七草泉美の苦労日誌   作:オオアリクイ

26 / 55
ロアーとガンナー

 9月5日、いよいよ九校戦の競技が始まった。といっても一年生は上級生の試合を見学するだけだが。

 

 今日行われる種目はアイス・ピラーズ・ブレイクのペアの予選とロアー・アンド・ガンナーのペアだけ。泉美は香澄達と一緒にロアガンの見学に来ていた。

 

「一高はトップバッターですか。ハズレですね」

 

「ばっさり言うね……でも先輩達ならやってくれるって」

 

「明智先輩と国東(くにさき)先輩、でしたっけ?私は詳しくないですけど、実際どうなんです?香澄と江渕さんのペアと比べて」

 

「魔法力だけならボクの方が上だろうけど、でも多分明智先輩の魔法見たら驚くんじゃないかな」

 

「?珍しい魔法なのですか?」

 

「見た目も派手だけど、学術的に凄い魔法なんだって。よく知らないけど」

 

 そんな事を話していると一高の選手二人がコースに現われた。漕手(ロアー)を務める少女、国東久美子が掛けているゴーグルに注目が集まっている。

 

「あのゴーグル……ナビ付きだけどルール的に大丈夫なの?」

 

 ナビに気付いた琥珀が聞いてくるがこれは生徒会でルールを精査していたときに出ていた案の一つなので泉美も知っている。

 

「ルールではボートに動力を付けるのは禁止ですけど他の補助に機械を使うのはありなんですよ。ストップウォッチでタイムを測るとか、あと機械以外の道具もありです」

 

 なので普通のオールを持ってきて漕ぐのも一応はルール内なのだ。誰もやらないだろうが。

 

 程なくしてスタートのシグナルランプに光が灯る。ランプが青になった途端、一高のボートが飛び出した。

 

「早っ!え、一周目ってレコードに関係ないんだよね?」

 

「一周目は転覆しても大丈夫だから限界を測るためにも全力で、だって。ボク達もそうアドバイスされてるよ」

 

「実際に転覆したら二週目にも影響が出そうな気はしますけどね……」

 

 そのままボートは転覆することなくコースを一周し、いよいよ本番、二週目に突入した。

 

 その直後、ガンナーを務める英美の魔法に、観客席にどよめきが走る。マシンガンのような英美の魔法が的を撃ち抜いたのだ。いや、撃ち抜いたというより薙ぎ払ったと言うべきか。

 

「おお。確かに派手ですね。ループキャストで散弾をブッパする。美しくはないですが効果的です」

 

「いや美しさって……まあいいや。でもあの魔法はなんだろう?パッと見空気弾に見えるけど、香澄が言うには学術的に凄い魔法、なんだよね?」

 

「うん。泉美は分かった?」

 

「インビジブル・ブリットでしょう?基本コード理論で有名な」

 

 理論も一位である泉美は現代魔法についても主要なところは勉強している。当然基本コード理論も知っているし、目の前で使われている魔法がそうだと見破るのは容易かった。

 

「インビジブルブリット!?……って何?」

 

「……琥珀はもうちょっと勉強しましょうね」

 

 琥珀に基本コードの話を解説している内に一高の競技が終わってしまった。他校の出走がまだなのではっきりしたことは言えないが、スコア的にはかなり良い結果なのではないだろうか。

 

「でも凄いね司波先輩。そのインビジブル・ブリットって凄い魔法をアレンジしたって事でしょ?」

 

「そうですね。インビジブル・ブリットはインデックスに載っている魔法で起動式も魔法科高校生には公開されていますが、コピーでなくアレンジするのは技術者の力量が問われます。それをロアガンが種目に入ってからの短期間で間に合わせているのは選手とエンジニアの双方が高レベルだという証ですね」

 

 泉美がそう評価したところで次の出走者が水路に登場した。八高の選手は二人ともかなり緊張しているように見える。一高のスコアは事前に示された優勝予測ラインを超えている。それが分かっているだけに二番手の出走者にはかなりのプレッシャーになっているようだ。

 

(ふむ、この分だと三高と七高以外は厳しそうですかね。練習してきた成果はしっかり見せて欲しいものですが)

 

 結局この後一高のスコアを上回る高校は現れなかった。男子のロアー・アンド・ガンナー・ペアは三位、今日別の場所で行われたアイス・ピラーズ・ブレイク・ペアの予選も男女ともに予選突破して、初日の段階で七高に次ぐ二位。上々の滑り出しといっていいだろう(七高は『海の七高』と呼ばれるくらい水上競技に強いが、陸の上で容易に逆転出来ると判断されていた)。

 

 とはいえ約二週間に渡る九校戦の初日が終わっただけ。先は長い。

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

 競技2日目、この日は男女ロアー・アンド・ガンナー・ソロと男女アイス・ピラーズ・ブレイク・ソロの予選が行われる。

 

 特に女子ピラーズ・ブレイクには優勝確実と言われる深雪が出場する事もあって大多数の人間はそちらに流れて行った。一高の一年に限っても、香澄や鈴華のように新人戦でロアガンに出場する選手達は流石にロアガンを観戦するが他は皆女子ピラーズブレイクに押し寄せている(これは一高のロアガン・ソロがあまり期待出来ないのも一因だろう。誰だって応援する選手が負けるところより圧勝するところを観たいものだ)。

