七草泉美の苦労日誌   作:オオアリクイ

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流石にチームメイトの名前が無いのは不自然過ぎたのでオリキャラを入れますm(_ _)m


出場種目と待ち受ける相手

 7月5日、九校戦の競技変更の知らせから3日目の昼休み、ようやく(二度目の)選手選考を始める準備ができた。

 

 昨日、部活連の会頭である服部にもスティープルチェースの棄権に関する提案はしたのだが反応は(かんば)しくない。何故か達也と深雪が急に賛成に回ってくれたが、予想通り選手が決まった後で選手全員が賛成する事が条件とされた。まあ無理だろう。

 

 生徒会役員に部活連会頭の服部を加えた七人で、一高生の実技成績を纏めたデータを見る。既に一度やった作業なので目ぼしい生徒は分かっているし、従来の競技はそこまで時間は掛かるまい。

 

「アイス・ピラーズ・ブレイク、ミラージ・バット、モノリス・コードの出場選手は重複種目を調整するだけで良いと思うが、どうだろう?」

 

 この服部の声を皮切りに、主に達也と服部の会話を中心に選考が進められていく。泉美としても本戦の選考には口出しする気はなかった。

 

 しかし新人戦での選考で、少し議論が荒れることになる。

 

 花形競技であるミラージ・バットに泉美か香澄のどちらか一方を出場させようという話になった。それは「一回目」でもそうだったので驚く事でもない。

 

「それでは香澄をミラージにしましょう。もともとその予定だった訳ですし」

 

 泉美は人に見られるのがあまり好きではない。ヒラヒラの衣装を着て下から覗かれるなど尚更だ。なので前と同じように香澄をミラージ・バットにしようと思ったのだが、何故か達也が反対してきた。

 

 達也の言い分は「香澄はロアー・アンド・ガンナーに向いているから」というもの。泉美としては納得出来ない理由だ。

 

「──しかし司波先輩?香澄は勿論ロアガンに適性はありますが、ミラージにも適性がある筈ですよ?」

 

七草家の二つ名は『万能(笑)』。苦手な魔法が無いことからそう呼ばれている。真由美は珍しく得意魔法がはっきりしていて先天性の知覚魔法と、それを利用した射撃系の魔法が得意だが、それは例外。基本的には得意不得意が無く均等に高い能力を持つ。

 

 良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏で、データ上優秀な七草の魔法師の戦闘能力がそれ程でもないのはこれも理由の一つだろう。突出した武器が無いのだ。不得意の無い七草家の魔法師は戦闘よりも研究や後方での仕事に向いている。

 

 とにかくそういう事情で、香澄がロアー・アンド・ガンナーに適性があるのは事実だが、ミラージ・バットより向いているという主張は同意出来ない。

 

「いや、香澄はロアガンの方が向いている。」

 

 しかし達也は頑なだった。こうなると深雪とほのかは達也の味方しかしないので人数的に不利になる。

 

「まあまあ。それなら香澄さんはロアガンで良いんじゃないですか?本人も種目はどれでも良いと言っていたんでしょう?」

 

 結局あずさがそう言って香澄はロアー・アンド・ガンナーに決まってしまった。

 

 そうなると今度は泉美をミラージ・バットに、という話になる。先に述べた通り泉美はやりたくないのでアイス・ピラーズ・ブレイクを希望するが、理由が「服装と下から覗かれる視線が気に入らない」では理由として少し弱い。魔法力や適性に関係がない以上、やろうと思えば問題無いからだ。いや、本当はもう一つ理由があるのだが、これは話すと意味がなくなる類いの理由なので主張できない。

 

 そして達也も泉美がミラージ・バットに参加する分には反対する気はないらしく黙っている。上級生による数の暴力だ。こんなパワハラに屈してはならない。泉美は声を上げた。

 

「しかし今年のミラージは配点が高いという訳ではありません。ミラージで50点を狙うよりはピラーズブレイクのペアで60点を取りに行った方が良いのでは?誰とペアでも勝って見せますよ?」

 

「でもミラージでワンツーフィニッシュでもされたら80点取られるんだよ?ピラーズブレイクは一組しか出れないから60点しか取れないし取られない。戦略的に考えて一人は負けない選手をミラージに参加させるべきじゃないかな」

 

「そうだな。それにミラージ・バットは花形競技だ。ここで勝った高校は観客からも印象に残りやすい。来年以降の新入生の事を考えればミラージでの優勝は大きな意味がある」

 

 五十里が余計なことを言い、服部が畳み掛けてくる。多勢に無勢、一年生相手に容赦ないコンビネーションだ。

 

 泉美は妥協することにした。別に衣装は指定されてる訳でもない。露出の少ないサービスゼロの衣装でも良いのだ。……そう、面倒だから妥協したのであって決してパワハラに屈した訳ではない。

