七草泉美の苦労日誌   作:オオアリクイ

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実験の全貌と最悪の予想

 

☆★☆★☆★☆★

 

 以前から分かっていたとはいえ自分の隠形があっさり見破られた事に思う所はある筈だが、現れた八雲は以前と同じように飄々としていた。

 

 対する泉美も、黒フードを脱ぎこそしないものの、普段通りの対応をする。

 

「私も華の女子高生ですからね。夜遊びをしたくなる歳頃なのですよ。実家だとそう簡単に抜け出せませんから」

 

「成程、それで随分遠くまで遊びに行ったようだね。認識阻害と高速移動を両立する技量は見事なものだ」

 

「いえいえ、私の隠形など九重様に比べれば稚拙なものですよ。事実気付くのは九重様の方が早かったようですし」

 

 ──軽口を叩きつつ、泉美は内心穏やかでは無かった。八雲が富士まで来ているのは彼女にとっても想定外。そして帰りに"遭遇"したという事は、八雲は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能性が高い。

 

 そしてこの男は立ち位置が分からない。つまりこの場に泉美がいた事を誰に話されるのか分からない。最悪ここで──と泉美が考えた所で、八雲が両手を上げた。

 

「物騒な事を考えているようだけど、やり合うつもりは無いよ。この場であったことも達也くんには黙っておこう」

 

「司波先輩に言うかどうかなど大した意味はないでしょう?他に報告する相手が山ほどいるのだから」

 

「いやいや、ボクは世捨て人だからね。世俗の事に興味は無いし、キミの行動を報告したりはしないよ。今回の妖魔の軍事利用はさすがに世俗で収まらない可能性があるから調べているだけさ」

 

 そう(うそぶ)く八雲だが、泉美は全く信用していなかった。この男は元老院について訊いた時に軽くとはいえ攻撃してきた。つまり元老院とは未だに繋がりがあってもおかしくない。そもそも達也に、世俗の人間に頼まれて泉美の事を調べていた時点で説得力が欠片もない。

 

 とはいえ流石にこの場でやり合うのは下策、と判断した泉美は惚けてやり過ごす事にした。もっとも八雲は明らかに泉美がパラサイドールの事を知っているという前提で話しているので意味はあまり無いが。

 

「そうですか。それならさっさと妖魔の軍事利用とやらを止めるなりして下さい。手遅れになる前に」

 

「無茶振りするねぇ。ちなみに泉美くんはどう思う?妖魔の軍事利用について」

 

 時間稼ぎの可能性もあるので無視して帰る事も考えたが、泉美は結局素直に答えた。この時代の古流魔法師である八雲の考えを知っておきたかったのもある。

 

「……論外ですね。戦闘力がどれだけあろうが、中の妖魔が解き放たれた時の対策はほぼ無し、ではガラクタよりタチが悪い」

 

 兵器として敵と戦うというなら負けた時の想定は必要だ。破壊されたらパラサイトが解放されます、では防衛戦になど絶対に使えないし、侵略に使うにしても後々自分達の首を絞める結果になり兼ねない。つまり使い道がない。

 

「そうだね、器に憑依させる(たぐい)の使役術は器が破壊されれば『中身』が出てくる。その点への対策がない以上は無意味だろうね」

 

「そして人間主義者が攻撃する分には格好の的です。世間に公表されても、直接テロの対象になって破壊されても、被害は計り知れない。百害あって一利なしとはこの事ですね」

 

 正直呆れ返る話だ。BC兵器、核兵器、その後魔法に走って、とうとう妖魔を兵器に使おうとするのだから。人という生き物は本当に学ばないらしい。

 

「テロと言えば、大陸の方術士が九島家に潜り込んでいる事は知っているかな?」

 

 しかし"自称"世捨て人の八雲はその辺は興味が無さそうで、別の事を聞いてきた。内容はこれまた不穏だったが。

 

「そんな情報まで知っていてずっと放置しているのですか?」

 

 ただでさえ愚行としか言いようのない実験に、更に他国の(推定)破壊工作員が潜り込んでいる。

 

