「今から8年前に誕生したACは、大きく分けて頭部パーツ、腕部パーツ、脚部パーツ、そしてそれらを統括するコアパーツによって構成されている。
さらにこのコアパーツの中にACコアが収められており、これがACの核となってさまざまな機能を実現させている。
よく間違えられるが、コアパーツとACコアは別物だ。お前らも気をつけるように」
シャルルは今日も横で熱心に授業を聞いている。
初日の妙なテンションで行われたファーストコンタクトを払拭しようと、勉強に困っているようだったシャルルを助けて早5日。
その甲斐もあり、授業に欠片もついていけないなんてことは無くなったようだ。
どうやら頭そのものは悪くないようなので、きっと会社関係でごたごたして勉強できてなかっただけなんだろう。
やはり(次期)社長ともなると大変なものなんだな。
「…という経緯からISコアは国に管理、運用されているのに対し、ACコアは企業によって管理、運用されている。
よってこのAC学園にあるACコアは、すべて企業連の管轄であり…」
キーンコーンカーンコーン
「っと時間か。午後は実習だからお前ら遅れずにアリーナに集まれ。遅れた奴はACに乗せん」
担任が教室から出ていく。
そう、今日は入学後初めてのAC実習。つい気分が高揚する。
昼食時、
「そういえばさ、前に僕が会社の云々って話が挙がったけど皆はどうしてAC学園に入学したの?」
シャルルがそんな話を振ってきた。
「んー俺はやっぱりランカーになる為かな。というかこの学園に来るやつなんてランカー目指してるやつかAC技師目指してるかの二通りだろ?」
「俺はAC技師かな。だけどただの技師じゃない。俺はACコアの製造を実現させる為に来た。過程はともかく理論だけは判明してるんだ、やれないことは無いさ。なんてったって既に完成品があるんだからな。
て訳でデュノア社に入れて下さい、面接とか面倒で受けたくないんです。」
やっぱランカー志望は多いよな。ACで試合してそのファイトマネーで生活する。今やACランカーは男子では一番人気のスポーツ選手と言って良いだろう。
まぁうちの担任は女性で在りながら上位ACランカーだったと言う過去を持っている訳だが…
それにしてもこいつはACコアを作る気だったのか。
「あはは…、今の僕にそんな権限無いからさ……そ、それで弾はどうなの?」
話を逸らす…と言うより元に戻そうと俺に聞いてきた。
「俺も大まかに言うとランカー志望かな」
「大まかに?」
「あぁ、もう少し細かく説明するとな、俺ん家って定食屋なんだよ。で、ランカーになってついでにウチの店を宣伝しようっていう単純な話さ。
まぁもっと言うとこいつか誰かがACコア量産出来るようになってからの話なんだが…、俺は自分の店を持ちたいと思ってる。五反田食堂2号店だ。そしてそれをACで移動させる。
そしたらいつでも俺の飯を食わせることが出来るって訳だ。それこそ世界中にな」
ACコアを再現させる、なんでデカい話が出たもんだからついつい俺の夢も詳しく話しちまった。ちょっと恥ずいな。
「ふぇ~みんな色々と自分の目標持ってるんだね、すごいなぁ」
「皆っていうか俺だけ普通でつまらくないか? 社長にACコアに世界の定食屋? だったら俺はもうランカー1位を目指すくらいしないと面白さが釣り合わないぞ」
「面白さ釣り合わせてどうすんだよ……」
入学して5日経つが、こうして何の問題もなく過ごしている。普通問題なんてそうそう起こるものでもないんだが、(精神的に)遠い所に行った友人を想うと頻繁に問題に巻き込まれていそうな気がする。
具体的に言うとお嬢様っぽい人とケンカという名のフラグを立て、勢いそのままに決闘する羽目になったとか。
で、午後になりアリーナに集結した俺ら。
「よし、集まったな。これが最初のAC実習になるわけだ。嬉しいかお前ら!」
「「「嬉しいです!」」」
目の前には1機のACが佇んでいる。全長約7mほどのサイズで武装はついてない、よく見る中量二脚タイプのACだ。
「うむ、けっこう。だが残念ながらお前らがこの時間に学ぶ感情は恐怖だ。現代最強の兵器の一角をなすACでも、いや、だからこそ素人が無茶をすれば簡単に事故を起こす。
その為の恐怖だ。まぁ要は一回痛い目見とけば2度と間違いを起こさないって考えだ」
え、何? 2度と繰り返さないくらいの恐怖なの? それってトラウマ…
「事前に内容を把握されると下手に耐性ができる可能性があるので1人づつ行う。デュノア、まずはお前からだ! 残りは呼ばれるまでピットで待機」
「は、はい!」
シャルルと先生の2人を残して、ピットに待機する。
異変はそれから2分後に起こった。
ズゥーン ズゥーン
何かが響くような音が聞こえた。一体何をしているのかと眉根を寄せる。
更に2分後、
ガシャーン ガシャーン
何かが叩き付けられるような音。不安で皆がざわつく。
そしてその1分後
ガギャーン!!