 

「……分かりました。ただし一つ条件があります」

 

「?条件、ですか?」

 

 あずさが首を傾げるが別に大したことではない。疑問に答えてもらうだけだ。

 

「司波先輩が、香澄をミラージに参加させたくない理由を教えて下さるなら私が出ます。理由がないなら香澄がミラージ、私がロアガンでも良いはずですよね?」

 

 この質問に答えない、もしくは誤魔化すようなら出る必要はないだろう。それを理由に周りも黙らせることも出来るかもしれない。実技の成績データは全員が共有しているのだ。香澄がミラージ・バットに向いていない、という主張は通らないし、泉美がロアガンに向いていない、とも言わせない。

 

 この質問にあずさや服部、五十里の目が達也に向けられる。上級生からの答えを求める視線に、ややあって彼は口を開いた。

 

「……香澄では勝てない。そう判断しただけだ」

 

「──そうですか。分かりました、それなら私がミラージ・バットに出場します。では次はシールド・ダウンですね。身体能力や春に見た障壁魔法を見ると桜井さんはかなり有力かと思いますが」

 

「ああ、水波は確定で良いくらいだ。後は──」

 

 それで話は纏まり、泉美はそのまま選手選定の続きに話を持っていく。達也もそれに乗り、他の上級生も泉美が出場を受け入れたことにほっとした様子で次の話に移っていった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

「──で、ロアガンってどんな競技なんだっけ?」

 

「……チームへの参加要請と一緒にルールも送ったでしょう。確認してないんですか?」

 

「うん、泉美に聞けばいいかなって」

 

「はぁ……」

 

 その夜、部屋にやって来た香澄がロアガンについて聞いてきた。ちゃんと送ったルールを読んでほしい。解りやすいように解説や注意点を生徒会の方で付け足しておいたのだから。

 

「ロアーとガンナー、二人一組でボートを漕ぎつつターゲットを射撃する競技です。得点はボートで一周するタイムと、的を当てた得点で決まります。まあボートを速く漕いで、的を全部当てれば優勝です」

 

「それだけ聞くと簡単だね。ボクのペアって誰?」

 

「C組の江渕(えぶち)さんです。明日の放課後集まるので挨拶はその時に」

 

「はーい」

 

 生徒会の資料によると、ロアガンで香澄とペアを組む江渕鈴華はボート部の一年生で、実技成績こそ一科生の平均程度。だが部活連によるとボートの歴はかなり長いらしく、操舵の腕を評価して代表入りしてもらった。

 

 まあその辺は伝えなくてもいいだろう。新人戦の選手は九校戦の予定や注意事項などを説明するため、明日の放課後に一度全員で集まる事になっている。その時に本人達で話せばいい。

 

「言っておきますけどペア競技という事を忘れないように。特にロアガンはロアーと呼吸を合わせないとまともに狙いもつけれません。まあ声掛けとかはむしろ江渕さんの方からして貰って、香澄は操船の足を引っ張らないことと撃ち漏らしを無くすのが仕事ですね」

 

「ガンナーが操船の足を引っ張ることってあるの?」

 

「普通にあると思いますよ。ボートは基本的にカーブを曲がるときは魔法だけでなく体重移動や水の抵抗も利用して曲がります。江渕さんはボート部ですから尚更そういう技術を使うでしょうね。体重移動が必要なときに何もしないとカーブで振り落とされて落水とか、最悪転覆もしますよ、多分」

 

「うへぇ……転覆しないためには?」

 

「ゆっくり進む分には問題無いでしょうし最初に一、二周慣らしで走行して貰って……まあその辺りはそれこそ江渕さんに聞いた方が良いですね」

 

「それもそっか。そういや泉美はどれに出るの?」

 

「私はミラージ・バットです」

 

「え、ミラージ嫌だって言ってたのに!?」

 

「まあそんなこともありますよ。会議の結果です」

 

 香澄が大袈裟に驚いている。泉美はもちろん嫌なのだが、決まった経緯について香澄に話すつもりはなかった。

 

──昼間は咄嗟に話を終わらせたが、達也の発言はそれなりに大きな意味を持つ。十師族、七草家の直系である香澄では勝てない、という発言は本来あっさり流していいものではない。

 

 『誰に』勝てないのかを達也は言わなかったが、つまりそういう相手がいる、という事だ。

 

 ミラージ・バットに出るのが嫌だったばかりに少し余計な質問をしたかもしれない。軽挙な発言を少し後悔しつつ、泉美は自分が戦うであろう相手が何者なのかを朧気に理解していた。

 

──もっとも、この競技で自分が負けるとは欠片も思わないが。

 

 

 

 

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