軽く書いたのでどうぞ。
クリスマス祭り
「百瀬、これはどこに置けば良い?」
「その箱は向こうですね。はい、そこでオッケーです」
百瀬と慄は資料室で資料の整理をしていた。
本日はクリスマス、学園では生徒会主催の『クリスマス祭り』を行っている日だ。
「……どうして、俺らはこんな事をしているんだろうな?」
「生徒会の仕事の手伝いですね。舵樹も参加したくて本気で書類を消化していってくれているのですから私たちも頑張らないとですよ」
「……はぁ。そもそも本日はイエス・キリストの誕生日だろうに。どうして日本というのは勤労国家のくせにこういうお祭りごとに目聡いんだよ」
「西暦の始まりとなったイエス・キリストの誕生日ですからね。日本では天皇誕生日が祝日ですし、これぐらいのお祭りは生徒の疲れを癒やす日としては良いでしょう」
「そう言われると、この異文化交流の日本でイエス・キリストの誕生日を祝わないというのは不思議な話だな」
「日本は八百万の神とはいえ仏教でしたからね。宗教の派閥争いでもあったんでしょ?」
「偏見だな」
「偏見です」
嬉しそうに笑う百瀬を見て、慄はゆっくりと持っていた荷物を降ろして整理リストにチェックを付ける。
「……俺はこれで終わりだ」
「奇遇ですね。私もこちらで終わりですよ」
その言葉と共に、二人の携帯電話が揺れる。メールのようだった。
「……舵樹も終わったみたいですね。ヘリをチャーターして来るそうです」
「おいおいおい、この学園でヘリを降ろすところがあるのか!?」
「いざとなったらパラシュートでダイブしてくるでしょ」
のんびりと言う百瀬を珍しい顔で慄は見た。
どこか嬉しそうに感じたからだ。
「……ずいぶんと、ご満悦だな」
「ええ。クリスマス祭りを始めたのは我々の代から、それを引き継いでくれていることに喜びを感じてしまって」
「そうか。そういえば、生徒会長から『お二方は本日お祭りを楽しんでください!』というお達しが来ていたぞ」
「ふふ、そうですか。じゃあ、今日はオフでいいですね」
「……ああ。元の口調に戻しても構わないだろう」
慄がそう言うと、百瀬はメガネを外してケースに入れるとヘアゴムを外してポケットに直した。
「んーっ! 学園でオフなんて久方ぶりだね、慄」
「そうだな。年甲斐もなく心が躍りそうだ」
「僕もだ。オフと言っても教師として節度は守らないと行けないけれど、楽な格好ぐらいは許してもらおう」
「確かにな。私服に着替えて祭りに参加するか?」
「それもいいね。袴さんも誘うか」
「おいおい、あの人は今最も大変な時期だと思うが?」
「息抜き息抜き。結局舵樹が来たらそう言うだろうし」
嬉しそうに笑いながら資料室を出る。
すると、目の前に二人の女性が立っていた。
一人は啝ノ浦さなぎ。こちらは白い襟付きシャツに淡いオレンジ色のカーディガンという私服姿で慄を待っていたかのように顔を上げる。
もう一人は黒神めだか。こちらは二人を労いに来たかのように扇子を広げていた。
「慄先生、お疲れ様です」
「ああ、さなぎ先生。まさか、待っていてくれたのか?」
「ええ。一緒に回る約束でしたので」
「お二方、こちらのお手伝いをさせてもらって申し訳ない。手が回る人材が足りなかったとはいえ、生徒会主催の行事に手伝わせてしまった」
「構いませんよ、ちょうど私たちも手が空いていましたので」
花が咲くように微笑む百瀬に、黒神めだかもつられて笑ってしまう。
百瀬は普段から少し距離を置いた様な話し方をするが、今日に限ってはそんな雰囲気を取り去って子供のようだった。
親近感がわく、というのだろうか。普段よりもとっつきやすく、安心感に満ちあふれている。
