異世界で宇宙戦艦をゲットした時に起きる事 -サプライズ宇宙戦艦理論-   作:デュアン

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オカエリナサイ

「……ワープ完了。現在位置、地球より約32光秒」

 

 静かな室内に、淡々と、それでいて少しだけ感情が乗った声がする。それは然程大きな物でもなかったのにも関わらず、艦橋内部に響き渡った。

 

 

 さて、結論から言うと、俺はイルミスを倒す事に成功した。雷鳴の如き轟音と共に放たれたその砲撃は彼の放った物を悉く消滅させ、その上で彼自身も断末魔を上げさせる暇も無く蒸発させたのである。

 それでめでたしめでたし……となればよかったのだが、俺達にはまだやらねばならぬ事があった。

 

「こいつら、どうしよう」

 

 そう、如月や安田などのクラスメートらの処遇である。

 選択肢は三つ。一つは後腐れが無い様にここで息の根を止める事。言うまでもなくこれは除外だ。俺にそれが出来るのならばとっくの昔にやっている。

 二つ目はイルミスに置いていき、俺達だけで地球へ帰る事。俺と違ってこいつらは異世界生活を満喫していた様だしそれでもまあいいのだろうが、ただ一つだけ問題がある。きっと今頃地球ではクラス丸ごと行方不明になったとして大騒ぎになっている事だろう。そんな中、俺達だけが帰ったとしたらどうなるだろう。

 まず間違いなく疑われる。そうでなくとも取り調べやらマスコミの取材やらが詰めかけるだろうし不愉快極まりない。それに未帰還のクラスメートの親類から逆恨みされるかもしれない。

 となると選択肢の三つ目──連れて帰る、という事になるのだが……

 

「それはそれで面倒臭い事になるよなあ……」

「俺も出来るだけサポートするが……やはり、な」

 

 俺のため息に松本先生が同調する。

 俺達はこれまでこいつらを散々な目──撃ったり腕チョンパしたり──に遭わせてきた。そりゃあ俺だって殺されかけた訳だが、これらは全てイルミスという地球からは観測不可能な場所での話。となると、ここでの出来事で頼りにされるのは当事者の"証言"だ。

 そして、俺達は俺と夜空、先生の三人──ミズリとイリィは多分出てくるとややこしい事になるので除外──なのに対し、あちらは如月や安田を始めとした39人である。数の暴力で負ける。折角善意で地球に持って帰ってやったのに傷害で訴えられるなどごめんだ。

 それに、きっとこいつらは帰ってからも命を狙いにくるだろう。如月など完全に狂ってしまっている訳だし、俺達が大丈夫でも日本で暴れないという保証はない。

 

「はあ……何とか記憶やらスキルやらを上手い事消せる方法は無いものか……」

「……そんな目を向けられても困る。まあ、ある事にはあるが」

「あるのか!?」

 

 チラチラとメイテルの方に視線を向けていると、彼女は察した様に言う。

 

「記憶を消す魔法、スキルを消す魔法は存在する。だがそれは被術者の身体に対する負担は全く考慮されていない上にそもそも膨大な時間がかかってしまう。あまりお勧めはできんな」

「……時間ってどのくらい?」

「片方のみで準備込みで一ヶ月、両方で二か月。それが39人となると……七年弱、といった所か」

「……うげぇ」

 

 うん、確かにそれは無いわ。七年もの空白期間を開けて地球に帰るくらいならイルミスに残った方がまだマシかもしれない。それ程までに、現代社会において七年、それも十代後半から二十代前半という最も意味のある時期での空白は痛いのだ。

 

 どうしたものか、うんうんと唸っていると──ふと、イリィが言う。

 

「あるじのすきるはつかえないのです?」

「え? 僕の?」

「あるじのすきるはなんでもくっつけちゃうのです、きっときおく?だってくっつけられるのです!」

「はは、イリィちゃん、今はくっつけるよりもひっぺ剝がす方法を──いや、待てよ」

 

 ははは、とスルーしそうになって立ち止まる。

 達也のスキル『接着』──それは、如何なる物でも"接着"してしまうというスキル。

 

「──! そうだ、僕、さっきの戦いで……うん、出来るかも」

 

 彼が言うには、操られた(フリをしていた)メイテルとの戦いの中で()()()()()()()()()()()()()するという文字だけでは全く意味の分からない事を成し遂げたのだという。

 そして、それを応用すればあるいは()()()()()()()()()()()()()()()事だって可能かもしれない。

 別に接着する対象は何だっていいのだ。その辺の石にでも接着し、心配なら主砲で消し飛ばしてしまえばいい。

 

 思いもよらなかった方法。僅か数週間ではあるが、達也の傍でずっと彼と共にいたイリィという無垢な少女だからこそ思いついたのだろう。全く、少し嫉妬してしまいそうだ。

 

 

 それはともかく、思い立ったが吉日、俺達は早速その方法を試してみる。

 

