七草泉美の苦労日誌   作:オオアリクイ

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捜索と流派

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 我関せずを決め込んでいる泉美の願望と裏腹に、周公瑾の追跡は未だに終わりが見えない。

 

「──以上が現状の黒羽家の状態と周公瑾の捜索状況です」

 

「……忌々しいわね。大漢の害虫風情が」

 

 私室で葉山からの報告を受けた四葉真夜は苦虫を噛み潰したような表情になった。普段部下達には泰然とした姿しか見せない真夜のこのような姿を見ることが出来るのは葉山ぐらいだろう。

 

 四葉内部は騒然としていた。先月、周公瑾の処理に失敗。更にその際、四葉家の闇の仕事を(にな)っていた黒羽家の当主、黒羽貢を失った。実行部隊のトップを欠いた四葉は、一時的に周への追跡を中断し、体制を立て直さざるを得なくなった。

 

 黒羽家の跡取りである黒羽亜夜子と文弥の姉弟はまだ16歳、今すぐ家を継いで組織を運用するには早すぎる年齢だ。暫定的に文弥が当主をついで周りがサポートしているが、やはりまだ貢には遠く及ばない。加えて父親を殺された二人は周公瑾への憎悪を募らせており、この任務を彼らだけに任せるのは不安だった。

 

 周公瑾の始末はスポンサーからの依頼であり、四葉の面子としても絶対に逃がす訳にはいかない。分家の一つである新発田家をサポートとして急遽動かしたが、彼らは元々諜報や暗殺が専門という訳ではない。これまで裏の仕事を黒羽家に頼り過ぎていたしわ寄せがここに現れていた。

 

 現状周は伝統派に匿われているらしく目立った動きがない。しかし今逃走されると今度こそ見失ってしまう恐れがある。

 

 真夜はこの状況に決断を迫られていた。即ち、師族会議に協力を求めるかどうか。

 

 メリットは当然戦力・人手の確保。流石に師族会議全体で動けば周とてひとたまりもないだろう。伝統派を巻き込んだ内戦になる可能性もあるにはあるが、それでも戦力的に十分鎮圧出来る筈だ。

 

 しかしこれにはデメリットもある。四葉が自力で仕留められなかったと公表するようなものだからだ。徹底した秘密主義によって不可侵領域(アンタッチャブル)として怖れられる事で身を守ってきた四葉にとって、これは手痛いダメージになるだろう。

 

 また、来年の師族会議──4年に一度、次の十師族を決める定例会議でもある──を前に、この()()を消費してしまうのもあまり気が進まない。四葉の当主として、現在だけでなく未来の事も考える必要がある。

 

 ──結局真夜は師族会議の招集を見送った。師族会議を通じなくても確保出来る戦力はある。

 

「葉山さん、九島家に連絡を取ってちょうだい。」

 

「かしこまりました。彼らに協力させるおつもりで?」

 

「ええ。向こうも勝手に怯えてくれているみたいだし、丁度いいわね。周公瑾に手を貸した分の負担は背負って貰いましょう」

 

 九校戦の裏で起きたパラサイドールの研究者への襲撃事件は四葉家によるものではない。連絡してきた九島烈にもそう話した。伝統派、ひいては周公瑾の仕業だろうと。

 

 しかし九の人間達は未だに四葉の仕業"かもしれない"と思っている。こういう所に日頃の行いが現れるな、と真夜も苦笑したものだ。

 

 とはいえ別に不都合もない、どころかむしろ好都合だ。勝手に怯えてくれている今ならこちらの機嫌を伺って協力もしてくれるだろう。

 

「それと達也さんにも動いてもらうわ。何処まで四葉に従順なのか、早急に測る必要があるし」

 

 これも師族会議を通さない理由の一つ。最大戦力である達也を動かすに当たって他家に四葉との関係を悟られないためだ。既にバレてしまっている九島家は今更だが、他家にはまだ隠しておきたい。

 

(どうせ来年の迎春会で発表するとしても、今はまだまずいわね……達也さんが他家へ寝返る可能性を否定出来ない)

 

 達也の扱いについては四葉の内部でも意見が分かれている。若い世代は純粋に達也の事を優秀な魔法師として見るものが多いが、上の世代、いま四葉の中核を担っている人間は()()()()から達也への忌避感が極めて強い。

 

 パラサイドールの件でも達也が全く本家に連絡していなかった事が分家の間で問題にされたばかりだ。特に十師族・九島家の管理下にある旧第九研への潜入を本家に一言の断りもなく実行した事は達也自身が考えているより遥かに問題と見なされていた。

 

 対達也の最右翼だった黒羽貢が亡くなったとはいえ、未だに根強い達也への不信。これをどうにかする為には今回の件はチャンスでもある。四葉の危機(?)を達也が自発的に──は無理だろうが、とにかく解決してくれれば、少なくとも表立って不信を表すことは難しくなるだろう。

