七草泉美の苦労日誌   作:オオアリクイ

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探知とそれぞれの動向

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 この日の一高の成績はアイス・ピラーズ・ブレイク男子ペア三位、女子ペア一位。シールド・ダウン男子ペア一位、女子ペア予選落ち。シールドダウンの女子が予想外だったがこれは予選で三高と直接対決した結果だ。あそこが事実上の決勝戦と呼ばれる程の接戦だったが、予選落ちという事実は変わらない。現時点で総合一位の三高とのポイント差は100ポイントまで開いた。

 

 とはいえ、それは達也にとってはそれ程重要ではない。彼は一高の優勝にそこまで価値を見出していない。

 

 しかし今日はそれだけでは終わらなかった。動きがあったのは九校戦の表ではなく裏、パラサイドールの実験の件だ。

 

 夕食後、ピクシーからテレパシーによって連絡を受けた達也は、友人達とのお茶会を切り上げて作業車へと向かった。

 

 事の発端は7月3日の夜、達也の元に一通のメールが届いた。差出人の名前が無く、内容は国防軍の対大亜連合強硬派による九校戦への干渉と、スティープルチェイス・クロスカントリーで新兵器の実験が行われるというもの。

 

 そこから九校戦の準備をする傍ら、八雲に相談したり京都の旧第九研に調査に向かったりとP兵器の実験を阻止するための準備をしていたのだ。

 

 ピクシーを連れてきたのもその一つだ。パラサイトは同類を感知出来る。それが機械を宿主とするものでもだ。それならば九島家が秘密裏に開発した新兵器"パラサイドール"も感知できる筈、と思い周囲の疑問の目を押し切って連れてきた。

 

 九校戦のホテルに来た段階では感知できていなかったが、これは相手が休眠状態にしていたからだろう、と達也は考えていた。

 

 そして今、ピクシーからテレパシーで連絡があった。ピクシーには同類を感知したとき以外ではテレパシーは使わないように言ってある。つまりはそういう事だ。

 

 作業車の中ではピクシーが運転席の情報パネルに地図を呼び出していた。スティープルチェース・クロスカントリーのコースの向こう側にある軍用道路にカーソルが置かれている。

 

『この地点に同胞の反応をキャッチしました』

 

「反応はまだ続いているか?」

 

『まだ続いています。私の存在も認識されたようです』

 

 ピクシーによると数は十六、達也が旧第九研に忍び込んだ時に確認したガイノイドの数と一致する。

 

 しかし直ぐにパラサイトの反応が消失した。つまりピクシーによる探知に気付いた相手がパラサイドールを再び休眠状態にした、という事だ。

 

(どうする……いや、迷ってばかりいても仕方が無い。無駄足になっても構わない。とにかく仕掛けてみよう)

 

 相手が場所を移動する可能性は当然あるが、九島家の後ろ盾があるから襲われやしない、と高を括っている可能性も高い。達也は迷った末に仕掛ける事を決めた。

 

「お兄様、行かないで下さい」

 

「……深雪?」

 

 しかし行動を起こそうとした達也の前に、深雪が立ちはだかった。

 

「──何故お兄様が九島家の実験を事前に阻止すべく動かなければならないのですか。私以外の選手を守る義務が何処にあるのですか」

 

「……!」

 

 深雪のその言葉で達也は自分の()()()()を理解した。そう、彼の使命は深雪を守る事であって他の選手を守る事ではない。

 

「十師族、九島家の問題だというならそれこそ七草にでもやらせればいいではありませんかっ!()()()()()も古流の使い手というのならそれくらい出来るはずでしょうっ!!」

 

 無礼者、が泉美の事を指しているのは明白だった。先月、ショッピングモールでの泉美の()()()言い草を深雪は未だに許してはいない。どんな理由であろうと敬愛する兄を侮辱したあの行為は彼女の中で悪でしかない。今までは他ならぬ達也の言いつけで黙っていたが、ここにきて深雪は感情を抑えられなくなっていた。

 

「七草が役に立たないならばパラサイドールなど当日まで放っておけば良いのです。全て当日に壊してしまって、本体は競技の後でわたしが纏めて始末します」

 

 泣きそうな声で深雪は続ける。

 

「お兄様はご自分がどれ程無理を重ねているのかお気づきですか!エンジニアとして誰より多くの選手を受け持って、他の技術スタッフの相談にまで乗って、挙句に後輩の指導まで担当して、この上国防軍と九島家の相手など……何故お兄様がそこまでしなければならないのですか!」

 

 そこまで言われて、達也はようやく、自分がどれだけ無理をしていたのかを、どれだけ疲れていたのかを自覚した。妹がどれだけ思い詰めていたのかを察せない程、自分は疲れていたのだと。

 

「そうだな。深雪、お前の言うことが正しい。俺が間違っていた」

 

