前回の4号に次いで、5ノレ風味のエラン·ケレス/強化人士5号の短編です。
最終回後の5号の独白と、これからは如何に。

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干渉/感傷

生き汚いと分かっていた。

持っているものを擲っても、死ぬのは御免だった。

 

死ぬために生かされると分かっていた。

それでも、死までの時間を足掻きたかった。

 

だから、僕は。

エラン·ケレスを被ったんだ。

 

 

 

前任の4人目が消された、と聞かされた。

自分の番が回ってくるのが心底嫌だった。

それは即ち、自分の命が危険に晒されるってことだからだ。

 

だが話を聞いていくと、4号が負けた女はどうやらエラン·ケレスのことを好いていたような様子があったという。

なら、もしかすると。

決闘だなんだと言わなくても、本人を手中に収めてしまえば…………

 

こりゃいい。

命のやりとりよりも幾分か、人間に取り入るのは得意だ。

 

 

学園へ降り立って、その女を見た。

芋っぽくて、落ち着きがなくて、そして僕の…

いや、エラン·ケレスの顔を見て、照れていた。

 

あーあ、こうなると歯応えがない。

押せばすぐにでも籠絡できそうだ、なんて思ったけど。

そんな彼女がその時僕を押し退けたただひとつの理由、それは、ミオリネ·レンブランだった。

 

 

復学扱いになったとき、ミオリネの会社に入れられ……入社することになった僕は、そこで乗りたくもないガンダムの名を騙る会社の所属になった。

そんな場所でいらないしがらみや関わりを増やす気はない。

角を立てずに飄々と。のらりくらりと穏便に。

笑顔を顔面に貼り付け、上部だけのその場凌ぎでうまいことやっていこうとしていた。

目的の達成は遅れてしまうが、どうせ使い捨てられるなら生きてる時間は長い方がいい。

 

 

そんな矢先、学園でのオープンキャンパスに際して、会社のある地球寮に2人、転校してきた連中がいた。

片方は、スレッタ·マーキュリーに何故か懐いていてやけに明るいピンク色の髪の女の子。

そしてもう片方は…

僕と気が合いそうな、この世界が嫌いなのに生きることを諦められない女の子だった。

 

 

 

株式会社ガンダム兼地球寮代表として、オープンキャンパスの中でも一大イベントである一斉模擬決闘『ランブルリング』にエントリーさせられ、図らずもそんなところでガンダムに乗せられることになった僕は、その2人の目的と本性を目の当たりにすることになった。

 

破壊。

 

命のやり取りのない、決闘ゲームに明け暮れた学生たちの日常を引き裂く轟音と崩壊。

彼女たちもまた、僕と同じだった。

死なないために、死への道を歩くしかなかった者。

道具として使われ、ガンダムの呪いから逃れられなかった魔女。

 

そして、彼女たちを道具として使っている存在がいることに気づく。

混乱に乗じて、サリウス·ゼネリを確保して連れ去ったのは、グラスレー寮代表、シャディク·ゼネリの飼っている女たち………

 

 

 

少しだけ話が見えてきた。

こいつらは最初、地球から来たと言った。それは本当なんだろう。

だが、ただの地球人じゃあない。

裏でグラスレーと繋がっている、武装組織に所属する魔女。

だがそいつらを使って学園をめちゃくちゃにするまでは計画だとして、そこからは………?

 

起こっていることの理由はわかる。だがその後に何がある?

 

単身、しかも戦闘中にできることには限界がある。なによりガンダムとの戦いに加えて更に無人機を相手取りながら、これ以上思考を巡らせるのは難しかった。

 

 

 

戦いの後、魔女の片方が死んだと聞いた。ピンクの髪の方の奴だ。

ガンダムの呪い。それは年齢も性別も、関係なくパイロットを食らう。

絶対にそんな死にかたはしたくない。

 

しかしその死に近い痛みと苦しみを、間もなく体感することになるとは思わなかった。

 

学園の事件と同時に今までの事件の関連性が明るみに出ると、現総裁が意識不明の今、ベネリットグループの代表を新しく選定しなければならないという話が上がり始めた。

ミオリネ·レンブランの結婚相手を決闘で決める、というルールは、そうなると最早ないも同然となる。

 

結果、僕が次にやることは、ミオリネではなくエアリアルの奪取だった。

 

これ以上もたつくわけにもいかない。スレッタ·マーキュリーがいなくても、エアリアルを直接手にしてしまえば…

 

そうしてエアリアルのある場所に忍び込んで、乗り込んで。

起動しようとした、その瞬間。

 

 

身体中を激痛が走った。

 

何故だ…?4号は乗れたんじゃないのか…!?

