ムゲンの果てに、辿り着いた教室で   作:イフリ

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1.Champion,time is ready

真っ暗な世界にわたしはぽつんと1人で立っていた。

意識しなくてもありとあらゆる方向からわたしを責める声が聞こえてくる。

 

「「「お前のせいだ、お前のせいだ、お前のせいだ、お前のせいだ」」」

 

うん、わかってる。全部わたしのせいだってこと。

 

だからわたしは、ムゲンの未来を目指すって決めたんだ。

 

──たとえそれによって()()()()()()()()と知っていても。

 

 

 

 

 

 

「……ぶ? ……ぇ……うぶ? ねえ、大丈夫?」

「…………え?」

 

暗闇の中から突然聞こえてきた知らない女の子の声で、わたしは目を覚ました。

 

うつぶせの状態から体を起こし、寝不足を感じながらも目をこすり目の前にいる少女を見上げた。

 

「良かったぁ。気が付いたんだね。すごい(うな)されてたから心配しちゃったよ」

 

亜麻色の髪にえんじ色のブレザーを身にまとった子だ。

この服はたぶん……制服かな。トレーナーズスクールでも制服は着てたけど、ここまでちゃんとした作りではなかった。

 

──いやいやちょっと待って! ブレザーが制服ってことはたぶんここは話に聞く中等学校か高等学校って所なんだろうけど、こんな制服ガラルじゃ見たことないし、ということはわたしは一夜でガラルの自宅から別の地方に……え? え? え!?

 

わたしが混乱しているのを感じ取ったのか、女の子は落ち着くような声で言った。

 

「あ、ごめんね。急に目の前に知らない人がいたら混乱しちゃうよね。もし良かったら、せっかく隣の席になれたんだし軽く自己紹介したいんだけど、いいかな?」

 

心地よくかわいらしいその声が聞こえると、自然とわたしの内にあった焦燥感が薄まっていった。

 

「あ……うん……」

 

流石にここで断ると愛想が悪い上に少し申し訳ない気がしたので肯定しておく。

でも自己紹介なんてどうやるっけ? 名前と肩書だけ言っておけばいいかな。

 

「ありがと。じゃあ私から行くね。名前は櫛田(くしだ)桔梗(ききょう)。こう見えてミステリージャンルの本をよく読むんだ。中学からの友達が1人もこの学校に入学していないから、友達をたくさん作るのが目標かな。よろしくね!」

 

す、すごい。まるで背景に「キラッ」って効果音でもついていそうな雰囲気だ。名前と肩書だけ言えばいいと思っていた自分が少し恥ずかしい。

脳内で自己紹介の内容に少し修正をかけつつ、わたしも口を開いた。

 

「了解、桔梗ね。……わたしの名前は久遠(ひさとお)幽戾(ゆうり)。一応ガラルでチャンピオンやってる。本はあまり読まないかな。よろしく」

 

悪くはないんじゃないかな。桔梗が自己紹介で本の話題を上げていたからわたしもそれを返し、よくよく考えれば自己紹介で「よろしく」を言わないのはまずいかなとちゃんと最後によろしくを言った。

少なくとも修正前よりはマシなんじゃないだろうか。

 

桔梗の表情を見てみると、一見そんなに変わった様子は見えないがほんの少しだけ困惑しているように見える。

 

「えっと、ごめん久遠さん。『ガラル』って言葉に聞き覚えがなかったんだけど、教えてくれる? ゲームか何かの舞台なのかな?」

「え? ガラルがわからない? ……えーっと、カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウから見ると北西の方。イッシュから見ると東の方。アローラから見ると北西の方、といってもアローラが結構南寄りにあるからかなり北上するけど。まあそんな感じ」

 

ここがどの地方なのかわからないので極力色々な地方の名前を使って説明してみたが、桔梗の表情を見るにこれでもまだ駄目っぽい。

 

暫くの間うんうんと唸っている桔梗だったが、突如手をポンと叩くと、嬉しそうに語りかけてきた。

 

「あ! そっかぁ。シンオウとかカントーとかアローラとか……なんか聞き覚えがあると思ってたら、ポケモンの地方の名前かぁ。そういえばポケモンの最新作の舞台、たしか『ガラル地方』だった気がするし。そっか、久遠さんはポケモンが好きなんだ。なんだ~それなら早く言ってよ~」

