七草泉美の苦労日誌   作:オオアリクイ

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外回りと人手不足

 

 8月4日、九校戦の競技が始まるのは明日からで、この日は特に予定がない一日となる。前夜祭から開会まで一日空いているのは競技の準備や選手がコンディションを整えるためだが、新人戦はまだ先なので一年生はだいたいホテルで遊んでいたりする。

 

 そんな中泉美は朝から一人、会場となっている富士演習場の周りを散策していた。もちろん気晴らしなどではなく、裏で行われる実験を潰すための準備だ。

 

 パラサイドールとやらの実験が九校戦最終日のスティープルチェースに行われるとして、競技のコースに運び込むのは直前になると泉美は踏んでいた。パラサイトの騒動が去年の暮れから今年の頭の事である以上、この新兵器は構想から試験運用まで最大でも半年しか経っていない。通常あり得ない程のハードスケジュール、ギリギリまで調整をしておきたいと考えるのが普通だろう。

 

 そして秘密実験という性質上、正規の軍の施設で調整とはいかない。一高がエンジニア用のトレーラーを用意しているように、移動可能な調整所に積んでおいて付近で待機、という期間が必ずある筈だ。

 

 なので今のうちにその場所を特定、まだ近くに来ていないようなら運び込む際に分かるように準備しておくのがベストだが、これが思っていたより難易度が高い。

 

 まず当然軍の人間に気付かれる訳にはいかない。実験の事を知っているのは軍の中でも一部だとは思うが、不審な行動を止められたり、報告されるとアウトだ。軍の警備の厳しさは正直驚くほどで、立ち入り禁止エリアに入るのは泉美でも難しいだろう。

 

 そしてその後の事を考えると探知した痕跡も残せない。泉美がパラサイドールを探していた、と判るとその後の行動も泉美の仕業だと疑われてしまう。

 

 何より最大の問題は、()()()()()()()()()()()()()()()を持ち込んだ奴がいるという事だ。活動中のパラサイトが近くにいる中、休眠状態のパラサイトの妖気を見つけ出すのは容易ではない。バスに乗るとき香澄にはああ言ったが泉美は内心香澄より遥かに苛立っていた。昨日香澄に見せた呪符も本来は今日使うつもりだったのだが、ピクシーのせいでゴミと化した。仕方ないので香澄を揶揄うのに使ったのだ。

 

 結局軍の敷地外の一般道に仕掛けをする事にした。休眠状態の妖魔でも感知出来る精度の結界を極小区間に張って、そこを妖魔が通ると判るというトラップ式の探知。ただこれは相手が結界内を通ってくれないと意味が無い。まだ敷地内に持ち込まれていないことに賭けた運任せな方法だ。

 

 これで駄目なら最悪『眼』に頼らざるを得なくなる。軍の敷地内を探るのはリスクが高すぎるので本当に最後の手段だが。

 

 とにかくそんな訳で泉美は結界を張る作業に勤しんでいた。地図上で場所を選別して二箇所(これ以上は証拠隠滅が面倒なのだ)に狙いを絞ったが、それでもやはり手間はかかる。

 

(全く、なんで私がこんな面倒な事を……四葉家にしても思ったより役にたちませんし……)

 

 泉美以外の一年生はホテルで人狼ゲームをやっているらしい。皆が九校戦という祭りに浮かれているのに、自分だけ一人寂しく外回りとは。しかしもう泉美がやるしかない。

 

 他の誰かが対処してくれたらいいな、という願望は既に打ち砕かれている。達也がピクシーを連れてきたのはどう考えてもパラサイドール関係だからだ。

 

 達也の行動から判るのはパラサイドールの実験がまだ潰されていないこと。そしてもう一つ、達也(と四葉家)は当てにならない、ということだ。

 

 考えられるピクシーの使い道は二つ。一つは囮役、パラサイドールと本質的に同じ代物を見せびらかす事で敵をおびきだそうという場合。あと最後の手段として演習場内でピクシーに入った妖魔が暴れて軍に捕まれば、当然他に似たのがいないか探すことになる。パラサイドールの事を知らない軍人が勝手に目標を探してくれる訳だが、いくらなんでもそんな事はしない、と思いたい。その場合流石に泉美も達也達を軍につき出す事になるだろう。

 

 もう一つ考えられるのは感知役。妖魔同士で位置を探査する能力があって、それでパラサイドールを探して破壊しよう、と考えている場合。

 

