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「泉美優勝おめでとー!!」
「ありがとうございます。あの相手にワンツーフィニッシュは上出来と言っていいでしょうね」
「いや泉美はやる事がエグい。ボクむしろ黒羽さんが可哀想だったもん」
「というか琥珀は二位だけど、星羅四位て。相手バテバテだったじゃん」
「うるさい。それまでがどれだけ異常だったと思ってんのよ」
夕食後、一年の女子が全員泉美達の部屋に集まっていた。ホテルの部屋はそこそこ広いとはいえ十人集まると流石に手狭な印象になる。
明日の種目は男子の新人戦モノリス・コードのみ。つまり女子の新人戦は今日で全競技が終わった。これはその祝勝会のようなものだ。
そう、祝勝会。今日のミラージ・バットの結果で最終日を待たず新人戦の優勝が確定したのだ。更に本戦のポイントも三高をまくって五ポイント差でトップに立った。それもあって一高全体で浮かれた空気になっていた(流石に一年の男子は明日のモノリスコードの準備に余念が無かったが)。
その中でも話題に上がるのはやはり今日のミラージ・バットと、その対戦相手の事だ。
「それで、黒羽亜夜子さん、だっけ?やっぱり
「ああ〜四葉の分家って話ね。そもそも分家なんて制度があることにびっくりしたけど」
少し前から広まっていた「四葉の分家に黒羽という家がある」という噂はとうに一年全員が共有していた。そして目の当たりにした彼女の実力は、噂が事実だったと思わせるには十分なものだった。
「そしてかの悪名高い四葉家でも、泉美の前にはキリキリ舞い、と。怖っ」
「人聞きが悪いですよ。あれは黒羽さんに予選の疲れが残っていたのが原因です。そうでなければもっといい勝負になっていた筈です」
分かってはいたがやはりこういう流れになってしまう。というかこの場には水波もいるので、やめてあげてほしい。顔に出さないように必死そうだから。
自分でも苦しいと思う
(まあ流石にこれだけで切り捨てられたりはしないと思いますが……所詮お遊びのようなものですし……)
大敗、と言ってもあくまで高校生の競技での話。奥の手は隠している筈だし、更に言うならCADの制限も亜夜子の方に不利に働いていたのだ。大目に見てあげて欲しい。
泉美がそんな事を考えている中、幸い亜夜子の話題は割と直ぐに流れた。というのも、関係のあるもう一つの話題に移ったからだ。
「あっ!でも黒羽と言えば四高にもう一人いるよね?モノリス・コードに出てた」
「あ〜男子の方はボクたち観てないけど、どうだったの?ウチが全勝中なのは知ってるけど」
「三高と四高も全勝。明日三校で対決だね」
そう、黒羽亜夜子は負けたが、まだ黒羽文弥が残っている。彼が活躍して四葉の名誉を取り戻せば、亜夜子の大敗も無かった事……にはならないだろうが、調子が悪かっただけだと思われる事を祈ろう。
「──そういえば七宝君とその黒羽君が当たるわけですか」
「あ〜そだね。……泉美から見て勝てそうなの?」
香澄が聞いてくるが、そんなもの泉美に判る訳がない。
「いえ、私も今日のモノリス・コード観てなかったですし……」
琢磨とは4月に一度手合わせしたが、あの時から琢磨は心を入れ替えたように練習に励むようになった──らしい。
今日の亜夜子の実力からして、4月の七宝では黒羽相手に勝ち目はないが、あれから3ヶ月。今どうなのかは分からない。若者の成長速度は予測出来ないものだ。
加えて、泉美の見たところ亜夜子はあまり戦闘の類は得意ではなさそうだった。擬似瞬間移動が得意という事も踏まえると、おそらくサポート役なのだろう。ならば文弥も同様に直接戦闘が苦手な可能性もある──もちろん文弥が戦闘役の可能性も同じくらいあるが。
「なんか黒羽くんは無系統魔法使うっぽいよ。凄い威力の」
モノリス・コードを観戦していた子から情報がもたらされる。一緒に観ていた先輩がそう言っていたらしい。
「珍しいですね、無系統ですか。それも凄い威力とは……」
「珍しいって…泉美も結構使うじゃん」
泉美自身のことは置いといて、無系統は修練が大変なので最近の若者は使わない印象だったのだが、文弥は相当無系統の練習もしているのだろうか。
その後もモノリス・コードについて話が盛り上がっていく。このまま亜夜子虐殺事件については忘れて欲しい、と泉美は内心祈っていた。
