九校戦3日目、今日の競技は午前に男女シールド・ダウン、午後に男女アイス・ピラーズ・ブレイクの決勝リーグ、共にペアが行われる。
午前中はホテルにこもっていた泉美だが、午後はピラーズ・ブレイクの観戦に来ていた。女子ピラーズ・ブレイク・ペアの選手である花音と雫は二人とも風紀委員での香澄の先輩だ。泉美をホテルから引っ張り出した香澄のテンションはすこぶる高い。
「いよいよ決勝だよ泉美っ!!相手はやっぱり三高だね」
次が決勝リーグ第三試合。最終戦は一高と三高、勝ったほうが優勝という分かりやすい構図となった。
「千代田先輩の『地雷源』は有名ですから、そこに三高がどう対策を取ってくるのかという勝負になりますね」
「地面媒体の振動魔法かぁ。ここまでまともに対策出来たところないけど、そんなに防ぎにくいの?」
「そうですね。魔法の対象はあくまで地面で、
「それじゃどうすればいいのさ?」
「まあ私なら
花音の地雷源だろうが深雪の
「そういう例外的な方法じゃなくて。術式解体とか使える人殆どいないじゃん」
香澄が文句を言ってくるが、泉美の見立てでは香澄は少し練習すればある程度は使える様になる。それだけの
一昔前、魔法の発動に今よりも時間が掛かり、その分多量の想子が必要だった頃は、想子保有量が魔法師の資質としてかなり重要視されていた。今はCADの進歩によりあまり重要視されなくなっているが、その世代を親に持つ今の魔法科高校生は泉美、香澄、達也に深雪と、家柄に応じて想子保有量が多くなる傾向が強い。姉妹の中で一番少ない真由美でも普通の魔法師よりは遥かに保有量が多いのだ。
「香澄は今でも数発くらいなら使えますよ、多分。まあそれはさておき……一般的な魔法で一番シンプルなのは振動・減速系の魔法で氷柱の振動を防ぐ方法ですね。実際深雪先輩は練習の最初の頃はこれで完封してました。まあそれが出来る干渉力があってのことですが」
「結局かなりの魔法力が必要ってこと?」
「はい。魔法科高校の競技なのである程度の魔法力が求められるのは当たり前ですが、ピラーズ・ブレイクは特にそれが顕著です。お互い
そう、泉美の中でピラーズブレイクは一番シンプルで、そして《つまらない》競技だ。巨大な氷柱を破壊するその迫力から一般客からは人気なのだが、泉美からすればこの競技は工夫の余地が少な過ぎて殆ど魔法力だけで決まってしまう。事実として今年は一条将輝と司波深雪、去年はこれに加えて十文字克斗と、十師族のピラーズ・ブレイクへの出場率はやたらと高い。そして格下相手に無双して十師族の威光を知らしめるのだ。
もちろん真由美や香澄、泉美のように他の競技に出る者もいるし、十師族の直系としてどの種目でも遅れはとらないが、ピラーズブレイクが一番勝ちやすいのは間違いない。
今年、大規模な要項変更があったにも関わらず、花形競技であるモノリスコードやミラージバットと同様に残っているあたり、運営委員もそういう認識で十師族に気を使っているのかもしれない。
「じゃあ先輩達が勝てるって事?魔法力はこっちの方が上でしょ?」
「……そうですね。余程の事がなければ勝つでしょう。大番狂わせが起きにくい競技です」
そこでようやく選手達が櫓の上に登った。花音と雫は浴衣姿、三高のペアはミリタリー調の詰め襟に鉢巻きを巻いている。これもピラーズ・ブレイクの特徴で、櫓の上から動かないので服装は試合に影響しない。なので好きな服装を選んでファッションでも勝負するのだ(もちろんファッションで勝とうが試合結果には影響はない)。
試合開始のランプが灯る。赤─黄色─そしてランプが青になった瞬間、轟音がスタンド全体に響き渡った。
お互いの魔法が相手の氷柱を次々と倒していく。花音の魔法は相手の振動・減速系魔法による防御を突破し、三高の魔法はあっという間に近くの氷柱を倒していくが、これは一高の作戦通りの展開だ。
これまでの試合でも雫の情報強化は十二ある氷柱の内、手前の四つしか守っていなかった。花音の地雷源は作用する範囲を絞れておらず、自陣の一部にも作用してしまう。それと干渉してしまうのを防ぐため、敵陣に近い八つは初めから防御を棄てていたのだ。