「百瀬先生、なんだか今日はとっつきやすいというか、話しやすいですね」
「百瀬はオフの時あんな感じだ。仕事の時は教師としてという気持ちが強いからな。仕事での公私混同は御法度というのがアイツの持論だ」
さなぎと慄は本日の百瀬に対する見解を述べていた。さなぎから見た百瀬は仕事ができる取っつきにくい人だと思っていたのだろう。
実際、百瀬はそういう傾向にある。仕事の時は他人行儀で真面目で寡黙な仕事人間にしか見えないだろう。しかし、基本的に百瀬は人懐っこいといえば犬のようで彼は否定するが、人と接することが好きな人種であった。
傍観者というのも、人の性質が好きだからこそできる芸当である。もちろん、相手の弱点探しや粗探しの人間もいるだろうが、百瀬は其処も含めて人と接する。
完璧な人間などおらず、未完成こそ人間の醍醐味。百瀬と慄、舵樹もその考えを持っているが、百瀬ほどそれを理解している人間はいないだろう。
自分がそうであるように、慄もそうであるし、舵樹もそうだった。一番観察している百瀬だからこそ、完璧という言葉を嫌う。
「勉強になります」
「ま、今日のアイツはオフだからな。仕事が無いときはよく気の抜けた格好をしている」「……想像できませんね」
「そうだろうな」
そんな会話を余所に、百瀬と黒神めだかは本日のお祭りに関しての会話をしていた。
「百瀬先生と慄先生のおかげで随分と仕事がはかどりました。そのお礼としてなのですが、食券をお二人にそれぞれ20枚ほど用意させて頂きました。今日と明日の二日は楽しんでください」
「そんな、こちらが手伝ったのに報酬なんて悪いですよ」
「構いません。私からのほんの気持ちです」
「……では、ありがたく頂戴します」
渋々と、その食券を受け取った百瀬。黒神めだかはとても満足そうに渡すと扇子を広げて口元を隠した。
「今日の百瀬先生はなんと言いますか、とても接しやすい」
「仕事において公私混同は御法度でしたので。ですが、そう言って頂けるのは嬉しいですね」
「公私混同をしない、なるほど、素晴らしい言葉です」
「黒神さんも生徒会の業務に私情を挟まずこなしていると聞きます。そのスタイルは社会に出たとき非常に重要となってくるでしょう。頑張ってくださいね」
「ありがとうございます」
凜とした表情で応える彼女に、百瀬は信頼を置いた。
生徒会が『-十三組』と呼ばれる生徒達から解任要求された時、彼女の表情は大きく揺らいでいたのを百瀬は思い出す。
しかし、その敵すらも彼女は得て、自分の成長の糧と変えた。
生徒が、自分の懐に敵対者を置いて自分の成長と、生徒の信頼を得るための行動をしたのだ。大人よりも大人らしい行動に、百瀬は驚愕をしながらも成長を喜んだ。
「……それでは、僕たちもお祭りに参加させてもらいましょう。慄、着替えに行くぞ」
「ああ。さなぎ先生、少しお待ちを」
「ええ」
二人は嬉しそうに笑いながら教師用の更衣室へと向かっていった。
その姿を見て、黒神めだかは興味深そうに呟いた。
「……百瀬先生と慄先生はなぜあれほど仲が良いのだろう?」
「彼らはこの学園の同級生らしいわよ。しかも生徒会」
「そういえば、歴代生徒会の冊子にお二人の名前があったような」
「あなたのお父上と同級生で、三年間生徒会を務めたと椋枝先生が仰っていたわ」
「……そうでしたか。お父様のところは記憶から抹消しかかっていたので」
「あなたとお父上に何があったのよ……」
出会うたびに人目を気にせず親父ギャグを言ってくる父親でお金に糸目を付けない娘息子嫁溺愛し続ける子供のような大人なんて口が裂けても言えなかった。
そんなことを悩んでいると、ヘリの音が聞こえてきた。