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──琢磨が負けた。特にいい所も無い敗北だった。
「……さて、ホテルに戻りますか」
「いやいやいや、もうちょっと反応してあげなよ」
そんな事を言われても泉美としては評する所も……一つだけあった。
「あ〜、まあ強いて言うなら無系統と精神干渉の区別くらいはつけれるようになった方が良かったですね」
「えっ!?無系統じゃないの?」
泉美の言葉に香澄が驚きの声を上げる。気付いてなかったらしい。
「はぁ……。あんな稚拙な無系統魔法でそんな威力が出るわけないでしょう。表向き無系統を使ってこっそり精神干渉魔法を挟んでいるんですよ」
この試合、文弥は無系統魔法『
無系統魔法は想子を扱う技術であり、技量が目で判る分野でもある。そして泉美が見る限り、文弥の無系統の技量はいいとこ並よりちょっと上くらい。そんな威力を出せるはずもない。それで誤魔化せると思っている方も実際に見破れてない方も、なんだかなぁ、という感想しか出てこない。
「ま、鍛錬が足りない、という事です。ほら、帰りますよ」
あと一試合残っているが、もう見る必要もあるまい。香澄を促し、泉美はさっさと帰ることにした。
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既に一高の総合優勝は決まったと言っていいだろう。
九校戦10日目、本戦モノリス・コードで一高が三高を破った時点で殆どの人間がそう確信した。前日の本戦ミラージバットも新人戦に続いてワンツーフィニッシュを決めたこともあり、一高と三高の点差は100点を超えている。
最終日のスティープルチェイス・クロスカントリーで一応逆転可能とはいえ、余程のことがない限りは勝負は決まったと言っていい。
他の観客達と同じくそう考えながらも、平河千秋の中に喜びはあまりなかった。彼女の視線の先ではモノリスコードの選手である吉田幹比古がCADを操作している。しかし彼女の目には幹比古は映っていなかった。千秋の意識は幹比古の奥の、司波達也の幻影を追っていた。
千秋は達也に対して並々ならぬ感情を抱いている。発端はちょうど一年前の九校戦にさかのぼるのだが、理由を聞けば誰もが"逆恨み"と称するだろう。そんな事は千秋だって分かっている。しかし感情を理屈で納得させられる程、彼女は大人では無かった。
結局この一年、千秋は何も出来なかった。犯罪組織に協力して売国行為に近い真似までしても、彼女では司波達也に相手にもされない程度の存在でしか無かった。
(明日は
そんな千秋にとって、九校戦の舞台は大きなチャンスなのだ。翌日のスティープルチェイスでは、彼女の担当する選手と達也の担当する選手が同時に出走する。そしてその中でも順位がつく。
もちろんこの競技では同一校の選手は協力して当たるのが基本だが、そんな事は関係ない。達也の"不敗記録"を終わらせる。千秋の頭はその事でいっぱいだった。
「──さん、──お嬢さん、落としましたよ」
「……え?あっ!!すみません。ありがとうございます!!」
そんな事を考えていたせいだろう。現代魔法師の命たるCADを落とすという失態をしていたらしい。拾ってくれた老人に声をかけられ、千秋は我にかえった。
「大丈夫ですか?なにやら鬼気迫る様子でしたが」
「い、いえ……大丈夫です」
「……ふむ、制服を見る限り第一高校の生徒でしょう?優勝も間近でしょうに。なにか不安でも?」
直ぐに離れたかったのだが、目の前の老人は踏み込んできた。老人にはありがちな事ではあるが、内向的な千秋にとっては正直苦手なタイプだ。ポロシャツ一枚のラフな格好ながら、その老人にはなにか古風な印象を受けた。
話に困っていると、怪しまれたと思ったのか老人は申し訳なさそうに言った。
「これは失礼。私は
〜平河千秋について〜
覚えていない人もいるかもしれませんが千秋は魔法科の噛ませ犬の一人です。更に言うなら話に何の影響も及ぼしません。かの森崎君ですら達也の風紀委員入りに役にたったというのにコイツは本当に居なくても何も変わりません。一時期周公瑾に唆されていましたがすぐに切られる程度の存在です。というか周公瑾はコイツで何がしたかったんだろう……
可哀想なのでいずれ顧傑パイセンに活用してもらう予定です。