七草泉美の苦労日誌   作:オオアリクイ

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プロローグ②

 七草家は日本有数の魔法の名家であり、当然魔法の訓練のための環境も充実している。姉である真由美が初めて射撃(もちろん、魔法のだ)の大会で賞を獲った時は記念に射撃場を造ったし、他にも現代魔法の練習において最高クラスの設備が整っている。

 

 泉美は理由があって外で修行する選択をしたが、前世の記憶がなければ家の施設での練習で十分と判断していただろう。

 

 その訓練施設の一つにて、泉美の目の前では少女が荒い息を吐きながら地面に転がっていた。

 

「はぁ…はぁ…ちょっちょっと休憩~。てかなんで泉美はそんな余裕なのさ」

 

「香澄が軟弱なだけですよ。ちゃんと訓練はした方がいいと言ったでしょう」

 

 泉美が七草家に帰ってきた翌日、昨日話していた通り香澄と魔法科高校受験に向けた練習をすることにしたのだが、あまりの練習の密度に香澄が早々に音をあげたのだ。

 

 

「まあ入試に受かるだけなら私達にはそんな難しくないですけど……去年の事件もあったことですし自衛能力は持っておくべきですよ」

 

 

 去年の10月30日、横浜に大亜連合が侵攻してきた事件は横浜事変と呼ばれ、その翌日起きた灼熱のハロウィンと合わせて世界中の人々の記憶に新しい。3年前とは違い今回は正式に講和条約が結ばれたとはいえ、灼熱のハロウィンを引き起こした戦略級魔法のこともあり、魔法師を取り巻く情勢はさらにピリついていると言っていい。

 

 この情勢では身を守る手段はいくらあっても多すぎることはない。泉美が一緒にいるなら守れる自信はあるがいつも一緒とはいかないのだ。もちろん七草家の護衛もついてはいるが、正直泉美は護衛の実力をそんなに信用していない。

 

 七草家は十師族の中でも四葉家と並んで有力と言われているが、それは人員の多さからなる政治力の高さからくる評価で、個々の戦闘力はパッとしないのが多い、というのが記憶を基にした泉美の評価だ。

 

 実際(泉美を除いた)七草家が抱える魔法師で一番強いと思われるのは長女である真由美の護衛も務める名倉だが、名字で分かる通り彼は七草の血筋ではない。名倉も普通の出自ではなく、そこらの十師族の魔法師を上回る強さを持っているが、一族でもない人間に最強の座に座られているというのは不甲斐ない話である。

 

 そんな事情もあり、香澄に最低限の護身ができるよう一高の入試までできる限り一緒に魔法の練習をすることにしたのだ。

 

 

 しかし、いつも一緒に練習していた泉美が居なかったこともあってこの3年間練習をサボりがちだったらしく、香澄の魔法技術はお世辞にも素晴らしいとは言えなかった(もちろん十師族である以上普通の魔法師よりは遥かに上だが)。

 

 これでは魔法戦闘の訓練など出来そうにないので、魔法の性質や使い方の基本を教えることにする。第一高校の入試が3週間後、それまでにある程度はものになるだろう。

 

「今やってるのは魔法を()()()()だけの練習です。今後は魔法を使()()練習もやりますよ」

 

「マジで!?てか発動する練習と使う練習って一緒じゃないの?」

 

「全然違います。魔法は発動するだけなら3歳児でも出来ます。ですがそれは使っているとは言えません。魔法師というのは魔法という道具を適切に使える人間のことです」

 

「……適切に使う?」

 

 香澄はいまいちピンときていないらしい。なまじ才能は有るせいで魔法において工夫というものをしたことがないのだろう。

 

「例えば……かなり重たい荷物を此方から向こうに動かしたいとしましょう。香澄ならどうしますか?」

 

「?、移動系魔法を使えば良いんじゃないの?」

 

「しかし荷物が重ければ重いほど移動魔法で動かすのに必要な干渉力は増える訳です。そうなると移動魔法よりも魔法で地面との摩擦をゼロにして手で押した方が楽だったりします」

 

「あーなるほど。重さや大きさ次第では移動魔法は適切な魔法じゃないってことなのか」

 

「そうです。状況に応じて使うべき魔法は変わってきます。魔法の正しい知識を持ってその判断が出来てこそ優秀な魔法師です。発動速度や干渉力が全てではないのですよ」

 