痛いという言葉だけで形容しきれない程の激痛と嫌悪感が自分を包んでいく。

 

意識が遠くなる。

いや、遠くなる訳じゃない。

パーメットとデータストームに…溶けていくような。

 

 

そんな感覚の先で、僕は確かに、見た。

スレッタ·マーキュリーに似た、赤髪の子供を。

 

確かに、聞いた。

「貴方は、駄目」

と。

 

 

 

エアリアル、というものを、自分の力だけでは奪えないとわかった僕は、ペイル社から消えようと考えた。

どの道仕事ができなければ死ぬだけだ。

とはいえ一人野垂れ死ぬ気もない。

そう思った時、僕はふと、ランブルリングの時のことを思い出した。

 

グラスレーは地球の連中と繋がっている、という情報をエサに、シャディク·ゼネリの一派にコンタクトを取ると、程なくして僕は、それを口外しない代わりにグラスレーに匿われることになった。

監視という意味合いもあるだろうが…死ぬよりマシだ。

 

これで一息つける…と思っていたが。

 

案内された部屋には、行方のわからなかった地球寮の女と。

地球から来た"魔女"の片割れがいた。

 

グラスレーは…そしてシャディク·ゼネリは、想像の何倍も、真っ黒に染まっていたらしい。

 

 

まあ厄介事に首を突っ込む気はないし、権力だとかにさらさら興味はない。僕にとっちゃどうだっていい。

 

そんなことよりも、ずっと"魔女"に感じていた親近感というか、同情というか……

そういうのものを確かめるために、からかうように彼女に歩み寄ると。

返ってきたのは、暴力だった。

 

その拍子に、魔女…

ノレア·デュノク持っていたノートが落ちる。

たまたま開かれたページには、夥しい数の『死』が、悲しいほど精密に、描かれていた。

 

ああ。そうか。

この子も、死ぬのが怖いんだ。

今まで色々な『死』を見てきたんだろう。

その過程できっと、家族も仲間も失って、そして。

一番仲のよかった友だちを、ガンダムに奪われた。

 

不安でたまらない胸の中の気持ちを全部、スペーシアンへの恨みに換えて。

他に方法がないからそれでもガンダムに乗って、今を生きるために少しずつ死へと向かう。

 

 

僕と、一緒なんだな。

 

 

そう思った途端、魔女扱いされていた目の前の存在が、ひどく傷ついて怯えているただの女の子に見えた。

 

 

他人に同情されてもきっと、この感覚がわからない人間に対しては怒りしか沸かない。

でも、僕は。

誰より死にたくなくて誰よりガンダムになんて乗りたくない、僕なら。

寄り添うくらいは、できるかもしれないと思った。

 

 

シャディク·ゼネリの企みが発覚したのは、それから程なくしてのことだった。

そうなって最早隠す意味もなくなった僕たちは、部屋の鍵を開けられて急な自由を与えられた。

 

この厄介な状況でトンズラできるのはありがたい。

このままどこかへ行方を眩まそうと思っていた。

目の前で彼女が、自分を投影したノートを落として走り去るまでは。

 

 

やめろ。もう。

ガンダムに乗るな。

お前はもう背負わなくていい。

逃げていい。泣いていい。

生きていい。

 

 

そう、伝えるために、僕は。

 

魔女の片割れを殺したガンダムに、乗り込んだ。

 

 

 

 

学園の至るところから上がる炎。

崩れた校舎や施設。

逃げ惑う学生。

 

別にこの場所は好きじゃないが、見ていて気分はよくなかった。

 

周囲を見回す。

ノレアが乗り込んだガンダムと無人機が、やってきたモビルスーツと戦っているその場所まで行かねば。

そして止めてあげなければ、彼女はこのまま死ぬか殺されてしまう。

 

 

 

「僕と来い!」

 

 

 

咄嗟に口を突いて出た言葉はそれだった。

彼女のノートの別のページに描かれていた、美しい風景。

それが彼女が今まで見てきたものの中で、きっと一番美しかったもの。

死が溢れていた彼女の心の中にあった、その中でも消えなかった記憶。

それはすごく尊い事だと思った。

もし叶うなら、そこに行きたいと思った。

彼女に寄り添ってあげたい、と思った。

 

言葉は届けた。

そして届いた。

 

そして…

 

そこで、彼女の命は………

無慈悲にも、失われた。

 

 

 

ああ。そうか。

俺じゃ、結局無理なんだ。

今まで色々な『死』を見てきたはずなのに。

その中できっと、一番衝撃的で、やるせなくて、悲しくて、辛くて、そして。

その全てが、ガンダムに流れ込む。

 

 

今までガンダムに乗ったって、意地でも上げなかったパーメットスコアが。

感情の激しい変化を抑えられず上がる。

周囲で項垂れていた無人機が呼応して動きだし、ノレアを殺したモビルスーツを破壊した。

 

この気持ち悪さと嫌悪感は、ガンダムに乗っただけでは感じない。

僕の心が、目の前で起こったことに動じていた。

 

嫌だな。

本当はこんな気持ちなんだ、人が死ぬっていうのは。

 

 

 

 

それからは、簡単だった。

死なないために生きていた僕に、生きたい理由ができたから。

そこに向かうために、やれることをするだけだ。

 

まずは自分の身分を明かし、スレッタ·マーキュリーたちに改めて協力することにした。

それが僕の目的の近道になる、というのが表面上の理由だったが。

彼女もまた、僕と同じような境遇だったことに対しての贖罪も兼ねていた。

 

 

