七草泉美の苦労日誌   作:オオアリクイ

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不文律と試合

 

 香澄が七宝琢磨と揉め事を起こし、魔法の打ち合いをしようとして風紀委員に捕まった。その話を聞いた時、泉美は何を言われたのか脳が理解を拒んだ。

 

 26日、生徒会の業務が終わり、かねてよりの楽しみに心を踊らせながら下校しようとした矢先、風紀委員からその連絡は来た。

 

「香澄と七宝が揉め事になって魔法を使おうとした?」

 

「はい、それで生徒会からも一人裁定役に来て欲しい、と」

 

 深雪の言葉の後半は生徒会長であるあずさに向けられたものだ。しかし面倒事を察したあずさは逃げを打った。

 

「いえ、実は少し会長としてやらないといけない事がありまして……。司波君、私の代わりに行って貰えませんか?」

 

「そうだね。会長が用があって行けないなら代理は副会長がやるのが当然だ」

 

 

 五十里も笑顔で便乗して厄介事を達也に押し付ける。三年生二人の意見には逆らえず、同じ副会長である妹にやらせる訳にもいかず、不承不承、達也は風紀委員の本部へ向かって行った。

 

 しかしこうなると泉美も帰れなくなってしまう。まさか自分の身内が問題を起こして先輩が対処している中、「私は関係ないのでさよ~なら★」とは言えない。楽しみにしていたアイスがまた遠のいていくのを感じながらも、早く終わってくれるのを祈るしかなかった。

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

「泉美、今回の一件だが、七宝と、泉美と香澄の二人とで試合をすることになった」

 

 生徒会室に戻って来た達也は理解不能なことを言い出した。魔法の不適切使用で捕まった二人の処罰を決めるはずが、何故か試合をすることになって、挙げ句に関係ない泉美にまで参加しろというのだ。意味がわからない。

 

 何でも達也が言うには、この学校では話し合いで解決出来ないなら試合で決める、という不文律があるらしい。魔法の使用未遂についてはいちいち問題にする気はないのでどっちが正しいかは決闘で決めろ、ということだ。

 

 正直あまりに頭の悪い不文律にびっくりした。当人同士の話し合いで解決できなければ普通は上位者、この場合は生徒会と風紀委員会が裁定を出すべきだ。誇りや名誉、信念による対立は第三者が仲介に入らないとどちらかが再起不能になるまで終わらない。それをこの学校では決闘で決めて負けた方は泣き寝入り、なんて解決法を推奨しているというのだ。

 

 そしてそのルールだと軍属を希望し戦闘技術を磨いている生徒の主張が魔工師希望の生徒のものより優先される可能性が圧倒的に高くなる。

 

 つまりまともな扱いをしてほしければ戦闘の技術を身に付けろ、という不文律な訳で、こんなものがまかり通っているとは、魔法科高校生は軍人になるよう洗脳されているというマスコミの主張は案外正しいのかもしれない。たまに聞く一科生と二科生の差別云々の話も、こういう事が原因なんだろうな、と泉美は呆れ返った。

 

「しかし何故私まで?当事者同士で決めるのが普通では?」

 

 このふざけた不文律については自分の代で失くそうと決意しながら、もう一つの疑問点について聞く。これに対する達也の回答はこれまた呆れるものだった。

 

「七宝からの申し出だ。七宝家と七草家の誇りを賭けた対決だから、香澄が負けた後で泉美の方が強いとか言い逃れはさせたくないそうだ」

 

 以前も思ったが、七宝家の長男は底抜けにアホらしい。魔法の不適切使用で風紀委員に捕まっておきながら要求をだすとは、駄々をこねる子供のようだ。

 

 そして泉美を入れても勝てると思っているのはもう、現実がまるで見えていないとしか思えない。七宝家は子供の教育もまともに出来ない無能、泉美の中で七宝家の評価が決まった。

 

「それでその要望が通ったと?」

 

「千代田先輩が面白がってな。香澄も了承したぞ。思い上がりを後悔させてやると言っていた」

 

 達也は自分がどういう意見だったのかを言わなかったが、まあ反対はしなかっただろう。何のリスクもなく泉美の魔法戦闘を見れる機会だ。むしろ歓迎したはずである。

 

「はぁ……。分かりました。準備……は別にいいので、何処に向かえばいいですか」

 

「その前に会長に許可を貰う必要がある。という訳なので会長、試合の許可を頂けますか」

 

「いいですよ。場所は……第二演習室が空いてるので、そこにしましょう。光井さんに解錠コードを預けますね。……泉美さん、怪我はしないように、気をつけて下さいね」

 