その瞬間に、黒神めだかの表情が一変する。
「……まさか!?」
「あら、ヘリの音ね」
「ま、さか……!?」
「どうしてそんなに動揺してるのよ……」
そして、学園の屋上からヘリのプロペラの駆動音がする。
「……まさかあああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ど、どうしたのよ!?」
叫んだと同時に黒神めだかはトップアスリート並みの速度で階段まで廊下を走り階段を駆け上がっていった。
「……おお、黒神のすごい走りを見たな」
黒色のシャツに赤色のジャケット、ジーンズを身に纏った慄が本当に驚いた様子で見たままの状況を述べた。
黒神めだかの突然の行動に驚いていたさなぎだが、慄の言葉で我に返り慄へと身体を向ける。
「あ、おかえりなさい。あれ、百瀬先生は?」
「あいつは屋上へ直接向かったよ。俺たちは先に祭りを楽しんでこいと、ほら、食券」
「あ、ありがとうございます!」
さなぎは百瀬に心の中で感謝しながら慄と一緒に教職員用の下駄箱へ向かった。
ただ、慄は百瀬に感謝の念と共に舵樹を押しつけて申し訳ないと思いながら。
幸せな二人と打って変わって、屋上では百瀬が私服で立っていた。
緑色のコートの下には白色のワイシャツにオレンジ色のカーディガンを羽織り、黒色のズボンをはいていた。
そして、彼の真上には真っ黒のヘリコプターが上空でホバリングしている。
「あぱぱぱぱぱぱぱ!! 出迎えご苦労、百瀬!!」
「はい。いいから早く降りてきてくださいね」
「うむ!!」
パラシュートも無しにビル五回分の高さから飛び降りた。
そして、そのまま重力の力に引っ張られ、コンクリートでできた屋上の床に仁王立ちで着陸する。
「……足がしびれる」
「人間では不可能な着地の仕方をしないでください」
「不可能ではないさ! 現に私ができただろう!!」
「まあ、そうですけど」
「百瀬、今日はお祭りに誘ってくれて嬉しいぞ!」
満面の笑みで百瀬に抱きつく舵樹。
いきなりの行動に体勢を崩しかけるもすぐに安定した体勢にすると舵樹の背中をぽんぽんとたたく。
「ええ。楽しんでください」
「うむ。子供のように楽しませてもらおう!」
「お待ちくださいお父様ああああああああ!!」
「黒神さん!?」
「おお、愛娘ではないか!! ほらパパンだよー!!」
「舵樹娘さんにはそんな口調なのですか!?」
「あああ、百瀬先生これは私の父ではありません! その、私の性を名乗る偽物です!!」
「何を言うか愛娘!?」
父親と娘の会話に微笑む百瀬。本当におもしろそうに、そして、自分の親友が愛娘とこんなに楽しそうに会話しているというのが本当に面白かった。
「舵樹、愛娘は今では立派な社会人なのですから。彼女の学園を楽しみにしましょう」
「……それも、そうか。めだかちゃん、今日は楽しませてもらうぞ」
「ええ。あなた方が務めた時代よりも数倍楽しめることを保証させて頂きます」
「……よろしい!」
満足そうに舵樹は腕を胸の前で組みながら笑う。
「百瀬、行くぞ。視察ではないが、愛娘のお祭りを見せてもらおうじゃないか」
「楽しんでくださいね?」
「お祭りは楽しむ物だ。今更名ことを言わなくても大丈夫だぞ」
「失言でしたね。じゃ、行きましょう。めだかさんも一緒にどうですか?」
「……はい!!」
「百瀬、いや、ふふ、お前も面白く成長したな」
舵樹は百瀬の言葉に驚いた顔をしながら、満足そうに笑った。
大学まで一緒に過ごしたからだろうか、百瀬が人を下の名前で言うということがどれほどの意味を持っているのか、舵樹は良く知っている。
それをあえて口に出す様な野暮なことはしなかった。
「お父様、まずはどこから見ますか?」