 恐らく後者なのだろうが、妖魔を軍の施設に持ち込むリスクはもちろん、理屈的に向こうからもピクシーを探知できる筈というリスク、ピクシーが同類である敵に取り込まれるリスクなど、ネガティブ要素が満載でメリットが探知だけ、では良策と呼ぶには程遠い。

 

 つまり達也がピクシーを連れてきたのは、他に手段がなかったから苦肉の策で持ってきた、という事だ。役にはたたないだろう。

 

(それにしても四葉家も情けない。研究施設を押さえておいて搬送時に襲撃する、ぐらいは出来ないのですか)

 

 つい心の中で罵ってしまうが、そこまで無能かというと怪しいので何か思惑があるのかもしれない。もっとも、事情があったとしても賢い選択ではないと泉美は考えているが。

 

 しかしここにきて四葉にも無能説が出てきてしまった。九島、七草、四葉の三家が使いものにならない。十師族体制ももう終わりが近そうだ。いや、この体制を築いたのが他ならぬ九島烈なのだから終わるのは確定かもしれないが。

 

(しかし私がこんな下っ端のような真似をすることになるとは……あーも~どいつもこいつも)

 

 と、こんなことをぐちぐち考えるくらいには泉美はイライラしていた。何故皆が遊んでいる中、一人で炎天下の道路を歩き回らなければならないのか。

 

 泉美には手足となる人員がいない。いや、いるにはいるがそれは弘一から付けられた者なので家に報告がいってしまう(そもそも九校戦には付いてきていないが)。隠れてやる以上一人で全部やらなくてはならないのだ。

 

 不満たらたらに演習場の周囲の道を歩いていく。結局泉美がホテルに戻ったのはお昼の時間をかなり過ぎた頃だった。

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

「あ、お帰り泉美。朝からどこ行ってたの?」

 

 ホテルの部屋に戻ると香澄が早速声をかけてきた。既に夕食時まで各々休んでいるらしい。

 

「……とりあえず何か飲み物ありますか?外暑すぎ……」

 

「あっ、うん」

 

 香澄が備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して渡してくれた。本当に夏は嫌いだ。この暑さは人を殺せる。ちなみに日本の平均気温は前世の頃から2℃ほど上がっているらしく、関東の殆どが温帯から亜熱帯に変わっている。平たく言えば地獄だ。

 

 とにかくペットボトルから直接水をごくごく飲む。冷房もガンガン効いている、泉美はようやく一息ついた。

 

「ぷはぁ!。ふぅ……。せっかくなので敷地内を見学してました。あと敷地の外に反魔法主義者が集まってましたから外には出ない方がいいですね」

 

「あ〜やっぱりぶり返してるの?あの運動」

 

「はい。高校生相手に間違ってるだの利用されてるだの大騒ぎしてましたよ。何を期待しての行動なのか知りませんが」

 

 予想出来ていた事だが、春にいったん下火になった反魔法主義者達は今年の九校戦の概要が発表されてから再び活発に動き出した。今日も応援のため集まって来た各魔法科高校生達に「君たちは騙されている」だの「軍の陰謀だ」だのと大声で呼びかけているのを帰りに見かけた。

 

 まあ彼らの言い分は表面的にはそう的外れなものではない。今年の九校戦の内容は間違いなく軍の陰謀だし、魔法科高校の生徒の軍に進む割合が一般よりも遥かに高いのもまた事実だ。彼らが主張する『魔法科高校生の半数以上』は流石に誇張だが、まあ大体合っている。

 

 しかしそれを子供相手に喚かれても困る。魔法科高校生が騙されているというのなら騙してる連中、今回なら軍の上層部か、もしくは国会議事堂にでも行ってほしい。子供に出来ることなどたかが知れているというのに、どうして欲しいというのやら。

 

「まぁそんな連中の事は今いいや。それより晩御飯の後で人狼の続きやるけど泉美もやるでしょ?」

 

「あ、やります。というか朝からずっと人狼やってたんですか?」

 

 それならすでに四、五戦はやっただろうに飽きずに続けるというのは大した熱中ぶりだが、香澄の答えはノーだった。

 

「いや午前はトランプやってて、お昼食べた後で一戦だけやったんだ。琥珀に全員食い殺された」

 

「情けないですね。私が占いの極意を教えてあげるとしますか」

 

「なんで占いやるのが確定なのさ……」

 

 やることはやったので秘密実験の件は暫く向こうの動き待ちだ。泉美もたまには高校生らしく遊んでもいいだろう。

 

──夕食後、再び人狼だった琥珀に全員食い殺されたり、泉美が香澄を身内切りしたりしながらも、新人選手達は友好を深めていった。

 

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