七草泉美の苦労日誌   作:オオアリクイ

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スティープルチェースとストライキ?

 

 翌日の放課後、早速生徒会は動き出した。

 

 まずはスピードシューティングなどの競技から外された種目に出場予定だった生徒が所属するクラブの部長への事情説明。選手本人には伝えていなかったが、クラブの練習より九校戦の練習を優先させるということで、所属するクラブの部長には予め話を通していたのだ。

 

 勇み足で内定を出していたら競技自体が無くなりました、と伝えるのは相当気まずい。生徒会長のあずさと副会長の司波兄妹は重い足取りで説明に向かって行った。

 

 選手選考は完全に白紙だ。新競技だけじゃなく、従来の競技についても、掛け持ちがなし、ソロとペアに別れるという変更があったためそのままには出来ない。これについては新競技の内容をしっかり把握しなければどういう能力が必要なのかが判らないため後回しにする。

 

 そして新競技に必要な手配もある。シールドダウンに使う盾、ロアガンのボートなど、まず新競技に必要な装備や禁止事項を知るために改めて大会ルールを読み込む事から始めた。

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

 一年生には関係ないので昨日は読み飛ばしたが、上級生のみの競技、スティープルチェース・クロスカントリーの内容も確認しよう。

 

 早い話が、森の中で行う障害物競走だ。参加形態も特殊で、二年以上の選手から希望者が全員参加できる。しかも完走するとそれだけで一点入るので、運営は全員参加の競技として考えているのだろう。

 

 しかし普通に考えて危険過ぎる競技だ。道の無い森の中を走るのは、魔法無し、妨害なしでさえ既に危ない。木の根や石、斜面に足を取られる、足元に意識がいくと今度は正面や頭上が疎かになって木の枝に頭をぶつけたりもする。視界の悪い森の中ではゆっくり注意して進むのが基本なのだ。

 

 それを、魔法ありのスピードで、自分の魔法に意識を割きながら、意図的に配置された障害を乗り越えて、挙げくに魔法の妨害がとんでくる中で、タイムを競う。と言えばどれだけ危険な競技か解るだろう。

 

 そして全員参加推奨のルール、男女各十二人が全員()()()()()()()参加しなくてはならないという参加制度は、スティープルチェース一つに絞って練習する、ということを出来なくしている。他の競技の練習もあるのだ。準備時間も相応に削られる。満足な練習すら出来ない可能性が高い。

 

 魔法師生命に影響を及ぼしかねない危険な競技に、その世代で一番有望な人材達を、不十分な準備で参加させる、ということだ。

 

 運営委員会は魔法師の卵をなんだと思っているのか。余りにも選手の安全を蔑ろにした内容に泉美は思った。「これ、やる意味あるか?」と。

 

「あの、スティープルチェース・クロスカントリーなのですが……」

 

「何ですか、泉美さん?」

 

 それぞれルールを読み込んでいる先輩達(あずさ達も帰ってきていた)に声をかけると、全員が顔を上げてくれた。

 

「この競技は危険過ぎると思います。最悪魔法師生命を絶たれかねません」

 

「そうだね。だけどきちんと準備すれば何とかなるって。悲観せずに頑張ろう!」

 

五十里が励ましてくれるが、泉美が言いたいのは真逆のことだ。

 

「いえ、頑張るのではなく、()()()()()()()()()()()()()()、と思ったのですが」

 

「ふぇっ?」

 

 完全に予想外だったらしく、あずさがおかしな声を出している。

 

「参加は完全に自由です。つまり誰も出なかったとしても文句は言えない筈です。」

 

「いや、だけど得点がかなり高いんだよ。参加するだけでも一点入るし……」

 

「その一点とやらは当校の選手の未来よりも大事なのですか?」

 

「っそれは……」

 

 泉美の言葉に五十里が黙り込む。あずさとほのかは予想外の方向に進む話にどうすればいいか分からずあたふたしており、達也と深雪は静観の姿勢をとっている。

 

