七草泉美の苦労日誌   作:オオアリクイ

14 / 55
 再開。思ったほどストックが作れてないので日曜、水曜の週二更新でいきます。


九校戦編
九校戦と要項変更


★☆★☆★☆★☆

 

 

 魔法科高校にとって、九校戦ーー全国魔法科高校親善魔法競技大会は極めて重要な行事である。

 

 学校としても九校戦の順位は評価(魔法大学と世間両方から)に直結する。特に第一高校は今年魔法工学科という新たな制度を発足させた。その成果を示す意味でも今年や来年の九校戦と論文コンペは例年よりも重要となるだろう。

 

 生徒としてはもっと単純で、ここで活躍出来ると進学や就職に有利なのだ。魔法大学には推薦枠があるし、就職活動に当たってアピールできる全国規模の大会はそう多くない。マーシャル・マジック・アーツ(魔法を使った格闘技のようなもの)など、他にも全国大会は存在するが、やはり一番有名なのは九校戦だ。

 

 もっと直接的に、軍や十師族の系列からスカウトが来る場合もある。ここで将来が決まる可能性もあるため、出場選手は試験などよりもよほど真面目に練習に励む。

 

 そんな理由で、出場選手の選定は結構気をつかう。競技ごとに関係する各部活のレギュラーや魔法実技の成績優秀者の中から、生徒会が主体となり、部活連の意見も聞きながら決めるのだ。

 

 そして今年の生徒会長であるあずさは慎重で、準備を入念にするタイプだ。九校戦についても例年より1ヶ月は早く準備を始めており、既に選手の選考まで終えていた(本人には正式な要項が届くまで伝えていないが)。

 

 しかし世の中早ければ良いというものではない。その準備の早さが、完全に裏目だとわかったのは7月2日、九校戦の運営委員会からの開催要項が送られた時だった。

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

「お疲れ様です。遅くなってすみませ……ん……?」

 

 7月2日の放課後、実習が長引いて遅くなった泉美が生徒会室に入ると、あずさが机に突っ伏していた。それを五十里が後ろから肩を揺すって励ましている。達也と深雪は普段通り生徒会の仕事をしているようで、ほのかはいない。よくわからない状況だ。

 

 戸惑いながら席に着くと、丁度ほのかが入ってきた。お遣いに行っていたらしい。

 

「光井先輩、お疲れ様です。……何があったのかってご存知ですか?」

 

「えーと、九校戦の要項が来たんだけど、去年までと全然違ったんだよ。競技が三種目変わって、しかも競技をソロとペアで分けるって」

 

 それは確かにとんでもない知らせだった。

要項を見せてもらい変更点を確認すると、新種目はシールド・ダウン、ロアー・アンド・ガンナー、スティープルチェース・クロスカントリーの三つで、スティープルチェースは二年生以上のみ。ソロとペアに別れる競技が三種目。

 

 他の細々した変更点を確認し終えた泉美は思った。()()()()()()最悪レベルの変更だと。

 

 今年の九校戦は三種目でソロとペアに別れての競技があるが、新人戦はペアのみの開催になった。そしてスティープルチェースは二年生以上のみの競技。つまり一年生にとって純粋に参加する競技の種類も人数も減ったのだ。

 

 競技の内容からみて、今年の運営は軍事内容に偏り過ぎている。即戦力として当てに出来ない新人にはあまり労力を割きたくないのかもしれない。

 

(最悪ですね。しかもこれは、反魔法師運動の格好の的です。せっかく春で一旦おとなしくなったのに)

 

 明らかに軍事色をおびた今年の九校戦。最近ようやく()()()()()()()()()()()()ところだったのだが、また面倒なことになりそうだ(というか面倒なのは確定している。準備を全部やり直すのだから)。目の前ではあずさが未だに頭を抱えているが、正直泉美も同じ気持ちだった。

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

 本格的に頭痛薬が必要かもしれない。泉美はそう思った。

 

「け~い~?なにしてるのかな~?」

 

 目の前では泉美の思う子供っぽい上級生ランキング堂々の一位である千代田(ちよだ)花音が、婚約者である五十里に詰めよっていた。五十里があずさを元気付けようと肩を揺すっていたのがお気に召さなかったらしい。

 

 九校戦の大幅な内容変更に対応するため、少しでも早く行動を起こすべきこの時に、風紀委員長とはいえ部外者が、だ。迷惑極まりない。

 

