「泉美っ!!どういうつもりなのさっ!!?」
九島家を出てすぐ、香澄が食って掛かってきた。もちろん、先程のゴミ共への態度の事だ。
「……うん、まあ過ぎた事を気にしても仕方ないですよ。未来を見て生きましょう」
「過去を反省してからね!?なにあの態度!?九島のおじ様相当怒ってたよ!?」
「落ち着いて下さい。私だって少しは反省はしてますよ、少しは」
そう、泉美だって反省はしている。
本当に……本当に光宣が治る範囲で良かったと思う。そうでなければあの連中を皆殺しにしていたかもしれない。そうしない自信が泉美にはなかった。
記憶の底のあの光景が脳裏にちらつく。別人の記憶だと割り切っている筈なのだが、やはり影響は受けているらしい。
そんな事を考えていると、幾分か落ち着いた香澄が重ねて聞いてくる。
「……で、なんだったの、あの態度?光宣の身体の事と関係あるんでしょ?」
香澄は馬鹿じゃない。会話からして九島家が泉美の逆鱗に触れるような事をしたんだろうという事は会話から分かっているのだろう。……それはあの凶行を許す理由にはなってくれないようだが。
「そんなところです。どの道先程の事は問題にはなりませんよ。問題に出来ない理由がありますから」
彼らが問題にするなら、こちらも暴露するだけ。そう
「……理由?」
「──そうですね。お爺様も父さんも、問題にはしないと思います。どう考えても九島家の存続に関わりますし」
「へっ?存続?」
疑わしげな香澄だったが、そこで光宣が泉美に賛同する。反応からそうだろうとは思っていたが、やはり彼らがやろうとした実験について知っていたらしい。
「とはいえ泉美さんがその事を知っているのは驚きましたけど」
光宣が疑問の目を向けてくるが、泉美はなんでもないように肩を竦めた。
「どんな事も隠し通すのは難しいものですよ。ましてや慌てている時は尚更ですね。──さっ、それよりも行きましょう。京都観光へ!!」
「観光じゃないっ!!下見だよ!!ってかまだまだ話は終わって──」
「──それで光宣くん、何処行きます?私の希望としては二条城は行きたいです」
「二条城ですか。あそこは古式魔法とも縁が深い場所で僕も何度か行っているので案内出来ますよ。あと観光ならやはり伏見稲荷は──」
しつこい香澄の言葉を右から左に受け流しつつ、泉美と光宣は観光ルートを確認しながら駅へと向かった。
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1603年、徳川家康によって築城された二条城は京都御所の守護を目的としたものだった。その為家康公は当時の可能な限りの防衛設備をこの城を中心に作っており、その中には当然、現在古式魔法と呼ばれる技術も含まれていた。
「──という訳で、この城には結界を初めとした当時の魔法要素がふんだんに使われているんですよ。……僕も詳しい魔法の内容までは知らないんですけど」
「ふーん。しっかし凄いねぇ。こんなでっかい城を昔の人はよく作ったもんだよ」
「……それで、
「う〜……泉美が来たいって言っておいてなんなのさ」
そう、今いるのは香澄と光宣の二人だけだ。二条城に行くことを提案した張本人の姿はなかった。
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五分程前、伏見稲荷を後にして二条城に到着した三人は入場料を払って東大手門からのんびり城内を歩いていた。下見がどうのと言っていた香澄もすっかり観光気分だ。が、少し歩いた所で泉美が足を止めたのだ。
「……二人とも、私は少し一人で観たい場所があるので別行動しますね。十分程で戻りますから」
「へっ?っちょ、泉美?いきなり!?」
言うが早いか、泉美はスタスタと離れて行った。
「ぇぇえ……なんなのさ」
自由過ぎる双子の妹の行動に、残された香澄は思わずそう
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結果、取り残された二人。微妙な空気を払うように光宣は明るく声を出した。
「ま、まぁ泉美さんにも何か事情があるのでしょう。花をつみに行っただけかもしれませんし」
「それなら泉美はそう言うよ。泉美はあんまり嘘はつかないからね……人を騙すには嘘より真実の方が有効だ、とか言ってたし」
ちなみに九校戦で人狼をした時の台詞だ。仲間の筈の香澄を初手で身内切りした泉美は、ゲーム終了後に食ってかかった香澄にあっけらかんとそう言い放った挙句、「香澄は腹芸の類いは苦手ですし、あれ以上に香澄を有効活用する方法はありませんよ」などと
「は、はは……まあそういうことなら何かあるんでしょう。色々詳しいようですし」
誤魔化すように言いつつ光宣は後ろに意識を向けた。思った通り、隠れていた存在が泉美の向かった方向へと流れて行く。
(やはり父さんが監視をつけてるか……気持ちは分かるけど意味無いだろうに……)
真言がそういう行動に出るのは予想出来た。情勢的に伝統派からの襲撃の可能性があるし、泉美に
そこでこの泉美の
しかし屋敷での一幕を考えればそんな手が通じる相手ではないと分かりそうなものだ。まず間違いなく成果なしで終わる。しかも彼女の機嫌を損なう危険まである。この間抜けな行動は間違いなく祖父ではなく父の指示だと光宣は確信した。
「──まあせっかくですし適当に回りましょうか。僕もまだまだ歩きたい気分ですし」
「元気だね。本当に身体は大丈夫なの?」
「はい。すっかり本調子で、本当に泉美さんに感謝ですよ……あんな事出来たんですね、泉美さん」
歩きながら光宣は話を振る。この状況は光宣にも悪いものではない。二人きりの内に香澄からも話を聞いておきたかった。
「そうだね〜。仙術って治療みたいな事も出来るのは初めて知ったかも」
「あぁやっぱり仙術なんですか。泉美さんの話だと僕も修行する事になるんですよね……そういえば泉美さんは仙術を何処で身に付けたんでしょう?」
「それはボクも知らないよ。三年間どっか行ってる間に使えるようになってた」
「ちょっと噂になってましたもんね、泉美さんの家出?事件」
「そうそう。武者修行とか言って家を飛び出したと思ったら三年も帰ってこないし、帰ってきたらめっちゃ強くなってるし、なんか辛いのが異常に好きになってるし」
「……はは」
昼食は豆腐料理の専門店に入ったのだが、光宣と香澄が京都らしい豆腐御膳を頼んだのを他所に、泉美は何故メニューにあったのかすら理解出来ない火山
それはともかく、やはり香澄も何処で何をしていたのかは知らないらしい。しかし仙術自体はさして隠してもいない。
(──となると場所を隠しているのかな?まあ古流だと珍しい話でもないけれど……)
ちょうど渦中にある伝統派の人間にしても拠点の場所は隠してある事が殆どだ。九島家でも大まかな地域ぐらいしか把握していない。しかも仙術の修行は場所を選ぶと泉美は言っていた。その分他流派よりも重要な情報になる可能性もある。
もっとも、今そこまで真剣に考察する必要はなかった。
「しっかし光宣がその修行のために
「その辺はまだ決めてませんけど……一年以上かかると考えるとそうなりそうですね。卒業までいるのか、修行が終わったら二高に戻るのかは分かりませんけど」
そう、修行に一年はかかると泉美は言っていた。なら焦る必要も無い。そのうち知る機会もあるだろう。
何より光宣は泉美に不利益な事をする気もなかった。流石にそこまで恩知らずではない。泉美が光宣の身体を直すために教えてくれるというなら、その内容を悪用するなどもってのほかだ。
そのまま二人の会話は普通の観光の内容に移り、泉美と合流するまで続いた。