………四月からは、四月になればもうちょい書ける……筈。
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二条城の地下に設けられた二十畳程の部屋。一般客どころか関係者でさえ殆ど知らないその場所で、泉美は一人の男と相対していた。
和装に身を包んだ生真面目そうな男。見た目は40代程だが、実年齢はもっと上らしい。ただ座っているだけの姿からだけでも長年の研鑽が伝わってくる。しかし去年に顔見せに来た時も思ったが、日頃からこんな場所にいるのは退屈で死ぬのではないだろうか。部屋の性質上端末の類も付ける訳にはいかないだろうし。
「それで、今日は何の用だ?見ての通り暇なので話くらいは聞いてやるぞ?」
勧められた座布団に泉美が腰を落ち着かせると早速とばかりに声をかけられる。
「暇なら世間話のひとつでも挟んでいいでしょうに……」
「二度しか会っていない人間と談笑するタチではない」
もっともな言葉に苦笑する。仮に親しかったとしてもこの無愛想な男が談笑しているイメージは全く湧かないが。
「周公瑾という人物について、情報を頂けないかと思いまして」
「──やはりその件か。しかし其方が対処する気なのか?四葉が動いている事は知っているだろう?」
望み通り本題に入る。男も予想していた内容だったらしく反応はあっさりしたものだった。
「現状は動く気はありません。ただ巻き込まれない為には情報が必要というだけです」
「……」
無表情のままの男だが、泉美は彼が気を悪くしたことを察した。都合のいい言い分なので当然と言えば当然だ。男は情報屋でも便利屋でもない。"守護"──国土全域の地脈の管理者達の元締めであり、位だけ見れば泉美よりも上の相手だ。
そんな理由で気軽に聞きに来たというなら今後は此処への入室を禁じられてもおかしくない。因みに皇宮はもう関東に移ったが、正式な遷都がされていないため、此処が本拠のままなのだ。
だからこそ、沈黙の後、放たれた男の言葉に泉美は眉をひそめた。
「……いいだろう。知っている事は話してやる。今回は対価も要らん」
「……いいんですか?」
ただより高いものはない、という言葉がある通り、相手のメリットがこちらから見えない話には落とし穴がつきものだ。ましてやこの相手がそんな事を言い出すのはどんな罠があるが分からない。
警戒する泉美に男はなんでもないふうに言った。
「なに、去年継いだばかりの新たな"守護"に餞別をくれてやるだけだ」
見え透いた嘘だったが、教えてくれと言ったのは泉美の方だ。今更「やっぱいいです」とは言えない。
「……ではお願いします」
「外に連れを待たせているようだし、手短に済ませよう。もっとも詳しい居場所は分からんが」
泉美としてもあまり居場所には興味がないが、それなら
「この男は日本国内での反魔法主義活動のフィクサーだ。本当の意味でのトップは国外にいるが、コイツは現地での代理人だな」
「代理人……ですか。背後にいるのが誰なのかは?」
「はっきりとは分からん。大漢の生き残りの可能性が高い、というくらいだな。」
それはつまり、周公瑾を処分しても代わりが幾らでもいる、という事か。げんなりした泉美の雰囲気を嗅ぎ取ったか、男は泉美の予想を否定した。
「いや、恐らく周公瑾には代わりは用意されていない。理由は話を聴けば分かる」
「……?まあ、それならいいですが」
"代わりがいない"ではなく"用意されていない"、という言い回しが少し引っかかった。代理人が死ぬ事ぐらい予想してしかるべきだと思うのだが。
とはいえ話の腰を折る程でもない。そのまま説明に集中する。
「それで大まかな位置だが、現状ここの結界の内側には居ない、しかし宇治川の結界の内部には入り込んでいる──結界の事は知っているな?」
「……はい」
"ここの結界"とは二条城を中心にした守天結界の事。宇治川に張られた結界の二段構えになっているが、知っているのは一部の古流魔法師だけだ。
特に二条城の結界の方は皇家を護る防衛線の要として設けられ、秘中の秘とされている。しかし男は泉美が知っているものとして話した。前にあった時に話した訳でもないのにだ。
違和感は覚えるが、有用な情報なのは間違いない。要は普通に市内も危ない、という事だ。香澄を一人で行かせずに良かったと、泉美は自分の判断に安堵した。
「まあ内側の何処かは知らんがな。伝統派と名乗っている馬鹿共に匿われているという話も何処まで本当なのかは知らん」
急に情報が適当になった。そもそも伝統派に興味もないので拠点などは調べてもいないらしい。
「伝統派、と名乗っているのはいいんですか?その辺り他の派閥から睨まれているとか聞きましたが」
少し気になったので聞いてみると、素っ気ない返事が返ってきた。
「伝統とは名乗るものではない。受け継がれるものだ。いちいち主張する必要などないし、そんな事に拘っている小者をいちいち相手にする気はない」
かなり傲慢な思想だったが、正直泉美も同じ意見だった。
"守護"──地脈の管理者達はその存在が国の安寧に直結している。災害大国である日本で人間が暮らせているのは自分達がいるからだ、という自負がある。故にわざわざ
──前世の『彼女』が千年続いた伝統をあっさり失伝させかけた事を考えると改めた方がいいような気もするが。
呑気にそんな事を考えていた泉美だったが、次の話こそ男の本命だった。
「話を戻す。この周公瑾だが──"
「……っ!!」
泉美は目を見開いた。声を上げなかった自分を褒めてあげたい。それ程の爆弾発言だった。
借体形成──それは大陸の妖狐が使ったと伝えられる秘術だ。自身の身体を捨て、自己を保存した精神情報体で他者の身体を乗っ取ると云われる──
「大漢──特に
「……なるほど。それで死ぬ事を考える必要がない、という事ですね」
男は自身の話の論拠を示さなかったが、当然ある程度は自信を持っている筈だ。そして
泉美はひとつ息をついた。向こうのメリットを理解したからだ。
(この話を聞けば私が勝手に周公瑾を消してくれる、という訳ですか……)
自分で動くつもりはないが、目障りではある。そこで都合よく現れた泉美を
そしてその企みは成功だ。男の掌で踊るようで
「……情報感謝します。それでは、連れを待たせているので私はこれで」
立ち上がり背を向ける。自分から関わる気はなかったのだが、そうと決めればなるべく早く動かなければならない。
そのまま出口に歩きだしたが、次の男の言葉に足を止める。
「まがりなりにも四葉が手こずっている相手だ。借体形成以外にもそれなりの手札があるのだろう。気を付けるといい、浅月
やはりか、と泉美は心の内で呟いた。そうだろうと思っていたが、この相手はある程度解っていて、そして勘違いしている。泉美の状態も、その目的も。
「……それはずっと昔に死んだ人間の名ですよ。私は七草泉美。その人の業を受け継いでいる仙人で、魔法科高校の一年生で、七草の娘。それ以外の何者でもありません」
振り向きもせず、言いたい事だけ言って泉美は再び歩き出した。香澄達が居る城の表へと。
借体形成(仮)については原作で名前が出てないですが、光宣に取り憑いた術式の事です。
分類として転生じゃなくて憑依じゃない?と思われる人がいるかもですが、個人的なイメージとして『憑依』って一時的なもの、剥がれるもの、みたいなイメージがあるんですよね。イタコの降霊みたいに。
そんな理由と、あと単純に分かりやすさ重視でここでは『転生』でいかせてもらいます。……かの二代目火影の卑劣な術だって生者の身体を生贄に取り憑かせてるけど『転生』ってついてるし多分大丈夫な筈。