七草泉美の苦労日誌   作:オオアリクイ

29 / 55
襲撃と殲滅

 

(あれですか……)

 

 深夜、高校生はもう寝る時間だが、大人、それも表には出せない研究をしている人間にとってはまだまだ宵の口でしかない。特に"発表"を間近に控えた大人達はこの時間でも働かなくてはならない時が往々にしてある。彼らもそうなのであろう。

 

 駐車場に停まっているトレーラーを見つけて『眼』で()()を探る。外の護衛が六人、中には人間が四人と、パラサイトを宿したガイノイドが十六体。あれがパラサイドールで間違いあるまい。

 

(しかし予想はしていましたが十六体も……軍用という事ですし妖魔を培養する事に成功した、ということですか。よく方法を確立できたものです)

 

 その点は素直に感心した。去年の暮れから今年の始め、パラサイトが関東を中心に暴れていた頃は師族会議でも妖魔の情報などまるで無かったらしい。

 

 しかし彼らは何も分からない状況から半年で繁殖、培養という最難関にまで漕ぎ着けた、ということだ。

 

 性質上観察するのも大変なパラサイトをこの短期間でここまで調べあげるとはどういう手段を用いたのか、ちょっと想像がつかなかった。あるいは初めから情報を秘匿していただけかもしれないが。

 

(まあ、それはいいでしょう。──では、仕掛けますか)

 

 まずはトレーラーの外で警備している六人から。流石に九島家が極秘の任務を任せるだけあってかなりの手練れだ。更に、おそらくは方術士を受け入れた事や伝統派との対立からなのだろうが、古流魔法への警戒が特に厳しい。

 

 後処理の関係で外傷を残したくない事を踏まえるとかなりの困難だが、『彼女』の能力(ちから)はその程度の障害では止められない。

 

 ()()()()()()精霊達を支配下に置いていく。式を打つ必要も無い。想子に乗せた意思が静かに、しかし凄まじい速さでトレーラーを取り囲んでいった。

 

 

★☆★☆★☆★☆

 

 

 異変は突然訪れた。

 

 簡易的な調整所と、そこに詰めている四人の研究者達。その内の一人、一番パラサイドールの近くで作業をしていた者が何の前触れもなく倒れた。

 

「──おいっ!?」

 

 急な出来事に他の人員が訝しげに声を掛ける。

 

 近くにいた護衛が駆け寄ろうとして──しかし辿り着くことなく同様にそのまま崩れ落ちる。

 

 研究主任の男が叫ぶ。

 

「何が起きた!?パラサイドールの活性は!?」

 

「い、いえ、活性は確認出来ません。パラサイトは休眠状態のま──っ」

 

 パラサイドールは何もしていない。──という事はこれは外部からの攻撃。研究主任がそこまで考えた時、既にその場に立っているのは彼一人だけだった。

 

 倒れている部下達は死んではいないようだが、何をされたのかすら分からない。気配もなく三人の部下が倒れ、何故自分が無事なのかも分からない。

 

 主任の男は外に助けを求めようとして──しかしその前に外から扉が開かれた。

 

「こんばんは」

 

 そう言って開いた扉から入って来たのは全身を黒のローブで隠した小柄な人物だった。

 

 正面から見ているにも関わらずローブの中の顔は闇に覆われて分からない。声も同様に誤魔化されている。古流の魔法師が使う認識阻害の類だろう。

 

 それだけなら理解出来る。しかしコイツは何故この場所が分かった?外の護衛は?そんな疑問が頭をよぎり、男は一瞬硬直した。──もっともそれに大した意味はなく、とうの昔に手遅れだったのだが。

 

「……っ!……!?」

 

(っこれは……いつの間に……)

 

 咄嗟にパラサイドールを起動させようとして、そこで主任の男は、声が出せないことに気付いた。見れば自らの身体に精霊が纏わり付いている。他者に精霊を憑依させて身体の自由を奪うSB魔法。邪法として扱われる事もある魔法だが、それよりも術の気配に気付けなかった事に主任の男は驚愕した。

 