「はい会長、ありがとうございます。怪我については心配しないで下さい」

 

 あずさの心配はありがたいが、泉美は自分が怪我をするなどとは欠片も思っていなかった。

 

 今日ここから試合をする以上、帰りに寄り道できる可能性は完全に消えた。彼女の頭は今、愚か者()にどう落とし前をつけるか、という事しか考えていなかった。

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

 風紀委員の本部に行くと、中では香澄とワカメヘアーの少年が上級生に囲まれていた。あれが七宝琢磨のようだ。

 

 琢磨を見て思い出したが、そういえばこの少年は時々泉美のことを睨んでいた……かもしれない。興味がないので覚えていないが、多分何度かすれ違うことはあったのだろう。隣のクラスだし。

 

 試合は第二演習室で行うので達也の先導で移動する。移動を始めてすぐ、香澄が足早にこちらに向かってきた。

 

「泉美。話聞いたよね?」

 

「私達と七宝君で試合をするんでしょう?面倒な話です」

 

「そうなんだけど……その、ほら、僕の問題だから僕がメインでやるというか、泉美はその、防御を頼めないかな―って」

 

 どうにも香澄の態度がおかしいというか、あまり泉美に参加させたくないという意志を感じる。泉美は首をかしげた。

 

「?私も参加することに香澄は承諾したと聞きましたが?」

 

「いや僕は止めた方がいいって言ったよ。でも七宝が聞かなかったから」

 

 そう、香澄は七宝の要望に対して「悪いことは言わないから止めておけ」とはっきり言ったのだ。自分はともかく泉美とやるのは無謀だからと。

 

 しかし琢磨は聞く耳をもたず、上級生達も、相手が望んでるんだから良くない?という空気だったので仕方無く了承したのだ。

 

「はぁ……取り敢えず香澄は着替えてきたらどうです?制服だと動きづらいでしょう?」

 

「?泉美は着替えないの?」

 

「私は面倒なのでいいです。だけど香澄は着替えてください」

 

 演習室に着いたのでそういって香澄を更衣室に押しやる。実習用の服があるので()()()()()そちらの方がいい。

 

 

★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 琢磨は闘志に満ちていた。七草の双子との決闘は達也が審判、深雪が立ち会い人という、七草家陣営(と、琢磨は思っている)に囲まれたインチキマッチのようなものだ。

 

 しかし泣き言は言えない。これまでの失態を挽回するためにも、そして七草より自分の方が上だと示すためにもだ。

 

 泉美も参加させるように要求したのは、入試の成績が琢磨の頭から離れなかったからだ。

 

 自分を差し置いて、それも流出しているデータでは自分に大差をつけての一位、これを琢磨は、七草家が下駄を履かせた、と思った。七草弘一は末娘である泉美を気にいっているという話から、主席にするよう手を回したのだろうと。

 

 この決闘はそれを証明するチャンスなのだ。ここで二人まとめて倒す事が出来れば、七草の不正を暴ける、そうすれば既に七草に取り込まれている司波兄妹はともかく、光井ほのかと北山雫は自分の陣営に入ってくれる筈だ。

 

 実際には入試結果は公平な採点によるもので、前提が既に間違っている妄想でしかない。しかし琢磨はこの時本気でそう思っていた。

 

 琢磨の目の前には香澄と泉美が自分の陣地の中央付近に並んでいる。香澄は動きやすい実習服に着替えていたが、泉美は制服のままだ。琢磨も制服だが、男子のものと違って一高の女子の制服は凄く動きづらく、戦いにはまるで向いていない。舐められている、と琢磨は思った。

 

「試合はノータッチルールで行う」

 

 達也が試合のルールを説明していく。琢磨は知っている内容なので黙って聞いていたが、泉美が手を挙げた。

 

「司波先輩。私達は二人チームですが、試合続行の判定はどうなりますか?一人が戦闘不能になった時点で終わりですか?」

 

「いや、もう一人が続行できるなら止めない」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

 どうやら泉美は香澄が倒されても自分が倒される事はないと思っているらしい。どこまでも舐めた態度に叫びたいのをぐっと堪える。直ぐに決闘で分からせてやれるのだ。

 

「では、双方、構えて」

 

審判の達也が右手を頭上に上げて、勢いよく振り下ろす。開始の合図だ。七草を倒す!その闘志をぶつけるように琢磨はCADのボタンを強く叩いた。

 





 次回、試合です。予想している方がいるかも知れませんが七宝君の活躍はありません。十三束君の出番もありません。
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