クラス代表を決める為に決闘することが決まって丁度1週間後の放課後、俺は不安に駆られていた。
あれから、専用機を貰えることが決まったり、箒に代表候補生とは何なのか教えてもらったり、箒と剣道の特訓をしたり、いろいろあった。
あ、箒っていうのは掃除用具のことじゃなくて、幼馴染の篠ノ之箒のことだ。
数年ぶりにここ、IS学園で再開を果たし、男一人という四面楚歌状態からの脱却に希望を見せてくれた。
箒がいなければ、本当の掃除用具に話しかけるようになってしまったかもしれない。
で、なにが不安かっていうと、
「来ないな……」
「あぁ、来んな…」
来る予定だった専用機が試合直前になっても到着しなかったのだ。
おかげで専用機での練習が全くできなかった。というかISでの練習自体してない。
「というかISでの練習自体しなかったな…」
「……ふん、入学して1週間も経ってない1年生がISを借りられるはずないだろう」
そうなのか? その割には、IS知識皆無の俺が決闘の為の特訓(ISについて)を箒にお願いしてから、
「ならば今のお前の腕前を見せてみろ。私もあれから強くなった、もうお前に負けはせん!(意訳)」
と剣道の試合を申し込まれ、ごく普通に負けたら、
「弱い、弱すぎるぞ一夏、それとも私が強くなりすぎたのか…(意訳)」
と哀愁を漂わせ、以後ISのことなんて忘れたように剣道の稽古をしていたが。
「私はそんな中二みたいなこといってないぞ」
いいじゃないか、俺達はまだ高一。中二とは2年しか違わない、誤差の範囲内だ。 ん?
「………もしかして声に出てたか?」
「お前は顔に出やすいんだ。次、失礼なこと考えたら切る」
そうだったのか……、俺が心の内をさらけ出す自分の顔面にショックを受けていると、
「おっおっおっ織斑くーん! 来ました!織斑くんの専用機、到着しましたよー!」
副担任である山田先生が息を荒げながら走ってきた。妙にテンションが高い。
「や、山田先生、とりあえず落ち着いて。はい、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」
「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、 …あれ?」
スターン!
「教師で遊ぶな」
「うぐ、ごめん、千ふ、…織斑先生」
いつの間にか現れ、出席簿のような物を振り下ろした織斑先生。
多分山田先生と一緒に来たと思うんだが、息ひとつ切れてない。
「ほら、これがお前のIS、『白式(びゃくしき)』だ。時間が無いから初期化と最適化は試合中に済ませろ」
「これが俺のIS、白式…」
頭痛に涙を浮かべながらそちらを見る。そこにはその名のとおり白にカラーリングされたISが鎮座していた。
山田先生に促され、白式に体を預ける。各パーツが次々と体を覆い、ISが展開された。
機体の調子を確かめた後、箒を見る。
「なんだ?」
「勝ってくる」
「…フッ、そうだな。勝ってこい一夏」
そうしてアリーナへと飛び立った。
「あら、やっときましたのですね。あんまり遅いので逃げてしまわれたかと思いましたわ」
「はっ、そんなわけ無いだろ。こっちはこの1週間(剣道の)猛特訓して来たんだ。今日は勝たせてもらう」
どこかで すまん と聞こえた気がしたが気のせいだろう
「…一週間で大きく変わるほどISは甘くありませんことよ」
少し怒気を孕ませた口調で言う。そして試合開始のブザーが鳴った。
「さぁ踊りなさい!このわたくしのIS『ブルー・ティアーズ』と共に!」
一部がセシリアのISから分離し、アリーナ内を飛び回る。その数4つ。
「これはいったい…」
自分を包囲するように動き始めたので慌てて退避。
その瞬間、自分がいた場所をレーザーが通りすぎる。
「あら、良い判断ですわね。案外ただの素人、という訳ではないのでしょうか」
「どうだろうな、それはこれから判断しな」
精一杯の軽口を叩くが向こうは余裕だ。
「ふふっ、ではそうさせていただきましょうか」
すると今度は断続的にレーザーが飛んできた。
実質二回目の操縦ではどうしても不慣れな操縦になっちまう。必死に避けながら、白式の武装を確認した。
(白式の武装は……ブレード一本に………あれ? )
これはどういうことだ。武装は近接武器であるブレードが一本のみ、他には何もない。
装備の積み忘れ? そう言えば白式が到着したのは時間ギリギリだった。きっと慌てていたんだろう。慌てて…装備を積み忘れてしまったのだ!