 しかし何故花音が風紀委員長なのだろう。承認印の保管場所すら知らないぐらいズボラで、さらに短気で考え無しという印象があるが、()()が一番ましだった、というなら世も末である。暴力で全員黙らせて投票させた、と考えたほうがまだ納得できた。

 

(もう二人とも出ていってくれませんかねホント)

 

 場を(わきま)えない婚約者()にそんなことを思いながら(あずさは部屋の隅に逃げていた。さっきまで突っ伏していたのに、こういう時は動けるらしい)、泉美は達也と深雪に目をやった。ちょうど深雪と視線が合ったのでバカ二人に視線をやって、再度深雪のほうを見る。上級生としてこの状況を何とかしてくれないかなと思ってのアイコンタクトだが、深雪は一度だけ、微かに首を左右に振って困惑の笑みを浮かべた。「無理」ということだ。

 

 ため息をついた泉美は、黙って新種目のルールを読み込むことにした。

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

「ほんっと、信じらんない!!」

 

「まったくですね。流石に扱いが酷すぎます」

 

 その日の夜、泉美は香澄の部屋で九校戦の種目変更について話していた。

 

 新入生女子のトップツーである二人は、もちろん二種目掛け持ちで参加する予定で、泉美はアイス・ピラーズ・ブレイクとクラウド・ボール、香澄がミラージ・バットとバトル・ボードに内定していた。

 

 しかし二人ともどうしても二種目出たかった訳でもない。それよりも新人戦の扱い自体が、二人には不満だった。

 

 去年の新人戦は本戦と同じプログラムだった。出場人数も本戦と同じで、本戦が上級生二学年(厳密には一年も出れるから三学年)混合だということを考えると、割合としては上級生よりも代表に選ばれやすい、ということだ。

 

 しかし今年は、スティープルチェースという上級生専用の競技が登場し、新人戦の種目が一つ減った。

 

 それだけではない、半分以上である三種目がペア1チームしか出れないのだ、試合数はもっと減る。

 例えばアイスピラーズブレイクは去年まで三人がソロで出場できてそれぞれ試合があった。しかし今年はペア1チームだけだ。全体での試合数は単純に1/3。選手の負担が軽くはなるが、規模が縮小したというイメージは避けられない。

 

 学校への貢献、という意味でもそうだ。今年は本戦がソロとペアのそれぞれで得点が貰える分、例年よりも本戦の総得点が増える。もともと新人戦は本戦の二分の一の得点しか入らないのに、五種目しかなく、しかも三競技でソロが存在しない新人戦の影響はもっと小さくなるということだ。

 

 先述したように、九校戦は選手にとって戦いの場であると共にアピールの場でもある。これでは一年生全員の士気に関わり兼ねない。

 

「というか何なのこの変更?軍隊の訓練じゃんこれじゃ」

 

「そうですね、ほぼ軍事教練です。去年の横浜事変の影響、にしてもやり過ぎという印象ですね」

 

 九校戦は国防軍の全面協力で行われる。会場も軍の施設だし、警備も軍の仕事だ。それゆえ運営委員会も軍からの要請は突き返しにくい。しかしそういう事情を加味してもこれはひどい。昨今の反魔法師運動のことを考えればもっと抵抗してしかるべきだろうに。

 

 とは言えいつまでも愚痴っていても状況は改善しない。切り換えてこれからの話をすることにする。

 

「ちなみに聞いておきますけど香澄は希望種目はありますか?」

 

「うーん正直どれもやったことないし任せるよ。泉美が適当に言っといて」

 

「そういうのが一番困るんですけど。まあ空いた所に適当に入れますね」

 

 泉美は選手を決定する生徒会の所属で、一年生の主席として新人戦ではチームをまとめる役割でもある。ある程度は選手選定に関われるのだ。

 

 とりあえず自分と香澄はジョーカー枠として、この軍事色の強い新競技に推薦するような人はいたかなと考えてみる──が、直ぐに止めた。そんなことは生徒会でやればいい。

 

「──それはそれとして、試験の勉強はしてるんでしょうね?少し確認するので端末出してください」

 

「ふぁっ!?」

 

 取り敢えず香澄の成績の方を優先することにしよう




章機能なるものを発見したのでそれを使ってサブタイトルも簡単に付けてみました。少しは見やすく……なった……気がする。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。