 九の魔法師達を生み出した魔法技能師開発第九研究所の研究内容は「古式魔法を元にした現代魔法の開発」。その中でもパラサイドールの研究者達はSB魔法──精霊や使い魔を扱う古式魔法──を専門としていたチームだ。

 

 戦闘員ではないとはいえ、その自分達がSB魔法の、精霊を使役する気配に気付けなかった。専門であるが故に、男は目の前の相手がどれだけ異常なのかが分かってしまった。

 

「──さて、さっさと情報を吐いて貰いましょうか。まずパラサイドールとやらはここにあるので全部ですか?」

 

「……培養したものは全部だ。後は第九研にオリジナルの個体が保管されている」

 

 当然答える筈のない質問に、しかし男の口は勝手に答えた。黙秘する事も嘘をつく事も出来ず、ただ自分の身体が、その精神を裏切って情報を話していく。

 

「──この研究の主導者は?」

 

「……九島真言様。ただし前当主の烈様も積極的に携わっている」

 

 分かっていても止めるすべもなく、主任の口はただただ襲撃者の質問に答え続けた。襲撃者は休眠状態のパラサイドールを何やら観察しながら情報を搾り取っていく。

 

──パラサイトのオリジナルの場所と警備、九の魔法師の事、国防軍の対大亜連合強硬派の事、そして大陸の方術士の事まで話し終わると、フードの人物はパラサイドールに向けていた視線を主任に戻した。

 

「──ふむ。まあ聞くべき事はこれで全部ですかね。もたもたしてると他に誰か嗅ぎつけるかもしれませんし……」

 

 そう言いつつ研究者達をパラサイドールの(そば)に集めていく。その後主任の男もそこに移動させられた。

 

 男は恐怖で頭がおかしくなりそうだった。身体が動かせれば震えが止まらなかっただろう。自分達がこれからどうなるのかは容易に想像できる。なのに身体は自分の命令を聞いてくれない。叫ぶことも震えることも出来ず、無表情で立ち尽くすだけだ。意識を失えている部下達がどれだけ幸せなことか。

 

 そこで黒ローブの人物の手が光った。現実の光ではない。魔法師の感性が高密度の想子(サイオン)を輝きで認識しているのだ。

 

「──まあ九校戦で実験すると決めたのは九島家と対大亜連合強硬派ですし、研究にしても貴方達は命令されただけかもしれませんが──」

 

 一見研究者達を(ゆる)すかのような言葉だが、主任は全く安心出来なかった。

 

 手の輝きが強くなっていく。想子では物理的な干渉はできない筈、と頭では分かっている。しかし主任はその眩い程の輝きに明確な『死』を感じていた。

 

「──そんなことは関係ない。既に貴方達は"外法"、それだけで十分です」

 

 言葉と同時、右手の輝きが放たれた。自分も、部下達も、パラサイドールも、全て纏めて呑み込む想子の奔流。それが彼が見た最期の光景だった。

 

 ──翌日の早朝、異変に気付いた九島家の者が見つけたのは、十体の無傷の死体と、何の変哲もないガイノイドだけだった。

 

 

★☆★☆★☆★☆

 

 

 ──夜道に朧気な『揺らぎ』が流れていた。一見何も無いようで、注意して見ればそこに「何か」があると判る、そんな歪みが風のような速さで、第一高校が宿泊するホテルへと進んで行く。

 

 しかし影は唐突に速度を緩めた。歪んで見えていた空間が元に戻り、黒のフードを被った小柄な人物が現れる。その人物はそのまま少し歩いていき、何もない場所で(あゆみ)を止めた。

 

「ご無沙汰しております、九重様。九校戦(こちら)にいらしていたのですね」

 

 夜闇に向かって声を掛ける。それは無意味な行動の筈だった。誰もいる訳がない時間と場所で、実際そこには闇が広がっているだけだ。しかし、()()の挨拶には声が返ってきた。

 

「やあ泉美くん、今帰りかい?年頃の女の子が出歩くのは感心しない時間だよ」

 

 言葉と同時に、闇夜の中から黒の、いかにも忍者、という格好をした男、九重八雲が現れた。

 

 





 ここで戦闘を入れるつもりが不意打ちで全部終わってしまった……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。