顔と声はそのままだったが、僕はもうエラン·ケレスを被ることをやめかけていた。

僕の名前を他の奴らは知らないから、エランと呼ばれてはいるが。

僕は、僕の意思でやりたいことをやっていた。

 

 

 

 

そうして最後に、行き着いた結果は。

ガンダムの起こした奇跡と、その輝きに融けたノレアたちの姿をこの目で見ることだった。

 

 

彼女たちは死んでしまった。

それは事実だった。

でも、確かに生きていた証左として。

彼女たちの…意思というか、気持ちのようなものが、ガンダムの中に残っていたんだと僕は考えている。

そして何より、その光のなかのノレアは、笑っていた。

それだけで、僕は。

 

なんだか少し、救われたような気がしたんだ…

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「報告はこれで全部か?俺」

 

「俺はよしてくれよ。アンタもう、ペイル所属じゃないんだろ?」

 

「そうカリカリするなって、5号。

…今まで悪かった。君の容姿は元に戻せるから、その前にそのままの姿で話が聞きたくてね」

 

「その事なんだが、このままでいい」

 

「…は?」

 

「べーつに悪用するつもりはないよ。

ただ…この姿でどうしても、やりたいことがある。

それが終わったら、戻してほしい。生きている間に終わるかは、わからないけどね」

 

 

 

 

あの一件から少し経って、僕は本物のエラン·ケレスと話をして、この姿のまま生きることを決めた。

彼女の…ノレア·デュノクのノートにあった風景。

それを探して、見つけることが、僕がこれから生きていく理由。

そしてその過去を持っているのは、本当の"僕"ではなく、エラン·ケレスを被っていた頃の僕だ。

 

エランを被る必要は、もうないが。

この顔でなくなってしまったら、忘れてしまうような気がして。

 

この顔を残したまま、僕は地球に降りた。

 

 

 

 

 

 

「…ここが、地球」

 

軌道エレベーターから降りた僕は、初めて地球の大地を踏んだ。

 

重力で身体がなんとなく重いような気がして、照りつける太陽の光が眩しかったりして。

 

でも、僕たちがいた宇宙と同じように息づく人々がそこにはいて、毎日を過ごしている。

 

「あいつ、ここから来たんだな」

 

ここはまだ都市部だろうから、具体的な場所はわからないが、なんとなく彼女に近づいた気がした。

 

 

 

 

「うぅ…ママ…どこいったの……」

 

ふと、声が聞こえてそっちを見ると、黒髪の女の子が泣いていた。

大泣きせずに堪えているようだが、頬を涙が伝っている。

 

「…君、大丈夫?」

 

らしくないことをしていると思ったが。

なんだか彼女に重ねて、声をかけてしまった。

 

「ママがね…どっかいっちゃったの…」

 

「そうかぁ…

じゃ、探そう。お兄さんが一緒に探すよ」

 

「ほんと…?」

 

「うん、さぁ行こう。

きっとお母さんが心配してるよ」

 

 

母親を探している間、その子はよく話した。

家でのこと、家族のこと、友だちのこと、学校のことも。

きっと、アーシアンの中でもノレアたちとは違いそれなりに恵まれた家庭だったんだろう。

ノレアもこうだったら、あんな生き方を選ばずに済んだんだろうか。

そんなことを考えていると、女性が駆け寄ってきた。

 

「どこ行ってたの!探したのよ!」

 

「あ、ママ!!」

 

その少女の母親であろうことは、2人の挙動ですぐにわかった。

 

「お兄ちゃんがね!ママを一緒に探してくれたの!」

 

「本当に!?

 

すみません、娘がご迷惑おかけしてしまい…」

 

「いやいや、気にしないでください。

無事に見つかってよかったです、それでは」

 

いつもの貼り付けたような笑顔で答え、踵を返して帰ろうとしたとき。

 

「お兄ちゃん、お名前なんていうの?教えて!」

 

少女の問いかけに、脚が止まった。

 

「そうね、お礼もさせていただきたいし…

名前だけでも、教えていただけませんでしょうか?」

 

母親にも。

 

 

「僕は、エラ………」

 

 

エラン、と口走りかけて、口をつぐんだ自分がいた。

 

もう、エランを被らなくていいなら。

例え顔がエランのままでも、僕は僕の名前を名乗っていいんじゃないか。

この顔は、自分の意思で残したものだ。これが嫌なのにさせられている訳じゃない。

なら、名前は。

僕に、戻ったっていいじゃないか。

 

 

 

 

「…いや、僕の、名前は」

 

 

 

 

もう、捨てていいと分かっていた。

エランだった今までに縛られたまま、生きるのは御免だった。

 

ここで名乗らないと、過去の僕に戻りきれないと分かっていた。

それなら、これからの時間を僕として歩みたかった。

 

だから、僕は。

エラン·ケレスを破ったんだ。

 




いかがだったでしょうか。
書いているうちにどんどん書きたいことが浮かんでしまい、想像より投稿が送れてしまいましたが、思ったように仕上がったので個人的には満足してます。
次回は書けそうであればシャディクを書こうと思ってます、その際はよろしくお願いします。

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