 ここまで分かっていて八雲は未だに何もしていない。いや、まさに今から何かする気だったのかもしれないが、八雲には自身の技量に加えてそれなりの数の弟子もいる。その気になればもっと早く動けた筈だ。

 

 妖魔がばら撒かれる可能性を放置するというのは"忍び"としてどうなのか。思わず咎める言い方になったが、八雲は苦笑して首を振った。

 

「いやいや、九島家はそんなに容易い相手じゃなくてね。内容が内容だけに警備もかなり厳重だったんだ。それに方術士が潜り込んだ、といっても九島家も馬鹿じゃない。パラサイドールを暴走させる事など出来ないと確信しているんだろう」

 

 九島家が馬鹿じゃない、という八雲の発言に泉美は失笑で返した。底抜けに馬鹿だから()()なったのではないのか。

 

「……暴走などさせられない、という話はどこから?」

 

「ボクの知り合いにその道の専門家がいてね。今回彼にちょっと意見を聞いてきたんだけど、どんな術者でも、守る対象、攻撃する対象の定義は忘れないそうだよ」

 

「それはそうでしょうね。基本中の基本です」

 

「そしてその定義を傀儡が破った場合は罰を与える。それ以上悪さをしないように封じてしまうそうだ。その封印の術まで含めて1つの使役術だと言っていたよ」

 

「──それで、当然パラサイドールにも同じ様な仕組みがある。暴走しようとした時点でガイノイドが封印の器になって動けなくなる、と?」

 

「そういうことだね。もっともこれは一般論。今回は特殊な状況なのでちょっと安心出来ないんだけどね」

 

 そこまで話して泉美は溜め息をついた。九島家だけでなく、目の前の男も中々に()()()()()頭をしていると分かったからだ。

 

「はぁ……最初から順を追って確認していいですか?」

 

 呆れた感情を隠さずに言う泉美に、八雲は頷いて先を促してくる。八雲も全て知っている訳では無いだろうが大枠は掴んでいる筈だ。

 

「まず九島家は、おそらくはピクシーに妖魔が宿ったのを知って、それを真似てパラサイドールを作ろうとした」

 

「そうだね。時期的にピクシーの方が先の筈だ」

 

「情報統制などはされてないのですか?何処まで広まっているのか分からない状態は危険過ぎますよ?」

 

「そもそもアレは達也くん達が見つけた時に他の生徒がいたからねぇ。隠蔽は難しかったんだと思うよ」

 

「……まあ、今は置いておきましょう。それで、国防軍が九校戦に干渉している事を知ってこれに乗じてパラサイドールの性能試験を行う事にした。軍への売り込みも兼ねているんでしょうね」

 

「九島烈の性格からして、魔法師を戦争に使うよりパラサイドールの方が有用だとアピールしたかったんじゃないかな。九校戦の、その世代のトップの子供たちでもパラサイドールには一蹴されてしまう、とね」

 

 よくもあのガラクタにそこまで自信を持てたものだ、と泉美は思ったが口には出さず次にいく。

 

「……それで、その事を聞きつけた周公瑾なる人物が大陸の方術士を九島家に送り込んだ」

 

「……ふぅん。周公瑾か。最近よく聞く名前だね」

 

 しかしこれは七月に入ってからの事だ。八月の頭にこの試験がある事を考えると流石に時期として遅すぎる気もするが、どうなのだろうか。

 

 八雲は方術士の裏にいるのが周公瑾という事は知らなかったらしい。泉美は大して知らないが、最近よく聞くという事はそれなりに悪さをしているという事。それと手を組んだ弘一は……。

 

 嫌な考えが頭をよぎるが顔には出さずに話を続ける。

 

「そして九島家はそれを受け入れた。パラサイドールの研究に当たって専門である方術士の知識が欲しかったから」

 

「方術士は黄巾力士の再現を研究していたそうだ。是非とも欲しい人材だったろうね」

 

「──にも関わらず、方術士は原理的に暴走させられないパラサイドールに無意味な術を仕掛けている底抜けに間抜けな連中、と貴方達は考えている訳ですね?」

 

「………」

 

 この問いに八雲は押し黙った。

 

