アメリカ、山岳地帯にある某基地。
今ここは緊急事態に陥っていた。
基地のいたる所で火災が発生し、今もなお爆音が鳴り響いている。
「被害の状況は!? 重要施設より順に報告しろ!」
「はっ、0200時、最初に格納庫が砲撃により爆発。その後立て続けに空路、陸路の搬入口が順に破壊されています」
「我々をここから逃がす気はないということか。敵の勢力は! どこから攻撃している!」
「攻撃の方向は南南西。レーダーへの反応は…一機のみ、どうやらこちらに向かって来ているようです。モニターに映します!」
モニターにこの基地へ繋がる山林が映し出される。その中を疾走しつつ砲撃を行う赤いACが見えた。
「ACだと……バカな! どこの企業がこんな真似を…!」
「相手側への通信はシャットアウトされています。こちらとの対話の意思は無いと見ていいでしょう」
「くっ……。本部へ現状の連絡とあのACの照会、並行して戦力と被害状況の確認もだ、急げ!」
「ISはどうなさいますか? 我が基地には先日からISが一機、待機しておりますが」
「そうか、ISが居たか…。よし、操縦者に迎撃を指示。残り兵力をISのサポートにまわす」
「了解しました」
士官が各部署へ指示を飛ばすのを聞きながら、モニターを睨む。
(所属不明の赤いAC……、ただの噂であって欲しいものだ…)
「了解した。高々調子に乗ったAC一機、楽に落としてやるよ」
代表IS操縦者であるイーリス・コーリングがこの基地に派遣されたのは、軍とISとの連携を高める訓練の為だった。流石に彼女も来た翌日に実戦するはめになるとは思わなかった。
「油断は禁物です。敵は此方の兵力を破壊しつつ接近してきています。基地内に侵入される前に迎撃してください」
最初の攻撃により戦闘機、戦車等が出撃不能になり、残りは歩兵と砲台のみ。
歩兵がAC相手に戦力になるはずもなく、作戦は砲台にて足止めおよび牽制を行い、その隙にISにて撃破することに決まった。
「ACと言っても敵は一機なんだ。障害物が多い森の中じゃ小回りが利くISのほうが有利だよ。
特にこの新型IS『アラクネ』の利点を十分に活かすにはもってこいの状況、心配は要らないさ」
「………では出撃をお願いします。防衛網もAC相手にいつまでもつか分かりません」
雰囲気を感じ取り、すまんすまんと謝るイーリス。
いざ気を引き締め飛び立とうとした時、この格納庫の扉が吹き飛んだ。
「なっ……、まさか、早すぎます! この短時間で基地の防衛網が破られたとでも…」
ゆっくりと、まるで威圧するかのように赤いACが扉を越えてくる。
「所詮は通常兵器だったってことだ。まぁ寧ろこの格納庫のほうがやりやすい。考え無しに突っ込んできたこのアホにめいいっぱい後悔させてやるよ!」
アラクネを展開し、ACへ接近する。赤いACはその様子を観察するように頭部カメラで見つめていた。
「くっ、取り敢えず報告を…」
状況は最悪だ、すぐにでも彼女にオペレーターによるサポートを行わねば。
撤退を指示しに来た士官は、巻き込まれないようにその場を後にした。
アラクネはその名の通り、蜘蛛のような8本の足を駆使した変則移動と手数の多さで翻弄する機体である。
閉所であればACはおろか同じISであっても苦戦せず倒すことが出来るだろう。
それを十分理解しているイーリスは、側面から回り込み攻撃を加えた
はずだった。
「なぁっ? 」
視界からACが消える。違う、ハイブーストによる回避行動だ。
完全な視界外からだったにも関わらず、攻撃の瞬間に回避された。
振り向くと、右手のパルスライフルをこちらに構えている姿が見える。
「ハッ、上等だ」
冷や汗と共に笑みが浮かぶ。パルスライフルを回避し、壁面を疾走した。
「お前が中々のやり手ってのは理解した。だが蜘蛛が自分の巣で負けるって訳にはいかないんでね。
