊心と敵愾心だけだった。

 皆の雰囲気が突如変わった先生は動揺し──次の瞬間、達也が彼と如月の間に入ってその剣を受け止める。轟音と衝撃波が走り、思わず気絶してしまいそうになる。

 

 そうして、戦いが始まった。この世界では、恐らく最後の。

 達也は如月と剣戟を交わす。前回は若干達也の方が優勢だったが、今回は逆だった。神の加護を受けた如月は強く、素人目に見ても押されていた。

 また、先生は流れで安田や田中と戦っている。本人としては生徒に剣を振るうなど苦痛でしかないが、相手が斬りかかってくる以上抵抗するほかない。イリィも他のクラスメイトを持ち前の瞬発力で翻弄し、ミズリは機械特有の反応力と未来の科学力で戦っている。

 シールドは使えない。一度破られてしまうと十分間のインターバルが発生してしまうのだ。そして、ミズリを戦艦に帰す事も叶わない。今彼女を消してしまうと俺達はすぐに殺されてしまうだろう。

 俺はというと左手を庇いながら後方からの援護をしている。だが神の加護で気絶しなくなっている彼らにはショックモードは既に無効武力であり、実弾を使っているがそれでは味方や致命傷への抵抗で中々撃つ事が出来ない。

 そもそも俺の身体能力は一般人に毛が生えた程度。戦っている皆の動きも見えていない状況では何も出来ないのだ。

 

「……ハハ」

 

 自らを嗤う。

 

「やらかしたなあ」

 

 そんな事を呟いて気を紛らわせる事しか俺には出来ない。何か使えそうな物はないかと探すが見つからない。手榴弾は味方も巻き込んでしまうし機関銃も誤射を恐れて使えない。流石の万能戦艦といえども戦車は搭載していないし、戦闘機を出しても乗り込む前に破壊されるだろう。そして、戦艦本体は誰かが直接操作しなければ動かせない。

 銃を構え、皆の後ろで震えている事しか、今の俺には出来ないのだ。そして。

 

「……櫻井夜空」

「……やあ、聖女様」

 

 俺の前にエリスフィーズが立つ。彼女は杖に手をかけ、抜いていく。すると中から銀に鈍く輝く刀身が現れる。仕込み杖だった様だ。

 俺は引き金に指をかけ、放つ。だが放たれた光弾は彼女の剣によって弾かれてしまう。

 

「貴方の攻撃は厄介ですが……銃口の向きと指の動きに注視していれば対処は可能です」

 

 こんな所でも俺の身体能力の低さが仇となる。

 

「──正直な所、貴方が勝手に帰ってくれるならそれでいいのですよ」

「へえ、なら帰らせてくれよ。もう二度と関わらないからさ」

「でも、駄目なのです」

 

 彼女は続ける。

 

「神は貴方を殺せと言う、勇者が貴方を殺せと叫ぶ、〝聖女〟は貴方を殺せと告げる。そして何より──」

 

 

「──〝私〟は、お前が生きているときっと死んでしまう」

 

 

 憎悪、恐怖、歓喜、悲哀。様々な感情が入り交じりぐちゃぐちゃになった顔で彼女は言った。

 

「……そっか。でも素直に殺されてやる義理は無いぞ

「ええ、分かっています。私こそ貴方はこの手で殺したい、殺さなければ納得出来ない」

 

 彼女が剣を構え、そこに何やら纏わせる。魔法の一種だろうか、その刀身は金色に染まり、同じく金色のモヤまで纏っている。ミズリが何やら叫ぶが聞こえない。近付こうとする彼女を、しかし他の者が食い止める。どうやら俺は一人で戦わなければならないらしい。

 ふらふらと立ち上がり、銃をレーザーナイフモードに切り替えて出力を上げる。本来は15センチ程の赤い刀身が40センチ程まで延びる。また、重力制御を使って極限まで身体を軽くして少しでも動きを速める。どれだけ効果があるかは分からないが。

 

「──ッ‼」

 

 瞬間、彼女が飛び込む。俺の貧弱な動体視力は辛うじてそれを捉えており、彼女の剣が刺さる直前に何とかナイフで受け止める事に成功する。

 だが、衝撃は別だ。身体を軽くしていた事が功を奏したのだろう、受け止めた俺は吹き飛ばされる。瞬発的に重力を反対向きに制御して背後の戦闘に乱入させられる事だけは食い止める。

 

「まさか受け止められるとは思いませんでした」

「……はは、同感だ」

「──ですが」

 

 だらん、ぽとり。右手が力無く垂れ下がりゲリエドラグーンがその場に落ちる。背後に衝撃を逃がせたのにも関わらず骨折してしまう程彼女は強大で、俺は貧弱だった。

 一発耐えられただけでも上出来だ、そんな侮蔑に最も近い称賛は今の俺には気休めにもならない。彼女は無傷、俺は次の攻撃も受け止めなければならず──そして、その方法は最早無い。

 

「最期に言い残す事はありますか」

「俺が死んだら、達也達は見逃してくれないか? 元々魔界に住んでたんだ、そっちに戻ればもうお前達には関係無いだろ?」

「それは……私はいいですが、きっと〝彼〟が納得しないでしょうね」

「そっか、そうだよな……」

 

 空を仰ぐ。紫色の環が輝く蒼空、いつもと変わらない風景。

 ここで終わりか。俺のせいで達也もイリィも先生も死ぬ。ミズリはどうなるのだろう、スキルは所有者が死ねば消えてしまうのだろうか。

 この空の何処かに地球が、日本がある。あと一歩、あと一歩の所で俺は──届かなかった。

 

「では──」

 

 彼女が剣を振り上げる。

 誰かが目を見開いた。誰かが叫んだ。誰かが笑った。そのどれも俺には判別も出来やしない。

 

 俺は目を閉じて──

 

 

「──全く、こんな所で死んで何になる」

 

 

──そんな誰かの声がした。




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