IS学園地下。
一般教員は入れない奥深くに、黒い残骸が横たわっている。
「この機体はISに間違いありません。破損はしていましたがコアが確認されました」
「無人機のIS…、山田先生、そのコアはどの国のものかわかりますか?」
「それが…、その肝心のコアナンバーですが、どのナンバーにも該当しませんでした。
このコアは…一度も世に出たことが無い、未登録のコアです」
その隣で、2人の女性が話し合っていた。
内容は、先日のクラス対抗戦中に降ってきて、行き成り戦闘を始めたACとIS。そのISのほうについてだ。
降ってきたIS2機(加えてAC学園の方にも1機降ってきたらしい)の内、1機は爆散し粉々になってしまったが、もう1機は原型を留めたままアリーナに残っていたのだ。
それを解析した結果が、先ほどの会話だった。
数分前に出た結果について考えながら、人通りのない場所へ向かう。
未登録のコア、それは新規に作られたコアということだ。
どこかの機関が開発に成功した可能性もあったが、だとしたら発表もせずあんな使い捨てるような運用はしないだろう。
そうなると、残るは一つ。
だが、それよりも気にかかることが私にはあった。
『ハイハーイ! こちら大天才の篠乃野束です。いやーちーちゃんからかけてきてくれるなんて珍しいねぇ。どしたの?』
「先日、無人のISと赤いACが学園内に侵入し、戦闘を繰り広げた。あのISはお前だな、束」
『うはー行き成りだねぇ、決めつけはよくないよ~。ま、実際私なんだけど』
「お前は、─あのACのことを知っているのか? いつからだ、何故戦いながら学園まで来た!」
私はあの赤いACについて知りたかった。現状なんの情報も掴んでないが、2度も私達の前に現れたのだ。
『ちょちょちょ、そんなにまくしたてないでよ~。ちゃんと説明するからさ。
じゃまずあの赤いACのことだけどね、知っているといえば知ってるし知らないといえば知らないかな』
「ちゃんと説明しろ!」
『まぁまぁ、ここからだって。
あのACはね、大体、5、6年くらい前かなぁ、そのぐらいの時期に現れてね、束さんの邪魔をしてくるんだよ』
「邪魔を?」
『そそ、なんでかわかんないんだけどさ、束さんが出かける度に襲ってくるんだよ。
その都度潰してるんだけどね、何度も何度も…、あの時は本当にうんざりしてたよ』
「今は違うのか?」
『うん。ある時期から来なくなってね、遂に死んだかなぁ~なんて思ってたんだけど。
最近は各国の基地襲ってISを集めてるみたいだよ。
IS学園に来たのもそれが目的かもね。』
こいつを何度も襲撃している(できている)というのも驚いたが、ISまで集めていたとは。
となると、やはり目的は…
『それか…』
「男性IS操縦者…一夏か?」
私の考えを言う。束も概ね同意のようだ。
『まぁなんであの時点から注目してたのかが分からないけど、多分そうだろうね。見てはいないげど"あの時"と今回、その素振りがあったみたいだしー。だから束さんがそれを防ごうとしたんだよ。結局やられちゃったけど』
あの赤いACと初めて会った"あの時"と今回。
そして束の手すらも退けるあの戦闘力。現状のこちらの戦力で対処は厳しいだろう。
と、ここで一息ついた束が少し真面目な声で言う。
『あいつの狙いはいっくん、もしくはちーちゃんかその両方だよ。今日は退いたみたいだけどまたいつ来るかわからない』
「………なにが言いたい」
『暮桜を使うべきだよ。あの束さん自らが作り上げた機体をさ。そうすればあんなやつ一発だって』
「だがあの機体は…」
『あの時のこと気にしてるの? 大丈夫だって、ちーちゃんは心配性だなぁ。
そんなに心配ならさ、今度束さんが診てあげるよ。たしか今度みんなで海行くんだよね。そのとき箒ちゃんに誕生日プレゼントあげに行くんだけど、そこで一緒にさ』
「束、一緒にとはどういうことだ? まさかそのプレゼントとは」
『まぁまぁ、この大天才に任せなさい。じゃ作業があるから切るねぇ、バイバーイ』
そういって通話は切れてしまった。
「チッ」
驚くことは多々あったが、結局あのACについては分からずじまいだった。
深いため息をつき、ベンチへ腰を下ろす。
そこで、今後のことを考える中、あのACと出会ったあの日、第2回モンド・グロッソでの1日を思い出していた。
両親達が行方不明になって数年、姉弟2人で暮らしてきた私達は、その日も一緒に会場まで来ていた。
「決勝進出おめでとう千冬姉、あと一回勝てば大会2連覇だね」
「ありがとう一夏。だが油断出来んよ。今戦った相手も去年より手強く感じた。決勝でも一筋縄にはいかんだろう」
体を動かすことくらいしか取り柄の無い私は、手っ取り早く金を稼ぐためにIS操縦士になっていた。束の協力もあり、国家代表まで登り詰めた私は、第1回モンド・グロッソで優勝。
今は第二回であるこの大会で、準決勝に勝利したところだ。
「大丈夫だって。千冬姉すっげぇ強かったし、次も勝てるよ。俺も応援してるからさ」
「そうだな。一夏が応援してくれるなら心強い。これならきっと優勝出来るだろう」
「織斑選手、そろそろ…」
「ん? あぁわかった、すぐ行く。
では一夏、行ってくるがあまり動き回らず静かにしてろよ。この広い会場で迷子になって迷惑をかけることのないようにな」
「わかってるって」
この時の私は、一人だけの家族になった一夏の為に必死になると同時に、浮かれてもいたのだろう。
ISに乗り始めてから、全てがうまい調子に進んでいる。ISを自分の手足のように動かせ、空を自在に飛ぶのも楽しかった。そのあとについて来た数々の勝利や栄光が自分に更なる自信を持たせてくれる。
この時にはすでに、手段と目的がごちゃ混ぜになっていたのだろう。
一番大切な目的を見失いつつあったのだから。
一夏が誘拐されたと聞かされたのは、それから20分後のことだった。
なぜこんな事を予想しなかった。自分の立場は最早ただの一般人ではない。その弟を一人にしておくなんて迂闊すぎる!