 

 泉美は午前中に一試合だけ深雪の試合を観て、その後は男子ピラーズ・ブレイク、男子ロアー・アンド・ガンナーとハシゴした。深雪の試合は相手が弱すぎて参考にもならないと判断したからだ。

 

 そんな訳で泉美は相変わらずロアガンの観戦をしている香澄と鈴華と合流して、男子ロアガンのソロを観ていた。一高の出番は既に済んでいて、残念ながらスコアはあまり良いとは言えない。ロアガン・ソロは一高が最も苦戦するだろうと事前に予想していたのだが、これでは入賞も出来ない可能性が高い。

 

 そして今は優勝候補である七高の出走が終わったところだが、その内容は他の高校とはかけ離れたものだった。

 

「はぁ〜……、なるほど。思い切った作戦ですね」

 

「女子の競技もソロはこの作戦だったんだよ。それで優勝してる」

 

 七高の選手は一周目、スコアに関係ない試技の段階でかなりの速度を出していた。それだけなら昨日のペアでもそうだったのだが、そこからが異常だった。二週目、射撃の的が出てからも速度を全く落とさなかったのだ。

 

「射撃は最低限の当てずっぽうで、とにかく走破タイムで勝負する。なるほど、七高の長所を最大限活かしている……というよりも……」

 

「?泉美?どうしたの?」

 

「いえ、まだ三高の出走が終わってないのでなんとも言えませんが、これで七高が優勝するようなら、一高(ウチ)の成績が振るわなかったのは()()()()()()()()()()()()()()()だな、と思っただけです」

 

「へっ?どういうこと?」

 

「ロアー・()()()・ガンナーは基本ペアで行われる競技。そもそもこの競技をソロでやるのは無理があった、ということですよ。高校生には難易度が高すぎたんです」

 

 今年は要項の変更により三つの種目が廃止された。その中でスピード・シューティングは次々と排出されるクレーを撃ち落とす競技、バトル・ボートはボートで水路を一周する速度を競う競技だ。そしてロアー・アンド・ガンナーは去年までのこれらの種目を二つ同時に行うのと大差ない。

 

 目の前で最後の選手、三高の吉祥寺選手(今気付いたが前夜祭で一条将輝の隣にいた男子だ。モブではなかったらしい)がボートを走らせているのを見ながら、泉美は批評を続ける。

 

「ボートの操船と射撃は全く別の技能が必要です。マルチキャストだけでなくマルチタスクまで要求される。結果、目の前の射撃に気をとられてタイムに意識がいかなくなる」

 

 実際、吉祥寺選手のボートの速度は二週目に的が出現してから明らかに遅くなった。これがバトル・ボートなら間違いなく予選落ち、それぐらいの速度。優勝候補の筆頭だった彼ですらこうなのだ。

 

「それに対して七高は、『どちらもやるのは無理がある、これなら片方は棄てたほうがマシだ』と判断した訳です。そして──」

 

 三高の試技が終わった。結果は二位、ロアー・アンド・ガンナー・ソロは七高が男女共に優勝を飾ることとなった。

 

「──一度だけなら偶然、まぐれでも済みますが、男女両方で優勝した以上、七高の判断が正しいと結果が証明した形になりましたね」

 

 つまり作戦負けという事だ。七高以外の八校と、そしておそらくは競技を決めた運営委員も、この事実に気づいていなかった。高校生の能力を高く見積もり過ぎていたのだ。

 

 これは泉美も例外ではない。九校戦の要項が送られてきて、生徒会の人間は準備の為に全員が新競技の内容を精査している。にも関わらず誰もこの事を指摘しなかったのだから。

 

(これは反省点ですね。実際にソロの方の練習は見ていなかったとはいえ……)

 

 高校生への理解が足りていなかった、と言わざるを得ない。直接練習を見ていれば気付いていたかもしれないが後の祭り。一高の上層部も作戦スタッフも、選手に無理難題を押し付けた挙句に、やれ期待出来ないだの苦戦しそうだの好き勝手言っていた訳だ。選手には申し訳ない事をした。

 

「……というか作戦スタッフは何してたんですか。こういうのを指摘する為の人員でしょうに」

 

「あ〜そういえばいたね、作戦スタッフ。お世話になった事が無いから忘れてたよ」

 

 九校戦には作戦スタッフを四人まで同行させることが出来る。一高は毎年枠いっぱいにスタッフを入れているのだが、香澄の言うようにあまり役に立っている印象はない。作戦は大体選手やエンジニアが決めていて、彼らの仕事はせいぜい点数計算と皮算用くらいしか無い。

 

「いやまあ、他所の選手は出来てると思ってたんじゃない?今年初めての種目なんだし」

 

 そう鈴華がフォローしてくる。まあ分からなくもない話だが。

 

「ん〜……夜に会議があるのでその時の態度次第ですね。反省していないようなら私達の代では無くすか──あぁいやその前に競技のレポート書いて貰いましょうか。それぐらいの仕事はして貰いましょう」

 

 そんな話をしながら席を立つ。ロアー・アンド・ガンナー・ソロは男女共に四位と1ポイントも獲得出来なかった。三高は男女共に二位だったので、現時点で一高は三高に抜かれて総合三位に落ちたことになる。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。