大人しく私の餌になりなっ!」
司令部では今、アラクネと赤いACとの戦闘がモニターされている。
「まだあのACについてわからんのか。あれほどの戦闘力を持っているのだ、特定は容易なはずだろ」
外の砲台はあのACによって全滅している。もはやこの基地には戦力がほとんど残っていなかった。
「上位ランカーを中心に照合しましたが機体、操縦者、共に一致するものはありませんでした。
今わかっているのは、あの操縦者は上位ランカー以上の操縦技術を持ち、あとは…その、あのACコアからは未確認の識別信号が確認されました」
「なっ、では……」
「はい、新規に製造されたACコアか、もしくは……『最初のAC』ではないかと…」
「………どちらにして最悪だな。応援を急ぐよう再度連絡してくれ。
残りは万一に備えてこの基地を廃棄する準備を───」
「ハァ、ハァ、ハァ…」
アラクネと赤いACは何十回と攻防を繰り返している。
互いに打ち合い、ブレードで切り結び、決定打を回避している。
一見互角に見える戦いだが、イーリスは内心おされていた。
(何故だ…、この状況、アラクネの独壇場のはずたろ、何でこいつはさも当然のように平然と立っている)
そう、この狭い格納庫の中、相手は碌に飛び上がることも出来ない状況で互角というのがおかしいのだ。
イーリスは過去、何度かACと戦った経験がある。
演習ではあったものの、実践形式で行っており勝利の数も多い。
決して相手が弱かったわけでない。ただ…
(こいつは…これまでのと格が違う……!)
ACのライフルから光が走る。
長時間の戦闘による疲弊からか、ついに攻撃を受けてしまった。
「ぐっ、がっ!」
反動で壁に叩き付けられるも、すぐに起き上り追撃を躱す。
『イーリス! あと少しで応援が着く、それまで持ちこたえるんだ!』
「ははっ、なんだよ……それじゃあまるで私が負けているみたいじゃないか…。
まぁ…見てなって、そんなの待たなくたって…私が直ぐに……」
ブレードで斬りかかる。同じくブレードで受け止められ、そのまま弾き飛ばされた。
「ぐぅ…ぁあああくそったれがあああぁぁ!」
吹き飛ばされつつも、相手へマシンガンを乱射する。弾が切れた。
「ちぃぃ!」
マシンガンを投げ捨て、グレネードを構える。
視界いっぱいに"赤"が迫っていた。
「あ?」
壁とACに挟まれ、意識を失う瞬間、イーリスは声を聞いた気がした。
―――カエセ―――
と。
「あ、ダンナ。戻ってきたのか。最近出るの多いんじゃないかい。
あいつ最近反抗期なのかずいぶん生意気になってさ、もうちょっとゆっくりして相手してやってくんねぇかな」
「え? これで遊んでやれって……いいのかよ、そんな簡単に。
あぁわかったよ、信頼されてるってことね。じゃあその時まで預かっとく、ダンナも気を付けてな」
「あ、あとダンナのこと主任が呼んでたぜ。また趣味の悪い笑いしてたから、どうせろくでもねぇことだろ。行かなくてもいいかもな」
「やぁお疲れさん。今回もまた随分無茶をしたみたいだねぇ。
さっき機体を見たけどあれ、ほとんど全壊だよ。そんなんで大丈夫?」
「あぁ別に嫌味を言ったつもりは無いよ。純粋な心配ってやつさ~、事情を知ってる身としてのね」
「そんなことより面白いものを見つけたんだ。見てごらんよ、君もきっと興味津々さ」
「IS学園って所の映像なんだけどね。ほらこれ、この動き…。彼一種の天才って奴だよ、自分で気付いてないけど」
「ハハハァ、いやーさすがだよ。さすがは────」
「おや? もう行くのかい。もしかして煽っちゃったかな?」
────────
「そう、もう少しだ。もう少しで君の願いは叶う。そして俺の願いも………」
「…ハハハッ、ハハハハハハハハハハハハハハッ!」