 

え? ポケモンの最新作? この子は何を言ってるの。まるでそれじゃあポケモンがゲームみたいな──

 

「私ポケモンのこと詳しくないから、今度色々教えてよ。じゃあ、私は他の子とも話してくるから、またね」

 

そう言い放つと、桔梗はパタパタとわたしのもとから離れていった。

 

……ちょっと冷静になって頭を整理しよう。

 

まず昨日、わたしは自宅のベッドで就寝し、気が付いたらこの教室にいた。しかもここはガラル地方以外の場所である可能性が高い。

 

自分の服装を見てみると、買った覚えは全くないのに周囲の人たちと全く同じ制服をわたしも着ていた。おそらく学校指定であろう白を基調としたバッグもある。

 

バッグの中を確認してみると、筆記用具と()()()()以外大したものは入っていなかった。

 

……先程の桔梗の話から考えると、確定ではないもののここには生き物としてのポケモンがいない可能性がある。どちらにせよ、こんな人目のある場所でこの子を出すわけにはいかないけど。

 

一瞬、自分がここに来た原因について思い当たることがあったが、すぐさま頭から放り出した。

 

そうやって自分の現状について色々と考えていると、始業のチャイムが鳴り響き、それとほぼ同時にスーツを着た女性が教室に入ってきた。

 

担任の先生、かな? 厳しそうな雰囲気の先生だ。

手に資料のような紙の束と段ボール箱を抱えているため、これから何かの説明でも始めるのだろうか。

 

現状把握のため、わたしは彼女の話に耳を傾けることにした──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

§§§§§

 

厳しそうな担任の先生改め茶柱(ちゃばしら)佐枝(さえ)先生はこの学校──東京都高度育成高等学校について説明をしてくれたが、説明の中で違和感がある点はいくつもあった。

 

学校内に小さな町が形成されている、すべての決済をポイントで行う。なんかわたしの知らないすごい世界を見た気分だがこの2つはまだいい。

 

まず突然ポンと渡された10万円の小遣い。わたしが旅立ちのときに貰ったお小遣いですら5万円もなかったのに、10万円もの大金をこんな簡単に。これをクラス全員分、ひいてはおそらく学年の生徒全員分を用意するんだから学校側の負担はとんでもないことになっているだろう。

 

まだまだ違和感はたくさんある! 佐枝先生の口調だとまるで毎月10万円貰えるみたいだったけど、一言もそうだとは──

 

「なんかすごい学校だね。私驚いちゃった」

「……そうだね。いきなり10万円の小遣いを渡してくるなんて、さすがにすごいと思う」

 

思考を遮られたことで一瞬イラっとしたが、桔梗の声色に悪意を感じなかったため怒りを引っ込め普通に返答する。

 

「だよね~。高校生のお小遣いとしては完全に破格だと思うもん。これだけあるとお洋服とか本とか色々買えそう。久遠さんは何買いたい?」

「わたしも服かな。さっき佐枝先生が言ってたケヤキモールにどんな服があるか見てみたい」

 

そうして桔梗と話をしていると、柔らかい男子の声が耳朶を打った。

 

「みんな、少し話を聞いてもらってもいいかな?」

 

朽葉色の髪を持つ好青年だ。人の視線を浴びることに慣れている感じだし、ここに入学する前はリーダー的ポジションにいたのかもしれない。

 

「僕らは今日から一緒のクラスで過ごすことになるよね。だから今から自己紹介を行って、みんなが仲良くなれるきっかけになったらいいと思っているんだけど、どうかな?」

 

そう言って朽葉色の髪の少年は優しく微笑んだ。

 

うーん、40点。無邪気さが足りないかな。

大衆的に見てイケメンと呼べるものであることは認めるけど、わたしの好みではないね。

 

わたしがそんなくだらないことを考えている間に話はとんとん拍子に進んだようで、まずは言い出しっぺの好青年が先陣を切った。

 