しかし七つ目の氷柱で異変が起こった。それまでの試合ではあっさり倒されていた場所の氷柱が倒れない。
「あれ、あそこは防御しないんじゃ?」
「その辺は調整出来るんでしょう。今までの試合でもあの部分は千代田先輩の魔法の範囲外でしたし」
この試合の為の偽装だったのかその場の判断で変えたのかは知らないが、相手選手も動揺はしていないようなので大した差は出ないだろう。防御ありの氷柱が四本から六本に増えたが、その分魔法力も分散するし、何より四本だったとしても花音が三高の氷柱を全滅させる方が速い。
現在互いの残りの氷柱は、一高陣に四本、三高陣に二本で、優劣は既にはっきりしている。まだ三高は情報強化された氷柱は二本しか倒せていないのだから。と、また一つ三高の氷柱が倒された。
そこで三高の防御担当の選手が新たに魔法を発動させた。残った最後の氷柱が頂点の一点を除いて宙に浮きあがる。その今までの試合で見た事のない異様な光景に、観客にどよめきが走った。
そしてそれを見た泉美は呆れた声を漏らした。
「……いやいやいやいや、アホなのですか?」
「あれは何をやってるの?」
香澄が不思議そうに聞いてくる。目の前には石を積み上げてバランスをとる曲芸宜しく、一点だけで地面に立っている氷柱。何をしてるか、と聞かれると自分の馬鹿さ加減をアピールしている、と答えるべきなのだが、一応(多分)三高が考えている事を説明する。
「……千代田家の『地雷源』は不規則な縦方向の振動を起こしてその
「え、じゃあどうするのさ」
あくまで理論上の話で、現実には点でなく極小であっても面で接している筈だが、まあ破壊は難しくなるだろう──『地雷源』では。
「ただしそれは他の魔法に対してはなんの防御にもなりません。そして──」
三高の動きを見た雫が袂から特化型CADを取り出した。発動される魔法は『フォノンメーザー』。超音波の振動数を増幅し、熱線として放つ魔法。直後、三高の氷柱はあっという間に崩れ落ちた。
「──あんな無茶な体勢ではちょっとつつかれるだけで
櫓の上では喜ぶ一高の二人と、呆然とした三高。女子アイス・ピラーズ・ブレイク・ペアはなんとも言えない幕引きとなった。
ちなみに派手に崩壊したが、ルール上は崩壊する前、つまりフォノンメーザーで地面と接していた部分が無くなった時点で決着となる。ただ防御力を落とすだけの作戦なのだ。
やはり一高は作戦スタッフの育成にももう少し力を入れるべきだろう。先輩の勝利に歓喜する香澄を横に、三高のあまりの醜態を見た泉美は心の中でそう決意した。
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その日の夜、泉美はホテルの部屋で一人で精神を研ぎ澄ませていた。香澄は昼間のテンションの反動か既に寝ている。
別に何かを感知した訳では無い。理由を問われれば、何となく、としか言えない。しかし泉美は朝から『今日』だと確信していた。魔法師のこういう勘は大事だと経験から理解していたからだ。
先程からホテルの敷地内で妖力が使われているが、これは無視。うっとおしいが感知に影響はない。それに昨日まで何もしていなかったのが今日になってピクシーが活発に動いているという事は何かあったに違いない。
程なくして遠隔で維持している結界に待ち望んだ反応があった。パラサイト、それも複数だ。
(……?この動き。これは……軍の敷地から外に出た?)
しかし感知したのは敷地に入ったのではなく敷地から出るときの動き。つまり泉美が結界を張った時は既に敷地内にいたのに何故か移動したという事だ。
(……まあいいでしょう。とにかく
理由は分からないがこれはかなりの好機だ。敷地外の、軍による警戒の薄い場所に出てくれるなら、使える手段も多くなる。
結界で捕捉した対象の位置情報を『眼』で追跡する。もともと世界の裏側をさまよっている妖魔の感覚ならば『眼』の視線にも気付けるのかもしれないが、休眠状態である以上そのリスクも無視出来る。
手早く準備を済ませる。香澄が完全に寝ついているのを確認すると、泉美はホテルを後にした。