10月6日の朝9時、泉美と香澄は奈良にある九島家の本邸を訪れていた。早朝の便で飛んできたので大分早い到着だ。本来は京都で待ち合わせる約束だったのだが、予定を変えたのはやむを得ない問題が生じたからだ。
「あ、光宣久しぶり〜。大丈夫?起きるの辛いなら寝ててもいいよ?そんなに長居はしないから」
「……お久しぶりです、香澄さん、泉美さん。こんな格好ですみません」
「光宣君とは4年ぶりくらいですか、お久しぶりです」
九島家のドアを叩いた二人が通されたのは光宣の私室。部屋の主はベットの上で半身を起こした状態で二人を出迎えた。
光宣は朝から熱を出していたのだ。なので外で遊ぶという約束はキャンセルしてほしい。その旨のメッセージを飛行機の機内で受け取った二人は、取り敢えずお見舞いに来たのだ。
そこで久しぶりに光宣と再会した泉美は、しかし直ぐに眉を顰めた。現在の彼女には分かってしまったからだ。以前は気付けなかった、光宣の状態が。
☆★☆★☆★☆
「風邪って訳でもないんでしょ?」
「はい、寝ていれば1、2日で治るのですが……もう慣れたものですね」
ベットの上で気丈に二人に笑顔を見せる光宣だが、内心では泣きそうだった。楽しみにしていたこんな日に、このポンコツの身体は動いてくれない。明日までに戻るかも分からない。これではどちらの予定もキャンセルだ。
何故自分は
と、挨拶したっきり黙って光宣を見ていた泉美が、
「……少しおでこに触ってもいいですか?」
「えっ?……え、ええ」
「?いや熱はあるって分かってるじゃん」
香澄の発言をスルーした泉美が手を伸ばしてくる。同世代の女の子、それも美少女といって差し支えない子に掌を当てられるという状況に、体調とは無関係の熱が出ているのが判る。光宣のメンタルはどこかの誰かと違って正常なのだ。
しかし泉美は気にしている様子はない。客観的に見て光宣も"絶世の"と形容して差し支えない美貌の持ち主だが、額に手を当てる泉美は至って真面目な表情だ。
しかしその次の発言は光宣が全く想像していないものだった。
「んー詳しくは"視"ないと分かりませんが、これなら……応急処置だけしてもいいですか?」
「……っ!?」
「へっ?応急処置って……なんの?」
言葉の意味を理解した光宣は驚きで反応出来なかった。その代わりに、分かっていない香澄が不思議そうに尋ねる。
「いやだから、この
固まっている光宣に面倒臭くなったのか、返事を聞かないまま泉美は行動に移した。泉美の
時間にして三十秒程、これまで感じた事の無い感覚に戸惑っていると、泉美が手を離した。
「ふぅ……。気分はどうですか?少しは楽になる筈ですけど」
「え?……あっ!?」
言われて初めて光宣は気付いた。朝から自分を襲っていた熱が収まっている。
「え、そ、そんな……だ、だいぶ楽に……というより、熱が……引いてる……?」
光宣はパニックになっていた。彼は病弱で頻繁に熱を出す。そしてそれは時間を掛けての自己治癒でしか回復しない。それが九島家が総力を挙げて調べた結果だったし、光宣自身もそう諦めていた現実だった──筈だった。
半ばパニックになっている光宣をよそに、其れを成した泉美は平然と香澄と話している。
「……え、何やったの泉美?病気ってそんなので治るの?」
「ウイルス性の風邪のように肉体的なものは私では治せません。今のは光宣君の幽体を私の
「……幽体って何?」
「幽体、霊体、生命力。精神や魂もそうですが、現代魔法がまだ研究途中の分野もある、という事です」
曰く、光宣の幽体がダメージを負っていて、それが熱という形で肉体にフィードバックされていた、というのが光宣の病弱さの原因らしい。なので応急処置として幽体ごと包んで誤魔化した、との事。
「言っておきますがあくまで応急処置です。まあ今日明日くらいは持つでしょうが、九島家にはそういう治療が出来る人は居ないのですか?」