 ──達也は方針を変えた。すなわち、実験を事前に阻止するのではなく、当日に、スティープルチェースが始まってから排除する事に。

 

 情報提供者の思い通りの行動なのだろうが、結局のところ誰のどんな思惑も自分には関係ない。自分は深雪だけ守れればそれでいいのだから。

 

「部屋に帰ろうか、もう遅い」

 

 達也は深雪(と完全に空気だった水波)を連れて帰って行った。

 

 結局パラサイドールの実験は達也が何もしなくとも無くなった。この後の出来事を彼らが知るのは翌日になってからだった。

 

 

★☆★☆★☆★☆

 

 

 九校戦の会場から少し離れた郊外の土地に、九島家の息がかかったリゾートホテルがある。そのホテルの業務用の駐車場の隅に、一台のトレーラーが止まっていた。

 

「ふう、取り敢えずここまでくれば大丈夫ですか」

 

 そう呟いたのはパラサイドールの研究主任の男、そう、このトレーラーには16体のパラサイドールが積まれている。先刻、実験をモニターするための仮拠点にて点検のためパラサイドールを起動したのだが、その際自分達を()()()()()()()()()()()が探知しているとパラサイドールから伝えられたのだ。

 

 「しかし他のパラサイトとは。人間に宿っている個体が潜伏していたのか、……それともまさかパラサイドールを実用化した者が他にもいるというのですかね」

 

 パラサイトが同類を探知出来る事、そして自身が同類から探知されていることを認識出来る事も研究でわかっている。その為パラサイドールには探知された場合それを報告するように命令を出していた。

 

 しかしこの探知には、同類が休眠状態では探知出来ず、そして相手の宿主までは分からないという欠点がある。兵器としてガイノイドに取り憑けられた個体か、それとも本来の人間を宿主とする個体なのかが分からないのだ。

 

 この研究チームの人間はあくまでパラサイドールの研究を命じられているだけの身だ。彼らはその研究のきっかけである、ピクシーロボットに宿ったパラサイトの事を聞かされていなかった。

 

 今回の実験は九島家と、軍の一部が協力して行うもの。その庇護下にある自分達が襲われるとは考えにくい──相手が人間ならば。

 

 しかし人でないモノにそんな常識が通じる保証はどこにもない。直ぐにパラサイトを休眠状態にして場所を移すしかなかった。

 

 今回、このホテルは何らかの理由で富士演習場の中に居られなくなった時の緊急避難先として使う事になっていた。その為、駐車場の一角を立ち入り禁止にしてありそこに彼らは逃げ込んだ。

 

「それで、探知したパラサイトの位置情報は分かったのだろう?何処だ?」

 

「それが……九校戦のために第一高校に割り当てられたエリアです。確認したところ一高のエンジニア用の作業車が止まっており、対象はその中かと思われます」

 

 部下からの報告に眉を(ひそ)める。魔法科高校に自分達程の技術があるとは思えないが、人間を宿主とする個体ならそんな場所で何をしているのかという疑問もある。まさかパラサイトが真面目にエンジニアの仕事をしている訳ではないだろう。

 

 そこまで考えて、主任の男は小さく(かぶり)を振った。疑問はあるが、それは研究者である彼らが考える事ではない。自分達の仕事はパラサイドールの点検と調整であって、他の事は他に任せればいい。

 

「真言様に報告しろ。C地点への移動は完了。そして第一高校の生徒、もしくは持ち込み物に我々とは別のパラサイトが憑いていると」

 

「はいっ」

 

 既に他のパラサイトに位置を特定されたので場所を移す、という事は報告したが、あの時は相手の場所まで伝える余裕が無かった。だがこれで彼の上司が対策を打ってくれるだろう。部下が報告するのを見ながら研究主任の男はむしろ安心していた。

 

(多少焦らされましたが、不安要素を先に排除出来るならむしろ僥倖ですね)

 

 何者かは分からないが軍の敷地内にいるパラサイト、という時点で排除する名目はいくらでもある。暫くパラサイドールを休眠状態にして距離を置き、その間に向こうのパラサイトと、使役者がいるのならそちらも排除して貰えれば当日は気兼ねなく実験に入れるだろう。

 

 程なくして真言からの指示が部下から伝えられた。ひとつ頷いた主任は、部下全員に指示を出す。

 

「不安要素が排除されるまではここで待機する。その間はパラサイドールは休眠状態を維持するように」

 

 あくまで緊急用だったのでホテル全体は貸切にはしていなかったのだが、郊外という事もあってこの駐車場は十分な広さがある。もともとトレーラーで寝泊まりする予定だったのだ。計画には何の支障もない。

 

──しかし彼らは気付いていなかった。自分達を探知したのは他のパラサイトだけではない事に。そして自分達が既に審判者の天秤に乗っている事に。

 

 

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