 ここまで話すと香澄も納得できたようで、ウンウン頷いているが、

 

「ま、訓練するに越したことはありません。そろそろ練習を再開しますよ。今日はさっきのをあと2セットやりますよ」

 

「嘘でしょ!?」

 

 続けられた泉美の言葉に情けない悲鳴を上げた。

 

「大真面目です。というか香澄は体力が無さすぎです。ちゃんと普段から運動しないからそうなるんですよ」

 

「いやいや、泉美がおかしいんだって!!というか昨日はスルーしたけど三年間全く乗り物使わなかったって何なの!?戦国時代の人間なの!?」

 

「そんなものに頼るから駄目なんですよ。()()()()()()()()()退()()()()()。しっかり自分の足で歩くんです。さ、始めますよ」

 

 

……三時間後、夕食の準備ができたという連絡が使用人からきたとき、香澄は既にグロッキーだった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 真由美は昨日は外泊したようで夕食にも居なかったが、今日は帰ってきていたので、3年ぶりに三姉妹揃っての食事となった(弘一は用事で居なかった)。

 

「それで姉さんは随分忙しいみたいですけど、そんなに成績がギリギリなのですか?」

 

 

 シェフの作った食事に舌鼓をうちながらこの3年間の話題で盛り上がっていたが、ふと泉美は疑問に思っていたことを聞いてみた。

 

 受験生とはいえ外泊までしてずっと勉強しているというのは流石に余裕が無さすぎやしないだろうか。高校は主席入学だったはずなのだが。

 

「あーいやそれはね。ほら、七草家の長女としては主席を狙わなきゃなのよ。十文字君もいるから」

 

 一瞬返答に困った真由美だが、真由美は(弘一も)双子には吸血鬼の対応なんて危険なことをやっていると教えるつもりはない。受験勉強でごり押すことにした。

 

 

「そういえば克人さんも受験ですね。一緒に勉強とかするんですか?婚約者候補ですし」

 

「ちょ、泉美ちゃん!?急に何を言い出すの!?」

 

 泉美としてもまさかこの時期に家の用事で駆り出されているとは夢にも思っていないのであっさり納得し、気になっていたもう一つの話題を振った。克人との仲は進展したのだろうか。

 

「あーそういう訳でも無いのですね。もうそろそろ意識するべきなのですが」

 

「洋史さんよりは脈ありだと思うんだけどね~。お姉ちゃんは洋史さんが来ると機嫌悪くなるし」

 

予想外のことを聞かれて慌てる真由美に対し、香澄が乗ってきて現状を伝えてくる(練習でくたばってた筈が回復が早い。既に普段通りだ)。電話でも話していたのだが、いまだに真由美は婚約者が決まっておらず、お見合いを繰り返しているらしい。

 

 十文字克人と五輪洋史は共に十師族の跡取りであり、婚約者候補として以前から名前が上がっているのだが、3年経っても正式には決まっていないようでは駄目そうな気がする。

 

「学校では何か出会いは無いのですか?告白されたこともないってことはないでしょう?」

 

 この姉は身内贔屓を抜きにしても家柄、器量共に悪くない、どころかかなり優良な部類だ。性格もまあ駄目ってことはないだろう。先の二人に脈がないなら、もうこの際学校の良さげな人と恋愛結婚でもいいのではないだろうか。別に跡取りという訳でもないのだし。

 

「そーいやお姉ちゃん服部さんはどうなの?一つ下だけど絶対お姉ちゃんに惚れてるじゃん」

 

「何ではんぞー君のことを知ってるの!?」

 

「なんだいるんじゃありませんか。名前で呼んでますしそんなに仲は悪くなさそうですが、どういう方なのですか」

 

「あーちょっと頼りない感じかなー。お姉ちゃんの相手になるのは荷が重いかも」

 

「余計なお世話よ!!というかあなた達だって人のことは言えないでしょう」

 

 追い詰められた真由美が三つ下の泉美達にあまりにも悲しい反論をしてきた。まあ確かに男と付き合ったことはないし婚約者もいないのだが……。

 

「そこはほら、ボクたちまだ中学生だから」

 

香澄の言葉に沈黙する真由美に、本気で真由美の結婚のことをサポートする必要があるかも知れない、と泉美は思った。

 

 

 

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