「さらに言えば、棄権すると各校に事前に通達することも出来ますよね?同調してくれる高校次第ですが、全校が棄権する、という形に持っていければ最善です。そうなれば点数的に不利にはなりません」

 

 泉美自身、かなり過激な提案だと思ってはいる。要は魔法科高校九校全てに集団ストライキを促す、という意味だ。一高だけでやっても意味はあるが、やはりやるなら九校全て巻き込みたいところだ。

 

 あずさも五十里もすっかり泉美の雰囲気に、そして急な会話の流れに呑まれている。このままなし崩しに言質を取りたかったが、流石に不味いと思ったのかここで達也が口を挟んできた。

 

「しかし大会の運営委員会は明らかに全員の出場を前提としているはずだ。それを真っ向から無視すると、運営委員会の面子は丸潰れになる。選手の意志だってある以上、この場で決めることは出来ないだろう。選手全員の賛同が必要だ」

 

 達也の主張に内心顔をしかめる。運営委員会の面子など潰れればいいとすら泉美は思っているが、選手全員の同意、これがネックだ。現状では、一高が棄権しても他の高校は棄権しない、という可能性も十分あるのだ。選手全員が、優勝したいという思いを捨てて棄権出来るか、というと難しいだろう。三年生は尚更に。

 

「そうですね、難しいかもしれません。しかし、その可能性について一度話し合って頂けると助かります。反魔法主義活動に対するアピールにもなるので」

 

 軍と魔法科高校の癒着を主張していた反魔法師運動は、4月に一旦おとなしくなったが、今回の九校戦の内容で再び活発になる可能性が高い。

 

 そう考えると、このストライキは「私達は、おかしい事を言われたら自分達で判断して断れる。大人達の言いなりではない」という、自浄作用のアピールにもなるはずだ。

 

 そしてこれは騒ぎになってからでは遅い。反魔法師運動で軍による洗脳だと騒ぎになってから棄権するのと、騒ぎになる前に自分達から棄権するのとでは世間のイメージは雲泥の差になる。出来る限り急ぐべきだ。

 

 とはいえ達也の言うように生徒会の一存で決めていい内容ではない。仕方がないので泉美がそう言って話を切り上げると、あずさ達もおずおずと各競技内容の確認作業に戻った。

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

 結局この日は大会ルールの精査だけで日が暮れ、生徒会のメンバーは皆疲れきった顔で生徒会室を後にした。

 

 競技に必要なもののリストアップまでは一先ず終わったが、やはりスティープルチェースはかなりの事前準備が必要だ。山岳用の靴、目を保護するゴーグル、各種プロテクター、チームメイトとの連絡手段、このあたりは必須で、戦術次第では更に追加しなくてはならない。

 

 やはりさっさと棄権すると発表して準備などしないのが最善な気がするが、どうにも上級生の反応を見る限り難しそうだ。

 

 泉美は生徒会室での自分の提案は正しいと信じている。選手を選定し、自身はチームリーダーを務める生徒会長は、選手の安全に責任がある。選手の安全が一定ライン確保されていない以上、棄権を促すのは生徒会長の、そしてそれを補佐する役員達の責務の筈だ。

 

 ──しかし、それは進路に困る事がない人間の言い分だ、と言われると否定は出来ない。

 

 生まれ持った魔法力と、名門七草家のコネを持ち、将来が約束されている泉美と他の生徒では九校戦にかける想いが違う。()()()()()に危険を(おか)してでもアピールしたくて仕方がない選手達に、勝ち組の立場から「危ないから()()()()()棄権しよう」と言った所で聞いては貰えまい。

 

 (ままならない物ですね。まあ考えてみれば昔の高校球児もこんな感じだったようですし、いつの時代も高校生はこういうものなのかもしれません)

 

 疲れきった頭でそんなことを考えながら、泉美は香澄と合流して帰路についた。今日はもう早めに休むとしよう。

 

 

 




 普通に考えれば棄権するのが一番賢いとは思いますが、ストライキは実現しません。理由は簡単、物語の都合です。
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