 

 他に問題があるとすれば──

 

「──そういえば葉山さん、七草泉美については?亜夜子さんとの試合の分析は終わったの?」

 

「はい。とはいえ、大したことは分かりませんでしたが」

 

 九校戦ミラージ・バットでの亜夜子と泉美の試合は真夜としても衝撃だった。達也から多少の報告は受けていたし、黒羽の諜報が失敗した事からも只者ではないとわかっていた。しかし、まさかミラージ・バットで亜夜子を歯牙にもかけないとは。

 

 しかも情報と言えるほどの魔法を泉美は使わなかった。せめて細かい動き等を分析するつもりだったのだが、直後に貢が殺されるという事態に陥ったため後回しになっていたのだ。

 

「──分かったことは主に二つです。一つは魔法を待機させる技術を持っている事」

 

 それについては映像を見た時点で真夜も気付いていた。もとよりその手の技術を七草の人間が使えることは分かっていたため、目新しい情報とは言えない。

 

「もう一つは?」

 

「仙術を修めているとの事でしたが、現在知られているどの流派とも一致しない可能性がある、との事です」

 

「?未知の流派ということ?」

 

「あくまで試合での動きと想子の型を分析しただけなので確証はありませんが」

 

 特に亜夜子が受けたあの技。視線誘導・意識誘導の類は古流においては割とよくある技術だが、基本的に自分が隠れる為に使うものだ。しかし泉美が使ったのは他のものから自分自身に視線を誘導する技だった。

 

 隠れる為でなく目立つ為の魔法。陰の戦いを得意とする筈の古流魔法でこれは珍しい事で、それを泉美は全く違和感なく行っていた。魔法無しでも効果が表れるほどに。ここから探そうとしたのだが、該当する流派が一つもなかったのだ。──あくまで四葉が知る限り、ではあるが。

 

 そこまで聞いた真夜は表情を険しくした。無視出来ない疑惑が頭に浮かんだからだ。

 

「……国外の流派である可能性は?」

 

 姿を隠した3年間で他国と内通していたとしたら。その場合九校戦の裏で起きていた事に関わっていた可能性すらある。

 

 そう疑った真夜に、しかし葉山は首をふった。

 

「それは以前達也殿が九重八雲氏に確認したそうです。まず間違いなく日本の術だと」

 

 情報化社会以降に世界で一斉に開発が始まった現代魔法に比べて、古流魔法は地域ごと、国ごとに特色が全く異なる。ましてや島国である日本と大陸の古流魔法を間違う事はない。

 

 そう聞かされた真夜は一旦泉美への疑いを棚上げした。もとより今七草にまで関わっている暇は無い。

 

「……まあいいでしょう。順序良く、まずは九島家に話をつけます。伝統派については彼らの方がよく知っていますからね」

 

 真夜はそう締めくくり、葉山が一礼してこの話は一段落した。

 

 "十師族間での協力は緊急時を除き師族会議を通さないといけない"などという些細なルールについては真夜も葉山も欠片も気にしていなかった。




〜おまけ〜
泉「双子の解説コーナー〜〜!!」

香「え、何急に」

泉「これは本編のボリュームが足りない、しかしかさ増しも難しい、という状況に対応するための不定期コーナーです。私と香澄で本編や原作での出来事を語って行きます」

香「メタい内容もありってこと?」

泉「そうです。記念すべき一回目は当然主人公たる私、七草泉美についてです」

香「泉美についてか〜。本編だとすっごい強者感出してるけど原作だとどんな感じだっけ?」

泉「原作の私はさすミユさすミユ言うだけのBOTです。特に活躍する事もありません」

香「さすミユBOTて。でもあれじゃん、原作だと乗積魔法があるじゃん。双子の絆みたいな」

泉「あれ二人併せてちょっと高難度の大魔法を使えるだけ、というか……凄い魔法師は一人で出来るんですよね……」

香「まあねぇ……他の十師族は"大人を含めて真似出来ないレベル"がわんさかいる中で、ボクたちの評価ってせいぜい二人併せて"この歳で使えるなんて凄い"だもんね」

泉「ちなみに原作では乗積魔法を使う戦闘が二度程ありましたが、私達は一度も勝ってません」

香「ひどいよね、あれ。というか二対一で七宝相手に序盤押されてたもんね」

泉「加えて言うなら九校戦では二人とも新人戦で優勝しましたが、二、三行で"優勝した"で終わりです。SSでも競技の描写はされずじまい」

香「黒羽の双子はバッチリ描かれたのにこの差はなんなのさ」

泉「しかしっ!!本編では私は超強化されて主人公になったのです!!ついでに香澄もそこそこ盛られていますよ」

香「ついで」

泉「詳しく話したいところですが、もう尺が足りたので今日はここまで。ちょーすごい私の力については次回です。ではさようなら」

香「ちょっ、もうっ!?さ、さよーならー」
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