中国へ行く前のあの日、私は一夏と二人きりで教室に居た。
「もう明日には行っちまうんだな」
「えぇ、そうね…」
そう。明日には離ればなれになってしまうこの日、私は一世一代の告白をしようとしていたのだ。
「あのね一夏、もし私の料理の腕が上がったらさ、私の作った酢豚、毎日食べてくれる?」
「(酢豚? 鈴のやつ親父さんの店継ぐ気なのか、なら友人として応援してやんないとな)あぁいいぜ。その時は腹一杯食わせてもらうよ」
「ほ、本当? 約束よ」
「あぁ(毎日は無理だと思うけど今言うのは不粋か)」
私がこの()内の言葉に気付いたのは、それから数ヶ月後のことだった。
IS学園アリーナ。
そこでは、学園イベントであるクラス対抗戦が始まるのを、今か今かと待ちわびる生徒で一杯になってた。
中心には2体のIS、一夏のIS「白式」とこの私、鳳鈴音のIS「甲龍(シェンロン)」だ。
よく、「まさか、君は7つ全て揃えたとでも言うのかね」と言われるが断じてそっちじゃない。
「まさか一戦目が鈴とはな」
「なに、もしかして怖じ気づいちゃた?」
「はっ、まさか。この勝負は勝たせてもらうさ」
「へぇ、すごい自信ね。じゃあさ、賭けをしない?」
「賭け?」
ここで私は、再会したときからの目的を切り出した。
「そ。私が勝ったら、一夏、あんたにはこれから毎日酢豚を食べてもらうわ」
この断れない状況で昔の約束を認識させなおす。昔の約束を思い出した一夏は、なんでここでこの話を持ち出したのか気になるだろう。そしていろんな考えを出した結果、あの約束は告白だった、という可能性も思い浮かぶはず。
そうなれば、一夏から確認してくるかもしれないし、しなくても私から言えば今度こそ誤解せずに伝わるはず。
「………? まぁいいぜ。じゃあ俺が勝ったら鈴は毎日ラーメンの代わりに蕎麦な」
………へ?
「えぇぇ? なにそれ意味『両者、準備はいいか?』」
あいつぅぅ、どうゆう考え方したらそんな結論になんのよ。というか一夏、約束のこと完全に忘れてない? ちくしょう、許せん!
『それでは、試合始め!』
ビイィィィーーー!
潰す。
開幕、先手必勝とばかりに一夏は突っ込んできた。
馬鹿ね、私の怒りを食らいなさい!
「ぐはぁっ! なんだ? 何も見えなかったぞ」
初心者のくせに生意気にも瞬間加速を使ってきたのには驚いたけど、真っ直ぐ突っ込んで来るとわかっていれば、ただのいい的でしかない。
そして、私のISの特殊兵装「龍咆」による衝撃砲は目に見えないのだ。どこに向かって撃っているかわからなければ簡単には避けられはしない。
面白いように吹き飛んでいった一夏に少し溜飲が下がる。
「ふふ、早くも勝負ありってとこかしら」
「早計過ぎたろ。こっちはまだ全然いけるぜ」
そう言うと今度は普通のブーストで近付いてきた。
なに? 龍咆の衝撃砲を見極めようっての?
「ぐうぅ! またか…」
見えないものを見極めるなんて無理に決まってるでしょうに。諦めてあんたも射撃兵装使いなさいよね。
だと言うのに一夏は動き方や手段を変えて、何度も近付いて来る。確かに狙いがつけにくくなり、接近を許してしまっているが、……だが………まさか、
「一夏、あんたまさか…」
「やっぱり気づかれちまうか、まぁこんだけ突進してれば当然だよな。
そうだ、俺には」
「まさかそこまで馬鹿だったなんて!」
「違ぇよ!」
昔から一夏は馬鹿だなぁふふ、なんて思ってたけどここまで学習能力がないとはね。これなら私の告白に気付かないのも仕方がないわ。
「馬鹿じゃねぇよ! ただこの白式にはブレードしか武装が無いから接近戦するしかないんだ!」
そう言いながら衝撃砲を避け、近付いて来る。
そうだったのね、一夏は何故そんな機体を…。ってあれ、今避けられた?
「もらった!」
距離を詰められ、刀を振り下ろされる。とっさに避けるも、両肩にある龍咆の一つが破壊されてしまった。
「この距離なら俺が刀を振るほうが早いよな」
なんか一夏がドヤ顔を見せてくる。ムカついたから甲龍の近接武装である青龍刀「双天牙月」を呼び出し、その刀に思いっ切り叩き付けてやった。
「私に近接武装が無いとでも思った? ここまで来てやっと互角なのよ!」
むしろ接近戦の方が得意なのだ。だというのに、一夏は気にした様子もなく
「問題ねぇ、このまま押し切る!」
と、自信のある顔で切り合いに応じてきた。
それから何十と切り結ぶ。互いの技量が衝突し、まるで舞っているよう…とまでいかないが、一進一退の攻防がつづいている。
それは互角のはず、なのに…
「なんで私の方がダメージが大きいのよ!」
攻撃を受けるたび、私のSEが大きく減っていく。今ではほとんど一夏と同じ、まともに受ければ一撃で終わる。
「それが白式のワンオフ「零落白夜」だ。燃費はすごく悪いが、当たれば威力は絶大だ。騙し討ちみたいになっちまって悪いな」
はぁ!? ワンオフって…私さえまだ発現してないってのに、なんで…
「くっ、構わないわよ。どうせ次の一撃で終わるんだから!」
そうだ、もうこの状況では先に一撃入れたほうが勝つ!