「先程九重様が話されたのは傀儡使いにとって常識です。九島家にしろ、今の貴方にしても専門家である筈の敵がそれを知らないという前提でお話しされていましたが……正気なのですか?」

 

 厳密に言うならば方術士の研究していた黄巾力士とパラサイドールは別のモノだ。前者は意思がない(と、されている)精霊を用いて人型を操る術式なのに対し、後者は人型に寄生したパラサイトを隷属させる術式。しかしSB魔法で人型を操る、という点は全く同じだ。そしてこの分野では古式魔法の方が現代魔法よりも遥かに研究が進んでいる。

 

 だというのに、「敵は馬鹿だから基本的な安全装置の存在を知らない」というお花畑な発想は、泉美からすれば信じられないものだった。

 

「………」

 

「それを踏まえてお聞きしますが、方術士の目的がパラサイドールを暴走させることだというのは何処からきた情報ですか?」

 

「……方術士の一人がそういう術が得意のようでね。実際達也くんがパラサイドールにその様な術式が付与されているのを確認しているよ」

 

 言いながら八雲は、自分の持っている根拠があまりに薄弱だと気付いた。そして目の前の相手がそれなりの根拠を持って話している事も。

 

 泉美は八雲の発言に一瞬目を細めたが、そのまま話を続けた。

 

「……司波先輩が、ですか。まあ術式が付与されていたのは本当ですが、アレは狂わせる効果に重きを置いていません。むしろマーキングの意味合いが強い」

 

 泉美が知る達也はかなりの効率厨だ。元々あの手の術式には遠隔発動用のマーキングがあるものだ。その部分が普通より大きくても彼は『無駄』と切り捨てたのだろう。現代魔法師の感覚としては無理もない事だが。

 

 自分がパラサイドールを確認した事を暗に認めている発言だが、事ここに至っては、泉美も隠す気が無くなっている。目の前の相手の楽観論を否定する方が優先だ。

 

「……他の目的があると?」

 

「私も具体的な狙いは知りません、が……富士の霊峰に程近いこの場所で、高校生の純粋な想子で地が満たされるであろう九校戦の最終日に、()()()と成りうる多数の妖魔にマーキングがついていたならば……まあそれなりの事は出来るでしょうね」

 

「……っ!」

 

 これはあくまで最悪の想定だ。条件が揃っていても遠隔で何処までやれるかは分からない。しかし万一の場合、国家規模の厄災になり兼ねないと泉美は判断していた。

 

「もっとも単にパラサイドールを破壊されるだけでも大問題ですけどね。よく放置する気になれたものです」

 

「いやいや放置する気は無かったよ。現にこうして現地に来ているだろう?」

 

 言い訳じみた事を八雲が言う。まあ泉美としても終わったことをこれ以上言う気はないが。

 

「それでは、私はこの辺で失礼しますね。ここで会ったことを誰かに話したら……まあそれなりの覚悟はして下さい」

 

「分かったとも。知りたい事は十分聞けたし……ボクも命は惜しいからね」

 

 それで話は終わりかと思われたが、八雲はまだ動かなかった。

 

「最後に一つ良いかい?君は……九の魔法師全てに制裁する気なのかな?」

 

 八雲の眼は笑っていなかった。泉美の一挙一動も見逃さないというその眼光に、泉美は笑って答えた。

 

「……何を言っているのか分かりませんが──一つ言える事は、私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………」

 

 口調も雰囲気も朗らかなものだったにも関わらず、背筋に冷たいものが流れる。八雲は、自分が気圧されていることを自覚した。

 

「とはいえ、なにかする気はありませんよ。少なくとも師族会議までは」

 

「……いや、ボクには関係ない事だったね。それじゃあ、早く部屋に帰るんだよ。女の子の夜遊びは危険だからね」

 

 そう言うと八雲は夜の闇に紛れていった。

 

 一つ息を吐き、泉美もまたローブに影の精霊を纏わせる。そのまま誰にも気付かれる事無く、香澄が寝ている部屋に帰って行った。

 





 大口叩いておいてなんですが顧傑の企ては前話の時点でもう潰れています。

 ま、まあ本番は師族会議だから……所詮前座だから……
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