「まずは真黒くんのところからでも見てみようか。衣装だけだろうが、着替えるということで気分を変えるにはちょうど良いだろう」
「え、お兄様のところからですか!?」
「めだかさんも衣装を替えると新しい発見があるかもしれませんよ?」
「……百瀬先生まで」
「ふふ、諦めろめだかちゃん。百瀬はオフだと必要最低限の警戒心しかないぞ」
ニコニコと菩薩の様に笑う百瀬を見ながら舵樹は子供のように笑う。
この二人、いや、慄先生も含めて三人だが本当に仲が良い。お互いのことを知り尽くしているかのように話を進め、お互いのしたいことをよく分かっている。
「わかりました。それでは気分を変えてお祭りを楽しみましょう!」
「うむ。私も外出用の服できてしまったからな。童心に返ってお祭りを楽しませてもらおう!」
「僕も楽しませてもらいましょう」
舵樹は百瀬とめだかの間に入って二人の肩を抱くと、高らかに笑う。
百瀬は諦めたかのように笑い、めだかは照れたように顔を背けた。
グラウンド中央にある校舎ほどの大きさのクリスマスツリーが三人を歓迎するかのように光り輝いている。
屋上から大人から学生までいる校庭に出た瞬間、沸き上がるような声が三人を出迎える。
好奇の視線、驚愕の視線、恐れ多いと目を背ける者までいた。
それもそのはずだ。黒神グループ総帥がたかだか学生主催のお祭りに参上するなんて想像だにしないからだ。
「……しまった、こういうこと忘れていた」
「そうですね、僕も失念していました」
「お祭りです。食べながら向かいましょう」
平然としている黒神めだかは慣れた生徒達の視線だからいい。舵樹には久方ぶりの視線の応酬ではあるし、百瀬にもここまでの視線は久方ぶりの経験だ。
生徒会を務めていた時に、浴びた視線によく似ていた。
「……本当、童心に返らせてくれる」
「懐かしいですね」
「百瀬、舵樹」
「おお慄。ふむ、彼女か?」
「く、くく、黒神舵樹総帥!?」
舵樹の姿を見た瞬間、さなぎの身体に今まで以上の緊張が走った。
目の前にいるのはテレビの中で、新聞でしかお目にかかれない存在なのだ、自分が失言しないように、変なことを言わないようになんて考えも吹っ飛ぶほどの緊張感が彼女を支配する。
更に緊張させた原因として、慄の彼女だと言われてしまい彼の返答にドギマギしていた。
「まあ、その、なんだ。そんな感じだ」
慄は彼女の手を握る。巌のように硬い手だが、ぬくもりが伝わってきた。
そして、舵樹の言葉を否定しなかったことに、肯定したことにさなぎは目を見開いて、うつむいて照れる。
男子生徒達からさらなる驚愕の声と、女子生徒からは賛美の声が校庭を支配した。
「クリスマスにカップル成立、これはこれは」
「では友人の交際を祝して何かプレゼントしよう。島で良いか?」
「いらねえよ!?」
「お父様、島より土地と家のほうが」
「そうだな」
「いいいいいいい、いえいえいえいえ!!」
まるで結婚が決定したかのような言い方だ……。
そう思ってしまう百瀬と同じ気持ちを抱いた生徒は多かった。交際を祝して土地と家を贈るのだ、結婚した場合何を贈るつもりなのだろうか……。
そんな興味にも惹かれた人間は少なくなかった。
「百瀬、このバカどうすればいい?」
「友人のお祝いぐらい素直に受け取れば?」
「規模と金が正しかったらな!」
サンタのプレゼントにしては規模が大きかったそうな。
クリスマスに間に合わなかった……。悔しい。
思わず「クリスマス→カップル成立にはちょうど良いタイミング」なんて思って慄とさなぎをカップルにしてしまった。反省はしていない。
百瀬は交際できるのか!? そんな話をするかどうか怪しいがな!!