ルルゥカちゃんは炎上したい~人間界にやってきた魔王の娘、人々の負のエネルギーを集めるつもりが、何故か清純派メスガキアイドルとしてバズってしまう~   作:水品 奏多

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第六話 ルルゥカちゃん、起死回生の策を思いつく

「ふむ、今日もまあまあの味ですね。今後もこの調子で精進するといいでしょう。

 ……因みに私はもっと甘い方が好きだったりします」

 

「な、なるほど、分かった。次から気を付けるよ」

 

 ルルゥカが図書館に行った日の夕刻。

 夏希が作った夕食に舌鼓を打ちながら、ルルゥカは臆面もなくそう言い切った。

 

 いくら家主の夏希の提案とはいえ、現在の彼女はただの居候。食費の立て替えとまではいかなくても、殊勝な態度くらいは見せてやるのが人情というものだろう。

 さりとて、幼き頃から蝶よ花よと育てられてきたルルゥカにとっては話は別。身の回りの世話は使用人たちに任せるのが普通だったのだ。今の状況もただ使用人の種族が魔族から人間に変わっただけ、今までの延長に過ぎない。

 それゆえ目の前でぎこちなく笑う夏希の心情がまるで理解できず、自らの形の良い眉を吊り上げた。

 

「何ですか? お前から言い出したのに、何か不満でも?」

 

「あー、そういうわけじゃなくて。

 ただその……最初に魔王の娘とか言ってたし、ルルゥカちゃんって偉い人だったりするのかなって」

 

「ふ、何を言うかと思えば……。

 ひれ伏せやがれです、人間。何を隠そう、この私は――」

 

 ――魔界十二柱が一柱の娘、ルルゥカ・オズヴァルダです。

 いつものように意気揚々と名乗ろうとして、ルルゥカは言葉を切った。

 

 数度の調査によって、人類の大半が魔族のことを忘れているかもしれないという憶測は確信に変わりつつあった。

 それが協会などの上層部が意図したものなのか、あるいは無駄に溢れる娯楽に埋もれてしまったせいなのか。そこまではまだ判断がつかない。

 

 ただいずれにせよ、今の状況は願ってもない好機なのだ。

 恨みも辛みも実体が無ければ積もりはしない。オズヴァルダ家の悲願たる人類と魔族の和平の為には、彼女たち一般人には無知蒙昧のままでいてくれた方が色々と好都合である。今後は向こうに伝える情報も慎重になるべきであろう。

 

(……そう考えると、やはり夏希たちの前で魔王等の話をしたのは失敗でしたね。

 とはいえネットの彼らも夏希も私に感謝するくらい阿呆みたいですし、最悪脅迫(はなしあい)をすればどうとでもなりますか)

 

「別に。お前に話す義理はありませんよ。

 ……それと最初に私が話した内容も綺麗さっぱり忘れる事ですね。痛い思いしたくなかったら、ですけど」

 

「ええと……分かった。

 ごめんね、次からは気を付ける」

 

 そう割り切って、脅迫に移ろうとしたルルゥカを前に、すんなりと恭順の意を見せる夏希。

 そんな彼女に若干呆れながら、ルルゥカは簡単な脅迫すら満足にできない自らの体を苦々しく見下ろした。

 

 この二日間、周囲の薄い魔力を吸収して、ある程度の力は戻ってきた。

 さりとて、今の彼女の戦闘能力は全盛期の億分の一にも満たないのだ。これではちょっぴり強い村人位の力しかない。

 魔界に残した家族と連絡を取るためにも、水面下で動いてるかもしれない敵対勢力を制圧するためにも、早急に今の状況は打破しなければいけないだろう。

 

(ただ問題はどうやってやるかなんですね。

 力を失うだけで、まさかここまで不便になるとは……)

 

 ままならぬ状況に、ルルゥカは歯噛みする。

 

 魔力の充填をするのに一番手っ取り早い手段は、人間たちが魔族個人に対して抱く恐怖を増幅させることである。そしてルルゥカは今までそれを彼らの前で圧倒的な力を見せつけることで実現してきた。

 しかし先に言ったように、今の力ではその方法は不可能に近い。加えて、もし何もしなかったら、全盛期に戻るには何千年と待たなければいけないだろう。

 

 つまり、武力行使を伴わない方法での魔力充填が求められていたのだ。 

 他の魔族ならいざ知らず、生まれてこの方その全てを己が腕力で解決してきたルルゥカにとっては実に悩ましい問題なのであった。

 

『えー、それでは次のニュースです。

 某大手Dtuberグループのタレントが配信中に差別発言をした問題について――』

 

 その時、聞き流していたテレビのニュースがルルゥカの耳を捉えた。

 そこに映っていたのは、黒い服(スーツ)を着た数人の大人とその周りを囲む大勢の記者たち。中心の彼らが何かを話す度、周りの記者たちが心無い言葉を浴びせ続けていた。

 ともすれば敗軍の将がその責任を取らされようとしているかのようなその光景に、ルルゥカは文字通り目をまん丸に見開いた。

 

「……な、何ですか、これ?

 一体何があったらこんな大勢に責められるんですか?」

 

「あー、いわゆる炎上ってやつだよ。

 そこに所属するDtuberの一人が「ゴブリン倒せない冒険者に人権なんてないよなww」とかいっちゃったみたい」

 

(はあ? たったそれだけで?)

 

 あまりにくだらない理由に、心の中で呆れが漏れる。

 ルルゥカは空気中の魔力を取り込んだように、魔族にとっては自身に向けたものではない魔力も大事な食料なのだ。その吸収効率は前述の方法よりもかなり落ちるものの、無視できないくらいには大きい。

 それゆえ、人類たちは負の伝染をまねかねない私刑や公開処刑を強く禁じていた。失言の一つでつるし上げるなど、対局で見れば悪手でしかないはずだ。

 

 ただ……そうだ。そもそも馬鹿な彼らは魔族についての知識を失っているのだ。

 その道理すら忘れ、法力だけではなく魔力も無作為に飛び交っているのであれば――

 

「こ れ で す っ。

 すぐに解決策を思いつくとは流石は私ですねっ」 

 

「?? 何か分かったの?」

 

 突然声を上げたルルゥカを夏希の不思議そうな視線が捉える。

 その呑気な雰囲気に自身の自尊心が刺激され、ルルゥカは得意げにはペラペラと話し始めた。

 

「ふっふっふっ。なに、簡単なことですよ。

 力がなくとも言葉がある。適当なことを言って炎上させればいいんですよっ」

 

「え、えええ? 何でそうなっちゃったの!?

 だ、ダメだよ、その道はっ。BANになるかもしれないし、周りから確実に嫌われるし、凄く大変なんだよ?」

 

「? BANが何かを知りませんが、嫌われるのは大歓迎ですからね。

 むしろ全人類から誹りを受けたいくらいです」

 

 素っ頓狂な声を上げる夏希に、ルルゥカが鷹揚に頷く。

 そんな彼女をみて、夏希は恐る恐ると言った様子で口を開いた。

 

「……も、もしかしてルルゥカちゃんはM――被虐願望があったりする……?」

 

「は? 何で私が?」

 

 嬌声が飛び交う中、ルルゥカの絶対零度の声が辺りに降り注いだ。

 

 

 

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