(いや、嘆いても現状は変わらない。ここはむしろブレードだけでもあって良かったと喜ぶ所だ。それにほら、これなら一週間の特訓を十分にいかすことができる!)
思考をポディシブに切り替え、ブレードを展開する。
それから避け続けてしばらく経った。お陰でなんとか操縦に慣れ、分離したパーツ(ビット)からの攻撃にもそれなりに対処できるようになった。
まぁそれと引き換えに、何発の被弾でシールドエネルギーは半分ほどまで減っちまったが。
「しぶといですわね」
「回避が上手いと言ってくれ。じゃあそろそろこっちからも行かせてもらう!」
ビットのレーザーを掻い潜りセシリアに接近する。
「予想以上に出来ることは認めましょう。ですがまだまだ甘い」
そう言うとビットの攻撃が止み、セシリアは手に持っていた長身のライフルを構えた。
「わたくしは本来、スナイパーでしてよ」
「ぐっ…!」
ビットと同じように避けようとするも銃口はピッタリとついてきて離れない。
胴体に被弾し動きを止められてしまった。
「そしてこれで……終わりですわ!」
セシリアのISの腰部分からミサイルが放たれるのが見えた。
ライフルからの衝撃で回避が間に合わない。
負ける……、元から勝率は低かった。それでも、友人達へつながる非難を撤回させたくて頑張ってきた。
負けたくない、まだ一矢すら報いてない!
視界の端にその友人達が見えた気がして…、それに答えるようにブレードを振り切った───
「一夏!」
アリーナでは、一夏がミサイルの爆炎に飲まれ姿が見えない。
「織斑先生、今の…」
「あぁ…アイツ、ミサイルを切ったな」
そ、そうなのか。山田先生と織斑先生には見えていたようだ。それなら一夏は…
「だがあの位置だとほとんど意味がない。直撃よりマシ、といったところか」
そんな! 思わずアリーナを見返す。
「だが、そのマシな分が命を拾うことになったようだ」
「あ、あれは!?」
そこでは、ミサイルによってあがっていた爆煙がようやく晴れようとしていた。
(これは……?)
爆炎の中、自分の機体が変わっていくのがわかった。少し無骨だったフォルムが流線型のスマートなものに変化し、手に持ったブレードもどこかで見た形状へと変化した。
(……雪片)
正式名、雪片弐型。
かつて千冬姉ぇが握っていた刀に心が震える。
(負けられない理由が増えたな)
もうじき爆炎も晴れる。その前に俺はブルーティアーズへと突っ込んだ。
「…! あなたは…!」
直前で気付かれ、ライフルを盾に防御される。
「ようやく一矢報いたな」
これでもうこのライフルは使えないだろう。
変形し青白い光を放った雪片でそのまま押さえつける。
「なるほど…、一次移行<ファーストシフト>ですか……」
ギリッ、と歯が鳴るのが聞こえる。
「今まで手を抜いていたと……わたくしを馬鹿にするのも大概になさい!」
「手を抜いても馬鹿にもしてないさ。ただあいつ等やこの刀にかけて負けられないだけだ」
更に押し込み、壁際へと追い込む。雪片を防いでいたライフルが砕けた。
「くっ、インターセプ…」
何かしようとしているが間に合わせない。そのまま刀を振り切る!
『ビィィーーーー』
『――試合終了、勝者、――――――――』
………試合は終わった。
さっきのが少し気になり、ちらりとAC学園の方へと目を向ける。
そこでハイパーセンサーに映ったのは、屋上で、おそらく教員であろう女性にしばかれている友人含む3人の姿だった。