一際大きい、叩き潰されたような音が鳴ったあと シンッ と静かになった。
『次のやつ、来い』
スピーカーから底冷えするような声で呼び出しがかかる。
その"次のやつ"は顔が真っ青になっていた。
ちなみにシャルルは戻って来ない。
それから1時間、約5分おきに呼び出しがかかり1人、また1人と減っていく。
あの音は…そしてなぜ誰も戻ってこない。
どう考えても無事じゃ済まない音を聞き続け、ついに…
「次、五反田来い」
気が付いたらACに乗って先生と対峙していた。
あ、先生のACピンク色なんですか。かわいいですね。
「そう怖がるな五反田、授業でも説明したがACに使われている特殊合金はISの絶対防御並の防御力を誇る。
まぁ絶対なんて矛盾を孕んだ言葉は好かんが分かりやすいだろ」
それはその防御力が必要な状況になるということだろうか?
「さて、まずは基本の動きだ。
エネルギーを消費しない通常ブースト。次に壁などの地形を利用したブーストドライブ。瞬間的な速さを得られるハイブースト。そして大量のエネルギーを消費し続けるが高速移動が出来るグライドブーストがある。
どれも動かし方は把握できてるか? 確認の為ちょっと動かしてみろ」
指示に従い一つずつ確認していく。試験の時にも動かしたがそこまで難しくない。
初めて行う移動方法、特にブーストドライブ(壁蹴り)は低エネルギー消費の割に早く移動出来て楽しかった。
あれ、いがいとふつう?
「よし、だいたい確認出来たな。では今からお前を撃ち殺s…じゃなくて撃ち落とす。
さっきの動きを駆使して必至に避けてみろ。ちゃんと避けないと死n…大怪我するかもだから気ぃつけろよ」
そう言い終わった瞬間、モニターを覆う程の爆発がコクピットを揺らした。
「あ、弾! 無事だった? 僕気づいたらここに居て…、なんか他の皆も虚ろな目してブツブツ言ってるしで状況がよくわからなくて…」
「…………ーストでも……炎…突っ………グ…イドブ…………壁…激突……、無理………逃げ…れ………」
「あぁ弾も駄目だ。というかこの呟きを聞いてると嫌なもの思い出しそうで……うぅぁ………あばばば…」
…
「これで全員終わったな。これでもう無茶な操作はしなくなったはずだ。少なくとも機動中にすっ転ぶなんてことはない。
これは私のクラスしか受けられない特別な授業だ。もっと感謝してもいいんだぞ。
……まぁいい、では今日の授業はこれで終わりにする。ちょうど明日から土日、ゆっくり休め」
翌日正気を取り戻した俺達は生還したことを互いに喜び合い、皆でカラオケに行き宴をひらいた。
この喜びを分かち合おうと友人達を呼んだが、その時俺の予感が当たっていたことを確認する。