「いえ……」
「……まあ居ないんでしょうね。すると……どうしますか……」
居たらこんな状態になっていない、と言うことは聞いた泉美自身分かっていたようで、未だ混乱している光宣を置いて考え込んだ。
「倒れる度に私が来る訳には行きませんし、鍛えるのは必要……とはいえその為には私がサポートしないと身体が持ちそうにないですし……」
「身体が持ちそうにないって!?」
「ちょっと待って下さい考えるので……そもそも原因を特定……は、ある程度の予想は出来てはいるのですが……取り敢えず先ずは──」
ふと光宣は屋敷が騒がしくなっている事に気付いた。光宣の体調が回復したのを見た使用人が(異性と会う以上当然隅に控えていた)、上に報告したらしい。慌ただしい足音が聴こえると直ぐに扉が開き、烈と真言が部屋に入ってきた。
「光宣、体調が直っ──」
「──っ!?」
光宣の容態を聞いて直ぐに飛んできたのだろう。部屋に殆ど駆け込みながら口を開いた二人は、しかし言い終わる事が出来ず──明確な敵意を持った魔法が、彼らを地面に叩きつけた。
〜おまけ〜
泉「第二回おまけコーナー〜〜〜!!」
香「二回目……いうて3000字いかない事ってあんまないね」
泉「しかも本編でかさ増し出来るならそちらが優先ですからね。今章あと一回あるかどうかです」
香「少なっ!!……で、今日は泉美の魔法についてだっけ」
泉「そうですね。では早速始めましょう」
〜基本〜
泉「まず知っての通り、本編での私は仙術を使います。上で光宣君にした応急処置もその技術ですね」
香「結局なんなのあれ?他人の幽体を補強って、そんなこと出来るの?」
泉「元々仙術は瞑想で自らを律する事を基本とし、
香「あの時は想子の網のようなので暴走していた深雪先輩の想子を押し込めたんだっけ?お姉ちゃんが驚いてたよね」
泉「そうです。今回のはそれの発展系ですね。他者の幽体を、それも本人の魔法力を落とさず補強するのはかなりの高等技術なのですよ?大陸のボンクラ仙人モドキには真似出来ないでしょう」
香「急にディスり始めた!?……まあ誰のことか分かるけど、日本と大陸で系統全然違うからしょうがないじゃん……」
泉「それともう一つ原作で言及されたのは吉田家の起こりの際ですね。彼らは龍神を求めて様々な流派の教えを取り込んでおり、その中に仙術も含まれています」
香「ふーん。つまりその二つは泉美も得意ってこと?」
泉「そうですね。基本的に無系統魔法と精霊魔法が私のベースです。現代魔法も使えるので其方を取り入れる訓練もしていますが」
〜七神衰並〜
泉「無系統の奥義とも言える魔法です。自身の幽体──生命力を消費し、術式解体とは比べものにならない程の圧力で想子を放ちます。
香「くるす……?でも想子は物理的な干渉は出来ないでしょ?」
泉「本来はそうですがこの魔法は他者の幽体を破壊します。自身の幽体を触媒にすることで同種のものに干渉出来るようにしているのです。なので生命体がこの魔法を受けると基本死にます。必殺技なのです」
香「え、こわ……。じゃあパラサイトも死んでたけどあれ生命体なの?」
泉「いえ、パラサイトは別の理屈で……パラサイトは霊子の核を想子体の殻が覆っています。で、想子の殻を破壊出来れば現世に干渉出来なくなって滅されるんですよね」
香「?じゃあ誰でも対処出来ない?」
泉「この殻が凄く堅いんですよ。司波先輩の"想子徹甲弾"とかいう魔法も生まれたてのパラサイトの子なら滅せるだろうが大人は無理、と評価されています。」
香「威力の問題ってことか」
泉「そう、威力と……あとは居場所を知る必要がある、という点ですね。原作だといつの間にかフェードアウトした問題ですが」
香「ああだから広範囲に凄まじい圧力で放つ業が編み出されたのか……そういや名前に七ってついてるけど七草と関係あるの?」
泉「ある訳がないでしょう。名前の由来はトランプです」
香「」