一夏が居ない、ここにも居ない、あそこにも居なかった。
「織斑さん落ち着いてください! 今我が軍が総出で探索を行っておりますので直ちにお戻りを!」
外野がうるさい、あっちはまだ見てない、もしかしたらそっちに居るのかもしれない。
「織斑さん! 即座に停止し、ISを解除してください! 一般人がいる中でその行為は危険です!」
ISを纏った数人が進路を塞いでくる。
邪魔をするな! 私は一夏を見つけなければならないんだ!
道中のことはあまり覚えては居ない。ただただ誘拐した犯人と呆けていた自分への怒りが埋め尽くしていた。
記憶が鮮明なのは一夏を発見してからだ。
そこには破壊され、煙を上げる数台の車と、赤いAC。そしてそのACの手に握られている、気を失った一夏だった。
「貴様ぁぁあぁぁ!!」
すぐさま一夏を助け出そうと飛びかかる。
だが相手はこちらに気付くや否や、複数のミサイルを発射してきた。
今更こんなもの!
ミサイルを切り払った瞬間、衝撃が襲う。
ミサイルの爆発範囲が予想以上に広い!? いや違う、それもあるが他にある。
あのACが、切り払った瞬間を狙って手に持ったパルスライフルを当ててきたのだ。
結果、切り払ったミサイルとの距離が稼げなくなり双方のダメージを受けてしまった。
理屈は簡単だが、私相手にそんな芸当が出来るやつなどあったことが無い。
ミサイルを切り払えばさっきの二の舞だ、ひたすら回避する。
相手はその間に、徐々に後退していく。逃げるつもりか!
「行くなぁ! 一夏を返せぇぇ!」
瞬間加速でミサイルを振り切り、相手を両断すべく一気に近づく。
だがそこで、異変が起きた。
『………チ………フ……ユ………?』
刀を振り上げ間合いに入った瞬間、ACから変声機を通したと思われる声が聞こえた。
その直後、何故か私のISが、機能停止したかのごとく動かなくなる。
そのまま体当たりする形になり、衝撃でACが仰け反る。
その拍子に、一夏がACの手からこぼれた。
「い、一夏ぁぁ!」
ISは未だ動かない。一夏との距離が遠ざかっていく。
どうしてだ、今まで手足のように操ってきたISが、今や一夏を阻む敵に思えてきた。
私は……
「ぐっ、があぁぁ!」
ISを強引に脱ぎ捨てる。まるでその部分の皮を剥いだかのような痛みが襲った。
だが今は無視する、そして一夏を助けるべくその場から跳躍した。
重力というのを久しぶりに感じだ気がする。ISに乗ってないと人は飛べないと実感した。
一夏を抱えた私はそのまま庇い地面に激突。息が苦しい。あんな高さから落ちれば当たり前だ。
一夏は…、一夏は無事なのか。
横を見れば、相変わらず気絶しているものの、特に外傷のない一夏を確認出来た。
安堵した私はそのまま気を失う。視界の端にこちらを向くACを捉えながら。
後から聞いた話では、その場に駆け付けたドイツ軍が私達を発見し、あの赤いACは影も形も見当たらなかったそうだ。
第2回モンド・グロッソの決勝は当然私の棄権で負け。
その後、一夏の探索と私達を救援してくれたお礼、およびその時激情した私が攻撃を加えてしまったお詫びに、1年間ドイツ軍でIS教官として従事することになった。
それ以降、私はISにほとんど乗っていない。あの時のことから、ISに不信感を持つようになってしまったのだろうか。
はは、それも当然か? IS学園の教師になった今でも、ISがどんな仕組みになっているのかすらわからんのだ。
特にその時のIS「暮桜」は一度も乗っていない。今はIS学園地下に厳重に保管している。
その「暮桜」に束は乗れというのだ。乗らなければあいつを退けられない、あいつから一夏を守れないとも。
唯一ISの仕組みを知っている私の親友。
その親友の言葉、信じていいのか…。
すぐに答えは出せそうになかった。
ちーちゃんとの通話を切ったあと、モニターに映る赤いACを睨む。
本当はなんでいっくんを狙っているのかわかっていた。そしていっくんだけでなくちーちゃんまで狙われているということも。
あのACがちーちゃんの前に現れた前日、そいつは私の研究所に襲撃してきたのだ。
内部にまで侵入されたとき、とっさに研究所ごと爆破したから死んだと思ってたのに。
油断した、きっと知られてしまったんたんだろう。私への襲撃が無くなったのもその日からだ。
だから今回"鉢合わせた"のには驚いた。それとも待ち構えていたのだろうか?
おかげで折角作った無人機は大破され、白式に経験値を積ませることが出来なかった。
どこまでも邪魔なやつだ。
「だけど……」
後ろを振り向き、完成間近のISに目を向ける。
これが完成し、ちーちゃんがまた暮桜に乗るようになったら───
「もう少しだよ。もう少しで出来上がる。
他の塵芥どものいない、ちーちゃん達だけの夢の世界が!
アハハ、アハハハハハハハッ!」