 果たして、それは成功した。安田で試し、イルミスに居た間の記憶とスキルを石に接着、主砲で消し飛ばす。そして安田を叩き起こす。

 目覚めた彼に召喚された後の記憶は残っていなかった。実験は成功だ! 俺達は飛び跳ねて喜び、ただ一人困惑していた安田は再び気絶させて今ここでの記憶も接着し、消した。

 それを全員分行い、冷凍睡眠(コールドスリープ)装置に放り込む。彼らが次に目覚めるのは地球だ──イルミスでの栄光も、スキルも記憶も全て消えた状態に初期化されて。

 

 

「我等が救世主へ、乾杯!」

「「「乾杯!!」」」

 

 さて、それらが終わると次に俺達は魔界へ招待される。魔王城城下町、そこで開かれたのは盛大な宴であった。

 神との戦いがあって忘れかけていたが、そういえば俺はどうやら"魔界を救った救世主"であるらしい。

 

「いやー、何だか恥ずかしいな」

「素直に受け取っておけ。功績だけで言えば大魔王よりも遥かに上なのだからな」

 

 メイテルとグラスを交わす。

 

「ぼ、僕達までいいんでしょうか……」

「構わん。一人や二人増えた程度で何だというのだ」

「成分分析……完了。マスター、人間の成分は検出されませんでした」

「当然だろう、世界の何処に人間相手に人肉を出す馬鹿が居るというのだ」

 

 達也がばつが悪そうに言い、ミズリが淡々とした声で報告する。

 視界の端ではイリィが口いっぱいに料理を頬張り、先生は魔界の酒に舌鼓を打っている。ああ、なんと幸せな光景だろうか。

 

「……フ、寂しくなるな」

 

 ふと、メイテルが呟いた。

 

「そんなに付き合い長くないだろ」

「言葉の綾という物だ。それに短くとも我が生涯の中で最も濃密な数日間であった事に間違いはあるまい?」

「まあ、それはそうだろうが……何だ?」

 

 彼女が俺の顔を見つめ、不意に顔を近付け──

 

「マスターから離れて下さい」

 

──ミズリの声で止める。

 

「おっと、ボディーガードは御怒りか。折角褒美をくれてやろうと思ったというのにな?」

「何が仕込まれているか分かりません」

「フフ、嫉妬か?」

「私はマスターの安全を第一に優先します」

「ハハハ、言うではないか」

 

……何か喧嘩してる。

 というか、今キスされかけたのか。まあミズリからしてみれば確かに危険な行為ととるのも仕方ないか。少し惜しい事をしたようにも思えるが。

 

「……マスター」

「ん?」

「何かありましたら、()()()()お申し付けください」

「お、おう。なんだ藪から棒に」

 

 突然そんな事をミズリは言い出すし。

 

 そんな事もあり、宴はいよいよ終わりを迎える。盛り付けられていた料理は今や皿だけとなり、浴びる程酒を飲んでいた皆は周囲に転がり赤い顔でいびきをかいている。

 これで、終わりか。召喚されて、虐められて、殺されかけて、そしてスキルを獲得し、ミズリと出会った。

 魔王城に突撃してメイテルと出会い、その後先生と再会。魔界に山を造って、達也を見つけ出す事も出来た。

 地球の位置も分かり、最後は少しピンチだったが、結果的には元凶である神も倒して今、こうして帰還目前となっている。

 

「……きっと、俺一人だったら何も出来なかった」

 

 ミズリが居なければ、今頃俺は死んでいた。メイテルが居なければ、達也を見つけ出す事は出来なかった。先生が居なければ、俺の心は死んでいた。達也が、イリィが居なければ、他の奴等をどうにかする事は出来なかった。

 この星で、俺は皆に支えられてここまで来ることが出来たのだ。

 

 俺は皆のいる方に身体を向ける。

 

「マスター?」

「夜空君?」

「なんなのです?」

「どうした?」

「ん?」

 

「まあ、なんだ」

 

 そして、言った。

 

 

「色々と、ありがとな」

 

 

──────

───

 

 

「……ワープ完了。現在位置、地球より約32光秒」

 

 艦橋内部に淡々としながらも若干の感情が乗った声──ミズリの声が響き渡る。

 

 イルミスを発進してからはひたすらに航海の日々であった。初めての長期に渡る宇宙旅行、そしてワープは興奮と発見の連続であった。

 ある時は超重力に包まれた航行困難領域。まあこれはミズーリなら余裕であったのだが。

 ある時はエンジントラブル、ある時はエンジントラブル、ある時は謎の宇宙生物、またある時は宇宙海賊に襲われたりもした。

 そして様々な星に立ち寄り、多種多様な宇宙人とも出会った。あのコントリール海に沈んでいた宇宙船の国家──レヴィドリアン帝国にも立ち寄った。

 立ち寄ったのは領域のごく一部なのだが、それでも地球を遥かに超えた発展具合を見る事が出来た。高さ1キロを超える超高層ビルが林立する都市。それでもまだ地方都市なのだという。一体首都はどれ程の発展具合なのか、また機会があれば訪れてみたいものだ。

 

 さて、そうして発進から三カ月が経ったこの日。俺達は遂に地球を目視圏内に捉えたのである。

 

 感動、困惑、衝撃、歓喜。様々な感情で心が埋め尽くされる。だが、今一番言うべき言葉はまあ、これだろう。

 

 

「──ただいま、地球」




という訳で、今回で最終話となります。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
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