オラびっくりしただぁ……!(重要なことなので2回)
ではどうぞ
授業も終わり、慄は教室から廊下へと出て職員室に向かう。
「……大志生木慄先生であらせられますね?」
背後からの声に振り返ると、彼の第六感とも言える危機察知能力に火がついた。
それは何度も味わったことのある異常に対しての警戒警報である。
すぐさま飛び退く、そんなことは教師である慄の意地に掛けて行わなかったが、警戒と反応はできるよう後ろへと振り返った。
「初めまして、私は黒神めだかと申します」
鈴のような声ではなく、まるで豪華絢爛な鐘のように体内へ響き渡る声をしていた。
立ち振る舞いは令嬢を思わせるほどしっかりとしたものでありながら、武人としての側面をも見せる体重移動。慄が戦慄するほどの完璧さ。彼の同級生である最上級クラスの異常者黒神舵樹ですらムラがあったと思えるほどだ。
否、ムラなら彼女にも有るのだろう。異常者(アブノーマル)は特待生(スペシャル)と違い一点主義の火力重視だ。彼女から発せられるこの感覚を信じるのであれば。
彼女は、どこかで箍(たが)が外れている。
「……初めまして。大志生木慄だ」
「新聞の一面で拝見させて頂きましたが、いやはや、存在感がまるで違う」
「ありがとう。だが、お世辞を言いに来たわけではあるまい」
「はい。大志生木慄先生に幾つかの質問をしに足を運んだ次第です」
「……そうか。ここではなんだ、今から職員室へ向かう間でもかまわないか?」
「はい」
廊下を歩く。
彼女の歩く速度に慄は合わせ桜がゆっくりと舞い落ちる窓の外を見た後、隣にいる黒神めだかを見た。
慄による彼女の評価はまさしく化け物。人間が発して良い異常のレベルを超えている。
「大志生木慄先生。質問を一つしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「百津郷百瀬先生についてです」
慄の顔から余裕が消えた。
狙い澄ましたかのように彼の今抱える悩み事を打ち抜く一言のように感じる。
「あの方が自らの『辞任』を掛けてまで教師と生徒との溝を埋めようとする作戦を企てていたのをご存じですか?」
「……なんの、話だそれは」
「やはり……。あの方は自分の教師生命をかけてまで学園の低迷を解決しようとしていらっしゃいました。自分一人が学園の敵に回ることで生徒だけでなく教師が協力し、彼を打倒することでお互いを認め合うという回りくどいことではありますが確実な作戦を」
「そうか。その話題を振ったと言うことは、無くなったのだな」
「はい。私が阻止させて頂きました。あの方はこの学園にとって無くてはならない存在です」
「俺もアイツも教師だ。学園にとってそんな大きな存在にはなれないさ」
「いいえ。あの方の思想、思考と試行は素晴らしい」
「……ずいぶんな高評価だな。教師冥利に尽きていることだろう」
慄は不快感を得る。そして思う。
「この女が百瀬を持て囃せば持て囃すほど、百瀬の立場が危うくなっているとなぜ勘づかないのだろうか」
苛立たずにはいられなかった。
百瀬もそのことに気がついていながら放置しているのだと慄だって理解はしているつもりである。
だがそれは、目の前に爆発寸前の爆弾を抱えているのと同じだ。
「百瀬を賛美するのはいいが、質問内容は変だったな。お前の質問は確認事項であって質問ではない」
「はい。大志生木慄先生、この度百瀬先生は選挙管理委員会の顧問として就任なされたそうですね」
「耳に入るのが早いな」
「生憎、教室に一人だけなものですから。学園中を歩いて情報を集めるのは慣れております」
「……今後、お前にテスト内容がばれないかどうかを気をつけるよ」
「こちらも注意致します。百瀬先生の選挙管理委員会顧問就任のお祝いをしたいのですが、放課後の予定はご存じですか?」
「知っている。放課後は選挙管理委員会へと足を運んで挨拶をするとのことだ」
「そうでしたか……。これは後日にお祝いの品をお届けした方が良さそうですね」
「そうしてやれ」
意味が分からなかい。そもそも、祝いの品を贈るとはどういう意味だ。考えれば考えるほど深みにはまる様な気がしてならない。