「僕の名前は平田(ひらた)洋介(ようすけ)。中学では洋介って呼ばれてたから、気軽に下の名前で呼んでほしい。趣味はスポーツ全般だけど、中でもサッカーが1番好きで、この学校でもサッカー部に入るつもりだよ。よろしく」

 

滔々と非の打ち所がない自己紹介をした好青年改め洋介は、クラスメイト大勢からの歓声を浴びている。

……女子からのものが多いかな。逆に男子の中には洋介に嫉妬の眼差しを向けている者もいる。

 

それにしても洋介の自己紹介から改めて先程の自分の自己紹介を振り返ってみると……結構な差があるな。

ここにポケモンがいない可能性がある以上、ガラルチャンピオンという肩書は自己紹介で使えないし、どうしよう……。

 

「わ、私の名前は、井の頭(いのがしら)こ、こ────っ」

 

いつの間にか次の人の自己紹介が始まっていたようだが、肝心のその子は言葉に詰まってしまっているみたいだ。

 

うん、わかる。あんな完璧な自己紹介の後だと誰でも緊張するよね。ただでさえ初対面の人には人見知りするタイプっぽいし。

 

クラスメイトの何人かは励ましの言葉を送っているみたいだが、効果は薄そう。あの子大丈夫かな?

 

「ゆっくりでいいよ、慌てないで」

 

とうとう完全に青ざめてしまっていた少女に完璧な助け舟を出したのは、桔梗だった。

 

うまいね。この場で必要だったのは下手な励ましの言葉ではなく、あの子に合わせる言葉だったと。

対人能力が低いわたしじゃ、気づかないことだな。

 

桔梗の言葉で少し落ち着いたようで、少女は小さく深呼吸すると、ゆっくりと口を開き始めた。

 

「私は、井の頭(こころ)と言います。趣味は裁縫で、編み物が得意です。よ、よろしくお願いします!」

 

一度詰まってしまった割には結構はきはきとした自己紹介を終えると、心はうれしそうな、恥ずかしそうな様子で席に座った。

 

……って、人の自己紹介じっくり聞いてる場合じゃなかった。自分の自己紹介ちゃんと考えないと……。

 

わたしが悶々としている間にもどんどん自己紹介は行われ、やがてわたしの番がやってきた。

……少しはマシになってるといいけど。

 

「わたしの名前は久遠(ひさとお)幽戾(ゆうり)。趣味はポケモンバトルです。よろしくお願いします」

 

長いこと悩みぬいた末、趣味をポケモンバトルと言うことにした。

正直、ポケモンバトルを趣味と表現するのは少し抵抗があったのだが、わたしにあるものがこれしかない以上、趣味としてはポケモンバトル以外のことを言うことはできない。

 

それに、この世界に実際にポケモンがいるかは未確定だが、少なくともゲームとしては存在することが桔梗の言葉からわかっている。先程の桔梗との自己紹介のときほど大きな違和感を持たれることはなさそうだ。

 

事実、クラスメイトの反応としては一瞬違和感を抱いている人は多かったものの、すぐさま納得したような表情に変わっていた。

 

「じゃあ次は私だねっ」

 

あっそうか。桔梗は隣の席だし、わたしの自己紹介の次は彼女が自己紹介をするのか。どれだけ彼女の自己紹介に近づけたのか、直接比較できそう。

 

「私は櫛田桔梗と言います。中学からの友達は1人もこの学校には進学してないので一人ぼっちです。だから早く顔と名前を憶えて、友達になりたいって思ってます」

「私の最初の目標として、ここにいる全員と仲良くなりたいです。みんなの自己紹介が終わったら、ぜひ私と連絡先を交換してください」

「それから放課後や休日は色んな人と沢山遊んで、沢山思い出を作りたいので、どんどん誘ってください。ちょっと長くなりましたが、以上で自己紹介を終わりますっ」

 

……雲泥の差だった。

ちょっと待って。なんでこの子あんなにぺらぺら話すことが湧いて出てくるの? いやわかってるよ? わたしが対人能力低いのは認識してるよ? ただいくらなんでも差があり過ぎない? 比べるのも烏滸(おこ)がましいじゃん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──これでその言葉が全部嘘じゃなければ、完璧なのになぁ。

 

そう思いつつ、わたしはため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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