七草泉美の苦労日誌   作:オオアリクイ

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練習と想子操作

 

 

 慌ただしく始まった7月も下旬に差し掛かり、琥珀と星羅も順調に仕上がってきた。もう完全に泉美が教えるのが当たり前になっているが、二人の努力の甲斐もあって跳躍の精度も十分「使える」と言えるレベルになったし、咄嗟の判断も速くなった。

 

 本番まで余裕ができた、ということでせっかくなので競技以外の事も教えてみることにする。

 

「今日はいつもと趣向を変えて、呼吸法と瞑想のやり方を学んで貰います」

 

 琥珀と星羅、ついでに香澄と鈴華も連れてきてレクチャーを始める。

 

「?魔法の練習じゃないの?」

 

 星羅が不思議そうに聞いてくる。百家の傍流である彼女でもこの程度の認識ということに泉美は心の中でため息をついた。困ったことに現代魔法はこういう所が疎かなのだ。

 

 おそらく魔法師自体が「魔法を発動する兵器」として開発された影響なのだろうが、現代魔法の進歩とは、高性能なCADの開発や効率的な起動式の模索といった「外付けのパーツ 」の改良であって、魔法師に求めるのはそれの扱い方だけだ。魔法師本人の成長はあまり重要視されていない。「兵器」にそういう機能を求めてはいない。

 

 これは魔法科高校の実態をみれば明らかだろう。高校創立から二十年にも渡って教員をまともに確保できていないのだから。

 

 もっともこれは政府のやる気の問題だけではなく、効果的な指導方法がまだ確立していないこと、そして魔法界のトップである十師族が協力的でないからでもある。二科生制度があるのは三校、全て合わせても35クラス。魔法大学、魔法科高校も流石にその程度の不足分を補えるくらいの人材は育成した。ただ育てた人材を、十師族を始めとした名家達が個人的な教育係として雇ってしまうだけだ。

 

 十師族、そして数字付き(ナンバーズ)という体制は、魔法は属人的なもの、厳密には属遺伝子的なものであり自分達が他のどの家よりも強い、という前提の上に成り立っている。ゆえに彼らは他家の子供を育てることに積極的ではない。成長されると自分達の立場が危うくなるのだから。

 

 そんな訳で修行による魔法技能の向上という分野で現代魔法は古流魔法に大きく遅れをとっている。古流魔法の流派は常人からしたら信じられないような荒行を行う事が多いが、あれらはきちんと歴史の中で洗練されたやり方で、それなりの理論があって行っている。当然、荒行以外のやり方を教えることも可能なのだ。

 

「魔法に限らず、ありとあらゆる分野で呼吸は重要なものです。ペーパーテストでもスポーツでも囲碁や将棋のような頭を使う勝負でも魔法競技でも、自分の実力をしっかり出すための練習、というべきですね。」

 

 この時代でもこれは一般的な知識の筈なのだが、魔法科高校ではこういう事は教えていない。

 

「それでは深呼吸から始めますよ。背筋を伸ばして、四秒吸って八秒吐く。へその下に空気を溜めるイメージで」

 

 最初は初歩的な腹式呼吸。これは流石に知っているかと思ったが、知っていたのは歌のレッスンで習ったという琥珀だけで、星羅も、そしてボート部という立派な運動部に所属している筈の鈴華も知らなかった。

 

「……これで効果あるの?」

 

「あります。ま、一回二回で変わるものでもありませんが。毎日寝る前とかお風呂入ってる時とかリラックスできる環境で行っているとそのうち効果が出ます。もっともこれは一般人用なので、次は魔法師用のやり方を説明します」

 

「魔法師用?」

 

「はい。深呼吸と想子操作(サイオンそうさ)の練習を同時に行います。こちらはれっきとした魔法の訓練です」

 

 現代魔法において想子操作、ひいては無系統魔法の訓練はおざなりになりがちだ。系統魔法よりも修得に時間がかかる事が多く、また練度によって効果がばらつき易いため敬遠する人間が多い。

 

 そして第一高校では校風として国際評価に基づく魔法技能の向上を目的としており、起動式を読み込んで何かをする、という授業が基本で、想子の扱いはCADに注ぐことが出来ればOKみたいなところがある(上級生になったらやるのかもしれないが)。

 

 泉美としては信じられない話だが、残念ながらそういう時代なのだ。楽なやり方に流れていって、その結果魔法師としての心構えも出来ていないお子様が魔法を使って問題をおこす、それが魔法科高校だ。一年生は勿論、二年三年の上級生も問題を起こすし、酷いものだと新人勧誘週間に卒業生が乱入して魔法を使ったという事例すらある。流石に知り合いにはそんな馬鹿になって欲しくないが。

 

(ま、せっかくの九校戦なので、この機会に地道な努力と苦労をいっぱいしてもらいましょう)

 

「深呼吸のやり方はさっきと同じで、今度は息を吐くときに想子を圧縮します。吸う時ではなく吐く時です」

 

 言いながら実際に目の前でやってみせる。

息を吐きながら丹田(たんでん)の辺りに想子を圧縮すると、その眩い程の想子の輝きに四人が息を呑んだ。

 

「私は想子保有量が多いのでこうやって一目でわかりますが……まあ取り敢えずやってみて下さい」

 

「すぅ〜はぁ〜……う゛っ?」

 

「ぬぐぐぐっ……」

 

「へその下に溜めた空気を吐き出す時に代わりに想子を溜め込むイメージで。そして藍川さんは(りき)み過ぎです。それはもう深呼吸とは呼びません」

 

 案の定四人とも手こずっている。一見簡単そうに見えて初心者には難しいのだ。ちなみにこの中で一番想子保有量が多いのは香澄でそれだけなら泉美にも引けを取らないが操作力は練習しないとどうにもならない。

 

「最初は深呼吸をきちっとするのを優先してください。回数をこなせば圧縮は自然に出来るようになります。……この分だと瞑想に時間をかけるのはまだ早いですね」

 

「瞑想ってなんか仙人の修行ってイメージしかないけど難しいの?」

 

「別に仙人じゃなくても古流だと割と一般的なものですが……少なくとも今やっている想子操作くらいは出来ないと話になりません。」

 

 今教えているのは秘伝になり得ない基本的なことだけなのだが、それでも現代っ子達には荷が重かったかもしれない。

 

 と、そこでそれまで(珍しく)黙って練習していた香澄が口を挟んできた。

 

「てか泉美ってさ、時々古流魔法の常識とか話すようになったけど修行って古流魔法の事だったの?」

 

 まあ流石に3年間で急に古流の知識が豊富になっていればそう考えるのは普通だろう。泉美としても仙術を修めていること自体は別に隠してはいない。

 

「現代魔法も修行はしていましたが古流の方が中心でしたね。それこそ一日15時間くらい瞑想してたときもありましたか」

 

「え゛っ」「いや本気で!?」「頭おかしい」「正気じゃないね」

 

 散々な言い草だが、それこそ前世の『彼女』の晩年は毎日やっていたし、世界には一日一万回、感謝の正拳突きをして悟りに至ったという男の伝説もある程だ。それに比べれば大した事はない。

 

「そんなことより練習に戻りますよ。現代魔法でもこの程度の想子操作は必要になることが多いです。特にCADを複数持つときとかは精密な操作が求められますからね」

 

 結局この日は基本的な想子操作の練習だけで日が暮れることになった。

 

 

 






感想で教えてくれた人がいましたが特化型はスイッチが付いてるそうです。下調べしてないのが露呈してしまった……

 トリガー引くだけって誰かが言ってた気がしたんだけどなぁ(言い訳)

 後で修正しときます。
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