「「はああぁぁぁーーー!!」」
最後の一撃を決めようとした瞬間、
予想外の方向から水を差されることになった。
「な、なに?」
横目に見えたのは光。
おそらくレーザー兵器によるもの。それが真上から、アリーナのシールドを突き破って地面に突き立っている。
そしてそのあと見えたのは、地面に横たわる半壊したISと、上空から降ってくる黒いISと赤いACだった。
「一体どうゆうことなんだ…」
そんなの私も知りたい。
アリーナに着地した2機は、なんとそのまま戦闘を始めた。
「やべぇ! 鈴、下がるぞ!」
その言葉に頷き、すぐに後退する。
なぜなら、あいつらの激しすぎる戦闘により、流れ弾が雨のように降りかかってきたからだ。
『二人とも! そこは危険です。すぐに退避して下さい!』
一夏のクラスの、確か…山田? 先生から通信で呼びかけられる。
「だけど山田先生、まだ観客席には生徒の皆がたくさん残ってる。あいつらがアリーナのシールドを貫通できる以上、とっさに動ける俺達が対処すべきだ」
『そんな、二人ともエネルギーがあまり残ってないのに…』
一夏が勝手に私を巻き込んで話し始める。ま、私もただで逃げるつもりはなかったからいいんだけどね。
「すまねぇ鈴、勝手に決めちまって」
「何謝ってんのよ。むしろ私だけ避難させようとしたらぶん殴ってたわ。
で、取り敢えずどうする? ああは言ってたけどあいつらの動きに合わせるのは正直しんどいわよ」
眼前で繰り広げられている戦いは、控えめに見ても国家代表クラス以上だ。割って入るのは少し現実的じゃない。
「すぐには大丈夫なはずだ。見る限り、最初にアリーナを貫いた攻撃はしていない。
あれほどの威力だから多分前フリとかあると思う。それを見逃さないようにしよう」
「あら、一夏のくせに随分賢そうなこというのね」
そこまで頭が回るなら私の時にもそれを発揮してほしい。
「くせにってなんだよ…」
「ごめんごめん、冗談よ。じゃ、私からの提案なんだけどアレの様子を見に行かない?」
そう言って隅に転がっている半壊したISを指さす。
「そうか、あいつに話が聞ければ状況がわかるかもしれないな。よし、行こう」
私たちが巻き添えを食わないよう移動している間も、2機の戦いは続いていた。
黒いゴリラみたいな全身装甲のISが、ACの周りを飛び回り攻撃を放っている。
対する赤いACは、その場でステップするかのようにハイブーストをふかし、回転しつつ反撃していた。
それは二人の目から見ても凄腕だと確信できる動きであり、先ほどまでの自分たちの戦いが遊戯に見えるほどだった。
「これは………?」
先に着いた一夏が何やら疑問の声を上げていた。
「なに? どうしたの」
2機を警戒しつつ返事をする。見てるだけでも巻き込まれそうな激しさで、あまり注意を逸らしたくないのだ。
「鈴、これ…無人機だ」
「はぁ? そんなわけ……」
振り向いた先には、今も戦闘を続けているISと同じ、ゴリラに似たIS。
その肩口からお腹へとザックリ裂けていて、中身は人の入る隙間もないほど機械で埋め尽くされていた。よく見るとISコア露出しており、ひびが入ってしまってる。
「じゃあ今戦っている奴も……?」
そう思って見てみれば、確かに規則正しく、あまり人間味のない動きをしている気がする。
そんな風に観察していると、ついに決着がついた。
「「あっ」」
ACのブレードにより黒いISが一閃。真っ二つになったあと爆発した。
あのブレード…ISを両断ってどんだけの威力なのよ。それとも無人機には絶対防御がついてない?
ACは今更気付いたとでもいうように周囲を見渡している。
この後どうする気なのか…。最悪私たちがこのACと戦わなければならない。
そしてついにこちらに頭部カメラが向けられ、動きが止まる。気付かれた!
「え、あれ?」
一夏が妙な声出してる。こんな状況でとぼけてんじゃないわよ!
しばらくにらみ合ったあと、ACはゆっくりとこちらへ近づいてきた。
構えた武器に力が入る。もう迎え撃つしか…!
「おおおおおおおおおおおおおぉ!!!」
とっさに反応したACが、振り向きざまにブレードを構える。そこで学園に配備されているIS「打鉄」がACに突っ込み、ブレード同士の鍔迫り合いを起こした。
「えぇぇ!?」
「あ、あれは千冬姉ぇ!?」
あ、本当だ、千冬さんだ。
助かった。最強と名高い千冬さんが来てくれた。
ACは千冬さんを弾いて距離を取った後、背中から激しいブースター光を出して海のほうへと逃げて行った。
「ふぅー、…何はともあれ、助かったわね」
「あ、あぁ……」
全く、一夏ったらまだほうけてるのかしら。…まぁ仕方ないか、私だってこの短い時間に何度驚いたかわからない。
あ~あ、試合もこれでお流れだろうし、賭けももう無効になっちゃったか…。
もう地道にやっていくしかないのかしらね。
この時、私は気づいてなかった。
千冬さんが今まで見たことが無い真剣な顔で、あのACが去った方向をじっと睨みつけていたことに。