だが、それよりも。選挙管理委員会顧問就任に対しお祝いの品というのも理解できない話だった。
話を合わせるので手一杯、否、話がかみ合わないからかみ合わせるのに手一杯と言ったところだろうか。
「黒神、生徒会長選挙に立候補するのだったな」
なので、話を一度逸らすことにした。
かみ合わない歯車を取り替える。主軸ごと、ごっそりと。
「はい」
「では、久々原先生を生徒会顧問に推薦する理由は何だ?」
「思想の対立が起こらないからです。現在の顧問である椋枝先生と私では『理想の学園像』が正反対で対立してしまいます。そして、久々原先生は何の思想も持っていません。対立することなく、思想の食い違いもなく、私の思い描く学園像に何も言わない人であると考えました」
「……なるほどな」
反吐が出そうだ。
こいつは、久々原先生をなんだと考えているのだろう。
思想が対立しない。それは確かに素晴らしい話である。だが、その理由が彼女の観察結果に『何の思想も持っていない』と写っている時点でこの女は彼の存在を人形のように考えているのではないだろうか。
だが、百瀬も似たようなことを言っていたことを覚えている。
「彼はただ『嫌』なだけなのさ。括られるのが嫌だ、纏められるのが嫌だ、行動するのが嫌だ、責任を負うのが嫌だ、辛いのが嫌だ。そういう『逃げ』という行為はある意味流されているだけとも捕らえることができる。だが、彼が一つのことに決心を決めて挑んだとき、僕たちには想像もつかないような方法で成し遂げてしまうだろうね。最小の労力で最大の効率を得る方法を求めている彼には、一体どんな世界が写っているのか興味津々だよ」
そう、嬉しそうに言っている百瀬の顔を覚えている。
新しい友人を誇るように笑っていた。
慄にはできない発想であったからだろうか、百瀬の言うことに賛同できなかった。
自分は常に最良になるように努力を続けていると言っても過言ではない。慄にとってだけではなく、自分の友人に対しても良いと思えるような選択を。最善の結果に最大かつ全力で、そうしなければ自分は鈍ってしまう。そう、考えていた。
百瀬には頭が固いと言われ続けているが、これで上手くいっているのだから問題は無い。
百瀬ならば、黒神の言葉に賛同できるのだろう。だが、人を人と思わないような発言に、慄という男は賛同できなかった。
「椋枝先生はなぜ駄目なのだ。思想の対立こそ学園を更に良くしていく議論にも成るはずだが」
「私とあの人では思想が真反対なのです。それこそ、お互いがつぶれるまで議論するほどに」
「お前を改革とするならば、あの人は停滞を望んでいるからか?」
「はい。ですが、人間は前に進む物だと私は考えます。椋枝先生はそのままの幸せを守る事に意義を見いだしております。椋枝先生の意見は正しい。今の幸せを享受することは、何も間違えておりません」
どちらも正しいと認め合うからこその反発。
それは慄も現役時代に生徒会で何度も味わったことのある話だ。百瀬との対立、舵樹との対立、三人で意見の食い違いがあり、書記には多大な迷惑を掛けながらもより生徒の望む答えに近づけるように話し合っていた。
意見の食い違いだけではない、対立こそ己を高め合う重要なファクターである。
それを、この生徒はどう思っているのだろうか。それだけではない、この女は何を思って今の生徒会から改革しようとしているのか。
慄は、確かめたいと思った。否、確かめなければならないと思った。百瀬を動かした生徒と、人をあんな風に言える人間と、対立を避けている本当の理由を知るために。
「黒神、職員室でではなく、時間があれば昼食の時に俺からも質問がある。一緒に食堂で食事を取ろう」
「私も話したいことがあります。是非」
静かな腹の探り合いは、こうして始まった。
もうちっと続くよひょろんぬひょろんぬ
最近ウチのパソ子はツンデレっていて、「かんそう」を変換すると「感想」ではなく「乾燥」になったり、「よろしくおねがいします」と打ち込むと「( ・_・)ノお願いします」になったりする。
ただツンデレと考えるとなかなか癒やされる木が……誤変換は黒神家への花嫁候補の人だけにしてくれ(切実)
感想お待ちしております、誤字脱字あればご指摘をよろしくお願いいたします。